ワイアード7月号(3.07号「情報サブウェイ」)
掲載書評 『新科学対話』
計算機屋は、何処にアイデンティティを求めるか?
「月刊アスキー」に連載されていた対話集である。相手は、養老孟司、中村桂子、本川達雄、北野宏明、岩井克人、多田富雄、金子邦彦、甘利俊一、水越伸、石黒一憲、黒崎政男、大澤真幸の12人。「科学の現在の最先端を、計算機屋の視点で串ざしにできまいかと試みたもの」である、というのが著者の弁。それが実現できているかどうかはやや疑問なのだが(特に生物系相手だと完全に引けてしまっている。もっと計算機屋の視点で突っ込んで欲しかった)、「コンピュータには、いまや竹串の資格がある」という主張には同感。いまやコンピュータのお世話になっていない・影響を受けていない分野は存在しないだろう。今世紀、これほどまでに学問史に大きな影響を与えた道具は、他にない。そして「情報」なる言葉は氾濫を続ける。
「コンピュータの専門家の中に自分たちのアイデンティティをどういう言葉で表現するかについて悩んでいる人たちがいる」という。「計算」や「情報」と言っても、それが空虚に聞こえる、ということなのだろう。純粋に情報であるだけの情報などは存在しない。必ずメディア上にのっている。計算も同様だ。で、アイデンティティをそのメディアに求めたりする。メディアの名前を頭に着けて、新しい科学としたりする。
対話集というには弱いが「100読は1談に如かず(著者)」ということもある。対談という表現の場合、思考のエッセンスだけが抽出されて出てくるからだ。肝心の著者の立場が今一つ見えてこないのが残念だが、コンピュータ科学・情報科学は現在、どこに両手両足を置こうとしているのか、あるいは、「我々は」どこに立脚点を求めるのか、それを考える一助になるだろう。結局、「個々人の人間的作業の集積」が、将来のメディア・ネットワークを支えるのだから。
words 森山和道
新科学対話
アスキー出版局
著:竹内郁雄
2200円(本体)
ISBN4-7561-1982-4
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