NetScience Interview Mail 2004/09/30 Vol.293 |
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【柏野牧夫(かしの・まきお)@NTTコミュニケーション科学基礎研究所 人間情報研究部 感覚運動研究グループ】
研究:聴覚を中心とした認知神経科学
著書:『コミュニケーションを科学する チューリングテストを超えて』(共著/NTT出版)
「日経サイエンス」連載「錯覚の情報学」(2000年2号〜2001年1号)
月刊「言語」にて「知覚の認知脳科学」連載中
ホームページ:http://www.brl.ntt.co.jp/people/kashino/index_j.html
○光と音、音と音。これら刺激のタイミングはどのように知覚されているのでしょうか。たとえばコップを落としてしまったとき、床で割れる音とその光景はぴったりシンクロしているように感じられます。ですが実際には音のほうが少しだけ感覚器までの到達時間は遅れているはずです。また、その後の脳内の処理はどのようになっているのでしょうか。これらの問題を考えていくと、私たちが知覚している心理的な「時間」は、物理的な時間と同じものではなく、環境での出来事を脳が解釈した結果であるということが明らかになってきます。
聴覚を中心として研究を行っている柏野先生らによれば、同じようなことが空間に対しても言えるといいます。知覚している空間が伸びたり縮んだりするというのです。知覚の認知脳科学の世界を味わって頂ければと思います。(編集部)
○前回から続く…… (第17回)
○ヤマハの人たちとの雑談のときは−−、まあ、あれはヤマハだからというのもあるんですけど、身体性が拡張することが要するに快なんだと、そのときにドーパミンが出るんだと、なんかそういう話になったんですよね(笑)。あくまで、そうなんじゃないなかということなんですが。 ■そうですね、それは測れますね。 ○本当に、自分の身体性が拡張するとか、あるいはなんかレンジが広がるといった感覚が、「快」というふうになっているのかどうか分からないですけど。
■あと身体性を拡張するということは、さっきの話じゃないけど、空間、時間のフレームが実は変わるわけですよ、おそらく。
○うん。そのときも、たとえばオーケストラの人が、演奏をずっとやっていると、はるか遠くの向こうの方でやっている音が、別の楽器の誰かが鳴らしている音が今、聞こえるというのが感覚としてはっきり分かるようになるんですよとヤマハの人が言っていたんですよ。 ■いや、それはあり得るかもしれないですね。オーケストラなんて本当、訳の分からないことの宝庫ですよね。何で演奏が合うのか。 ○だって時間はズレているわけですしね。 ■そう、ズレているんです。ズレたって、どこかで合わせたって、どこでも合っているということにはなり得ないわけですよね。だって自分のところで合うように補償するのか、それとも指揮者のところなのか聴衆のところなのか。 ○そうですよね。どこなんでしょう。 ■それから、さっきの話じゃないですけど指揮者が振ったのに合わせたら絶対に遅れるはずなんですよ。隣の人の音楽を聴いて合わせたら絶対遅れるはずだし、その遅れがたぶん半端じゃない、しゃれにならない遅れになってしまうはずなんですけど、なぜか合うではないですか。 ○ええ。たとえばピアノとかはフォルテでたくと木がしなるから、そのしなりで音が一瞬出るのが遅れるんだとか。しかもピアニストはそれを意識して演奏しているという話があるんだそうですよ。本当にそこまで人間がコントロールしているのかどうなのか分からないですけど、でもちょっと調律や素材を変えると「気持ち悪い」と言う演奏家がいるんだそうです。ということは、ひょっとして分かるのかもしれないですよね。
■分かるんでしょうね。いや、だから順応するというのは、逆に言えば順応したものからのズレはものすごくセンシティブに分かるということなので。 ○なるほど。ズレていいるということそのものは分かるけど、どの程度ずれているか分かるかとなると別だということでしょうか。ここからこういうののズレは大きいけど、これのズレは実は大したことはないというのがあるわけですよね。だんだんボケていくというか。 ■そうそう。だからまさに解像度が変わるわけですね、さっきの伸び縮みのないという。音があるところだけはそういう意味で非常に解像度が上がってくる、そうじゃないところはもう分からなくなってくる。
○先生は修士を出て、すぐこちら(NTTの研究所)なんですか。 ■そうです。 ○じゃあ、ドクターは。 ■論博(論文博士)です。 ○最近、というかこのインタビューメールそのものがたぶんドクターのコースにいる人とか読んでいる人が多いので、「ドクターはこう生きるべき」というようなのがあれば何か(笑)。 ■ドクターはこう生きるべき? ○これから研究者になりたい人に、できれば何かメッセージを。 ■それは難しいけど、根本的な問題意識をやっぱり持っていただきたいですね。 ○先生の場合も、いろいろな方向に興味がありつつ、基本的にはやっぱり一つの方向をやってらっしゃるわけですよね。
■そういうことですよね。バリエーションなんて、表層的にそのときに何にかかわるかというといろいろあると思うんですけど、やっぱりものを見る見方ってそんなに180度は変われないというか、どうしてもその人の趣味だなというのがあるんじゃないですかね。だから極めてテクニカルなレベルで、例えば論文をどんどん書いていくとか、ある種、そういう研究コミュニティーで居場所を見つけるということは、そんなに根本的な問題意識がなくてもできるのかもしれないけれど、やっぱり何か深いモチベーションがある方がいいのではないかなと思いますね。 ○何が明らかになるんですか。
■つまり「どのくらい深いところの問題意識を持っているか」みたいなことですね。だから額面上−−いわゆる履歴書的な情報で、例えばいかに論文をたくさん書いていますと言ったって、それはもう何も考えないで淡々と、ある意味、誰がやってもできるようなことをやっているかもしれないし、先生に言われたままやっているかもしれないし。 ○なるほど。よく考えろというか、本当に考えるというか、本当の問題意識はどういうものかということを考えるということだと思うんですけども、先生は、その辺はどういうふうに意識されていたんですか。
■やっぱり冒頭の方で申し上げましたように、むしろそればかりだったんですよ。テクニカルなことをやる前にそんなことばかり考えていたので、迷いの時間が長かったということですかね、そういう意味では。何か行動すること自体の根拠とかが欲しかったわけですよ、学問以前の問題として。 ○ええ。 ■それはある意味、最初から分かっていることじゃなくて、おそらく、苦労している間にだんだん気が付いたらそうなっていた、みたいなことだから。それで結果的に研究コミュニティなり世の中なりに何らかのかたちで貢献できればそれでいんじゃないでしょうか。 ○いや、それはいいんじゃないですかね。結構、最近、何か悩み多き人が多いみたいなので。考え過ぎだよと言いたくなるけど。 ■考え過ぎですよね、たぶん。考え過ぎというか−−、やっぱり失敗したくないのかな、いろいろな意味で。さっきよく考えた方がいいといったのは、別に先を案じろという話ではないですよ。自分なんかほんとに先を案じる部分がまったく欠落していて、それはそれで困ったもんですが。 ○失敗しても別にいいじゃないかとも思いますけどね。 ■そう。絶対の善も絶対の悪もそんなに簡単にはないし、すごい不幸な状況でもそれは意味の与え方によっては、むちゃくちゃいいことかもしれないし。ある状況に対して、まったく新しい意味付けをもたらすような仕事ができれば、自分としては理想ですね。曖昧図形が一瞬でひっくり返るみたいな。状況と相互作用しながら、どんどん見方を変えていく。これが自分なりの相対主義の超克法ですかね(笑)。
○なるほど(笑)。
【2004/01/28 NTTコミュニケーション科学基礎研究所にて】 | 柏野氏インタビューindexへ | Interview Mailへ | *次号からは運動と視覚の研究をしている、泰羅雅登氏のインタビューをお送りします。
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