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転写されない遺伝子の役割は修復タンパク質が結合する足場だった 遺伝研
2月 5th
論文名:「Abundance of ribosomal RNA gene copies maintains genome integrity」(リボソームRNA遺伝子のコピー数はゲノムの安定性維持に重要である) 著者名:Ide, S., Miyazaki, T., Maki, H., and Kobayashi, T.
国立遺伝学研究所細胞遺伝研究部門、井手聖研究員、小林武彦教授らのグループは真核細胞のモデル生物である出芽酵母を用いて、「リボソームRNA遺伝子」の半数以上が転写されていないにも関わらず存在する謎を解明した。それらはDNAの傷を修復するタンパク質が結合する足場となっており、ゲノム全体の安定性維持に寄与しているという。Science (2月5日号) に掲載された。
ほとんどの遺伝子は1細胞あたり1コピーのみ存在する。だが中にはコピーを増やし転写産物量を増大させている遺伝子もある。それらは「増幅遺伝子」と呼ばれ、同一遺伝子が染色体上あるいは染色体外に多数並んで存在する。
増幅遺伝子の代表格に「リボソームRNA遺伝子」というリボソーム中に存在するRNAをコードする遺伝子がある。真核細胞では数百〜数千コピーが巨大な反復遺伝子群を染色体上に形成している。リボソームは細胞の全タンパク質の約80%を占めており、その骨格を作るリボソームRNAの遺伝子も1つでは足らず多数必要となる。しかし、半数以上は転写されていない。なぜこのような「働かない」余分なコピーが存在するのか長年の謎とされていた。
増幅遺伝子はコピー間での相同組換えにより、コピー数が徐々に脱落し減少していく運命にある。しかしリボソームRNA遺伝子は減少分を常に補い、ほぼ一定のコピー数を維持している。これまでこの遺伝子増幅機構について研究してきた研究グループは、「Fob1」というDNA結合タンパク質が、リボソームRNA遺伝子内で増幅に必要な組換えを誘導していることを解明した。そして、この「Fob1」による増幅機構を操作し、酵母のリボソームRNA遺伝子のコピー数を自由に改変することに成功した。
出芽酵母リボソームRNA遺伝子を、野生株(約150コピー)の1/7(20コピー)まで減少させても菌は正常に生育した。この株では、もはや転写されていない余分なコピーはなく、すべてのコピーが転写されていた。そこでこのリボソームRNA遺伝子コピー数減少株(低コピー株)の性質を解析したところ、紫外線や発ガン物質などのDNAに傷を付ける薬剤に対して弱くなることが判明した。またこの低コピー株の感受性の変化はリボソームRNA遺伝子の転写を止めると消失した。
次にそのメカニズムについて解析したところ、低コピー株では「コンデンシン」と呼ばれるタンパク質がリボソームRNA遺伝子の領域に結合できなくなっていることが判明した。そのためDNAの傷の修復に必要な姉妹染色分体間の接着が起こらず、リボソームRNA遺伝子が壊れていく。さらにこのリボソームRNA遺伝子の崩壊はゲノム全体の安定性にも影響を与え、細胞の生育を阻害していることが判明した。
以上のことからリボソームRNA遺伝子の転写されていないコピーは、コンデンシンの結合の足場となり、リボソームRNA遺伝子に生じた傷を修復し、ゲノム全体の安定性維持に重要な役割を担っていることが判明した。
リボソームRNA遺伝子は最も数が多く、ゲノムの大きな領域を占める遺伝子である。そのためリボソームRNA遺伝子が不安定化し、そこにDNA修復酵素が集中するとゲノムの他の部分の修復能力が低下すると考えられる。ゲノムの安定性の低下は、高等真核細胞では癌化に繋がる。そのため余分なコピーも含めてリボソームRNA遺伝子のコピー数を高く維持する機構は、癌抑制の観点からも重要な機能であると考えられる。
異常な速度で増殖する癌細胞は多量のリボソームを必要とし、通常転写されていない余分なコピーも働いていると考えられる。こうした癌細胞は、出芽酵母の低コピー株と同じような状態なっていると考えられる。実際に、癌細胞はDNAに損傷を与えて細胞を殺すような抗がん剤に対して弱いことから、リボソームRNA遺伝子が不安定になり、ゲノム全体が崩壊している可能性が考えられる。今回、研究グループが解析した低コピー株を用いることで、リボソームRNA遺伝子を特異的に攻撃する薬剤をスクリーニングすることが可能となり、より副作用が少ない新規の抗がん剤の開発に繋がると期待されるとしている。


