NetScience Interview Mail
1999/08/26 Vol.067
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【井田茂(いだ・しげる)@東京工業大学 理工学研究科 地球惑星科学専攻 助教授】
 研究:惑星系形成理論
 著書:岩波講座 地球惑星科学12『比較惑星学』共著ほか

研究室ホームページ:http://www.geo.titech.ac.jp/nakazawalab/ida/ida.html

○惑星系形成理論の研究者、井田茂氏にお伺いします。現在、観測・理論両面で大きく進歩を遂げつつある惑星系の科学の現在をお楽しみ下さい。
 6回連続。(編集部)



前号から続く (第6回/全6回)

[17: 観測に期待するもの 大型サブミリ波干渉計]

○じゃあ先生方はやっぱり、<すばる>だとかに期待することっていうのは大きいんですか。

■ええ大きいです。すばるもそうですし、その次の計画の「大型サブミリ波干渉計(LMSA : Large Millimeter and Submillimeter Array, http://www.nro.nao.ac.jp/~lmsa/index-j.html)」っていう計画があるんですけど、そっちのほうも期待が大きいですね。
 干渉計の方はまさに原始惑星系円盤の内部を細かい構造まで分解して見よう、というのが大きな目標の一つですから。それが分かってくると、惑星ができる環境みたいなものがずいぶん分かってくるはずなんで、すごく期待しています。

○具体的にはどんなのが見えるといいな、っていうのがあるんでしょう。

■そうですね、まずいま言った埃の状態。それとガス円盤見てても今は分解能がないんで、ガス円盤全体の重さは分かるんですけど、どういう風に質量が分布しているのか分からないんですね。だからそれを干渉計で見てやると、どういう勾配でものが集まっているかが分かるはずなんです。そこまで分かると、惑星がどんなふうにできるのかというのは、もの凄く決まって来るんで。

○なるほど。ガス全体の様子を見てやろうということですね。逆にムラがムラムラムラって感じで見えると、惑星が出来ているんだろう、ってことにもなるんでしょう?

■そういうのも見えてほしいですね。木星みたいなのができると、その周りに溝ができたりする、と予想されているんで、それを観測することもできるはずです。さっき言った拡散過程でね。木星みたいなものができると内側の奴はより内側に、外側の奴はより外側にいっちゃうはずなんで。ギャップが広がるはずなんです。そうしますとそれは多分、観測で引っかかるはずなんです。

○そこまで解像度は上がるだろうと予測されているんですか。いつごろできそうなものなんでしょう。

■ええ。日本国内ではまだ予算が通ってないんですけどね。2010年より前には着工を始める、という予定なんですけど。

○じゃあ結構遠大な計画なんですね。

■ええ、すばるなんかでも着工を始めてからでもかなりかかったでしょう。なおかつ、このミリ波干渉計はアメリカ、ヨーロッパ、日本の共同でチリに作ろうと言っているんですね。そうするとまた、どっかの国の足並みが乱れると、またね。

○ああ。

■アメリカで予算がつかなくなったりすると遅れたり、ってことになるでしょうけど。いまはまだヨーロッパもアメリカも景気がいいからいいけどね。

○いま大不況の中にある日本はどうなんですか(笑)。すごく政治的な話になちゃいますが。

■どうなんでしょね。僕には分からないですが(笑)。

○すばるにしても小平桂一先生の本(『宇宙の果てまで』文藝春秋)とか読むと、大変だったみたいじゃないですか、いろいろと。

■ええ。数百億の予算規模ですから、なんとか銀行への公的資金援助なんかよりは安いんですけどね(笑)。でもなかなか、そういうのを通すのは難しいでしょうね。でも日米欧でやろうというのも意味があって、干渉計っていうのは本当は、なるべくたくさん作って、広い領域に置いたほうがいいんですね。だから本当はそれぞれの国でやったほうが自由はきくんだけど、それを捨ててでも、やっぱり高分解能にしたい、っていう科学者の気持ちがあるんです。

○とにかく高分解のが欲しいと。

■ええ。だから原始の円盤の中でそこで本当に惑星ができていく、おおざっぱに惑星系一個だけ見てもそれ以上なかなか進まないんで、地球に対応する領域で何が起きている、木星で対応する領域で何が起きているというのを見たいんですね。

○いろいろな惑星系を取ると、それぞれの段階のスナップショットがあっちこっちで取れるかもしれないと。

■ええ。

○日本がやる月探査ミッションなどについてはどうですか。
 ルナーA(http://diana.sci.isas.ac.jp/LUNAR-A/)とか。

■そうですね、当然期待してますね。ルナーAは月のなかの鉄のコアの大きさを正確に測って、月起源論の大きな制約条件になっている、月の鉄分の欠乏の問題に決着をつけようというもんです。

○セレーネ(http://spaceboy.nasda.go.jp/db/Kaihatu/Wakusei/Wakusei_J/Serene_j.html)はどうですか。

■そうですねえ。セレーネは月の表面を調べるものなんで、主に月ができあがったあとのデータ、ということになりますよね。そうすると僕のやっていることにつなげるには1クッション必要になります。こういう地形があります、と言われたら、じゃあそういう地形はどういうふうに出来たんですか、それは形成過程とはどういうふうに結びついてるんですか、ってことになります。もちろん期待はしてます。

○じゃあデータが出たら、ということですね。

■そうですね、春山君(NASDA、http://www.moriyama.com/netscience/Haruyama_Junichi/など参照)らに頑張って頂きましょう(笑)。

[18: 空想だけでは何も進まない]

○やっぱり地球みたいな星が他にもあるのか、ということにも興味がおありなんですよね?

■ええ、それは当然あります。それが一番の目的ではないですけど、地道な、手で計算してコンピュータ使って、っていう作業でそういうものに対して情報を与えることができますし。

○計算しないと分からないだろう、というのもあるんでしょう?

■ええ。そんなこと、ただ空想してても何も進まないですから。ただ、自分たちがやってきた地道な結果を組み合わせると本当にこういうことになるんだ、言える、っていうのが出てくると、俄然興味が出てきますね。

○はじめのほうでお伺いした話、月がないと生命の進化も、って話がやっぱり頭に残っているんですが。

■ええ、やっぱり我々の間でもときどき議論になっています。1万分の1の確率で月ができたんだとするならば、地球がどれだけたくさんあっても、生命なんてのは非常に特殊なものになってしまうかもしれない。そうじゃなくてそれは4分の1だというなら、いっぱい生命いてもいいだろう、という話は、雑談ではしますね(笑)。

○最近「SETI@home(http://setiathome.ssl.berkeley.edu/home_japanese.html)」というのが大流行じゃないですか。取材とか打合とかに行くとあっちこっちのコンピュータで動いてる(笑)。やっぱりみんな宇宙人探しというのには興味があるんだな、と思ったんですが、そういうのをお伺いすると、いわゆるドレイクの方程式に、「月を持っている可能性」というか、地軸が安定な可能性というのを付け加えないといけないのかな、と思っちゃいますね(笑)。

■あの確率をどんどん掛けていって、っていうのは(ドレイクの方程式。以下のようなもの。銀河系で他文明と通信を変わる能力を持つ文明の数=銀河にある恒星の割合×惑星を伴う恒星の割合×生命を生み出す環境を持っている惑星の割合×実際に生命体が存在する惑星の割合×知的生命体の存在する惑星の割合×コミュニケーションできる文明を持つ惑星の割合×文明の寿命)、僕はほとんど根拠がないものだと思いますけどね。掛けているファクターすべてに根拠がないから、出てきた数字も全くあてにならない(笑)。

○まあ、適当なんでしょうね。こういう要素を考えないといけませんよ、というものを集めて示した、ということでは意味があったんでしょうけど。

■そうですねぇ。やっぱりちゃんと理論化しないと意味がないと思います。

○なるほど。
 本日はいろいろな話を漠然と伺ってしまいました。お時間頂き、どうもありがとうございました。

【1999/06/02、東京工業大学にて】

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*次号からは自律ロボットの研究者・淺間一さんへのインタビューをお送りします。


[◆Information Board:イベント、URL、etc.]

■新刊書籍:
◇雑誌『生物の科学 遺伝』9月号 特集:色覚のしくみと色覚異常
 本体1100円+税 裳華房 
http://www02.so-net.ne.jp/~shokabo/iden.html
 色覚のメカニズムとその進化と共に,色覚異常に対する正しい社会のありかたも提言

■イベント:
◇中・高校生の科学実験教室「人にやさしい技術と道具」 中央大学 10/31, 11/3
http://www.ise.chuo-u.ac.jp/TISE/symp/1999/hitoni/top.htm

■URL:
◇NASDAスペースパーソンNo.28
 H-IIAロケットを支える中枢部「アビオニクス系」のしくみと役割
http://spaceboy.nasda.go.jp/Spacef/sp/j/spacep_j.html

◇「21世紀の社会と科学技術を考える懇談会」の意見募集
http://www.sta.go.jp/shimon/cst/kondan21/comment.htm

◇平成10年度「2000年代の科学技術系人材育成事業に関する調査」報告書
http://jhfsp.jsf.or.jp/shinko/pro/2000/contents.htm

◇すばる望遠鏡に超高感度ハイビジョンビデオカメラを取り付け撮影した天体画像
http://www.nao.ac.jp/Subaru/hdtv/hdtv.html

◇東京大学地震研究所地震予知情報センター トルコ地震特集
http://wwweic.eri.u-tokyo.ac.jp/topics/turkey/index-j.html

◇Symbiotic Star Blows Bubbles into Space (ハッブル宇宙望遠鏡)
http://oposite.stsci.edu/pubinfo/pr/1999/32/index.html

 *ここは、科学に関連するイベントの一行告知、URL紹介など、
  皆様からお寄せいただいた情報を掲示する欄です。情報をお待ちしております。
  基本的には一行告知ですが、情報が少ないときにはこういう形で掲示していきます。
  なおこの欄は無料です。


NetScience Interview Mail Vol.067 1999/08/26発行 (配信数:17,906部)
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編集人:森山和道【フリーライター】
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