NetScience Interview Mail 2001/03/08 Vol.135 |
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【梶田秀司(かじた・しゅうじ)@機械技術研究所 ロボット工学部 運動機構研究室】
研究:2足歩行ロボットの制御
著書:『歩きだした未来の機械たち −ロボットとつき会う方法−』ポプラ社
ホームページ: http://www.mel.go.jp/soshiki/robot/undo/kajita.html
○二足歩行ロボット、その制御の研究者、梶田さんにお話を伺います。
ロボットブームではありますが、技術的な話はほとんど触れられていないようです。
素人でも、もうちょっと詳しいことが知りたくなりました。(編集部)
…前号から続く (第6回)
[15: 2足歩行制御の本質は、狭い接地面積でバランスすること] |
データベース |
■ええ。胴体の中にはジャイロが入ってまして、回転速度が分かります。それから重力の方向を測る加速度センサー。そして足首の6軸の力センサーで力を検出してコントロールしています。
6軸っていうのは地面からのXYZの力とロール、ピッチ、ヨーの回転モーメントを測るわけです。すると、足をついた瞬間、もの凄い衝撃が足首にかかるのが分かります。それをセンサーで検知して、フィードバックして足首の回転に戻さなくちゃいけない。
ところが、力っていうのはもともと激しいノイズを持っているものだから、そのまま戻しちゃうと、激しい振動を起こしちゃうわけです。それをまず取り除かないといけないんです。
○これは足裏というか、足の部分全部がゴムになっていますが。
■ええ、その高周波のノイズを取り除くという意味があるわけです。
それとともにフィードバックのループの特性を上げるという意味もあります。
○防振ゴムですか。
■ええ、役割としてはそうですが、 これはただのネオプレン(合成ゴム)です。ホンダが使っているのもごく普通のゴムですよ。
○ホンダの場合、ゴムは足首のところに入っていて、その下に受け皿的に足がついて ますね。梶田さんのロボットの場合、直接ゴムが足底になってますけど…。
(註:写真は、バックナンバーをウェブサイトでご覧下さい)
■はいはい。単に作るのがめんどくさかったのと、簡単であればそのほうが良いとい うだけです。これも問題があるので、そのうち作り直すつもりですけどね。
○すごく足が小さいですよね。纏足みたい。
■8×12センチくらいですね。
○胴に比べるとすごく小さいですね。
■2足歩行制御の本質は、狭い接地面積でバランスするということなんですよ。
もう一つ理由があって、足首に入れているセンサーが、あまり大きな力を入れちゃうと壊れちゃうんですよ。足を大きくするっていうことは、より大きなモーメントが 足首に加わるということなんです。これ以上大きくすると、このセンサー自体が壊れ ちゃうんです。
○長いスキー板を履いていると歩くときに大変だっていうのと同じですね。
■そう、そのとおりです。
○なるほど。下半身だけのロボットですが、これの重さは?
■46キロです。だから危ないですよ。転ぶとけっこうガチャーンとなります。いま これを吊ってるクレーンは2トンまで耐えられるんですけど、引きずられたりします からね。
[16: もし、ホンダのロボットが売りに出されたら…] |
○ふむ…。今日、何回も同じ事を伺っていますが、まだいま一つ「ロボット研究の難 しさ」の本質がなんだかいま一つ分からないです。
■あれ、そうですか?
○うん。分からないと言っておきながらなんですが、歩行なんていうのは難しさが分かりやすいのかもしれませんけど。
整理すると、僕らは歩いているとき、床と衝突したときのバンという衝撃を押さえ込んで、というか制御して歩いてるわけですよね。それをいままでロボットにやらせるのが難しかったんだけど、ゴムブッシュを入れてやって足首のコンプライアンスを実現したりだとか、ちゃんと計測してやることでモデルを厳密にしてやったりして、いまようやく、ロボットが2足で歩けるようになった。そういうわけですよね。
■ええ。そうですね。ゴムブッシュ以前の問題として、足首に力センサーを入れてるということ自体がなかなかできなかったんですけどね。
○それはどうしてですか。
■力センサー壊れちゃいますから。一式50万円くらいするんですけどね。ロボット一台1200万〜1300万くらいですけどね。だいたい一軸100万円、っていうのが業界の相場なんですけどね。それが12軸あると、1200万。いろいろセンサーを付けていくと、あっというまに値段は上がっちゃうわけです。
○そういう意味で、ホンダが1000万円で売り出す、とかってニュースが流れると…。
■価格破壊です。みんな真っ青ですね(笑)。
○新しいホンダのロボット(P3改良型, http://www.honda.co.jp/robot/about/new/)については、HRP(Humanoid Robotics Project, http://www.mstc.or.jp/hrp/main.html)の人たちは知っていたんですか。
■いや、NHKスペシャル<世紀を超えて>が放送された翌日にニュースが流れましてね。それで初めて知りました。
○まさか売りに出すとは誰とも思わなかったわけですか。
(註:このインタビューを行った当時、こういう噂が実際にニュースとして流れていた)
■そうそう(笑)。
○NHKの番組のなかでは、一台、変な奴も映ってましたね。番組中では1カットにしか映ってませんでしたが。
■全部カバーで覆っていたやつですよね。いろいろ作ってるんだなということが分かりました(笑)。気になりますよね。
○でも何に使うんでしょうね。昔の、江戸時代の豪商が「お茶くみ人形」を買って楽しんでいたような感覚でみんなで楽しむとか(笑)、そういう使い方しか思い浮かばないんですけど。
■取りあえず一番いいお客になりそうなのはHRPなんですよね。あれが出されたら買わざるを得ないでしょう。
○重さ80キロですもんね。ずいぶん軽くなりましたよね。
でも、人間でも意識を失った人と死体は重いっていいますけど、80キロでも40キロでも、けっこう重いですよね。
[17: 受け身が取れるロボットはできるか] |
○HRPでは「受け身が取れるロボット」というのを考えていらっしゃるとのことでしたが…。
■ええ。考えています。考えていますが、考えているだけで、まだ実際には。
○受け身ってどうやって取るんですか。
■どうやって取るんでしょうね。けっきょく、地面にぶつかってもある程度壊れてもいい場所を作ればいいのかなと思うんですよね。
○うん。人間でも掌とか膝とか尻とか、強いところ、クッションが効いているところ で受けるんですもんね。
■はい。だからたぶん肘とか尻とかを作ってやることだと思うんですよ。子どもが歩 いているときみても、尻餅をついてバランスしたりしますよね。
ところが、ホンダのロボットはお尻にあたるところに一番複雑なメカが入ってい て、あそこで尻餅をついたら即歩けなくなっちゃいます。だからいま、そこの部分の 設計を考えているところです。
○人間だと、とっさに手を出すとか、非常時のアクションがあるわけですが、そのへ んは? しかも人間は、手をついたあとにバンと自分の体重を支えますよね。そうい うことはできるもんなんでしょうか。歩いているときでも、ズルッと滑りそうになっ たときに、ガッと踏ん張ったり、そういう動作のことですけども。
■いまは難しい。スリップにはどうしようもないです。でも、これからは、僕は可能だと思ってます。
たとえば、歩いているときの足のスピードって結構早いんですね。 つま先で蹴ってかかとにいくまで、0.5秒から0.6秒くらいしかかかってません。で、倒れるときにもけっこう時間があるんですよ。0.3秒〜0.4秒くらいの時間がある。そのくらいの時間があれば、ある程度の手の姿勢は作れますから。2足歩行ができた時点で、その能力は持っている。
だから原理的には可能。できれば、HRPが終わるまでにやりたい。
○こけても手でついて、自分で立ち上がれる?
■壊れなかったらですね。
○そしたらみんな「おお〜」っていうかもしれませんね。
■だといいんですけどね(笑)。
○いやー、「ガンダム、大地に立つ」みたいに、寝ているベッドで上体を起こしながら片足を降り出して踏み出せれば、みんなだいたいオッケー!ですよ(根拠なし)。
■それいいですね、やりたいな(笑)。
ヒューマノイドロボットで寝ているところから起きあがるという研究はもうあるんですよ。東大の井上・稲葉研を出て、いま電総研でHRPをやっている金広文男さんという研究者がいるんですが、ちっちゃいリモートブレインロボットっていう奴でね、こけた姿勢から起きあがるっていう研究をされたんです。
○へえー。
■うつぶせからだと腕を使って簡単に起きあがってくれます。もし仰向けに倒れても、いったん寝返りをうつ。そして起きあがる。起きあがりそこねてまた倒れちゃったら、またやり直す。そういう研究はできていので、それを是非、等身大のヒューマノイドでやりたいなと思ってるんです。
○まずは倒れたときに壊れない、というのが大前提ですね。
■そうですね。それがまず問題です。
ホンダさんのP2、P3だと、バックパックがすごく障害になるんです。寝返りをうつときにね。それがないロボットを作りたい。
○NHKスペシャルに出ていたP3改良型はバックパックが二つに分かれて、胴体にあわせて旋回するようになってましたね。
■ええ。ああいう格好をさらに改良して、すっきりした背中にさせないといけないですね。
○上半身を旋回させるアレは、すごいものなんですか。
■バッテリーつけて80キロ台でしょ。ということはバッテリーを外すと60キロ台 です。びっくりですね。
それより、僕が気になったのは、腰のあたりのメカが少し変わってるんです。あれ、腰のところにサスペンションみたいなものが入っているらしいんです。ビデオを見ると、腰の部分が、胴体に対して上下運動してるんです。あれがどういう役割をはたしているのか。たぶん、歩行に使うエネルギーをうまく調節して、省エネで歩けるようになってるんだと思うんです。
○いわばバネを使うわけですか。
■そうですね。よく分からないんですけどね。
一つは、動的な歩行というのは、必ず加減速があるわけです。車でいえば、急発進して急ブレーキをかけて、急発進して急ブレーキの連続なんです。そういう意味では、急加速の部分でエネルギーをかけても、急ブレーキで消えちゃうわけです。そのエネルギーを回生するようになってるんじゃないかという仮説を僕は立ててるんですけどね。
○ホンダは、そういうのは完全未公開なんですか。
■ええ。まったくの未公開です。
ひょっとしたら、あっさり公開しちゃうかもしれないですけどね。
○HRPで3台P3を買っていても、やっぱり内緒なんですね。ふーん。
[18:ロボット研究者の出自はバラバラ] |
■ロボットやってる人って、いろんな出身の人が集まっているんです。制御理論の人 もいれば、機械設計の人もいるし、いわゆるAIから入ってきた人もいる。ロボット学 会のなかで発表していても、実はけっこう分離した形で存在していて、たぶんそれぞ れの分野ごとに、解決しなくちゃいけない課題ってのがあるわけです。
○次号へ続く…。
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■新刊、雑誌:
◇オンライン書店ビーケーワン 科学書売場 週間ランキング (2/26〜3/4)
http://www.bk1.co.jp/cgi-bin/srch/srch_top.cgi?tpl=dir/01/01080000_0025_0000000029.tpl
■イベント:
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「21世紀の科学技術と人づくり−大学と産業界の役割−」
http://www.nikkan.co.jp/port/0331-kyoto.html
3/31(土)14:00〜17:30 MIDシアター(大阪市中央区城見2丁目・OBP)
◇第12回NTTサイエンスフォーラム
テーマ『常識をくつがえす炭素の不思議―ナノテクノロジーへの挑戦―』
4/3(火)13:00〜18:00 東京厚生年金会館大ホール
http://www.sctlg.ecl.ntt.co.jp/event/SF12/
■ U R L :
◇裳華房 ミールの落下と国際宇宙ステーションの建設
http://www.shokabo.co.jp/keyword/2001_3_spacestation.html
◇裳華房 ヒトゲノム解読結果公式発表
http://www.shokabo.co.jp/keyword/2001_3_human_genome.html
◇NECコンセンサス サイエンス・フロンティア:
東京工業大学理学部地球惑星科学科・丸山茂徳 地球46億年の歴史を解読する
http://www.sw.nec.co.jp/con/sci/5/index.html
◇毎日インタラクティブ スペースシャトル:後継機の開発を断念 NASA
http://www.mainichi.co.jp/news/selection/archive/200103/03/0303e014-400.html
◇「NASDA NEWS」 No.232 2001年3月号
http://yyy.tksc.nasda.go.jp/Home/News/News-j/232index.htm
◇熊日ニュース ”氷河期”の博物館 恐竜パワー大健闘 御船町 入場者3万人突破
http://www.kumanichi.co.jp/dnews/20010228/kiji2_0000003527.html
◇科学技術者のための総合リソースガイド・NetScience
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