主題は本文から引用すると、
「(不思議の国の)アリスならばこう言うだろう。『あなたなんてただのニューロンの塊にすぎないわ』」
(同様の文章は本書内にもあるが、これは「世界の知性 科学を語る」日経サイエンス社 からの引用)。
という事になる。つまり「全ての心の働きは、膨大な数のニューロンの相互作用と、それにかかわる分子のふるまいに過ぎない」という仮説だ。
「何だ当たり前じゃないか」と思うかもしれない。クリックは「そういう人は私の仮説の真の意味が分かっていない」と語る。「こころ」の振る舞いの「すべて」がニューロンの発火「のみ」によって起こっているんだぞ、と強調する。
主題は上記の通りなのだが、本文の内容を完全に理解することはなかなか難しい。
本書のカバーしている範囲は非常に広い。読みこなすには脳の構造、視覚・認知、AI研究の知識などが最低限必要である。それらの参考資料を読んでからトライする方が良い。本書を主に視覚認知の研究から「意識」の問題を扱っているからだ。その方がより楽しめる。
もっとも、脳に障害を受けた人が自分の足を他人の足と勘違いして放り出してベッドから落ちてしまった話など、様々な症例も紹介されており、難しいところをさっ引いて読んでも、かなり面白いと思う。
彼の考えには納得できない、という人もいるだろうし、一般科学啓蒙書としては難しめだが、読む価値は高い。おすすめ。<前書き>は余分だと思うが。
タイトルだけ見ると、よくある「情報整理もの」に思えるが、そういう本ではない。<ハイパーテキスト・コンテンツ>を制作する上での<ノウハウと哲学>について書かれた本である。
ハイパーテキストを書いていると、程なく諸々の問題に突き当たる。ウェブサイトをお作りの皆様なら、おそらく自分の身で体験済みだろう。スマートかつ中身のしっかりしたハイパーテキストを書くことは難しい。
たとえハイパーテキストを書かない人でも「ネットの中の迷子」体験はあるだろう。「本当に欲している情報は何か」どころか「情報世界のどこに自分がいるのか」さえ見失ってしまう事がある。
著者はこれらハイパーテキストの抱える問題点を一つ一つを明らかにし、解決法を示す。本文は端的で明瞭である。どのページを開いても、イラストとテキスト双方によって内容がぱっと頭に入るようになっている。本全体が「ハイパーテキストかくあるべし」という著者の哲学で貫き通されている。
91年に初版、今年新装第1版という形で出版された本だが、内容は古びていない。
全てのコンテンツ制作者にお勧めするが、「ハイパーテキストとは何か」ということを、Web初心者やクライアントに説明するのにも最適の参考書だと思う。やはり紙の本は最高のハイパーテキストかもしれない。
なお「視覚」についての学習には周辺分野の知識が必要だが、本文中には適切かつ簡単に入手できる「参考書」が紹介されている。著者のこういう気配りが嬉しい。
上述「DNAに魂はあるか」を読む前の参考書としてもおすすめする。
蜜蜂が紫外線を見ることができ、蜜の場所を見つけることはよく知られている。が、普通の本ではその能力の紹介だけに留まり、「実際にその能力を使って蜜蜂がどのような世界像を知覚しているか」までは触れてくれない事が多い。そこでは「蜜蜂には紫外線が『何色に』見えているか」という問題は無視されている。
しかし、本書は違う。ある程度科学的な根拠に基づいて、蜜蜂の感覚に迫ることが可能であるとし、実際に推測してくれる。例えば蜜蜂の例では、著者によれば、紫外線を「赤」として捉えている可能性が最も高いらしい。その根拠について知りたい人は本書を読むように。
その他にも、昆虫、タコ、フクロウ、イルカなどなど、様々な動物の知覚も紹介され、それぞれの動物が持つ体内時間まで考慮して、それぞれの動物が描いているだろう世界像について述べられている。
我々人間の持っている世界像──それは各感覚器官で得られた情報を、脳で再構築しているものなわけだが、それが必ずしも他の動物が知覚している「現実」像と一致しないかもしれないことを教えてくれる本である。面白い。
なお、本書は草思社からの新しいポピュラーサイエンスシリーズ「サイエンス・マスターズ」全22巻の第一巻として刊行されている。このあとも、期待せずにはいられない凄い著者たちが続々と控えている。本書は外れたが、今後に大期待。
その著者の一人にスティーブン・グールドも含まれているのが面白い。グールドとドーキンスは進化論の考え方で真っ向からぶつかっており、さらに面白いことに、私の周囲の科学書読みでもドーキンスが好きな人はグールドが嫌い、グールドが好きな人はドーキンスが嫌いなようだ。本書でもドーキンスは(はっきり言っているわけではないが)グールドの「ワンダフル・ライフ」を槍玉に挙げ、切って捨てている。グールドからの反論を期待してしまう。
こういう手の本は現在の科学の状況を概観するのに便利だし、読んでいても楽しい。一文一文は5,6ページと短い。扱っているジャンルはありとあらゆるジャンルにわたる。本当は目次を転記したいが。
巻末に「日経サイエンス」編集長の<あとがき>があり、翻訳題を「科学が輝くとき」とした理由が書いてある。引用する。
「これまでの150年間を見ると、科学技術が”輝いた”ことが何度もあった。これからもそうした時があるだろうし、また、あってほしい」
「同感だ」と感じたあなたには本書をお買い求めになるようお勧めする。
語られる内容は、分子レベル・形態面の両面から見た発生・進化、細胞内タンパク質
、細胞内のナノマシンなどなど、多岐にわたるが「分子レベルでの発生学」に関する話が多い。
また、カンブリアビックバンやエディアカラ動物群についてのコンウェイ・モリスの論文も掲載されている。
「現代思想」は(私の解釈に寄れば)科学によって得られた新知見が思想にどのように影響をもたらすか、という雑誌なので、当然内容は哲学的な面を多々含んでいるが、結構新しい話も盛り込まれているので純粋科学ファンが読んでも今月号は十分面白いと思う。
舞台はNIHをはじめとするアメリカの最先端サイエンスの場。登場人物は数十数百人の科学者達。主人公は世界初の遺伝子治療を成功させた、フレンチ・アンダースン。
遺伝子治療がいかにして「たわごと」から「科学」になったのか。今世紀はじめにDNAが遺伝子であることが発見されて以来続けられてきた基礎研究の数々。明かされていく生物のしくみ。遺伝病との闘い。科学者達の信念、好奇心、野心、激烈な競争、あせり、繰り返される試行、その結果起こった勇み足と挫折、そして栄光…。
科学的なバックボーンがなくても本文中に詳細かつ明解な解説があるので、十分読めると思う。同じ説明が繰り返し出てくるので、本書はおそらく新聞か何かに連載されていたのをまとめたものだろう。
監訳者も<あとがき>で書いているが、今年8月に日本でも行われた遺伝子治療は、一般のレベルではあまり議論されることもなく(結構)すんなりと始まった。
科学の発達によって病苦に苦しむ人々を救えるようになるのは素晴らしいことだ。遺伝子治療についてはまだ議論があるが、本書の登場人物の一人が語るように、治療法があるのに試さないのは逆に医療倫理にもとる行為だろう。また、現在は体細胞の遺伝子組み換えのみが行われている。組み替えられたDNAが次代に伝わることはない。
しかし今後、どのように遺伝子組み替え技術が展開・発展していくのかは分からない。また、人間が自分自身の遺伝的多様性に手を出せるのか、という問題は解けていない。
これらを見極めるために最低限必要な知識を得たい人、「遺伝子治療」について一通り知りたい人、そして、ドキュメンタリーが好きな人にお勧めする。
しかし、生物というのは本当によくできているなあ、と本書を読んで感じた。
もっとも内容も、科学が好きな人ならどこかで聞いたことのあるような話。それもそのはずで、93年8月から94年9月まで、新聞に連載された内容に大幅加筆したものだそうだ。著者は共同通信社社会部のデスク。
遺伝子による病気、ゲノムプロジェクトの話、ミトコンドリア・イブなど進化と遺伝子の話、遺伝子治療、いわゆる遺伝の話、老化と寿命について、DNA鑑定について、粗動植物への遺伝子工学の導入など、多方面にわたった内容。
おもに日本の研究者へのインタビューをもとにして書かれている。具体的に日本の研究者がどこで何をしているのかを知りたい人には役に立つかも知れない。
ただし、そういう目的で本書を読むのは大変。いい加減な索引しかついていないので、丹念にメモを取っていく必要がある。しっかりした索引が欲しかった。
また、本文中の表現に(「新聞」というかなり広い範囲を読み手とした書き方のせいだろうが)「???」と思われるところがある。内容的にも(今となっては)それほどパッとした話はない。また、いろんな話を扱い過ぎているきらいがあり、本全体が散漫な印象を受ける。しかたないけど。
本書でもっとも面白かったのは最後の「植物の遺伝子技術」についての項。あまり触れられる事のない、花の色を変えようとしている研究者の話などが掲載されている。
前半はごく普通の宇宙論の本だが、説明は様々な比喩を用いて行われ、表現も易しいので理解しやすい。この点だけでも十分高い評価を与えられる。
そして後半。宇宙が膨張し続けた場合、あるいは逆にビッグクランチを迎えた場合、それぞれ宇宙の終末はどうなるのか語られるのだが、ユニークな点はフリーマン・ダイソンやフランク・ティプラーの考え方さえも織りまぜつつ、宇宙終末時の知的存在の運命について考察している点。
つまり宇宙と共に知的存在も滅びるのか、それとも何らかの方法で宇宙終末を回避しうるのか、そして「宇宙になんらかの目的があるのか」といった哲学的な命題にまで触れられる。
著者は、かなり異端とされている考え方にも「たわごと」としながらきちんと検証を与えている。こういう本は他にあまり類を見ないので非常に貴重であるし、読んでいて楽しい。
誰かはやくティプラーの「Physics of Immortality(『宇宙が終末を迎えた折りに生命は全て復活できる事を証明した』と語っている本)」を訳してくれないかなー、(私は途中で挫折して今日に至っている)と思いつつ読んだ。
(この本は95年11月6日に第一刷が出されているが、12月14日にすでに第三刷が出ている。売れているらしい)