NetScience Interview Mail 2004/02/19 Vol.265 |
NetScience Interview Mail HOMEPAGE http://www.moriyama.com/netscience/ |
NetScience Interview Mail : Free Science Mailzine | |
---|---|
科学者インタビューを無料で配信中。今すぐご登録を! |
【その他提供中の情報】 | 新刊書籍情報 | | イベント情報 | | おすすめURL | etc... |
◆Person of This Week: |
bk1 | amazon | bk1 | amazon |
研究:運動の学習と制御の神経機構、脳内の時間順序表現メカニズム
著書:小脳における上肢随意運動の学習機構の解明.
『ブレインサイエンスレビュー2001』(伊藤正男,川合述史編/医学書院、2001:216-243.)
到達運動の制御と学習の神経機構.
『脳の高次機能』(丹治順,吉澤修治編/朝倉書店,2001:106-118.)
研究室ホームページ:http://www.med.juntendo.ac.jp/kenkyu/09index.html(建設予定)
研究内容の参考になるウェブサイト:
▼HFSP NewsLetter No.13 ―多才な運動を実現する脳の機構の解明へ―
http://jhfsp.jsf.or.jp/news/letter/no13/nl-05.html
▼HFSP NewsLetter No.17 ―ノイズが開く運動制御の可能性―
http://jhfsp.jsf.or.jp/news/letter/no17/nl-03.html
▼AIST Research Hot Line 手の交差で時間が逆転 ―脳の中の時間―
http://www.aist.go.jp/aist_j/aistinfo/aist_today/vol01_06/vol01_6_p12.pdf
○腕をコップに向けて伸ばす、このような運動を「到達運動」と言います。このとき、脳のなかでは腕を制御するためにある種の計算が行われていると考えられています。ではそれはどのような規範に基づいているのでしょうか。北澤先生はこのような運動制御における小脳の役割について研究しておられます。
また、北澤先生は実に不思議な現象を発見しました。右左の手をポンポンと叩く。どちらが先に叩かれたのかは、目をつぶっていても分かります。ところが、腕を交叉するとこの時間順序の判定が逆転するというのです。これはいったい何を意味するのでしょうか。
身近な身体に関する研究の話です。不思議なことは私たちのすぐそばにいくらでもあるということを感じて頂ければと思います。(編集部)
…前号から続く (第2回)
■昔から、森山さんも何度も聞いてご存じだと思いますが「小脳は学習をする」んだと。登上線維シグナルが運動の誤差を表現しているんだと。だから僕らの運動はうまくなるんだという話を何度も聞かれていると思います。 ○はい。確かに良く聞く話です。 ■マー(Marr D. J Physiol. 202:437-470, 1969)、アルブス(Albus JS. Math Biosci 10: 25-61, 1971)、伊藤 (Ito M. Int J Neurol 7: 162-176, 1970) によって1970年くらいに提唱されて以来、非常に有力なセオリーなわけですが、もしそうだとしたら、登上線維シグナルが運動の誤差を表現しているんだという証拠が、いっぱい論文の報告としてあっていいはずですね。 ○ええ。どうなんですか?
■それを僕は調べてみたわけですよ。 ○と仰いますと? ■「運動の開始時点で、登上線維シグナルが増える」という報告がむしろ多いんですよ。で、運動のオンセット(開始)で増えるんだったら、これは運動の開始を補助するシグナルだと考えるのが自然かもしれない。実際、そう考える研究者がいらっしゃるんですね。 ○うんうん。 ■それはちょっと、運動を最適化するとか、運動を学習するだとか、といった考え方からすると、なんか直感的に結びつかないですよね。 ○うーん。 ■一方ですね、運動学習説の根拠としてしばしば引用されるのがギルバートとサッチの、1977年の論文(Gilbert PFC, Thach WT, Brain Res 128: 309-328) です。これは、サルがレバーを手で保持しているように言われて、そこに外乱が来ます。100グラムくらいの力がかかると位置がずれるのでクックックっと調節するわけです。同じ大きさの外乱が続くと、慣れて「自動的に」調節できるようになります。それが400グラムくらいの力が急に来て、クッといってしまったと。そういうふうに外乱が急に変わったときに登上線維信号がポコンと出る。そういう報告があります。 ○なるほど。そりゃ面白い。 ■新しい外乱に慣れると、登上線維信号(複雑スパイク)は減るのですが、そのころには単純スパイクの発火頻度も減っている確率が高い、と報告しています。これなんかは確かに、予想と反した何かが起こったときにシグナルするということになるんで、広い意味での誤差信号になっていて、さらに単純スパイクの発火頻度の減少をもたらすことによって運動学習に関与するんだという話に繋がるわけですね。 ○ええ。
■いったいどちらが正しいんだ。運動開始の補助信号なのか、運動の誤差信号なのか。そうすると腕を伸ばしたときに、登上線維シグナルが実際のところ何を伝えているのか、という問題が僕としては、結構大きかったわけです。それで、実際に調べてみたという仕事が一つあります。
○どんな実験だったんですか。
■簡単に言いますと、サルを目標に向かって手を到達させるように訓練します。そのときの登上線維シグナルを調べる。 ○はい。
■そのときに、サルの目の前にコンピュータスクリーンを置いて、ランダムな場所にターゲットが出たら、サルがパッとターゲットに手を伸ばすように訓練します。そのときに、眼の前に液晶のシャッターを置いておいて、手を動かした瞬間に、パッとシャッターを閉めてしまう。運動中はいっさい目標も手も見えないようにしておいて、スクリーンに触れた瞬間にパッとまた開けてやって、誤差を見せます。
■(実験のデータを見ながら)これが実際のスパイクなんですが、ターゲットが出るところ、運動の開始点などが示してあります。そして単純スパイク、複雑スパイクがどう出るか調べた。 ○ないですね。 ■こりゃーちょっと、まずいこと始めたなと(笑)。けっこう本気で悩みました。本当に出てないんですよね。でも、いまお見せしているのは20トライアル分ですが、とにかくやってみました。1400トライアル。あまり出ないので、とにかくたくさんやるしかないと。そのくらいやると、ちょっと分かってきた。 ○どんなことです?
■1400トライアルやって、ターゲットが出た場所を赤い点で示します。5センチ×5センチの領域にランダムに出しているので、ほとんど覆い尽くしています。いっぽう、ターゲットに対して相対的に、指がどこに位置したか。つまり相対的誤差の分布も同じように示します。運動の開始からの100ミリ秒間に、取りあえず注目してみました。 ○ふむ。 ■これを4等分すると、赤い丸は1/4ずつ均等です。黄色の数を数えてみましょう。右上の第一象限から左回りに数えていくと、20個,13個,35個,65個ということで左上(13個)に比べると右下(65個)が5倍である。これは均等な分布からは確率一万分の1以下でしか起こらない。これは何かある。 ○ふーむ。
■複雑スパイクが出たということが分かれば、ターゲットがどこに出たかという確率は、約1/2の確率(65/133)で右下ということになりますから、行く先に関する情報がある程度あるということになりますね。4象限のうちのどこかということを知るために必要な2ビットの情報には足りませんが、複雑スパイクが出たことを知ると0.25ビットくらいの情報が得られます。 ○なるほど。 ■いっぽう、こっちが誤差の分布です。運動の始めに複雑スパイクが出たときにどのくらいのエラーが出たかということを黄色い丸で示していますが、どの方向にも満遍なく誤差が生じていて、誤差に関する情報はほとんど得られません。運動のはじめのスパイクは、行く先の情報は持っているけど、誤差の情報はほとんど持ってないということになります。
○ただ、よく分からないことがあるんですが。シグナルが全然出ないこともあるわけですよね? ■そうそう。寡黙ですよね。 ○毎回出るなら、行く先情報だろうっていうことも分かるんですけども。何も出ないときはどうなってるんでしょうか。 ■何も出ないときは、一つの考え方としては、出ないことによって左上だってことを言ってるかもしれないですよね。でも、あいまいで不確実ですよね。行く先の情報を持っているといっても、不確実でたまにしか出ない行く先情報を使って運動制御できるとは、あんまり思えないですよね。
○うーん、そうですね。 ■確かに情報のピークは運動開始の後ですね(笑)。なるほどなるほど。 ○あんまりしっくり来ない感じが。 ■オンライン制御に関係しているとしてもこの課題では運動の後半にしか貢献できない。確かに、開始、という意味ではあとのまつりですよね。運動の行く先の情報があるからといって、運動の開始に貢献するとは少なくともこの課題の場合では言えないなあ、と本音では思ってます。 ○そうなんですか(笑)。 ○次号へ続く…。
|
科学技術ソフトウェア データベース
|
◆このメールニュースは、 ◆<科学技術ソフトウェアデータベース・ネットサイエンス> ◆[http://www.netscience.ne.jp/] の提供で運営されています。 |
発行人:株式会社サイネックス ネットサイエンス事業部【科学技術ソフトウェアデータベース・ネットサイエンス】 編集人:森山和道【フリーライター】 |
interview@netscience.ne.jp moriyama@moriyama.com |
ホームページ:http://www.moriyama.com/netscience/ *本誌に関するご意見・お問い合わせはmoriyama@moriyama.comまでお寄せ下さい。 *メールマガジンへの広告掲載に関するお問い合わせはinfo@netscience.ne.jpまで御願いします。 |
◆このメールニュースは、 ◆<科学技術ソフトウェアデータベース・ネットサイエンス> ◆[http://www.netscience.ne.jp/] の提供で運営されています。 |