Popular Science Node 1999/08/10 Vol.008 |
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◆CONTENTS: |
[Digest]
◇科学関連ニュースいろいろ
[Guest Column]
生存競争と化学反応(by 田口善弘)
オヴィラプトロサウルス類の復元画制作プロセスについて(by 小田隆)
[Website]
NECコンセンサス
[from editor's diary] 編集人のウェブ日記から
[Digest]
◇科学関連ニュースいろいろ |
やはり「node」というコンセプトからすると、もっともっとURLを紹介すべきではなかろうか、と考え、編集人のウェブ日記などから適当にURLを紹介し、ダイジェストのニュースとします。実際にはニュースでもなんでもないのですが、便宜上「ニュース」としておきます。
▼環境goo
http://eco.wnn.or.jp/
◇生存競争と化学反応(by 田口善弘) |
田口善弘さんのサイエンスコラムです。本誌連載第5回目。
わたしは物理学科の教員、しかも理論寄り(と言っても計算機が主ですが)なので数学的なことをやっていることが多い。実際、講義でも数学をやっていることが多い。大体、物理学科の新入生が最初に言う苦情は「数学ばっかりでおもしろくない」というものである。
そう、数学はどうもつまらないと感じる人が多いみたいだ。でも、一方で僕は数学的なことをやっていることが多い。この連載でも、だから、数学を使って良ければいくらでも書くことはあるのだが、それじゃあ、誰も読んでくれないだろう。
しかし、今日はちょっと頑張って数学っぽい話もしてみよう。物理学では、現象を数学に置き換えて議論することが多い。実際に、数学に置き換えてみると全く違うように思える現象が同じ様な数式で表されることが良くある。今回のタイトルもそういう話だ。生存競争と化学反応は同じような式で表現できる。
まず、生存競争。
Aという動物とBという動物がいるとする。BはAを食べて生きている。AはDという食物を食べて生きているが、このDという食物は無尽蔵にある。この条件下では、BがいなければAはネズミ算式にどんどん数が増えていく。一方、BはAがいなければ、どんどん死んで行き、最後はいなくなる。
これはごく普通の生存競争だろう。この場合、典型的にはAとBの数は交互に増えたり減ったりすることである。まず、Aが増える。するとBが増える。Bが増えると、Aは食べられて数が減る。すると食物がなくなり、Bが減る。こんどはBが減るのでAは食べられなくなってAの数が増える....、というくりかえしになる。こういうことはよく知られている。
一方、こんな化学反応を考えよう。
Aという化学物質とBという化学物質がある。BはAと反応するとAをBに変える(つまり、A 1グラムとB 1グラムから、2グラムのBができる)。Aは無尽蔵にある物質Dと反応してDをAに変えることが出来る(つまり、A 1グラムとD 1グラムから、2グラムのAができる)。Bという物質は自然に崩壊してなくなってしまう。
数式で書いてみると、この化学反応と生存競争はほとんど同じ式になってしまう。つまり、化学反応と生存競争は実は同じ事だったりする。逆に言うと、こういう化学反応を起こさせるとAという物質の割合とBの物質の割合が交互に増えたり減ったりする、ということになる。
こんなことは大昔から知られていたが、なぜが、化学反応ではこういうことは起きない、と信じられていた。化学反応をさせれば一瞬にして反応は終ってしまい、Aという物質の割合とBの物質の割合が交互に増えたり減ったりする、などという複雑なことは起きない、となぜか信じられていた。
実際、こういう変わった化学反応を最初に見出したベローゾフという人の研究は無視されてしまった。いまでは勿論、化学反応でこういうことが起きる、ということはよく知られている。それどころか、研究者によってはこういうのが生命のリズムの起源だ、と思っている人もいるみたいだ。Aという物質の割合とBの物質の割合が交互に増えたり減ったりする、という運動には一定のリズムがあり、かなり正確な時計の様に見えるからだ。
いまのところはこんなの夢想に過ぎないけれど、いつか、本当のことが解明される日が来るかも知れない。
関連リンク:
▼B-Z反応
http://tran.chme.kobe-u.ac.jp/study/bz/bz.html
▼ベローゾフサボチンスキーのリズム反応
http://www3.justnet.ne.jp/~konan/waku/a-0706.htm
▼非線形化学システム
http://www.nimc.go.jp/overview/v16-j.html
▼種間競争方程式
http://www.biology.tohoku.ac.jp/graduate/exam98/biology98/b98-18.html
田口善弘(たぐち よしひろ) 中央大学理工学部物理学科/理工学研究所
http://www.granular.com/tag/index-j.html
[Guest Column2]
◇オヴィラプトロサウルス類の復元画制作プロセスについて(by 小田隆) |
古生物の復元画製作などに携わっていらっしゃる小田隆さんにご寄稿頂きました。残念ながら肝心の復元画はウェブなどでは見られないとのことなので、やや分かりにくいとは思いますが、古生物の復元を行い、それをイラストに起こしていくという作業の一端を覗いてみたいと思います。
1.まずこの化石が何の種類なのか、同定することが重要です。
この点については、研究にあたる古生物学者が責任を負います。
このプロセスについてはここでは割愛します。
2.生物の同定ができたところで、参考になる文献、資料等を研究者と相談しながら揃えます。最後まで重要になるのは、研究者との関係です。常に密接にコミュニケーションをとりながら、作業を進めていきます。
3.今回の化石がオヴィラプトロサウルス類と同定されたことで、参考にしたのはモンゴルのオヴィラプトルと、北米のミクロベナトールです。モンゴルのオヴィラプトルは全身の骨格が知られています。ミクロベナトールはより不完全ですが、上腕骨、骨盤、大腿骨などプロポーションを決定するのに、手がかりとなる部位が発見されています。
また、白峰のものと時代、大きさが近いことも重要な点です。
4.白峰の標本の大きさを正確に測ります。そして、オヴィラプトルの骨格図(この場合は前肢)を、白峰の標本とおなじサイズで図示します。
この作業で前肢のサイズをもとに、全身のサイズを割り出すことができます。これによって偶然ですが、ミクロベナトールとサイズがほとんど同じであることが分かりました。尺骨の長さがほぼ同じだったのです。
5.これらの推定に基づいて、全身の骨格図を描きます。この時点でも研究者と議論を重ねます。そして、指摘のあった点を修正していきます。
また、研究者も復元がすすむに従って、イメージが固まってくるので、より突っ込んだやり取りが行われるようになります。
6.次に決定するのは、復元画のなかでの恐竜のポーズです。今回は末節骨の特長が分かりやすいアングルを選びました。絵の中にデッサンしていくときにも、各骨のプロポーションを測りながら描いていきます。
7.この骨格に筋肉、皮膚をつけるのですが、ここでは解剖学的経験が必要になります。
この点は、まだまだ至らないところが多いのですが、美術解剖学(人体について)の経験がいかされています。注意しなくてはいけないのは、筋肉の形態にとらわれる前に、その筋肉が骨のどこに付着し、どの関節を、どの方向に動かすために作用するのかを、理解する必要があるということです。
ただし、恐竜の場合は現生の動物で比較できる生物が、ほとんどいません。後肢は鳥と比較することが可能と思われますが、前肢については現生の動物ではみられない機能を持っているため、推測の部分が多くなります。
8.今回の復元画の体毛については、小型であるため体温調節に必要であったのではないかということと、鳥との類縁関係が認められるという点から、羽毛としては不完全であるが、羽毛につながる機能を持った体毛を想定してイメージしました。
9.色の決定については、もっとも一般の方から質問が多いのですが、確証を得ることは不可能であることを分かって下さい。
まず、消去法でいきます。自然界にありえない色は省かれます。その生物が補食者なのか被補食者なのか。群れで行動するのか、単独で行動するのか。生息環境はどんな場所であったのか。という条件を並べていって、大体このような色ではなかったのだろうかと、推定します。
当時の白峰村の生息環境は、桂化木の林が立ち並び、地面は湿地でシダやトクサが生い茂っており、イチョウなどもふつうにみられました。
からだの小さな恐竜が目立たず行動するには、地味な色が良いのではと褐色の、とても平凡な色を選択しました。
実を言うと、色を決定するのはもっとも憂鬱な作業のひとつです。
10.そして完成へといたります。大形の爬虫類が動き出すにはまだ早い、朝靄のなかを動き回る瞬間を絵にしてみました。
今回はプレスリリース用の復元であったため、アーティストが自由に構図を決めるわけにはいきませんでした。でも、標本が小さく少なかったわりには、参考にできる良質な資料が揃っていたため、比較的満足のいく復元が出来たと思います。研究者の方にも喜んでいただけました。
もっとも難しいのは、生きていた姿をリアルに感じてもらえるように表現することです。化石ははるか昔の生物の遺骸ですが、その生物が生命を謳歌していた明確な証拠でもあるのです。
復元の仕事で一番重要なのは、研究者とのコミュニケーションと絶えまなく好奇心を持ちつづけることだと思います。
小田 隆(おだ・たかし) d-oda@mx2.nisiq.net
略歴:1969年三重県に生まれる。東京芸術大学大学院修了。 1996年に恐竜化石の組み立て、レプリカ制作に携わったことから、古生物の復元アートの制作を始める。 代表的な仕事に、岐阜県荘川村、石川県白峰村での復元画制作。 佐賀県立宇宙科学館の「タイムトンネル壁画」の原画制作。 フリーの画家、イラストレーター。
◇Website |
この欄では、私が時折訪問するウェブサイト、ポピュラーサイエンスという面でも優れた内容を持つウェブサイトを勝手に紹介する。
日本語で書かれたポピュラーサイエンスのサイトは確かに数少ない。
だが、数少ないなりにはあるのだ。
◇from editor's diary http://www.moriyama.com/diary/ |
編集人のウェブ日記から、ある一日を適当に抜粋します。
99.08.04http://www.moriyama.com/diary/1999/diary.99.08.htm#diary.99.08.04 より
▼先日の宇宙研公開のときに延々僕が質問していたのはこの方。寺薗淳也さんのウェブサイト(http://planeta.sci.isas.ac.jp/~terakin/)。月震の部屋(http://planeta.sci.isas.ac.jp/~terakin/mq/welcome.html)などがあります。
▼ETV特集『コンピュータは将棋を超えられるか』。例によって松原仁氏が出演。将棋だと持ち駒の再利用や盤面が広いことその他もろもろのルールによって計算時間の爆発が起こるから、今の手法(すなわち手の先読み)のままでは多分人間には勝てない、というのが「一般的見解」だと思う。だが詰め将棋ならコンピュータの方が強いんだそうな。序盤と詰めの部分はコンピュータの方が強い。と、途中まで見たところで何かどっかで見たことがある内容だな、と感じた。先がなんとなく分かった。番組ラスト、スタッフロールを見ているとやっぱり、ディレクターが知ってる人だった。これだな。これができないと、多分勝てないんじゃないかなあ(非科学的な言いぐさ)。番組では結局何か新しい手法があるのかどうか分からなかったのだ。
▼カスパロフが負けた話で僕が一番なんなんだこれはと思ったのは、カスパロフがディープ・ブルーに異質の知性を感じたと言っていることだ。あまり触れられていないけど、この感覚っていうのは結構面白いと思うんだけど。
▼おお、今月のNASDAニュース<宇宙・人に聞く>は日本のゲロ彗星のパイロット北原国治さんだ(http://yyy.tksc.nasda.go.jp/Home/News/News-j/213hito.htm)。面白い面白い、でもたったこれだけ?
▼hotwiredから。コストと環境を考えたスペースシャトル新技術(上) (http://www.hotwired.co.jp/news/news/2834.html)。
◇from editor |
今週は植物にも「イブ」がいたとか、太陽コロナの話とか、いろいろとありました。私も本当は太陽コロナの話などを書こうと思っていたのですが時間がなかったのでした。というわけでそのうち。
ではでは、今後ともよろしくどうぞお願い申し上げます。
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