NetScience Interview Mail 2005/05/12 Vol.320 |
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【深井朋樹(ふかい・ともき)@玉川大学 工学部 知能情報システム学科 教授】
著書:『脳を知る・創る・守る 4』(共著、クバプロ)
『ニューラルネットの統計力学とカオス』 ニューラルネットワークシステムとカオス, pp 189-244.(椎野正寿,深井朋樹. 合原 一幸編. 東京電機大学出版会, 1993)
『脳の情報表現』深井朋樹、加藤英之、北野勝則. Computer Today 2002年7月号、pp. 9-15(サイエンス社).
『脳内時計の神経機構』(岡本洋、深井朋樹. 別冊・数理科学2002年10月, pp. 51-59(サイエンス社).
ホームページ:http://brain.inf.eng.tamagawa.ac.jp/indexJ.html
○脳はどのように時間や記憶を情報表現しているのでしょうか。どんなものであるにせよ神経の発火パターンとして表現されているはずです。ではそれはどんなものなのでしょうか。どんな神経回路で実現されているのでしょうか。このような問題を「神経情報表現」と呼びます。この問題に対してモデルの立場から研究を行っている深井先生のお話をお届けします。(編集部)
…前号から続く (第17回)
■最近、社会に役に立つとかいうことがやたら叫ばれていて、僕なんか基礎研究だからそればっかりじゃ困るなっていう面もあるんだけど。工学系の学科にいるけど、モノ作るのは得意じゃない(笑)。 ○工学部の人なのに(笑)。
■分かるでしょ(笑)。僕は理学部出身だから。しかも素粒子物理(笑)。 ○はい。
■そういうことをちょっと考えてるんですけどね。 ○ああ、脳深部刺激術のことですね。
■うん。あれが結構効く場合があることは分かってるんだけど、でも、なんで効くのかさっぱりわからんという。 ○なるほど。劇的な効果ですもんね。
■うん、人によってものすごく劇的な効果が出るでしょう。僕もね、あれはびっくりしました。 ○うん、やっぱりそのへんは期待されてるんじゃないでしょうか。たとえば、てんかんなんかでも、なんで大発作が始まるのかといったことは分かってないわけでしょ。おまけに、発作が来そうだったけど来ないこともあると。それはやっぱりなんで?と思います。
■てんかんそのものを意識してるわけじゃないんだけど、そういう神経回路絡みの仕事も僕らはやってるんですよ。 ○へー。
■なぜこういう現象が起きるかというのは大脳皮質の回路構造の観点からけっこう面白い問題だと思っていて。 ○はい。
■それと、もうひとつは、そういう同期発火の伝達の背景には神経回路の構造が効いているはずなんだけれど、その構造っていうのはまだ良く分からないわけです。 ○ええ。
■ああ、そうか、先ほどのご質問の答えだけど、たったいま現在、いちばん精力的にやっているのは、こういった仕事かもしれない。大脳皮質の神経回路の動態を調べるために。 なぜアバランチというか、クリティカルな状況に回路が落ち着くのかを、生理学的な学習ルールとか、そういったものを入れて、シミュレーションとか理論的考察を行って理解しようと目論んでいます。
○どうして素粒子物理から脳の研究に移ったんですか。そもそもどうして素粒子物理だったんですか。 ■ああ、それはね(笑)。ひとつは素粒子は難しすぎて私にはわからんということがあるんだけど。もともと素粒子だったのはミーハーだったからかな。理論志向の物理の学生は素粒子をやりたがるんだよね。カッコ良さそうだし、物質世界の一番の基本を扱っているという思いもあるし。僕もご多分にもれず素粒子の研究室にいって、ドクターを取ったんだけど。 ○それで? ■素粒子って、数学のセオリーそのものって感じなんですよ。特にジオメトリかな。だから数学がすごく好きな人には、そこから世界が描けるんだろうけど、僕はそういうのあんまり好きでも得意でもなくて。世界が見えてこなかったわけ。僕はどっちかというとダイナミクスのほうが好きだということもある。時間が入っているような。 ○なるほど。 ■やってても、正直言ってぜんぜん興味がわかなくなって。実は博士課程の半ばくらいからね、自分でやってることに自分で興味がわかなくなってきてね(笑)。しょうがないから仕事しているサラリーマン状態みたいな感じ。企業戦士のレベルじゃない、窓際族といってもいい。 ○でもドクターは素粒子でお取りになったんですよね? ■ええ。早稲田なんですけどね。ドクターをとったあとも2年間は素粒子やってたんですけど。これじゃいかんだろうと。ヘタすると就職もできないかもしれないしね。 ○(笑)。 ■なによりも、やってて楽しくない。これはいよいよ駄目だと思った。実は高校時代から生物が好きだったんですよ。高校時代には生物をやりたかったんです。分子生物学。 ○ああそうか。先生方が高校生のときは分子生物学がちょうど華やかだった頃ですか。
■華やかになりはじめたころかな。DNAとか、ああいう話がね。とにかく遺伝子が生命の基本であると。遺伝子を自由に切ったり繋げたりして、機能分子を作るんだとか。大学の初等的な教科書とか買ってきて読んで「ようし、これにしよう」とか思っていたんだけど、友達にあるとき、「お前、物理が世の中の基本だよ」って言われてね(笑)。それでころっと変わって物理にいっちゃった。 ○なるほど。どういうきっかけで脳の研究に入ったんですか? ■僕はポスドクのときは、インドのタタっていう研究所にいたんですよ。 ○え、インドですか?
■うん、ちょっと変わってるでしょ(笑)。何しろいろいろあってさ、そこにいたんだけど。 ○ああ、なるほど。 ■当時は、インドを経由してアメリカへ行くとか、逆にアメリカからインドを経由してヨーロッパへ行く人とかもいたんですね。イギリス人なんかは、過去の偉大な時代に思いを馳せるのかもしれませんね。 ○ふむふむ。
■それであるとき、ニューラルネットの統計力学モデルをやってる人がやってきてね。それで連想記憶の講義をしたんです。はっきり言ってその講義自体はとんでもない−−準備も何にもしてない、しょうもない講義だったんだけど、ただ、そのアイデアにすごく惹かれてね。そのモデル自体は何年も前に出ていたんだけど、僕が知らなかっただけ。でもそれを聞いて、これは非常に面白いと思ったんですよね……。自分の今まで知っている物理の道から脳の問題へアプローチできるかもしれないと。 ○なるほど。
■ちょうど当時は物理、特に素粒子物理の未来が見えなかった時期でもあって、実験のほうがなかなか進まない。理論のほうも行き詰まっちゃった感じがする時代があったんですよね。夕方、若い人たちと集まってね、この先、素粒子物理が再び輝く時代なんてないんじゃないかという話も出ましたね。それで別の方向を探したいという感じはあったんですよね。 ○はい。
■だから世界的にちょっとそういう風潮があったんじゃないですかね。 ○どういう部分で? ■サーキットとか、大規模な集団の現象とか、そういった部分をやっていこうと思うと、物理学の力学の知識とか、手法とか活きてくるし、実験の人には思いつかない視点も提供できるとかね。 ○ポピュレーションで見ていこうとしたときに、それを丸ごと扱えるようなテクニック? ■そうですね。まあ単純に言っちゃえば色々な統計力学とか確率過程とかね。統計力学までいかなくても、さっきのべきルールとかでも、それがべきになるということが意味があるかどうかはわからなくても、それがたとえば臨界現象に結びついているとか、色々そういうことを知っていれば、じゃあ脳のなかでの意味はどうかということも問える。 ○なるほど。
■ニューロンのモデルを作ってね、それを繋げて同期現象を調べるときでも、使っているのは結局物理の手法なんですよね。 ○ふむ。
■本質的に重要だと思うのは、物理学って、学部時代にものすごく訓練される学科だと思うんですよね。演習を通して、いろんな幅広いところを。 ○なるほど。自明か。 ■口の悪い実験の先生なんかは、「自明な理論が多いからね」と言ったりしてね。 ○ん? ■やらなくても結果が分かってると。確かにそういう批判を受ける理論もあるけども、そういうところからは物理を知っているおかげで、わりと遠ざかっていられる(笑)。 ○なるほど分かりました(笑)。 ■ただ物理をやっていたことのマイナス面もないわけじゃない。それは論文の書き方。 ○どういうことですか?
■物理には頭の良い人が多いためか−−というよりも数式がやりたいことを語ってくれるからというほうが適切かもしれないけど、読んで分からないのは読者のせいと決めつけるところがある。論文を巧く書く努力が払われない。結果、分かりにくくなる。 ○ああ、なんとなく分かります。 ■何か話がすごいばらばらになっちゃって、非常に申し訳なかったな(笑)。
○いえいえ。こちらこそ興味の赴くままに質問してしまいまして。
【2004/11/10 玉川大学工学部にて】 | 深井氏インタビューindexへ | Interview Mailへ | |
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