NetScience Interview Mail 2000/10/05 Vol.117 |
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【平藤雅之(ひらふじ・まさゆき)@農林水産省 農業研究センター 研究情報部 モデル開発研究室 室長】
研究:計算生物学、アグリインフォマティクス
著書:バイオエキスパートシステムズ(コロナ社、ISBN4-339-02277-2)
ホームページ: http://model.narc.affrc.go.jp/
○計算生物学、アグリインフォマティクスの研究者、平藤雅之さんのお話をお届けします。
平藤さんの研究主題は「桃源郷」。
なんだそれ、と思った方は、本シリーズをお読み下さい。(編集部)
[21: 研究も、多様な価値観に合わせて多様な目的を設定せよ] |
データベース |
○実際、いまはそれを高く売っているわけですね。
■非常に高く売れるわけですよ(笑)。
天井知らずですよね。赤坂に何十坪ものマンションを持っている人たちからすれば、大きな箱庭を作るくらいなんでもないですよね。まず、その人たちに売れば、ビジネスとしてテイクオフできるかも…。
○ふむ。いけますかね。
■トレンディドラマで金持ちが出てきたときに、ちょっと前だと大きい熱帯魚の水槽とかがありましたよね。あんな感じで人工生態系があって(笑)。これは実験用だからそんなに綺麗じゃないけど、もうちょっと観賞用にしてね。
○ちょっと大きなジオテリウムみたいなもんですね。
■あったらショックを受けますよ。そう簡単にはまねできませんからね、庶民には(笑)。
○できないでしょうね。こんなスペースをなんでこんなことに、っていうことになりますよね。
…逆に、この研究そのものを、そんなふうに言われることはないんですか。「なんでこんなことやってんの」って?
■もちろん、金持ち用のジオテリウム作る研究だったらそう言われちゃうかもしれませんね。この研究はもともと多目的な人工生態系を作ることなんです。宇宙での生命維持システムやインドア・グリーナリー、植物成長のモデリング、生態系動態の研究、有害微生物の自律的抑制機能とか…。ついでに金持ち用ジオテリウム(笑)。
このうちの一つの目的だけでもペイしちゃうと思います。目的を一個増やすごとに、リターンが一個大きくなるわけですよね。だから今も、もっと追加できないかなと考えているんです。
○追加?
■いまのリターンは10種くらいですけど、これをたとえば100種くらいにできれば、対費用効果はもっと上がるでしょ。あとは知恵ですよね。これを使って、将来,どれだけ付加価値の高い製品を生み出せるか?ということです。
○製品…?
■インドア・グリーナリーはかなり高い製品を生み出せると思うんです。マーケットとしては非常に大きいはずですから。
○これから大きくなるでしょうね。
一方、いま景気悪いじゃないですか。
■そうですね。
○まあ、下まで落ちちゃえば上がるしかないし、そろそろ徐々に上がりつつありますよね。そうすればそういうもののニーズもまた復活するかもしれませんね。
■本当に買いたいものがなかったので不況になっていた、という面もありますよ。
人間には誰しも根元的な夢があるでしょ。夢は人それぞれだから、それぞれの人にぴったり合った夢を示さないといけないと思うんです。中にはアタマがガチガチで、儲からないことは絶対やっちゃいけないと思っている人もいるわけですよね。そういう人たちにはお金儲けの話をすればすんなり入ってこれますよね。
本当に宇宙へ行きたいと思っている人には宇宙の話をすればいい。お金儲けの話はしない方がいいくらいでしょ(笑)。
○そうですね。
■人間の感性とか受け止め方自体も多様ですよね。それに合わせて、こういった研究の目的も多様にしておけば、どこかでピタッとくっつくわけですよ。
○平藤さんご自身は、全部やりたいんでしょ。桃源郷も作りたいし、金儲けもしたいし、宇宙へも行きたい(笑)?
■そうそう(笑)。全部。ただし金儲けは研究所にいる限り無理ですけどね。
そろそろ、「自分たちが本当は何をしたいのか?」ということを追求する作業が必要ですよ。これまで、食うことに汲々としていた時代が数千年間続いて、やっとここにきて余裕が出て来たわけです。しかもITで余裕が余って来ちゃった。
○そういう時代に、じゃあ農業っていうのは何をやるべきなんだ?と問うべきだと?
■そうです。でもそれは、農業に限りませんね。
ある産業で大型商品を出せば、そこに流れ込む資金量が増えて、他は減りますよね。農業っていうのは、これからは大型商品を意外とたくさん出せる産業だと思うんですよ。 ずっとこれまで、農業っていうのは斜陽だと言われてましたが、ITで突然、掌を返したように有利になって来ています。
○ITで農業が有利。うーん…。
■ええ。これまで気が付かなかった根元的な部分を温存してるわけですから。たとえば、綺麗な景色に囲まれてネットや趣味に明け暮れながら、毎日、旨いもん食って、元気に長生きしたくないですか?
農業や農村ってこういったことに直結する「食」や「環境」を上流で握っているでしょ。まず自分が理想とする生活を楽しんで、その一部を下へ流していくわけですから、ポジションとして非常に有利な位置にいます。人間は生き物である以上どうしても食わなくちゃいけない。しかも、人間の舌って、一度旨いもん食っちゃうと、どんどん贅沢になっちゃうでしょ。「もっと旨いもの食いたいっ」って。ITと人間の多様化が進むほど、有利な部分がどんどん表に出てくるでしょうね。
○これかも農業がカギを握る?
■これから「は」ですね。厳しい斜陽の時代が長かったですからね。それに規制も多かったですから。CATVやADSLでインターネットが使い放題の農村が増えて来たので、状況が大きく変わり始めたんです。こういった農業IT関連の研究もしているので、最近はものすごく忙しいんですよ。
[22: これから何をするか] |
○しかし、自分たちは本当は何を望んでいるのかって難しいですね。研究現場でもいろいろあるでしょうけど。本当はどんな研究をやりたいのかって。
■以前、宇宙開発のワークショップがあって、たまたま材料系のセッションにいたんですが、そこで、長老が苦言を垂れていたんです。「みんなストイックにやりすぎる、もっと自由にわくわくするようなことをやりなさい」と。そう言われても、みんな困惑してましたけどね(笑)。
○それは、僕みたいな外野からすると、どっちの気持ちも分かりますね(笑)。
たとえば、遊離酸素が外壁の材料を腐食するっていう話がありますよね。最近注目もされているみたいですが。あれってサイエンスとしても非常に面白い話だと思うんです。表面で何が起こっているんだろうっていうのとか、新しい材料をどう開発するかっていう話とか。
■そうですね。
○でも、一般の欲求とはずいぶん離れた話だろうなという気もするんです(笑)。言ってみれば、ガンダムがさびるのを防ぐためにはどうすればいいかとかやってるわけでしょ(笑)。
■「まずガンダム作ってくれよ」って思いますよね(笑)。
でもITっていうのはそこに相当効くと僕は思うんです。これから、社会の余力が急激に増えますから。
社会や経済のシステムっていうのは、常に働かないと収入がないというシステムですよね。つまり雇用が常に十分ないといけない。雇用っていうのは生産力そのものですから、ITで生産性が良くなると余剰生産力を消費しきれなくなりますよね。
ソフト産業だけじゃふくれあがる余剰労働力を消費しきれないでしょう。ソフトの消費に使える時間は有限ですから。たとえば僕は、家でCATVのインターネット常時接続サービスが使えるようになって、プレステ2をまだ買ってないんです(笑)。消費者にとって一日24時間という制約はどうしても超えられないので、ソフトの消費量は野放図には増えないでしょう。だからITはひたすら余剰生産力を増やし続けると思います。
○まあ限界ありますからね。
■消費を増やすには、本当にそれこそ、とてつもないプロジェクトを始めないとダメでしょうね。昔だったら戦争が時々起こって、消費の拡大と余剰生産力の破壊を定期的にしていましたが、もうそういう時代じゃない。でも、うまく余剰生産力を消費するループを作ってあげないと、戦争のほうに再びシフトしてしまうかもしれない。だから、このことはけっこう重要な話だと思います。
豊臣秀吉が朝鮮出兵したほんとうの理由は、戦国時代に必要だった兵力と武器が余ってしまったため、という解釈もありますよね。
○アメリカの軍産複合体の話とかもそうでしょうね。何年かに一回戦争がないと維持ができないと言われてますね。
■そうですね。といって、宇宙開発で、今のままで予算増やせるかというときついですよね。いきなり予算倍にしろとなっても、みんな納得しないでしょう。
○ITにしても、毎年似たようなソフトを、ほんのちょっとだけ変えて毎年作っているプログラマーの人たちがいるわけですよね。そうしないと部署が維持できないと。
■そうそう。OSをちょっとバァージョンアップしたら動かなくなるソフトがいっぱいありますからね。でもそれで、なんとか余剰生産力を消化しているんだから、文句を言っちゃいけない(笑)。
でも、やっぱり、本当に苦しい時期が来ますよ。「いったい何をしようか?」と。日本ではゼネコンがそれを先取りしちゃってますから。
○なるほどね。ゼネコンは分かりやすいですね。じゃあ研究者はどうなんですか。
■研究者は局所最適解を求めたがるんですよ。自分の目の前にある山を登りたがる(笑)。
○局所最適解ですか(笑)。
■だから、なかなかその山を越えて次の山へ行こうとか思わないわけです。目の前の山を登るのに忙しいですから。
[23: 研究者の経済原則] |
○ゲノムプロジェクトなどでも、じゃあ次の目標はプロテオーム(タンパク質のセット)だ、とか言い出すじゃないですか。そんなに次から次へと矢継ぎ早に目標出さなくてもいいのになあ、と思うこともあるんですけど。
○次号へ続く…。
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◇田中宇の国際ニュース解説 アフリカのエイズをめぐる論争
http://tanakanews.com/a0925AIDS.htm
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