NetScience Interview Mail 2004/06/03 Vol.277 |
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【柏野牧夫(かしの・まきお)@NTTコミュニケーション科学基礎研究所 人間情報研究部 感覚運動研究グループ】
研究:聴覚を中心とした認知神経科学
著書:『コミュニケーションを科学する チューリングテストを超えて』(共著/NTT出版)
「日経サイエンス」連載「錯覚の情報学」(2000年2号〜2001年1号)
月刊「言語」にて「知覚の認知脳科学」連載中
ホームページ:http://www.brl.ntt.co.jp/people/kashino/index_j.html
○光と音、音と音。これら刺激のタイミングはどのように知覚されているのでしょうか。たとえばコップを落としてしまったとき、床で割れる音とその光景はぴったりシンクロしているように感じられます。ですが実際には音のほうが少しだけ感覚器までの到達時間は遅れているはずです。また、その後の脳内の処理はどのようになっているのでしょうか。これらの問題を考えていくと、私たちが知覚している心理的な「時間」は、物理的な時間と同じものではなく、環境での出来事を脳が解釈した結果であるということが明らかになってきます。
聴覚を中心として研究を行っている柏野先生らによれば、同じようなことが空間に対しても言えるといいます。知覚している空間が伸びたり縮んだりするというのです。知覚の認知脳科学の世界を味わって頂ければと思います。(編集部)
■はい。以前、『日経サイエンス』で2000年2月号から2001年1月号まで<錯覚の情報学>という連載をやっていたんです。研究の主立った方向性は、そちらに書きました。 ○はい。拝見しました。 ■『日経サイエンス』の連載は、だいたい3分の1ずつになってましてね。3分の1は基礎知識、それは昔から分かっていることです。3分の1は今、世界でホットな話、3分の1は我々のところのオリジナルというような感じなんですね。ただ、これを書いていたのは1999年とか2000年ごろなので、それ以降の話というのは当然入ってないわけです。ですから今日お話するのは、その辺ですかね。 ○できればその辺がいいですね。「知覚の錯誤」みたいな、面白話も間に挟みつつお願いできればと思ってます。 ■ただ個人的な事情もありまして。実はその間、ちょっと2年間ばかり研究から離れていまして、今年度になって戻ってきたところなんですよ。 ○その間は何をやっていらっしゃったんですか。 ■まあ、人事ですね、一口で言えば。 ○人事? ■ええ。ここの研究所というのは、所長以下、そういう人事とか、あるいは情報戦略、予算の管理というようなものは全部研究者がやっているわけですよ。それで、まあ、そういうタイミングというか、そういうところに当たりますと、そういう役をやらなければいけない。要するに管理業務ですね。 ○事務方みたいな? ■事務とは違います。総務とか経理とか、そういうのは事務ですよね。そうじゃなくて、人事というのは例えば人を採用する。 ○本当に、いわゆる会社の普通の人事ですか。 ■いや、普通の人事というのを私はよく知らないんですけど、例えばプロ野球のスカウトというのは野球のことを知らない人はできませんよね、たぶん。うち(注:NTTには12の研究所がある。そのうちのコミュニケーション科学基礎研究所のこと)なんかだと、毎年だいたい100人以上のドクター卒とかマスター卒の人が応募してくるわけです。その中からこれはと思う人を3〜4人採用すると。それからポスドク(Ph.D)ですとか、あるいはもうちょっと経験のあるクラスも、中途採用もいますけど。だからそういう人を見極めるというのがまず1つ。 ○なるほど。それから?
■それから内部の研究員、うちの研究所はだいたい120〜130人いるんですが、その人たちの評価とか昇格とか異動とか、それからあとは、今度は第2の人生といいましょうか、ここを卒業していく人がいますよね。大学に行くとかあるいはほかの企業に行くとか、そういうところがある。だいたいここに入ってから出るところまで全体を担当するということですね。そういう役が各研究所に1人は常にいるわけですが、それをやっていまして。 ○ちなみにどんな戦略だったんですか。それはまだ内緒なんでしょうか。 ■まあ、内緒というか別に−−うちの研究所はコミュニケーションにかかわるような人間側の側面もありますし、それからテクノロジーもあって、コンピュータですとかネットワークという部分もありますけれども、基本的には5年、10年、20年先のコンセプトを出せるような研究ということですから、それでいくつか具体的な話があるわけですけれども、そういうことに向けて適切な人を探していくわけです。 ○どういう基準で?
■私の基準は非常に簡単で「余人をもって代え難い」かどうか。 ○ええ。
■だけど、こういう基礎研究というのは、今までと違った新しいコンセプトを出していかなきゃいけないですから、似たような人はいらない。つまり、今、いる人と同じ人を採ってもあまり意味がないと。だから、今いる人とは違うものを持っている、補完的である、あるいは非常にとっぴなことを考えそうである、あるいはそういうバイタリティーがあるというふうな部分が非常に重要で、百何十人も来れば何人か面白い人もいますから、そういう形で採用していくという感じですね。
○ふーん。 ■研究に戻ってきても、結局、グループリーダーということになっているので、これがうちのグループは35人ぐらいいるんですよ、人間が。プロパーだけじゃないですけど、いわゆるポスドクみたいな人とか、学生さんなんかも含めて35人ぐらいいるので、それのマネジメントというのが実際のところは大半で、自分自身の研究がどれだけできたかと言われると非常に厳しいものがあるんですが、やっと一通り落ち着いてきて、リハビリもだいたい終わってきまして、そろそろこれから新しいことを始められるかなというようなタイミングですね、今はね。 ○じゃあ、ちょうどそういう感じで。 ■そうですね。ですからそれまでの間というのは、もう論文書くにしてもそれはだいたい、例えば指導している大学院生の人が実験やったりとか、ほかの人との共同研究みたいな話が多くて、自分自身が主導で実験をやるというようなことは事実上不可能だったので、それはこれからという感じです。 ○そうですか。 ■ただ、この人事経験というのも非常に役立つところが確かにあって、ある意味、プロ野球で言えば野球の選手が急にフロントというか、監督なりスカウトなりというようなところにちょっと1〜2年行ってまた戻ってきたような状況なんですよ。それで、今度は監督兼選手ですよみたいな、そういう状況なわけですけれども、結構、役立ったことがいくつかあります。 ○と仰るのは? ■全然関係ない分野でやっている、研究の話というのは普通、あまり聞かないわけですね、その業界にいれば。 ○ああ……。 ■だけど、うちの研究所というのは幸いにして結構大きくて、いろいろな分野の専門家がいます。そういうのを評価しなきゃいけないわけで、全員の話をかなりまじめに聞くわけですよ、研究プレゼンテーションを。そうすると、ああ、なるほど、こういう分野でこういうことが今、ホットなのかとか、こういうアプローチがあるんだとか、今、うちはこういう話が出てきたんだな、こういう技術が出てきたんだなと、いろいろなことを、まあ、耳年増になりますよね。そういうのが結構、実は何かやるときに、こういうものがもしかしたら使えるんじゃないかとか、これとこれを結び付けると面白いものができるんじゃないかという発想はだいぶ広がるわけですね。 ○特に先生の分野だといろいろありそうですね。
■ええ。そういうことですね。脳の研究とか人間の知覚の研究なんていうのは極めて学際的なわけで、本当に。心理学的なアプローチもあれば神経生理学的なアプローチもあれば、それから計算モデルみたいなものもあれば、脳活動のイメージングもあるし、それから関係分野でもいろいろな人文科学ですね。言語学、心理学、社会学のようなものから医学とか、当然、工学のいろいろな分野、バーチャルリアリティーとかマルチメディアとか、そういうようなことに全部関係してきますからね。 ○ええ。
■だから、無駄だったとは思いたくないですね。自分自身の手を動かして何かやるという意味ではそれは確かに損失には違いないんですけれども、広い眼で見れば、こういう経験もよかったかなというふうには思っていますけどね。
■あとは研究ですか、今やっている── <錯覚の情報学>はだいたいご覧になっているんですよね。 ○次号へ続く…。
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