NetScience Interview Mail 2004/05/20 Vol.276 |
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研究:運動の学習と制御の神経機構、脳内の時間順序表現メカニズム
著書:小脳における上肢随意運動の学習機構の解明.
『ブレインサイエンスレビュー2001』(伊藤正男,川合述史編/医学書院、2001:216-243.)
到達運動の制御と学習の神経機構.
『脳の高次機能』(丹治順,吉澤修治編/朝倉書店,2001:106-118.)
研究室ホームページ:http://www.med.juntendo.ac.jp/kenkyu/09index.html(建設予定)
研究内容の参考になるウェブサイト:
▼HFSP NewsLetter No.13 ―多才な運動を実現する脳の機構の解明へ―
http://jhfsp.jsf.or.jp/news/letter/no13/nl-05.html
▼HFSP NewsLetter No.17 ―ノイズが開く運動制御の可能性―
http://jhfsp.jsf.or.jp/news/letter/no17/nl-03.html
▼AIST Research Hot Line 手の交差で時間が逆転 ―脳の中の時間―
http://www.aist.go.jp/aist_j/aistinfo/aist_today/vol01_06/vol01_6_p12.pdf
○腕をコップに向けて伸ばす、このような運動を「到達運動」と言います。このとき、脳のなかでは腕を制御するためにある種の計算が行われていると考えられています。ではそれはどのような規範に基づいているのでしょうか。北澤先生はこのような運動制御における小脳の役割について研究しておられます。
また、北澤先生は実に不思議な現象を発見しました。右左の手をポンポンと叩く。どちらが先に叩かれたのかは、目をつぶっていても分かります。ところが、腕を交叉するとこの時間順序の判定が逆転するというのです。これはいったい何を意味するのでしょうか。
身近な身体に関する研究の話です。不思議なことは私たちのすぐそばにいくらでもあるということを感じて頂ければと思います。(編集部)
…前号から続く (第12回)
○いま伺った話は茂木さんなんかもされてました。いま伺いながら思ったんですけども、ニューロンってもともと運動制御のためのものですよね。進化的な観点から見ると。 ■そうですね。 ○僕は、それがどうして思考や認知、あるいは感情だとかそういったものになっていったのかに興味があるんですよね。もともと筋肉を制御していたことは間違いない。だから、今のお話を伺っていて、制御系の発達というか進化っていうのはどういうあれなんだろうかと……
■生きて子孫を残すことが大事なときには、食べ物を食べる確率が大きくなって生きて子孫を残すような行動選択が行えるように、一生懸命脳をつくっているわけですよね。アメフラシにさえ学習能力がきっちりあって、どんなエキスが漂ってきたら飲み込めばいいかということを学習するわけですよね。 ○ええ。 ■しかし人間は今や生き残ることに汲々としなくてもいいから……。趣味も多様化してるんでしょうね(笑)。人によってたぶんドーパミンが出るポイントもずいぶん違うし。 ○アメフラシはドーパミン出たときに何を感じてるんでしょうかね。感じてるかどうかも分からないですが。 ■分からないですね。 ○ネーゲルの『コウモリであるとはどのようなことか』(勁草書房)じゃないですけども、アメフラシにとってドーパミンの放出は何なんでしょうか。登上線維がどうのうこうのとか、ドーパミンの放出によって神経回路がこう動く、ってことなら分かりますけども、制御系が変わったとき、それはその個体にとってどうなんだろう……。 そうですね。「アメフラシは嬉しいのか」ってことですね(笑)。なに考えてるのか。どうなんでしょうね。食べると嬉しいんでしょうかね。分からないけれど(笑)。 ドパミンが報酬の予測誤差だ、という話をしました。実は予測誤差というのは小脳の登上線維信号についても言えることなんです。終点の誤差信号に話がもどりますが、運動の最後に確定した誤差を見る前に、自分が犯していそうな誤差の情報がすでに来ているんです。 ○ふーん……。
■つまり「誤差の予測」は運動制御の学習でも使っている証拠があるわけです。本当の誤差を待っていると、遅いですから、予測した誤差を使うのは運動学習においても合理的です。 ○だから予測で。
■ドーパミンニューロンがある中脳のventral tegmental area(腹側被蓋野)を、音刺激とペアにして刺激すると、一次聴覚野まで変わるという報告があります。VTAからのドーパミンの影響は一次感覚野にまで及んでいるという証拠だと思うんですね。 ○へえー。 ■それと、一次聴覚野に隣接した、もともとマップのないところにも9kHzの領域が現れるんですね。つまり、大脳皮質の一番入力よりのレベルから変わるわけです。9kHzを聞くことがドーパミンの放出と時間的に因果関係があるようなタイミングでドパミンが来ると、脳はみるみる変わるわけなんですね。 ○ふーむ。
■もう一つ面白いのは、4KHzを聞かせて、VTAを刺激してドーパミンを出して、それから9Khzを聞かせると。時間的には同じ距離なんですけども、前後関係が逆になってるわけですね。さっきのは因・果になってるわけですけども、こっちは果・因になってるわけです。それで4が増えるのか9が増えるのかというと、今度は4だけが増えるんです。 ○うーん。
■これ見ると本当に怖いですよね。何をした後にドーパミンが出たかで、本当に脳はくるくる変わるんです。何でドーパミンが出るか、はじめから決まっちゃってたら変わりようがないですけども。 ○(笑)。
■大人はいきなり宝くじあたったら出まくりますよね(笑)。 ○ええ。 ■やっぱり人間の大部分は、「将来、いいことがある」と思って、そのためには今日ここで一つ苦労して我慢すると。そういう選択肢を選んでいるような気がします。その選択肢を選べるかどうかが、人間であるかどうかを意外と決めてると思うんですけどもね。それができない子が増えてるっていうのが今問題にされているところなんじゃないですか。あまり詳しくないですけども、キレやすいっていうのは、後先顧みないってことだから。 ○彼らにとってはあれがドーパミンが出る行動なのかもしれないですよ。
■そういう強化子を受け取ってしまうのかもしれないですね。 ○(笑)。 ■苦労して良いことがあると、「ああ、また苦労しようか」と思うんですよ。すぐには直接の報酬はないんだけど、でも、さきざきの良いことを思って喜びを創り出す能力が必要ですよね。 ○それこそ、どこかで将来の報酬の、予測計算をしているんでしょうね。 ■ですよね。将来の良いことに対して価値を置くような仕組みが脳にないと、将来を見通した行動っていうのは、絶対に強化されないですよね。 ○ふーむ。そうでしょうね。
■なんか、脳を変える信号の算出メカニズムという意味では運動制御の登上線維信号とパラレルかもしれないんですけども、ドパミンにはより本質的な重要性を感じています。
○先生ご本人は、一番最初は何に興味があったんですか。最初は電気生理だったんですよね。
■そうですね。電気生理でしたね。今もそうです(笑)。 ○まさに、いま好きなことをやってるじゃないですか。
■その通りですね。本郷先生はすべてお見通しでした。 ○システムとしての脳の構成原理を知りたい、ということですか。 ■そうですね。やっぱり「自分」に興味があるのかなあ。
○何がどうなっているのか、こうこうこうなってるから、あなたの知覚はこうで、腕はこういうふうに制御されているんですよ、というふうに語れる時代が来ることを期待しています。 ■こちらこそ、こんなお話でよろしかったでしょうか。 ○ええ。本日はどうも有り難うございました。
【2003/12/25 順天堂大学にて】 | 北澤氏インタビューindexへ | Interview Mailへ | *次号からは聴覚の研究をしている、柏野牧夫氏のインタビューをお送りします。
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