NetScience Interview Mail
2001/03/15 Vol.136
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【梶田秀司(かじた・しゅうじ)@機械技術研究所 ロボット工学部 運動機構研究室】

 研究:2足歩行ロボットの制御
 著書:『歩きだした未来の機械たち −ロボットとつき会う方法−』ポプラ社

ホームページ: http://www.mel.go.jp/soshiki/robot/undo/kajita.html

○二足歩行ロボット、その制御の研究者、梶田さんにお話を伺います。
ロボットブームではありますが、技術的な話はほとんど触れられていないようです。
素人でも、もうちょっと詳しいことが知りたくなりました。(編集部)



前号から続く (第7回)

[18:ロボット研究者の出自はバラバラ]

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■ロボットやってる人って、いろんな出身の人が集まっているんです。制御理論の人 もいれば、機械設計の人もいるし、いわゆるAIから入ってきた人もいる。ロボット学 会のなかで発表していても、実はけっこう分離した形で存在していて、たぶんそれぞ れの分野ごとに、解決しなくちゃいけない課題ってのがあるわけです。

○はい。

■たとえば人工知能畑の人が「ロボットの課題はなんですか」って聞かれたら、「そ りゃあフレーム問題でしょう」っていうと思いますよ。少なくとも松原仁さんだった ら言うでしょう。僕もその問題は大きいと思うし。

○言うでしょうね。

■あるいは、ちょっと独特なテイストのグループもあって、生産技術って人たちがい るんです。彼らは設計理論っていうのをしきりというんです。

○設計理論?

■ええ。何かの仕様、たとえば歩行ロボットの仕様を与えられたときに、それを実際 にどういうふうに設計していくかと。現状ではプロの設計者がいろいろ試行錯誤しな がら設計するんだけど、たとえば一種のAIを使って設計すると。だから彼らの理想 は、インテリジェントCADですよ。「2足歩行のロボットを設計しろ」といったら ば、パッといろんな設計図が出てくると。

○なるほど。設計も工程化したいわけですね。その気持ちはちょっと分かります。

■うん、そういうlたちもいるんです。昔、東大の総長をやった吉川弘之さんなんかはそういう方なんです。そういう文脈でロボットを作られたりしていた。  確かにロボットの設計者がいろいろ試行錯誤しているわけです、いまは。偉そうな こと言いながら、ねじが入らないとか部材が曲がったとかで、いちいち作り直したり しているのが現状なんです。たぶん森山さんとかが期待しているような、構造解析し て、有限要素法で完璧な設計をしているなんて人は、たぶん一人もいない(笑)。

○でもそれはそのうち何とかなるんじゃないですか。研究者の数が増えてきて、ロボ ットっていうものが、産業界からどんどん要請されるようになってきたら、自然とそ ういう方向にいくでしょ。

■そうですね。ケータイ電話とか見てると、ニーズがあればいくらでもよくなるっていうのを目の当たりにしますもんね。

○ええ。しばらくはできませんとか言われていたことが、アッという間にできるよう になっちゃう。だから「やればできるんじゃないか」と思えちゃう。ホンダのロボッ トを見たときの普通の人の感想も、「やればできたんじゃないか」というところが凄 くあるんじゃないかと思うんですよ。

■ええ。だから、そうじゃないんだということを言いたいんですけどね。

○その辺の感覚がいま一つ僕も腑に落ちないんですよね。確かに他はできてないから ぶっちぎりはぶっちぎりなんだけど、でもやっぱり、「やればできた」んじゃないか という気がしちゃうんです。

■うーん……。

[19:走って歩けるロボットはできるか]

○じゃあ、逆にやってできないことを挙げるとすれば、たとえば歩いたり走ったりするロボットはまだないですよね。

■ええ。走る「だけ」のロボットならもうありますけど。

○ええ。MITの空気圧でぴょんぴょん飛ぶ奴とかですね。

■そうです。走ると歩くのが…うーん。電動でああいうことをするのができない。う ーん、そうですねえ…。でも、やろうとしてないというのもあるかな。たぶんできそ うな気もしますかね…。

○いやー、何をやったらみんなが喜ぶかなということから考えると、たとえばマイケ ル・ジョンソンと並んで走って、ジョンソンをぬいたらみんなびっくりですよ。もし トヨタがそういう2足ロボットを作ったら「ホンダをぬいた」とか言われますよ(笑)。

■ははは(笑)。そうですね。
 うーん。そうですね。やっぱり、「できない」理由は思いつかないです。できると思います。単にやろうとしてないからかも知れませんね。

○もしやるとすれば、何が問題になってくるんですか。当然、足首や股関節、膝にかかってくる衝撃とかもあるでしょうけど。

■ええ。ポイントはエネルギーをどう使いつつ逃がすかですね。良いスプリングをど う仕込むか。足にスプリング機能をもたせたいわけですよね。でもふだんは普通に歩 かせたいから、モーターも仕込みたい。仕込み方としては結局、バネとモーターを並 列にいれるか直列にいれるかでしょう。
 まず、直列に入れた場合を考えると、モーターの先にバネがついているという構造 ですね。モーターがゆっくりのときはバネが問題になりますね。思った通りに動けな くなりますから。
 今度は並列に入れたとすると、モーターの動きをバネが邪魔しちゃうこともあるから都合が悪い。おそらく直列につなぐのが正解なんだけど。

○バネっていうのはどんな?

■普通のバネでいいんですよ。あるいはゴムかもしれないですが。

○バネが必要なのはどうしてですか。

■モーターだけでは、十分な衝撃吸収ができないからです。かなりのスピードで地面にぶつかりますから…。

○基本的には衝撃吸収用のバネですか。

■そうですね。衝撃を吸収すると同時に、いったん圧縮したことでエネルギーを蓄えて、次の瞬間に解放する。それによってエネルギーを節約する。そういうものです。

○スプリングのついた変な靴を考えた人がいましたが、あの理屈ですよね。

■そうですね(笑)。けっきょくはあれです。

○走るとなると、まず足の周期は短くなりますよね。バネを入れると軌道の計算も難しくなる。そしてそれに追いつくアクチュエーターが必要になる。

■うん。でもアクチュエーターはいまのものでも多分十分じゃないかなあ…。
 …なんだか、そっちのほうがやりたくなってきたなあ(笑)。

○(笑)。ウケることは間違いナシですよ。

■うん、確かにみんなに言われるんです。走るロボットはいつできるんですかって。

○そんなもんでしょう。みんなの願望は、凄く力持ちか、ものすごく素早く動けるか、どっちかなんですよ。

■ホンダが最初に、どっちにしようかと考えたんですよね(『夢をかなえるエンジニア』(小学館)など参照)。うん。走るロボットができない理由は原理的に全くあり ませんね。ましてや…。

[20:ロボットは労働集約的]

■重さ200キロのロボットが歩いているのを見た時点で、今まで信じていたものは ガラガラと崩れ去りましたからね。

○?

■いままで、電動モーターってのは重すぎて、バッテリーまで背負って自分が立って 歩くようなロボットはそもそもあり得ないと、一種の固定観念のように言われていたんです。僕もそう思ってました。

○はい。

■フタを空けてみれば、モーターっていうのは電流を流せば流すほどパワーを出す。 唯一気をつけなくちゃいけないのは放熱だった。それだけ気をつけておけば大丈夫だ った。

○そんなもんなんですかね。でもなんで、「僕らが思うアレ」は出てこないんでしょ う。そこがどうしても僕には分からない。僕個人としては、それがどうして難しいの か多少でも分かれば納得ができるので、その困難さを多少とも理解したいんですけ ど。

■期待されるものがなかなかできない理由の一つは、ロボットは労働集約的なとこと があるから、手間がかかるってことです。マンパワーがかかる。でも、僕も基本的に 一人でやってますし。みんなで集中して一つのものをやるっていう体制がなかなかできなかった、っていうのが問題ですね。

○研究体制の問題ですね。

■ええ。

[21:ロボット学会的「鑑賞眼」と、一般の価値観のズレ]

■ちょっと話がずれちゃうんですけど、僕らもよく感じるんですよ。「なんで『あれ が欲しい』っていうものができないのかな」って。
 ただ、ロボット学会に行っても、ホンダのロボットに危機感を持っている人は凄く 少ない。たとえば「僕は2足歩行じゃなくて、3足歩行を開発しました」とか、まあ、「ホンダはホンダだけど、僕らは僕らで面白いことやってるんだ」っていう感じなのかな。
 結局、価値観なんですよ。ロボットの研究者のなかの価値観と、普通の人が期待す るものが、ちょっとずれている。そんなふうに感じられるんです。

○…。

■それはね、うちの荒井裕彦さんって研究者が言ってくれたんですけど、この独特の価値観っていうのは、一朝一夕に生まれてきたわけじゃないんですよ。たとえば「これは良い研究だなあ」っていうのが、我々からすると、あるんですよ。そういう研究は学会賞をもらったりする。一方、それをホンダが総ナメするかというと、そんなことはない。普通の人にはなかなか分からない、「これ、なんで良い研究なの?」っていわれてしまうようなものでも学会賞を取る。

○はい。

■学生さんたちも最初は分からないんですよ。それが、長年研究して学会誌を読んで いて、十年くらいすると、分かって来るんです。「これって良い研究だね」って言う ようになる。
 これってちょうどね、茶碗を見立てるのと同じなんですよ(笑)。「鑑賞眼」って いうのを、ロボット学会が養っているんです。で、その「鑑賞眼」の基準は一般の、 世間の価値観とは全く別のところにあるんです。
 だからホンダのロボットが出たからといって、日本中のロボット研究者が必死でアレを追っかけようとしたかというと、そんなことはなかったんです。

○それは当然でしょうね。

■唯一、東大の井上先生と稲葉先生のところが必死で追いかけて、かなり良い線行ってるんですけどね。
 だからそこが…。ロボット研究者のメンタリティー自体が、一般の人の期待を裏切るような形になっているのかもしれない。

○なるほど(笑)。
 でも、それはどこの学会でも同じじゃないですか。そんなこと言っちゃったら、物 理学会とかは大変でしょう(笑)。ほとんどの人の価値観とはずれているでしょう。 学会の価値観が普通の人とずれているのは、ごく自然なことだと思いますけど。

■そう言って頂けると有り難いですけどね。

[22:ロボット論文の第一章はフィクションである]

■ただ、物理学会との違いは、おそらく、物理の人はなんだかんだ言っても、やっぱり自然を相手にしているわけですよね。でもロボットの人たちは、かなり「恣意的な 世界」を相手にしているわけです。

次号へ続く…。

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http://www.mainichi.co.jp/digital/solution/archive/200103/09/1.html

◇読売新聞 富士山の活動活発化受け、監視機器を3倍に
http://www.yomiuri.co.jp/04/20010310i501.htm

◇Fish Information & Service「FIS-net」
http://www.fis-net.co.jp/index.asp

◇The End is Mir
http://science.nasa.gov/headlines/y2001/ast10mar_1.htm?list126153

◇文部科学省 宇宙ステーション「ミール」関連情報
http://www.mext.go.jp/a_menu/kaihatu/mir/index.htm

◇宇宙科学研究所 「的川泰宣のミール落下日誌」
http://www.isas.ac.jp/dtc/mir/mir.html

◇渋谷・五島プラネタリウム閉館
http://www.f-space.co.jp/goto-planet/index.htm

◇科学技術者のための総合リソースガイド・NetScience
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