舞台は(おそらく)近未来の東京。元ゴミ埋め立て地を再開発してニュータウンにしようとした計画は地盤沈下と地震と共に崩れさった。やがて廃虚と化したその島は、ジャンキーの子ども達が集う場となり、<ネバーランド>と呼ばれるようになった。
島の住人達は皆18才以下の子ども達。24時間常に、静脈に繋いだ装置からドラッグ──向精神薬──を摂取し続けている。その為、彼らの知覚世界はドラッグによる主観と客観が入り交じる、奇妙な、夢と現実が交叉する世界になった。
彼らの戦闘では「言葉」が大きな意味を持つ。言葉次第で、相手をバッドトリップさせ、主観を歪めて死に至らしめることもできる。また、精神を破壊し、そこに自分の意識を刷り込む事もできる。彼ら同士で「同調」してドラッグによる世界を共有することもできる。
彼らは、自らの事を<マウス>と呼んだ。薬づけの、実験動物<マウス>。「通常」知覚する現実と、クスリによって生み出される現実、主観では両者の区別ができなくなるほどクスリに浸った子ども達。
こういう言い方が許されるかどうか知らないが、クスリ版「魔界都市<新宿>」、それが<ネバーランド>であり、本書だ。もちろん主題は違う。最初は似たようなものかとも思ったんだけど。やっぱり、ドラッグ小説なんだよね。歪む現実、溢れ出る幻想、沸き返る夢、崩壊する感覚、弾け飛ぶ体、歩き出す時間、聴覚が視覚に、視覚が触覚に、触覚が味覚になる…。そんな感覚に、知らず知らず飲み込まれてしまった。
あるいは、幻想小説か。ラストシーンはゴヤの絵画か、C・A・スミスを思わせる。楽しい。
連作短編集。5編収録されている。94年、95年とSFマガジンに掲載されたもの。私は2作目が好き。1作目の方が評価は高かったそうだけど。この本とかと一緒に読んで欲しいな、と思った。
どの短編も、読後に衝撃、あるいは、長い長い余韻を引き起こす。
カタルシスの美学というか、静かに崩れ落ちる廃虚の美しさ、あるいは新世界への産声、または変容の時代そのもの、が各作品からこぼれ出してくるようだ。作家達の声にならない声、と言おうか…。朽ち果てていく物体が好きな人たちには、きっと本書は面白いと思う。
何言ってんだか分かんないね。
とにかく、変容と破壊と創造の表現手段としてのSF、鮮烈なイメージを投射する装置としてのSF、思弁小説としてのSFなどなどの内、「世紀末」的な雰囲気漂うお話がいくつか集められているわけだ。
まあ、読んで読んで。お勧めする。昔あった「コピーのmita」だったっけ、あのCMが好きだった人には特にお勧め。
全てが崩れていく世紀末、未来、あるいは仮想舞台を描きつつ「現代小説」となったSFを読んでみてください>あまりSFを読まない方々。変わっていく「何か」を描くツールと視点がここにある。
収録されている作家群を紹介する。
ウィリアム・ギブスン、ブルース・スターリング、パット・マーフィー、マシュー・ディケンズ、イアン・クリアーノ&ヒラリー・ウィースナー、オースン・スコット・カード、F・M・バズビー、ストーム・コンスタンティン、エリザベス・ハンド、J・G・バラードの10人。
ハードSFや古典的なSFも良いけど、こういうSFもやっぱり良いなあ。<ジャンクアート>ならぬ、ただの屑も多いジャンルだけど、この短編集は安心して読めた。
でも、やっぱり2500円は高いよ。
ようやくハードカバーから文庫に落ちてくれた、'90年のブリンの大作。
地球環境問題を真正面から取り上げながら、マイクロブラックホールや宇宙ひも、あげくの果てには…まで登場する"ハード"SFであり、また、ネットワークの未来を描いた小説でもある。しかも、読了すれば分かるが「超正当派」のSFでもある。
いやあ「大作」という言葉はこういう本のためにあるんだろうな。
邦題から分かるようにこの本の重要な軸は、ガイア仮説。誤解されやすいガイア仮説だが、この本はさすがにその辺しっかりしている。一つ本書から引用する。
「生物学者にとって"ガイア"とは、惑星の生態系バランスとフィードバック・ループに他ならない。だが敬虔な神秘主義者にとって、それは生きている女神を意味している」
これは、今の<ガイア仮説>を取り巻く現状だ。
地球の恒常性(表面温度、海洋の酸性度や成分、大気組成などなどの安定性)が、様々な無機的環境(気圏、水圏、岩石圏、プレートテクトニクスなどの活動や太陽の出力の変動も含む)と有機的環境(生物の活動)との相互作用によるフィードバック・ループによって維持されている、とするのがガイア仮説である。
しかしながら、提唱者ラブロックが最初の著作の中で色々と詩的な表現を使ったために、多くの人に誤解され今に至っている。つまり「地球は生きている」という奴だ。たしかに<システムとしての地球>が「生きている」のは間違いない。しかし、比喩ではなく、本当に地球が生きているかどうか、私は知らないし、知ったことでもないが、ガイア仮説の本質は上記の様な面にある。
しかし、これだけいろんな人に、好き勝手に解釈されている説も珍しい。それだけ、いろんな人たちにアピールする名前だったという事だろう。
どうでも良いことを書きすぎて、あらすじを書くスペースがなくなってしまった。
本書の舞台は近未来。環境の破壊と温室効果が進み、地表は紫外線に晒され、生物は次々に絶滅し、砂漠拡大が進んでいる。遺伝子工学はさらに進み、ナノテクノロジーや"量子工学"まで一部実現しているが、人類と地球を救うには至っていない。かといって、地球を救える種が他にいるわけでもない。ガイア仮説はさらに「発展」し、宗教として扱っている者達までいる。
そんな時、ある物理学者がマイクロブラックホールを「落として」しまった!環境問題どころではない、このままでは地球はブラックホールに飲み込まれてしまう。運良く、そのブラックホールは間もなく無事蒸発すると分かった。
ところが軌道解析の結果、「もう一つブラックホールが存在する」と判明。しかも、そちらのブラックホールは蒸発しない!何とかしてこのブラックホールを地球の中から叩き出さなければ…。
そして、一体誰がどうやって、そんなものを作ったのか…?さらに…?
これ以上書くとネタばらしになってしまう。断っておくが、本書の内容は、こんな薄っぺらではない。ラスト200ページの急展開に、目をむくかも。著者自身による長いあとがきもついていて、こちらも面白く読めた。
とにかく面白い。いろんな意味で「地球全体」を取り上げた小説なので、「ガイア」という邦題より、原題のEARTHの方が合っていると思う。是非読んで欲しい。