NetScience Interview Mail 1998/08/13 Vol.016 |
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【木下一彦(きのした・かずひこ)@慶應義塾大学 理工学部 物理学科 教授】
研究:一分子生理学(分子モーター他)、生体エネルギー変換の分子機構、
細胞変形ダイナミクス、受精の分子機構、電場と生体系の相互作用
著書:「蛍光測定-生物科学への応用」
木下一彦・御橋廣眞編、学会出版センター、東京、1983。
「限界を超える生物顕微鏡-見えないものを見る」
宝谷紘一・木下一彦編、学会出版センター、東京、1991。
ほか
○木下一彦氏へのインタビュー、今回は第3回です。今回は木下氏のご経歴と、お考えのベースを伺います。5回連続。(編集部)
[08: 生物嫌いの物理屋の、生物物理学者への道(2)] |
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■実際はですね、今でも親友なんですが石渡信一 (早稲田大学教授)っていう男がいまして。彼は、最初っから生物好きだったんですよ。で、大学祭でカエルの筋肉を使った実験をやろうと言い出しまして。それで、一緒にやったんですね。ちょっと工作したりするのは当時から好きだったんです。石渡に言わせると当時は非常に斬新な実験だったらしいんですが、そんなことは全く知らずに(笑)。
○どんな実験だったんですか?
■カエルの筋肉にレーザー光を当てると回折縞っていうのが見えるんですけど、それを見ていると筋肉が縮まった時に縞縞が変化する、っていうんですね。今だったら当たり前の話ですよ。でも当時は、そんなことが非常に新しかったんです。我々が学園祭でやったあとに専門の雑誌にそういう話が出てきたらしいんですけど。方法そのものはどっかの先生から聞いてきたんじゃなかったかと思いますが。
写真撮るのにですね、まずレーザーを借りるのが大変でした。当時は滅多なことでは貸してくれなかったんですよ。それに速い動きなんで、どうやって撮るかがまた問題。どうやったかと言いますと、お菓子の丸い缶を買ってきてですね、そこにフィルムを貼り付けて、それをプレーヤーに乗っけてぐるぐる回してやる。そうすりゃなんか動いているのが見えるだろう、とそんなアイデアだったですね。
お菓子の丸い缶にフィルムを貼る装置を作るのが私の役目だったんです。実は私は未だにカエルが苦手でして(笑)、捕まえて頭ちょんぎるのがどうしてもできなくて。それは石渡がやったんですよ。
もう一人電気に強い荒木 暉という男がいまして、彼がプレーヤーをカエルに電気刺激を与えると同時に回す電気的な回路を作りました。今は私も回路できるようになりましたが、当時はさっぱりでして、抵抗までしか分からなかったんです(笑)。荒木はコンデンサー入りの回路を作ったんですね。それで凄い男がいるもんだなあと思ったことを覚えてますね。
○それで?
■そのおかげで生物も面白いかなあと思い出したんです。これをやったときにたまたま、さっき言った電子顕微鏡の写真を見たんですね。
○そうなんですか。じゃあそうやって友達と出し物を作った方が先だったんですか。
■そうです。物理は駄目だなあと思ってはいたんですが、漠然と大学院には行きたいなと思ってました。オヤジは物理の先生をやってたんですが、その影響もあって、なんとなくオレは研究やるのかなあというのがあったんですよ。でもどこへ行ったら良いのか分からなくて。周りは物理学科なんでみんな物理へ行きますが、僕はどこへ行こうかなあと。
たまたまその時に、池上 明先生という新任の生物物理の先生が名古屋大学からいらっしゃいましてね。昔から私は知らないところへポンといっちゃうところがありまして、そこへ入っちゃったんです。
ですからいま、生物物理やっている理由はその3つかな。学園祭、電子顕微鏡写真、新しい先生。
○偶然というのは恐ろしいですね(笑)。それで、どんな研究をなさったんですか?
■何やったんだろう…。とにかく、ろくなことやってなかったんですよ(笑)。
研究室に5年の年限を超えて7年くらいいたんですが、何にもしていなかったような。研究室も、ものすごい貧乏だったんですよ、いまじゃ信じられないような。
それで、蛍光の測定をしようという話になったんですよ。何で蛍光を見るのかというと、それで分子の回転運動が見える、と。いまじゃ一個の蛍光色素分子で回転運動が見えるんですが、その当時はたくさんある分子の回転運動の平均が見えるっていう話です。
○なぜ回転を見ようということに?
■なぜかというと、これも今から考えると下らない話なんですけど、酵素のぱくぱくモデルというのがありましてね。酵素が何かをちょんぎる時に、金魚のように口をぱくぱくさせてちょんぎるんじゃないかというモデルが、教科書に漫画として出てたんですよ。で、本当にそんなことがあるんだったら、パクッとやる瞬間を見てやろうと思ったんですね。パクッとやるということは、上顎と下顎の角度が変わるということじゃないですか。分子の回転が見えれば、そういう動きが見えるだろう。そう、指導教官だった池上先生に言われたんですよ。それはもし見えたら面白いだろうなと。
○ふむふむ。
■で、この間亡くなられたGregorio Weberという人が書いた、蛍光の偏光を使うとそういう動きが見えますよという論文を渡されました。その論文がですね、一目で「あっ、これで計れるのか」と原理が分かるような絵がついてまして、それですっかり気に入ったんですよ。
で、測ろうと思ったんですが、本当になんにもなかったんですよ、研究室に。買うお金もなかった。だから普通の蛍光の装置を作るということから始めたんです。大学院の5年間は金工室に入り浸っているか、はんだ漬けをやっているかという生活でしたね。ほとんど装置作りばっかりやってました。
○へえぇー。
■いまならパッと買えるんですけど、例えば光源のキセノン・ランプってありますね。まず、それを買うお金がなかったんですよ。それでどうするかというと、よその研究室へ行って、寿命が来てフラフラしている奴をもらってくるんです。それにフィードバックをかけると安定化できるという論文があったんで、自前で回路を作りまして、死んだキセノンランプを再生して使ってました(笑)。
○リサイクルですね(笑)。
■そうですね。本当にお金がなかったんですよ。
で、なんだかんだやっているうちに、分子の回転運動を測る装置は最後はできたんですけどね。酵素のパクパクを測る以前に、酵素というのは溶液中でブラウン運動でふらふらふらふらしていますから、ブラウン運動を測る装置ができて。まあそれは多少の成果は出たんですけど、あんまり面白くなかった。
でもそうやってブラウン運動を測ったおかげで、いまでもブラウン運動というのが分子機械が働く上で非常に重要だという頭があって、なんとなく、ブラウン運動をどうやって利用して動いてるんだろう、ということを見てやりたい、という気持ちがありますね。
[09: ブラウン運動] |
○ブラウン運動を利用して動いているんじゃないかという考え方が基本的にあるわけですね?
○「利用する」というのは? ブラウン運動の中でもなんとか動いているとかいうことではなく、積極的に利用して動いている、ということですよね?
○でもその中でも、たとえばこの回転モーター(ATP合成酵素)なんかのように、ブラウン運動を帳消しにするようなというか、かなり制御されたものがあるわけですよね…。
○それもびっくりしました。逆回転しているのも何回かしかないんですよね。
[10: アメリカ留学時代] |
■とにかくそのころは国内で職を見つけるのが不可能な時代でしてね、アメリカにポスドクで行ったんです。その時は結構仕事ができたんですよ。
○なるほど…。
その後アメリカからご帰国なさったんですか。永住しようとか思わなかったんですか。
■それは全く思いませんでした。ただ、ジョンズ・ホプキンス大学の環境は凄く良かっ
たですね。
周りの研究室のドアは全部開いてて、ひょいと入ってなんでもモノを借りられますし、どこの教授もなんでも教えてくれましたね。とにかく2年間の間にいろんなことを教わりました。凄く友好的でしたね。だから2年間たったあとは帰りたくないなと思いましたね。ただ、日本食が懐かしいのと、年とっても競争社会というのはつらいかなと…。老後の日本での生活を保障してくれるんだったらあのまま居残ったかもしれませんね(笑)。
[11: 回転する分子、分子の回転] |
○先生は分子の世界では「回転は当たり前かもしれない」と仰いましたよね。あれはどういう意味ですか。
○でも私は言われるまで気が付きませんでした。言われて初めて「ああ、そうか」と思いました。
○実際にはどうなんでしょう、多分いろいろあるんだろうと思いますが。
○先ほど「生物はブラウン運動をどう利用しているのか」と仰ってたのは、そういう意味もあったわけですね。
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■新刊書籍・雑誌:
◇新刊書籍:『地上に星空を ―プラネタリウムの歴史と技術―』伊東昌市著
裳華房ポピュラー・サイエンス http://www02.so-net.ne.jp/~shokabo/
智恵と技術の結晶プラネタリウムの過去・現在・未来. 本体価格1500円+税
■イベント:
◇地球観測フェア '98 (9/1、2 東京国際フォーラム)
http://www.eopd2.hq.nasda.go.jp/news/news.html
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