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ナノファイバーによる分子レールを開発 ナノ医療診断ツールの開発や人工細胞の構築などにつながる可能性
5月 19th
微小物質を運搬できるナノメートルサイズの繊維でできた「分子の線路」を開発.
京都大学 大学院工学研究科の浜地 格教授らは、ナノテクノロジーの鍵となる材料の1つとして期待されているナノメートルサイズの直径を持った新しい繊維(ファイバー)を開発し、それがたんぱく質分子やナノ粒子などの物質を輸送する線路「分子レール」として機能することを実証した。「Nature Communications」に掲載された。
生物の細胞内では、生体物質を細胞内の色々な場所へ効率よく輸送するために、たんぱく質の自己組織化によってできた微小管のような一次元ファイバーが発達しており、このファイバーの上をモーターたんぱく質が種々の物質を結合して運ぶことが知られている。例えば、細胞内に存在するたんぱく質の自己組織化によって形成されている微小管は、モーターたんぱく質に結合した種々の生体物質を目的の場所に輸送するレールとして働いている。
近年、ナノテクノロジー分野の材料開発において、分子の自己組織化を利用したボトムアップアプローチによって作製されたナノファイバーが、電子やホールを輸送できるナノ電子材料としての可能性が提唱されている。しかし、自己組織化ナノファイバーが生体の微小管のように分子や物質輸送のレールとなりうる可能性については、ほとんど明らかになっていなかった。
研究グループは、水にも油にも馴染む性質を持った両親媒性分子が形成する自己組織化ヒドロゲルと、その基本構造であるナノサイズの極細繊維の機能開発を進めている。
自己組織化によりナノファイバーを形成する両親媒性分子の構造
研究グループは今回、合成分子同士が集まってできた直径10〜100nmの人工ナノファイバーを開発し、その性質を詳細に調べた。ファイバー内では、ファイバーの構成分子同士が繊維構造を維持したまま活発に運動して行き来し、構成分子は川の流れのような流動性を持っていることが分かった。また、この移動の挙動は、ファイバー構成分子が持っている電荷に依存して変化し、ファイバーに電場をかけることでコントロールできることも明らかになった。
そして、この自己組織化ナノファイバーを物質輸送のレールとして利用するために物質結合部位を導入すると、たんぱく質やナノ粒子がナノファイバー表面に結合して、そのファイバー上を一次元的に移動することも分かった。
自己組織化による物質結合能を有するナノファイバーの形成と結合したナノ物質の移動の概念図
すなわちナノファイバーが分子のレールとなって物質を運んでいることも発見した。特に、ナノ粒子の場合には、その動きを1個ずつ独立に顕微鏡によって観察することができることから、ナノ粒子がファイバー上を運動している様子を直接可視化して、解析した。
また、この自己組織化ナノファイバーはマイクロ流路(高さと幅が共に数10µmの小さな流路)を利用すると、その向きを揃えることも可能で、ビーズの移動を直線状にコントロールできることも明らかにした。
マイクロ流路中で配向させた自己組織化ナノファイバーにナノビーズが結合し、長軸に沿って運動していることを可視化した顕微鏡画像(スケールバー=5µm)。左と中央は各時間でファイバー上のナノビーズ(1、2、3、4)の位置を捉えた画像、右は各ナノビーズが1分39秒630ミリ秒の時間内で1次元方向に往復運動した軌跡(赤、紫、青、緑の線で表示)を画像に重ねたもの。
詳しい検証の結果、ビーズの運動速度(0.3µm/s)は分子レールを構成している両親媒性分子がファイバー中を流れる速度とほぼ一致した。
このことは、レールに結合した物質はレール自身の流れ、すなわち両親媒性分子の流動性を利用して運ばれることを示している。つまり、微小管などの生体輸送システムとは全く異なったメカニズムを持った人工の分子レールができたことを意味する。また、その速度はある種の微小管結合たんぱく質あるいはDNA結合たんぱく質が微小管、もしくはDNA上を一次元ランダム運動する速度(拡散係数=0.1〜0.4µm^2/s)とほぼ同じで、分子の世界では十分早いものだったという。
開発したナノファイバーによる分子レールは、細胞内ファイバーの物質輸送システムとはメカニズムは全く異なる。だが、色々な環境下で使用できる新たな物質輸送用ナノレールとしての応用は、極微小で微量な物質の輸送・分離、またその解析につながることが期待出来るという。
これまでにボトムアップアプローチで作製された分子マシンでは、ナノメートルスケールの分子運動でしか実現していなかった。今回のように顕微鏡でも観察可能な、マイクロメートルスケールにもおよぶ分子の運動と移動を制御した人工システムは、ほとんど例がないという。
生体の微小管上の分子モーターのように、望みの条件で動きの方向性を制御するためには新たな戦略が必要になる。ナノファイバーに結合した物質の動きの方向性の制御が重要だと考えられるという。現在ファイバーに結合したナノ物質の動きは一次元に制御されてはいるものの、その運動方向はランダムで、現時点では方向性を規制するためには電場を利用する必要がある。
今回のような人工分子レールシステムは、マイクロメートルスケールにおける極微小で微量のナノ物質の輸送・分離や解析を利用したナノ医療診断ツールの開発や人工細胞の構築などにつながる可能性がある。



