ワイアード5月号(3.05号「情報サブウェイ」)
掲載書評 『インターネットはからっぽの洞窟』
コンピュータ・ネットワークは「シリコンいかさま万能薬」?
デジタル・ホームレスを大量に生み出しつつある今のコンピュータカルチャーは、間違いなく排他的である。自助努力しない連中なんか知ったことか、勝手にしやがれ、といった意見も分からなくはないが、排除されていく人々はどうなるのだろう?しかもその多くは、自分が排除されつつあることにさえ、気付いていない。
本書は「カッコウはコンピュータに卵を産む」の著者による、ネットやコンピュータを万能薬のように奉る風潮への痛烈な批判である。文章は単刀直入。だが読後の反応は、苦笑、怒り、爆笑など、様々だろう。
著者は、ネットは全くの役立たずだ、と言っているわけではない。ネットは大きな可能性を持っている。だが「可能性がある」と「実現している」はイコールではない。希望的憶測はあるが、実現する確証はない。ネットの情報は無料かもしれないが有用とは限らないし、ネットにアクセスするためのインフラの寿命は短く、コストもかかる。フレーミングは「なんだか高速道路でよく見かける、相手のマナー違反をののしり合っているドライバー達によく似ている」。とにかく、ネットに過大な期待はしないことだ。
著者が批判しているのは、コンピュータ教条主義である。「いながらにして必要な情報が入手可能」だとか「これは新時代の幕開けだ」だとか、そういった類の文句を聞いたことがあるだろう。そんなに簡単に世界が変わってしまうわけはないのだ、実際は。しかし中には真に受けてしまう人もいる。
希望に向けて夢を掲げ邁進するのは良い。だが現実を棚に上げバラ色の錯覚だけを売り込む輩、ネットの上での狂乱ぶりを、著者はなで斬りにする。それは、この手の意見がまかり通り過ぎると逆にネットは社会基盤として発展し得なくなる、と考えているからだろう。なんでもかんでもネットでやろうとする類の人種は私の周囲にもいるし、過剰な期待はユーザーの「甘え」にも繋がる。今年は、冷めた目で状況の見直しを提案する本書のような存在も必要だし、おそらくこの種の反省論が逆に蔓延することだろう。
ただ、あんまり、やりすぎないようにね。
words 森山和道
クリフォード・ストール
URL:http://www.ocf.berkeley.edu/~stoll/
インターネットはからっぽの洞窟
原題:SILICON SNAKE OIL, Second Thoughts on the Information Highway, 1995
草思社
著:クリフォード・ストール
訳:倉骨彰
2266円(税込)
ISBN4-7942-0743-3
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