NetScience Interview Mail
2000/08/31 Vol.112
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◆Person of This Week:

【平藤雅之(ひらふじ・まさゆき)@農林水産省 農業研究センター 研究情報部 モデル開発研究室 室長】

 研究:計算生物学、アグリインフォマティクス
 著書:バイオエキスパートシステムズ(コロナ社、ISBN4-339-02277-2)

ホームページ: http://model.narc.affrc.go.jp/

○計算生物学、アグリインフォマティクスの研究者、平藤雅之さんのお話をお届けします。
平藤さんの研究主題は「桃源郷」。
なんだそれ、と思った方は、本シリーズをお読み下さい。(編集部)



[05: 「桃源郷」の現在 虫の大発生ほか]

科学技術ソフトウェア
データベース

■(実験用の「庭」がある部屋の中に入って)
 ほら、いい匂いがするでしょ? 主にバジルの香りです。実は一年目はあまり育たないだろうと思って、適当にやってたんですが(笑)、意外にも良く育っちゃっいました。

○確かに、植物の匂いがしますね。強烈だけど、そんなに嫌な臭いじゃない。

■ここだったらTシャツ一枚で寝ても大丈夫です。下草を増やしたらもっとフカフカになると思うんですね。疲れたらこういうところで寝っころがりながら仕事したいっ!(笑)
 ここには(隅の方を指さして)、リサイクルゾーンも作ってみました。

○堆肥ですね。

■そう。イネなどは葉っぱが食べられませんからね。ミキサーで葉を砕いて、土壌微生物に分解させます。

○虫がいっぱいいますね。この部屋は比較的、密閉に近いと思いますが…。

■ええ。実はこれが非常に重要な発見です(笑)。

○と、仰いますと?

■この土は育苗(いくびょう)用の土で、昆虫の卵とか混ざっていたらいけないはずなんです。

○そうなんですか? 

■ええ。育苗用の土っていうのは温室などで苗を育てるための専用の土なのです。こいつは小蠅ですが、温室などにはもともとたくさんいるので、卵が混入していても気が付かないんでしょうね。でも、これって非常に重要なことですよ。たとえば宇宙空間に持っていって、昆虫が発生したら大変なことになりますよね。

○はい。

■たとえば、いまはずいぶん個体数が減ったのですが、一時、大繁殖したことがあったんです。もういきなり不快になっちゃって、この部屋に入るのが嫌になるくらい(笑)。
 もっと困ったことは、パソコンの中に侵入して、LSIのピンやマザーボードの回路の上で死なれたりすると、動作が不安定になることです。そこにあるパソコンなど、いきなりハングしやすくなりました。

○ああ、はい。

■もし万が一、宇宙ステーションでそんなことがあったら致命的な損害を引き起こしますよね。地上だったら取り替えればいいやということになるけど、宇宙空間だとそうはいかない。だから、もし宇宙でそういうことが起こったらどういうことになるかということを先に地上でシミュレーションしておかないと、あとで慌てふためいても間に合いません。

○これは、土の中にわずかながら残っていた卵があって、そこから発生してるんですか?

■熱殺菌処理をしても、どうしてもある確率で残っちゃうんですね。昆虫ってエイリ アンみたいな奴です(笑)。

○生き物はタフですからね。

■ええ。それで、増えたときにですね、どうやって絶滅させようかとあれこれ考え込みました。もともと農業っていうのは昆虫との戦いですからね。数千年の歴史がある(笑)。それで文献を調べたり専門家と相談したのですが、強力な農薬を使う化学的方法ばかりでこういう桃源郷では絶対に使いたくない方法ばかりでした。ところが意外と簡単な方法が効果的でした。

○ん?

■電撃殺虫器があるでしょ。あれが劇的に効いたんですよ。

○ああ、コンビニに置いてある紫の光を出す奴。

■そうそう。でもあれじゃあ根絶させることはできないんですよね。それでもう一つ、究極の方法を考えたんです。いまはまだやってないですが。実験では、ある程度昆虫がいたほうが生態学的な実験データも取れるものですから。

○なんですか、その究極の方法っていうのは。

■究極的な方法、完全に殺す方法っていうのはですね、宇宙ステーションっていうのは完全に閉鎖系だから、空中を漂っている生物を全部吸引しちゃえばいいんですよ。飛んでいる奴はぜんぶ。

○掃除機か何かで吸ってやる?

■そうそう。空調ファンで吸引してしまえばいいのです。空中を漂った瞬間、こっちの勝ちですよね(笑)。
 ただ、地面をガサガサ歩き回るゴキブリはどうするかとかね、そういうものには個別に対応しなくちゃいけないという問題がありますね。

○映画のエイリアンのシーンそのものですね。実際、ロシアのミールにはいろんなものがいるらしいですけどね。

■当然ですよね。人間の体に一度でもくっついてきちゃえば、あとは持ち込んできた機材の間で繁殖するでしょ。
 しかし怖いですよね。ゴキブリに基板の上で死なれたら(笑)。

○『ドラゴンフライ』(筑摩書房)っていう本を読んでると、ミールはすごいところですね。いきなり停電したりとか。ま、その話は本を読んで頂くことにしましょう。

[06: 計測しているデータいろいろ]

■ここは本当に快適で、ここでプログラミングしてるとストレスを感じないのです(笑)。いまは実験の一環で土の表層で生物分解をさせているので多少発酵臭がまざっていますが、土の内部でさせればハーブの匂いだけになりますよ。フィトンチッドとかの抗菌効果も実際高いでしょうね。

○実際にどうなのかというところは、これから測るんですか?

■実験をしながらですね。いまは上からデジカメでずっと撮ってるんです。ここの室内にはセンサーがあちこちに付いていて、土壌の温度とか水分とか光の強さなどのデータを採るため、思いつく限りのセンサーを付けています。

○へー。

■CO2濃度、温度、湿度、光の強さとか、エアコンにどれだけエネルギーを使っているかとか──これは将来エネルギー収支の計算が必要になるかもしれないからです。あと土壌水分──土壌の水分張力を測るんです。それと生物フォトン。
 本当は土壌微生物の動態に関するデータが欲しいんです。でも残念ながら今の技術水準では直接測れないし、といってサンプリングして分析するのは手間がかかりすぎます。生物フォトンは細胞分裂するときにたくさん出る、といった基礎的な知見があるので、逆に生物フォトンがたくさん放出されていると微生物が活発に活動して可能性が高いわけです。ここの下(茂みを指さして)にセンサーが埋まっています。

○なるほど。

■例えば朝から昼に書けて温度が上がって来てもはまだバクテリアは活動性が低く、午後あたりに増えて来るんです。土壌の中の温度伝搬の時間がかかるのか、それとも時間遅れの生物リズムがあるのか、そこはまだ分からないんですが。でもちゃんと環境に反応しています。

○これ、日長は一定ですか。

■一定です。タイマーで。日長さの設定は意外と難しいんです。日長がこのくらいじゃないと花が咲かないとか、種によって違いますから。

○はい。そのへんはどうするんですか?

■当然、ここでは人間優先です。人間が活動してるときに点けるというシナリオにしたので、研究者としても気が楽です(笑)。

○あ、なるほど。これは、人間が優先という前提条件の中でうまくいくように、という研究ですもんね。

■植物が主役じゃないですから。植物が人間のリズムに合わせるという生態系を作るわけです。

○しかし、人間はどうなんでしょうねえ。人間も季節変動してますよね。

■してますね。だから多分、人間にも最適な日長っていうのはあるでしょうね。また、ある程度ゆらぎがあったほうがいいのかもしれない。将来、火星へ行って帰ってくるなんてときには、あらゆる要因をちょうどいい環境にしたいですよね。

○そうですね。でもミールの話とか聞いてると、そのへんはどうでもいいのかなあ、なんて気もしちゃいますが。人間はかなりタフなんだなと(笑)。

■でも、あれは最初からタフな人を選んでいるわけですからね(笑)。あまり参考にならないんじゃないですか。

○そうかも。

[07: 植物は夜、動く]

■面白いことに、植物は夜、活発に動くんですよ。ビデオを見れば一目瞭然です。昼間はじっとしてるんです。夜になると動きだします。よく調べてみると、他の個体との接触刺激が引き金になって突然、動作を起こし始めます。

○(ビデオを見て)本当だ。ぶるぶると動いてますね。

■昼間はじっとしていて、夜、人間がいないときに動き回ってるんです。人間を小バカにした動きですね(笑)。

○ふむ(笑)。しかし、ずいぶんと活発な…。

■ここにある全部の植物が動いてます。昔から、大豆が夜動く、ということは知られていたんですよ。大豆の場合は葉っぱが垂れ下がるのですぐにわかるんです。
 ところが、こうやって連続的に画像を記録して観察すると、何と全部の植物が動いていました。むちのように自分の体を振り回したりする奴や、パタンと自分の体を倒して寝転がったりする奴とかね。この動作は自分のテリトリーを確保するためだと思います。

○どうして夜なんですか。

■昼間は光合成優先で、夜にテリトリー争いをするという戦略を採っているんでしょうね。夜は光合成産物の物質移動があるので、その物質移動をうまく使えば細胞の浸透圧を変えられます。

○そうやって動いてるんですか。

■たぶんそうでしょう。筋肉ないですからね(笑)。

○ふーん。それだけ利用しながら物質移動もやってるわけですか。

■うまくできてますよね。  これはストロボで光をあてて撮影したものを繋げたものですが、そうするとこんな変な動きが見えて来る訳です。ふつう、動きの研究というと植物電気生理の話になっちゃうんですが、個体数を増やすためにどう動くかという植物の戦略の観点で見ると面白いですね。植物生理学者たちは昼しか観察しないので気付かなかったようですが、これだけもの凄い動きだと植物成長などのモデルの作り方にまで影響を与えます。

○どういうことですか。

■最初、植物個体の間の相互関係は単純なモデルでいいだろうと思ってたんですが、 植物間の相互作用が突然大きく替わるので、そうはいかないでしょう。他の個体とぶ つかる前とぶつかったあとが、まったく違うんですね。ある日から突然喧嘩状態にな る訳です。

○なるほど。行動のモードが二つあるんですね。

■そうです。ぶつかった瞬間から変わるんですね。
 数理生態学だと格子モデルといったタイプの単純なモデルで「えいやっと」やっちゃうのが普通ですが、それじゃまったく合わないでしょうね。例えば、ライフゲームにしても単純化しすぎでしょ。
 植物の栽培管理では、うまく現象に合い、単純でしかも定量化できるモデルを作らなくちゃいけないので大変です。実験で分かることってほんの少しですから、生産の管理や計画などではどうしてもシミュレーションが必要です。最終目標は、モデルを使ってこういったシステムを適応制御することです。

○適応制御?

■ロケットなんかもそうですが、目的のコースを維持するためには軌道を予測しながら制御するという「予測制御」をしています。予測制御は予測ができることが前提です。カオス制御も短期予測を使った予測制御の一種ですが、ある範囲に制御できれば良いため、ハーネス(馬などを乗りこなすの意)と呼ばれています。
 ところが、閉鎖性生態系に対しては正確な予測は不可能で、しかもこれほど複雑なシステムだと、たとえ予測結果が完璧に正しいとしても制御はものすごく大変です。できればいい加減な予測や不完全な制御手段で、制御対象の性質を逆手にとって制御対象を好ましい状態のどれかに誘導したいのです。適応制御は、制御方法を適応的に変えることですが、この場合、たくさんいる相手全体を誘導するということなので、「ファーミング」と呼ぶことにしました。もともとファーミングってそう意味ですから。
 こういった生態系は、一つ一つを制御してもしょうがないでしょ。いまのところ、多様性を高くするということを目的変数に考えています。つねに多様な植物集団がいて、見ても楽しいし、食べられるように。

○ふむ。

■たとえば、今はバジルが増えすぎています。だから、バジルが減って他のがだんだん出て来て欲しい訳です。僕としては、次はイチゴが出て来て欲しいですね(笑)。
 種を播いて放っておくと、勝手にそうなるというのが目標です。理想としては、初期条件と境界条件をうまく設定するだけで好ましい状態になることですね。植物工場と違って一本一本の生育を精密に制御する必要はないので、だいたいこんな感じっていうところで良いと思うんです。雑木林みたいな景観にしようとか、食べられるものが多くなるようにしようとか。

○伺っていると、3DCGの、景観作成ソフトがありますよね。森を作ったりできる奴。あれのリアル版みたいな感じですね。

■そうそう。自分たちの感性に合わせて勝手に決めたわがまままな景観を、自分たちは何もしないで自然に作ってもらう。

次号へ続く…。

[◆Information Board:イベント、URL、etc.]

■新刊書籍、雑誌:
◇『日経サイエンス』10月号 特集「オリンピック・トップランナー 筋力の秘密」
地球外知的生命体を求めて 新連載:「対談 右の世界、左の世界」
 
http://www.nikkei.co.jp/pub/science/

◇『したたかなウイルスたち』(ポピュラー・サイエンス224) 生田和良 著
 本体1500円+税 裳華房 http://www.shokabo.co.jp/mybooks/ISBN4-7853-8724-6.htm
 エイズや肝炎,がん,エボラ出血熱などを引き起こすウイルスの素顔に迫る.

◇『遺伝Q&A』(ポピュラー・サイエンス223) 中込弥男 著
 本体1600円+税 裳華房 http://www.shokabo.co.jp/mybooks/ISBN4-7853-8723-8.htm
 21世紀を生きぬくために必要不可欠な遺伝と遺伝子の知識.様々な疑問に答えるQ&A集.

◇雑誌「生物の科学 遺伝」9月号 特集:藻類と地球環境
 本体1100円+税 裳華房 http://www.shokabo.co.jp/iden/iden3.1/54.9.html
 その関係を改めて見渡し,温暖化・食料問題などの解決に役立つ藻類テクノロジーも展望.

◇『霊長類生態学:環境と行動のダイナミズム』杉山 幸丸 編著 本体3500円+税
 京都大学学術出版会 http://www.kyoto-up.gr.jp/
 どんな複雑な社会も自然環境と無縁ではない。生態学の立場からサルたちの生理・行動・社会に迫る。

■イベント:
◇Mathematicaユーザー会 ワークショップ事例発表者募集  11月3日(祝) 東京電機大学 千葉キャンパスにて   http://www.jip.co.jp/si/mathuser/

■ U R L :
◇「夢の地球観測衛星」〜こんな衛星あったらいいな〜 入選作品
http://yyy.tksc.nasda.go.jp/Home/Press/Press-j/200008/kansoku_000824_01_j.html

◇宇宙飛行士候補者の基礎訓練 月刊基礎訓練レポート 7月号
  http://jem.tksc.nasda.go.jp/astro/ascan/ascan_rep0007.html

◇伊豆諸島地震・噴火関連 asahi.com
  http://www.asahi.com/paper/special/miyake/index.html

◇ランドサット5号による三宅島周辺の観測結果
  http://yyy.tksc.nasda.go.jp/Home/Press/Press-p/200008/landsat5_000830.jpg

◇理科年表ダウンロードサイト(丸善)
  http://www.maruzen.co.jp/home/pub/rikainfo/dlrika/top.html

◇歩行者ITS共同研究の公募について(建設省)
http://www.pwri.go.jp/japanes/topics/kotuanzen/construction_laboratory/joint.html

◇インターネットウォッチ 特集 台風・地震・噴火〜災害に備えよう
  http://www.watch.impress.co.jp/internet/www/article/2000/0828/saigai.htm

◇「サイエンス・ウォーズ」を読み解く35冊 東京大学出版会
 http://www.utp.or.jp/shoten/fear/fear-wars.html

◇オンライン書店bk1・遺伝子ビジネス特集
http://www.bk1.co.jp/cgi-bin/srch/srch_top.cgi/?tpl=dir/01/01080000_0014_0000000001.tpl
  http://www.bk1.co.jp/

◇オンライン書店bk1・地震・防災本特集
http://www.bk1.co.jp/cgi-bin/srch/srch_top.cgi/?tpl=dir/01/01080100_0013_0000000002.tpl

◇化学同人 編集スタッフ募集案内
  http://www.kagakudojin.co.jp/kagakudjn/inform.htm

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  皆様からお寄せいただいた情報を掲示する欄です。情報をお待ちしております。
  基本的には一行告知ですが、情報が少ないときにはこういう形で掲示していきます。
  なおこの欄は無料です。


NetScience Interview Mail Vol.112 2000/08/31発行 (配信数:23,135部)
発行人:田崎利雄【科学技術ソフトウェアデータベース・ネットサイエンス事業部】
編集人:森山和道【フリーライター】
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