96年8月SF Book Review


今月、書評の量が少ないのは、単純に読書量が少ないから。
私は通勤電車の中で本を読んでいるので、職場に通勤しないと読書量が減るのだ(笑)。

CONTENTS



  • 星海への跳躍 上・下
    (ケヴィン・J・アンダースン&ダグ・ビースン著、早川書房、各660円)
  • 当たりだった。

    つまらない映画のさらにつまらないノヴェライズのようだった「無限アセンブラ」のペアの初共作小説。買うかどうか「うーん」と悩んだのだが、購入。

    買って良かった。あまり期待してなかったのだが、これはかなりイケますよ。アイデアは普通なのだが、良いです。私が好きなタイプのSF。

    舞台はスペースコロニー・月面基地など、地球近傍の宇宙開発前線基地。地球で全面核戦争が勃発、突如、彼らは宇宙に取り残される。L4、L5、月、それぞれのコロニーの住人達は、それぞれの方法で生き延びる道を模索する。遺伝子工学で運良く開発されていた無重力に適応したケルプを使ったり、火星探査用の代謝低下薬と冷凍睡眠を使ったり、あるいはエアロックから人間を放り出して人口を強制的に削減したり…。
    お互い孤立無援となった各コロニー。彼らに生き延びる道はあるのか?
    というお話。

    それぞれの登場人物もステロタイプではあるが、十分「立って」いて、なかなか魅力的。主人公はフィリピンのコロニー(この辺、面白い)の少年。彼はまさに主人公らしく宇宙を駆け回り存分に活躍する。その辺は読んでのお楽しみ。それぞれ各シーンが「絵になる」ように書かれている。宇宙を帆走する生物とか、SFガジェットもツボを押さえたのが登場。

    無限アセンブラと同じく、おーい、そりゃないだろ、というところもちょっとあるけど、全体としては「いかにもSF」に仕上がっている。これなら十分合格。


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  • 死の姉妹
    (グリーンバーグ&ハムリー編、扶桑社ミステリー、700円)
  • ホラー、SF、ファンタジー界、14人の作家達の「女性吸血鬼」作品集。どれもそれぞれ作風が全く違ってバラティーに富んでいる。なお、収録作家名は以下の通り。

    • M・ジョン・ハリスン
    • ダイアナ・L・パクスン
    • バーバラ・ハムリー
    • スティーブ&メラニー・テム
    • デボラ・ウィーラー
    • ディーン・ウェズリー・スミス
    • タニス・リー
    • パット・キャディガン
    • マイケル・クーランド
    • クリスティン・キャスリン・ラッシュ
    • ジョージ・アレック・エフィンジャー
    • ニーナ・キリキ・ホフマン
    • ラリイ・ニーヴン
    • ジェイン・ヨーレン

    もともとホラーも私の守備範囲だが(怪奇小説という言い方の方が好きだけど)、「SF書評」ページでこの本を紹介するのは、SF作家が書いた「SF」も入っているから。
    エフィンジャーが書いているのはブーダイーンを舞台にした「マリードもの」だし(デキは「いつもの」程度)、ニーヴンが寄せているのはなんとリングワールド・シリーズの長編の冒頭4章分。主人公はヴァラヴァージリン。いつものことで、書き始めると長編になってしまったらしい。

    というわけで、SFファンも「買い」の吸血鬼短編集なのだ。


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  • 吸血鬼エフェメラ
    大原まり子、早川書房、560円)
  • 吸血鬼ものが続くが、文庫化されたので購入。

    舞台は未来、主人公は吸血鬼(当たり前か)。連作短編集形式。進化の物語。これだけ言えば、大体、どういう話かは見当がつくだろう。
    いつも通り、というか、はずれはない。

    この人の書く物語は、綺麗だ。
    危うい感じ、っていうのか、日本刀の刃先に、触ると切れる、切れると血が溢れる、さらには指が落ちる、それが分かっているのに止められない、そんなやばさというか、美しさがある。真っ赤な部屋にずっといると気が狂ってしまうというが、それが分かっていても入ってしまうような、そんな感じ。

    なぜか、小さいときに、オタマジャクシを指でつぶしてしまった時の事を思い出した。

    そういうリキのいれ方が嫌いな人は読まない方がいいし、好きな人はそこが好きなんだな。
    僕は好き。


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  • 重力の影
    (ジョン・クレイマー著 小隅黎・小木曽絢子訳、早川書房、780円)
  • 原題は'Twistor'。まあ、今このタイトルは使えないだろうな。
    あらすじ紹介は省略。ただし、例によってカバーに書いてある粗筋はあてにならないので注意すること。

    最近のハードSFには、はじめちょろちょろ・半ばもちょろちょろ・最後で際限なくでかいスケールの話、という双曲線型の展開パターンが多いような気がするが、この本も例外ではなく、そういうタイプ。もっとも、本書が書かれたのは結構前なのだけど。

    前半はたるい。構成も、あまり感心しない。一方、後半はそれなりに盛り上がる。全体としては悪くない。エンターテイメントしている。ただ、キャラクターがあまりに書けてない(というか、様々な登場人物が大切にされていない気がする)。その点が気になった。特に、あの"ペット"はどうなったんだ?そういう細かい所が妙に気になってしまう。

    次作は、その辺が改善されていることを望む。


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  • 母なる地球 アシモフ初期作品集3
    (アイザック・アシモフ著 冬川亘・他訳、早川書房、660円)
  • アシモフ初期作品集、最終巻。

    素人くさい作品が多かった前巻・前々巻は随分と作家志望の若者の気持ちを安らげたろうが、本巻収録作品になると、まとまってきている気がする。でも、あまり面白くないな〜。

    ぱっとしない。


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