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海底を走行できる無人探査機試験機 JAMSTEC

JAMSTECの無人探査機試験機

JAMSTECの無人探査機試験機

引用元: 最新の走行システムを装備した無人探査機試験機が複雑な海底での走行試験に成功 国家基幹技術・次世代型深海探査技術の成果 独立行政法人海洋研究開発機構.

独立行政法人海洋研究開発機構(JAMSTEC)は、国家基幹技術・次世代型深海探査技術の開発の一環として研究開発を進めてきた、無人探査機の海での試験を行った。新型の無人探査機は、これまでの無人探査機では走行が困難だった砂地・岩礁でも走行できた。今後、実機への応用に向けて技術開発を進めていく。

これまでは複雑な地形の海底面で作業を行うために機敏で柔軟性のある運動能力を発揮させる新しい推進装置の開発が課題となっていた。海底ではクローラ(いわゆるキャタピラ)が有効だと考えられてきた。だが従来の装置では軟弱地層等で覆われている海底や傾斜や起伏の大きな海底においては十分に走行できなかった。

今回の新型では、通常のクローラに「フリッパー機構」と「スライド機構」を加えた。具体的には、通常のクローラの内側に4基のクローラを装備し、そのクローラが各々360度回転可能なフリッパー式となっている。かつ、前後のクローラが次いで展開・格納可能なスライド機構を採用。これにより、複雑地形での走行特性の向上を図った。

さらに海底で機体を安定走行させるために、浮力や水から受ける外力を考慮し、スラスタを制御することで、走行機体の水中での重量や重心を変化させて姿勢を安定させた。

海底走行試験は平成22年9月から10月にかけて三重県御座沖にて実施した機能把握試験を経て、平成22年11月24日から11月28日にかけて沖縄県小浜島沖および同県黒島沖の砂地や30度以上の傾斜や起伏を伴った岩礁からなる海域にて行われた。安全に走行できることを確認したという。

今回の走行試験で有効性が確認された、プロペラ付き推進装置を用いて走行機体の水中での重量や重心を変化させる技術は、海底での地層試料等の採取の際に、機体が海底から受ける抵抗(反力)を安定的に受けるための機構にも応用ができるため、このシステムの改良を進めていくことで、従来の無人探査機や深海用のボーリングマシンでは行うことが出来なかった複雑地形でのピンポイントでの鉛直方向の地層試料の採取が可能となるという。

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JAMSTEC、深海ペイロード実験のアイデアを募集 誰でも無人探査機「ハイパードルフィン」と「なつしま」が利用できる

プレスリリース<JAMSTECについて<独立行政法人海洋研究開発機構.

独立行政法人海洋研究開発機構(JAMSTEC)は、海洋調査船「なつしま」及び、3000m級の無人探査機「ハイパードルフィン」を用いた深海ペイロード実験のアイデアを募集している。

「ハイパードルフィン」は最大3000mまでの潜航が可能な無人探査機。超高感度ハイビジョンカメラを搭載し、深海の撮影や目視による調査を行える。また海底からサンプルを採取できるマニピュレータ(ロボットアーム)2基を備えている。

JAMSTECの深海調査研究をより身近に感じてもらうことが企画の趣旨。無人探査機「ハイパードルフィン」のペイロード(幅300mm×奥行300mm×高300mm)を区画分割し、そのスペースを利用した深海環境で実施してみたい実験のアイデアを募集し、選定された個人やチームが自ら製作に参加、調査船に乗船し、探査機のオペレーションを体験しながら実験を行う。

また、その状況をインターネット上で配信し、深海調査研究の理解普及に用いる。

対象者はインターネット上で情報配信を行っている国内の個人、小中高校、大学、NPO法人などのチームやグループ。ブログやSNSなどで長期にわたり情報提供活動を行っている個人、団体であてば、大学や学校のクラブ活動でのホームページでも、情報配信が実施できれば可。

小学生、中学生においては保護者もしくは学校活動における指導教員の付き添いが必要となるが、相乗りする実験の実施に鑑賞しない限り、募集分野や内容に制限はない。ただし圧壊実験など安全の確認できない提案は募集対象外となる。電力供給はしないがバッテリー持ち込みは可。

JAMSTECでは、

「深海という特殊な環境を生かしたユニークなアイデアや、実際に深海でためしてみなければ結果がわからないようなアイデアをお待ちしています。インターネット上での情報配信活動を行っている方であれば、どなたでもご応募可能です」

としている。

潜航実施期間は2日間(初日にペイロード設置、翌日に1ダイブを実施)。乗船可能者数はテーマあたり最大で2名。

経費は持込み実験装置の製作、運搬費用、損害保険、乗下船地までの交通費は提案者側の負担となる。実験のための設置費用、船内の宿泊及び傷害保険費用は、テーマあたり2名分までをJAMSTECが負担する。

詳細は下記のとおり。

(1)     募集期間     :     平成22年6月16日(水)〜7月11日(日)
(2)     対象者     :     インターネット上で情報配信を行っている国内の個人、小中高校、大学、 NPO法人などのグループ
(3)     募集分野     :     制限なし
(4)     募集スペース     :     「ハイパードルフィン」ペイロード 300×300×300 ㎜
(5)     選定結果発表     :     平成22年7月中旬
(6)     実験実施時期     :     平成22年8月中旬
(7)     選定テーマ数     :     5テーマ程度

実験実施予定場所は、相模湾または駿河湾の水深1000m付近。

実験に用いる無人探査機「ハイパードルフィン」の見取り図(イメージ)

実験に用いる無人探査機「ハイパードルフィン」の見取り図(イメージ)

応募はホームページから行う。
https://www.jamstec.go.jp/j/form/media_hyper2010/
募集内容についての問い合わせ先
「ハイパードルフィンペイロード実験」事務局
電話 :046-867-9062(受付時間:平日09:00〜17:30)
E-mail :hpdjikken2010@jamstec.go.jp


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「ちきゅう」2010年度の研究航海概要を公開 南海トラフで地震断層への超深度ライザー掘削、沖縄で海底下生命圏掘削を実施

プレスリリース<JAMSTECについて<独立行政法人海洋研究開発機構.

7月15日〜8月8日 南海トラフ地震発生帯掘削計画 (NanTroSEIZE: Nankai Trough Seismogenic Zone Experiment)
(IODP第326次研究航海)
9月1日〜10月3日 沖縄熱水海底下生命圏掘削-1 (DEEP HOT BIOSPHERE)
(IODP第331次研究航海)
10月25日〜12月12日 南海トラフ地震発生帯掘削計画 ステージ2
(IODP第332次研究航海)
12月13日〜平成23年1月10日 南海トラフ地震発生帯掘削計画 ステージ2
(IODP第333次研究航海)
地球深部掘削船「ちきゅう」

地球深部掘削船「ちきゅう」

6月8日、JAMSTEC(海洋研究開発機構)から地球深部掘削船「ちきゅう」の平成22年度研究航海の概要説明会が行われた。今年度は、4回の研究航海が行われる。第326次、第332次、第333次の研究航海では地震関連の調査を目的とした南海掘削を行い、第331次研究航海では、海底下の微生物圏を調べる沖縄熱水海底下生命圏掘削を行う計画だ。

まずCDEX(地球深部探査センター)センター長の東恒氏が全体概要を解説した。「ちきゅう」は今年で5年目で、定期検査を受けているところだ。いまは三菱重工業・本牧工場のドックから離れて最終的なチェックを受けている段階だという。

「ちきゅう」は「統合国際深海掘削計画(IODP)」によって運用されている船である。IODPは日米主導のもと、ヨーロッパ、中国、韓国、オーストラリア、インド、ニュージーランドを含む世界24カ国が参画している共同プロジェクトだ。地球環境変動、地球内部ダイナミクス、地殻内生命圏などの最先端科学の推進を目的としている。「ちきゅう」のほか、アメリカが運行する掘削船「ジョイデス・レゾリューション」、ESOが運用する「特定任務掘削船(MSP)」を研究プラットフォームとし、得られたデータ、および掘削で得たコア資料の管理を行っている。運用する3つのプラットフォームを使い分けることで、海洋全体を調査している。

深海を掘れる最新鋭のライザー掘削船である「ちきゅう」には特に、プレート境界面を直接調べることで震源領域の破壊メカニズムを解明するための巨大震源の震源域の直接観測、過去の地球環境変動を高精度に復元する地球環境変動史の解明、原始地球に酷似した環境の生物を調査することで地球生命誕生と進化の謎に迫る地下生物圏の探査、海洋地殻マントルの組成、物性を調べ、地球の起源やマントルの対流現象などに対する画期的発見を目指す未踏のマントル掘削をミッションとしている。現在の地球、未来の地球を理解することが「ちきゅう」の目的だ。

なお「南海トラフ地震発生帯掘削計画(NanTroSEIZE:Nankai Trough Seismogenic Zone Experiment)」では、これまでステージ1、ステージ2と2回の掘削が行われてきており、その成果は今も研究が進行中である。7月15日から始まる第326次研究航海では超深度ライザー掘削に着手し、10月から行われる第332次研究航海では長期孔内計測装置を設置、第333次研究航海では沈み込み前物質採取・熱流量測定を行う。沖縄では9月1日から10月3日に4つのサイト(プラス予備サイト)で掘削を行う計画だ。

南海トラフ地震発生帯掘削計画 調査海域図

南海トラフ地震発生帯掘削計画 調査海域図

地震の中心「アスペリティ」を目指し海底下7kmへの掘削を実施へ

続けてJAMSTEC地球内部ダイナミクス領域の木下正高氏が南海トラフでの地震発生帯掘削計画について詳細を述べた。木下氏はまず海溝型巨大地震の古典的モデルと近代的モデルについて解説した。プレートの沈み込みによる圧縮でやがて地震が起こるという古典的モデルについては多くの人が御存知のとおりだが、現在のモデルでは固着している部分が「アスペリティ」と呼ばれ、地震のときに一気に滑ると考えられている。この「アスペリティ」を直接見ることが研究掘削の目的だ。そのためには「アスペリティ」がここにあるはっきり分かっている部分が掘削対象にはのぞましい。南海トラフは将来地震が起こる可能性も高く、最適の場所の一つである。

南海トラフ地震発生帯掘削計画

南海トラフ地震発生帯掘削計画

掘削の目的は、掘らないと分からないことを調べる、その場所でしか分からないデータを取ることにつきる。つまり断層部分、基底岩、沈み込む前の堆積物などをとる、その物性を調べることなどを目的として掘削が行われている。

「ちきゅう」は2007年から掘削を行っているわけだが、ステージ1、2ではまず浅い孔を掘った。そして最初のライザー掘削で、固着面の上盤を調べた。そして今年はいよいよ固着域そのものを調べるために海底下7kmへの到達を目指し、計測機器の設置を目指す。

南海トラフ地震発生帯掘削計画 3D高精度地震探査による掘削海域の海底地形と海底下構造

南海トラフ地震発生帯掘削計画 3D高精度地震探査による掘削海域の海底地形と海底下構造

南海トラフ地震発生帯掘削計画 概要図

南海トラフ地震発生帯掘削計画 概要図

ここで木下氏はステージ1、2それぞれの成果をざっと紹介した。

ステージ1では付加体の応力場を調べた。フィリピン海プレートが陸側のプレートを押しているわけだから、圧縮が起きていると考えられる。では実際どうなっているのか、応力場を計測した。そうすると、だいたい予想どおりだったのだが、一部では逆に伸張場があることが分かった。また、堆積物は沈み込みながら付加していく。その付加体の年代を決定した。

さらに二つの地震断層、すなわち「デコルマ(沈み込み帯境界)」と「分岐断層」との出口をそれぞれ調べ、断層面を貫いて掘削することに成功。シャープなミリオーダーの断層面を調べることができた。そこでは断層を境に年代が逆転していた。つまり深いところにあったものが持ち上がる、せり上がり断層として活動しているということが分かったわけだ。また断層面がシャープであることから、非常に活動的で最近まで活動していると考えられた。

断層上には地すべりによる斜面堆積物がある。それを調べることで活動の履歴が分かる。掘削によって年代軸が出たので、それをもとに復元したところ、195万年前に断層が活動しはじめ、いったん止まり、155万年前に活動を始めた、つまり間歇的に活動して今に至ったということが分かったという。

ステージ2では、何がわかったか。こちらは昨年掘ったばかりなのでまだ研究中だが、四国海盆への火山物質の供給があること、西南日本からの堆積物が供給されていることが分かった。最大の成果は、 1900万年前の基盤岩が得られたことだった。地震発生の準備過程ではひずみがどれだけたまりつつあるかということ、上盤で水平圧縮がどうなっているかも調べたところ、ステージ1で分かった一部の水平拡大している部分以外はやはり圧縮されていることが分かった。また沈み込む前の初期物質も採取した。

これまでの南海掘削成果のまとめ

これまでの南海掘削成果のまとめ

今年度の掘削の目的は3つある。第326次研究航海では超深度ライザー掘削によって、巨大地震発生帯を目指す。以前設置した温度・圧力計の回収と、長期コウナイ計測装置を設置する。333次航海では、沈み込み直前の玄武がんをもっと取る、また表層堆積物の測定を行う。

記者会見には東大教授の木村学氏も出席。「オールジャパン体制で地震発生帯そのものを採取し、孔をつかって観測することで地震予知へと繋げたい」と述べた。

なお2013年の初頭にはアスペリティ(固着域)に到達する計画だ。

ライザー掘削とライザーレス掘削のシステム

ライザー掘削とライザーレス掘削のシステム

ライザー掘削孔のターゲット

ライザー掘削孔のターゲット

「海底下の大河」の「河口」を掘削し、世界初の人工熱水噴出孔を作る

沖縄熱水海底下の掘削計画については高井研氏が説明した。1993年、デミングとバロスという二人の研究者は海底熱水噴出孔には多くの生物がいるだろうと予測した。高井氏はこの仮説を引き継いで研究している(本誌の以前の記事「JAMSTEC、最古の「持続的生命」の起源を探るプレカンブリアンエコシステムラボラトリーユニットの研究概要を発表」も合わせてお読み頂きたい)。地球最大の生命圏が海底の下に眠っているという。いっぽう、生存可能条件で見ると、海底下生命圏の大部分の微生物は、境界領域に存在する「ギリギリ生命」だ。その誰もまだ確認したことがない熱水噴出孔直下の生命圏を、直接掘って調べようというのが今回の研究の目標である。

米国の研究者が中心となって唱えている仮説に、海底下に海があるという説がある。太平洋の下に海のような水の広がった空間があるという仮説だ。いっぽう高井氏らは、これに対して「海底下の大河」という説を提唱している。水が通りやすいところとそうでないところがあるので、このほうがいいという。

大河というのは比喩ではなく、実際に河があると考えている。陸上の河川は多くの栄養分を浸食によって運び、河口域で豊かな生態系を育む。それと同様に、「海底下の大河」も海底下の間隙を通っていくうちに、様々な有機物を運んでいると考えているという。

海底下の大河

今回の研究は、その「海底下の河」を実際に掘削する第一歩となるものだ。高井氏らは、硫黄、メタン、水素、鉄と4つの栄養源からなる「大河」を考えているが、今回の掘削のターゲットである沖縄海底熱水鉱床はメタンが豊富な「メタンの大河」だと考えられているという。また今回の掘削では熱水鉱床近くを掘るが、将来的には30km西側あたりから流れ込んで来ており,ヒートソースとしての熱水鉱床を上がって来ていると考えているその河の全容を上流から下流まで掘ろうと思っているそうだ。

掘削ターゲットの伊平屋北フィールド

掘削ターゲットの伊平屋北フィールド

「河口域」に相当すると考えている今回の掘削においては、熱水が吹いている硫化物のマウンド部分を掘る。「マウンドのなかにはわんさか微生物がいるはず」だという。そして、掘削後にはステンレス製のケーシング(管)を埋めて世界初の人工熱水噴出孔にする。一回掘ったところにどのように生物が集まってきてコロニーを作るのかも今後は調べて行く計画だ。同時に、JAMSTECの「なつしま」と「ハイパードルフィン」を使って、掘削直後の映像をおさめる予定だ。

なお普通の掘削では「ガイドベース」を海底面に設置してドリルビットを誘導するが、マウンドは面積がないので、直掘するしかない。本当はチタン製にしたかったというステンレス製のケーシングはパイプのなかに海水が逆流するようなことがなければ、硫酸カルシウムの沈殿が起きることもなく、10年くらいは保つと考えられるそうだ。高井氏らは人工熱水噴出孔で観測を行いながら、「海底下の大河」の全容の解明を進める。

沖縄熱水海底下生命圏掘削 調査海域図

沖縄熱水海底下生命圏掘削 調査海域図

沖縄熱水海底下生命圏掘削 3D高精度地震探査による掘削海域の海底地形と海底下構造

沖縄熱水海底下生命圏掘削 3D高精度地震探査による掘削海域の海底地形と海底下構造

会見での質問は微生物生態系の高井氏に集中し、記者たちの注目の高さが感じられた。


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JAMSTEC、最古の「持続的生命」の起源を探るプレカンブリアンエコシステムラボラトリーユニットの研究概要を発表

JAMSTEC 高井研 氏

JAMSTEC プレカンブリアンエコシステムラボラトリー・ユニットリーダー 高井研 氏

 原初の生命は、いまもインド洋の中央海嶺下に生きている—-。海洋研究開発機構(JAMSTEC)プレカンブリアンエコシステムラボラトリー・ユニットリーダーの高井研氏らは、そう考えている。

「生命は何万回も生まれて何万回も死んだ。だがその中でたった一回だけ、持続して生き残った生命があった」(高井氏)

 高井氏は2002年にインド洋中央海嶺東軸に位置する「かいれいフィールド」で、ハイパースライム(HyperSLiME、超好熱地殻内化学合成独立栄養微生物生態系)という超好熱性の水素酸化メタン生成細菌群を発見した。水深2450m、世界最高温条件の熱水環境で、水素をエネルギー源とする特異な生態系だ。これが地球最古の生態系の生き残り、あるいはよく似たものだと考えられるという。

 「かいれいフィールド」のハイパースライムは遺伝的にも最古の系統を持っている。だが、それだけが最古の生態系の同類だと考えた理由ではない。一つは、地球化学的な理由から、原初の生命は超好熱性で水素をエネルギー源としていたと考えられるからだ。そしてもう一つは、「かいれいフィールド」の環境が、地球誕生から約40億年くらい前まで、いわゆる冥王代の地球と似ていると考えているからだ。

ハイパースライム仮説

ハイパースライム仮説

 熱水噴出孔が生命の起源だとする学説は1970年代からある。だが一言で熱水噴出孔といっても「これまでに発見されている350個、どれ一つとして同じ物はない」(高井氏)。異なる深海熱水噴出孔ではエネルギー源、炭素源が異なり、そのため異なる微生物生態系が構成される。

 熱水の起源は海水だ。海水が海洋底の岩石に浸透し、マグマによって温められて噴出する。熱水の組成は、原料である海水の組成としみ込む岩石の種類によって決まる。中村謙太郎研究員は、熱水の違いを料理の「だし」に例える。海水の組成が同じであっても、どの岩石を煮出すかによって、熱水の成分は変わるのだ。温泉の成分が異なるようなものである。

熱水の成分は、海水と岩石の組成で決まる

熱水の成分は、海水と岩石の組成で決まる

 問題はどのような熱水噴出孔が生命の起源となったかだ。高井氏らは、代謝系の進化や系統学的な考察から、原始生態系が誕生し生きながらえたのは、水素が豊富な熱水環境だったと考えている。そして、ハイパースライムは、水素濃度がどこよりも高い熱水環境である「かいれいフィールド」でしか発見されていない。ハイパースライムが原初の生態系の類似だと考える理由の一つも、ここにある。

 なぜ「かいれいフィールド」の水素濃度は高いのか。そのカギが「超マフィック岩」だ。地球深部のマントルかんらん岩に起源を持つマグマが浅部に上昇してできる、酸化マグネシウムに富む岩石である。この岩が熱水循環の中にあれば、熱水中の高い水素濃度が説明できる。

かいれいフィールドの熱水は超マフィック岩によって高濃度水素を含む

かいれいフィールドの熱水は超マフィック岩によって高濃度水素を含む

 超マフィック岩は、初期地球では豊富だったと考えられている岩石「コマチアイト」と似た組成の岩石である。コマチアイトは、マントルが大規模な部分溶融をしてできた岩石だと考えられている。つまり若く熱かった原初の地球の深海熱水噴出孔の環境に「かいれいフィールド」は似ていると考えられるのだ。

 ところが実際の「かいれいフィールド」そのものには、ごく普通の玄武岩しかなかった。超マフィック岩は世界でも数カ所でしか発見されていないのである。だが高井氏らは「かいれいフィールド」熱水循環には超マフィック岩が存在しているに違いないと考えた。そして「しんかい6500」による「かいれいフィールド」広域地質調査の結果、東側の「ウラニワヒルズ」に実際に超マフィック岩が分布していることが分かった。この超マフィック岩が「かいれいフィールド」の高濃度水素を生み出していると高井氏らは考えている。

 ここまでの説明のなかにも様々な分野の知見が登場した。高井氏らは地質学や微生物進化系統学、有機化学など様々な分野にまたがる知見を統一的に理解するために「UltraH3(ウルトラHキューブ)リンケージ」仮説を提唱している。ウルトラHキューブとは「超マフィック岩ー熱水活動ー水素生成ーハイパースライム」の略である。地球全体が熱かった冥王代においては普遍的だったこの環境が、深海熱水で誕生した生命を持続可能にしたという仮説である。

 コマチアイトによる熱水活動は現世の地球にはなく、コマチアイト自体も25億年前より新しい岩石は発見されていない。だがオーストラリアや南アフリアには太古の熱水活動の痕跡が地層のなかに残されている。プレカンブリアンエコシステムラボラトリーでは、コマチアイトを再現し、実際にどのような環境が生成されるのかを300度、500気圧の環境を再現できる熱水実験装置を使って確認している。初期生態系を支えるのに十分な水素を含んだ熱水環境ができることは既に実証された。

 さらに原始海水の状態も再現しようとしている。初期地球では海水の組成が異なるからだ。

 「ブラックスモーカー」と呼ばれている現在の熱水噴出孔は黒い。だが地質調査などから得られた証拠から、冥王代のあと、太古代(約38億年前から約25億年前まで)の初期の熱水噴出孔は、シリカの粒子を吹き出しており、白かったのではないかと渋谷岳造研究員は考えている。地質学的な証拠や実験も重要な手段である。

 高井氏は、プレカンブリアンエコシステムラボラトリーの研究目標を「なぜ地球がこれだけ生命に満ち溢れた星になりえたのかを明らかにすること」としている。生命の進化を、イベントごとの「点」ではなく、「流れる映画のようなストーリーとして解明したい」という。

 地球と生命との間には、相互作用がある。両者は互いに影響を与えあい、変化し続けて来た。

 これまでの地球と生命の相互作用の研究は、化石記録が残っている多細胞生物出現以降、すなわち6億年前以降にスポットがあてられていた。しかし地球と生命の相互作用システム、すなわち生命のエネルギー代謝システムのほとんどのメカニズムは、多細胞生物が出現する前に既に完成されており、そのメカニズムこそが、地球が生命に満ちあふれた星になった理由であるはずだという。高井氏はこの原始地球生命システムの初期進化のことを「先カンブリア大爆発」と呼んでいる。

 プレカンブリアンエコシステムラボラトリーの目的は、岩石学、テクトニクス学、岩石変質学、地球化学、同位体地球化学、微生物学などの知見を分野を横断して集めることで、「先カンブリア大爆発」を解明することだと言える。

 以前は、高井氏が言うには「最下層の研究者から」立ち上げた、まさにボトムアップ型のゲリラ的な研究グループだったが、2009年4月からはJAMSTECの正式な研究組織となった。若く熱い研究者たちによる、40億年前の地球生命誕生時代の本格的な研究が始まろうとしている。


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JAMSTEC、2010年カレンダープレゼント 抽選で50名に

JAMSTECカレンダープレゼント<広報活動<独立行政法人海洋研究開発機構.

JAMSTEC(海洋研究開発機構)が2010年カレンダーのプレゼントを実施している。「JAMSTECメールマガジン」登録者から抽選で50名.

JAMSTEC 2010カレンダー

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JAMSTECオリジナルカレンダー(2010年版)はJAMSTECのサイトで購入も可能。

構成: カラー印刷
B4サイズ(364mm×257mm)
14枚
価格: 1部 450円(送料・消費税含む)

25億年前の地球を暖めた硫化カルボニル

Magrathea or Earth
Creative Commons License photo credit: reitveld

通称「暗い太陽のパラドックス」の謎が解明されたかもしれない。昔の太陽は今よりも暗かったと考えられるにも関わらず、当時の地球が太陽放射から予想されるよりも暖かったと考えられるパラドックスだ。

JAMSTECプレカンブリアンエコシステムラボユニットの上野雄一郎氏らの研究によれば、二酸化炭素の1000倍の温室効果を持つ硫化カルボニルによる温室効果が地球を暖めていた可能性があるという。当時の大気組成の謎にも関わる面白い研究だ。

JAMSTECニュース「なつしま」2009年10月号より

N_No.284.pdf (application/pdf オブジェクト).

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