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乳児型ロボットと子供型学習・発達ロボットを開発 浅田共創知能システムプロジェクト

6月11日、JST戦略的創造研究推進事業ERATO型研究 浅田共創知能システムプロジェクトは、「乳児型ロボットと子供型学習・発達ロボットを開発」と題して成果発表を行った。

浅田共創知能システムプロジェクト」は、ロボットを作ることを通して人間の知能創発の過程やメカニズムの理解を進め、新しいロボットの設計論の構築を行うことを目指した「認知発達ロボティクス」のプロジェクトである。これまでに子供型ロボットの「CB2」を使った運動学習メカニズムの研究、アンドロイドを使った対人認知メカニズムの研究などを発表してきた。

浅田共創知能システムプロジェクトの研究の枠組み

浅田共創知能システムプロジェクトの研究の枠組み

記者会見には、研究統括の大阪大学大学院工学研究科教授の浅田稔氏、プロジェクトグループリーダーの東京大学大学院情報理工学系研究科教授の國吉康夫氏、同じく大阪大学大学院基礎工学研究科教授の石黒浩氏らが出席。子供型ロボット「M3-Kindy」と、乳児型ロボット「Noby(Nine-month Old Baby、9ヶ月相当ヒューマノイド)」が紹介された。



・乳児の感覚運動をシミュレートするロボット「Noby」

乳児型ロボット「Noby」は、乳児の感覚運動を精密にシミュレートする認知行動発達研究の実験装置を目指したロボット。生後9ヶ月児の身体、感覚運動特性に極力近づけ、人間乳児との対比や同等環境での行動実験が可能だとしている。なお生後9ヶ月は運動機能や認知機能が共に劇的に変化する時期で、成長速度は鈍化する一方で知能が発達する時期だという。

30自由度、カメラ×2、タッチセンサー、マイク、スピーカーなどを、9ヶ月児の平均サイズのなかに詰め込んでいる。全身は柔らかく、600点の触覚センサーが張られており、身体を動かしたときに赤ちゃんが全身で何を感じているか知ることができるという。

また、実際の筋肉骨格系に運動特性を近づけるために、通常のモーターを使った関節とは違ってフリーな状態や関節堅さが変えられるようになっている。モーターの配置も工夫されており、身体の重量バランスを赤ちゃんに近づけている。全身の体内LAN通信は、リアルタイム性の高い独自の通信システムを採用しているという。

全身は赤ちゃんの柔らかい体の動きを再現できるようにしている。例えば実際の赤ちゃんの動きを計測してロボットを動かすことで、感覚と運動の統合による脳の発達過程を調べたりできるという。またロボットは視角から画像処理で動きや色、顔の情報をとって、どのくらい目立つか、前に見たことがあるかなどから総合的に判断して、新規なものを探索していくようになっている。これもまた赤ちゃんの発達過程をなぞったものだ。

実際のデモでは大人とのふれあいや、ジェネラルムーブメントなどのデモが行われた。


個体間の相互作用による社会性の発達研究を行うためのロボット「M3-Kindy」

大阪大学の石黒浩教授は、認知発達研究のための普及型プラットフォームとして、「CB2」をより簡便にしたロボット「M3-Kindy」について解説した。「Noby」が個体ベースの認知発達研究を主な目的としているのに対し、個体間の相互作用による社会性の発達研究を行うためのロボットだ。そのため運動性能を重視して既存のモーターを使い、コストを下げ、認知発達研究用に汎用的に必要だと考えられるような機能を盛り込み、ロボットの専門知識がなくても使いこなせるロボットとして開発したという

身長は5歳児平均に近い約108cm、重量約27kg。全身の自由度は42で、顔の表情も眉や口角などが動く。カメラ、マイク、全身に109個の触覚センサーなどをもつ。バッテリーやコンピュータも内蔵し、自律で動くことができる。

デモでは浅田教授に腕をひかれて出てきたあと、横たわった状態から起き上がり、ふりむいてはいはいするといった動きが紹介された。

「人見知り」など子供と大人による社会的相互作用の研究を行うこともできるという。

なお3月に発表された赤ちゃんロボット「M3-Neony」と集団コミュニケーションロボット「M3-Syndy」は、ヴイストン社から研究者向けに販売されている。

同日、午後には公開シンポジウムのかたちでプロジェクトの成果発表が行われた。内部構造設計、環境設計、時間的発展の構造といった観点で人間と環境の計算モデルを作り、新たな人間理解を目指す研究について4人のグループリーダーが講演した。成果として、胎児の発達シミュレーション、人工筋肉を使ったはいはいする赤ちゃんロボット、脳と身体図式の関わり、音声模倣や共同注意の研究などを示した。


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Ube3a遺伝子は大脳皮質回路の臨界期終了後の成熟に必須 母親由来の染色体異常が引き起こす「アンジェルマン症候群」の原因遺伝子

母性染色体異常が引き起こす神経発達障害の原因遺伝子の働きを解明|2010年 研究成果|独立行政法人 理化学研究所.

カリフォルニア大学サンフランシスコ校のマイケル・ストライカー(Michael Stryker)教授と、理研 脳科学総合研究センターシナプス機能研究チームの佐藤正晃研究員(前カリフォルニア大学サンフランシスコ校博士研究員)らは、母親由来の染色体の異常が引き起こす神経発達障害「アンジェルマン症候群(精神発達遅滞、言語障害、歩行失調、痙攣(けいれん)、頻繁に笑うなどの独特の行動をはじめとした神経発達障害。有病率は約1万5千人に1人で、日本ではアンジェルマン症候群の新生児が年間約70人生まれている計算になる)」の原因遺伝子「Ube3a」が、大脳皮質機能の可塑性とその後の成熟に必須であることを、アンジェルマン症候群のモデルマウスを用いた研究で明らかにした。アメリカ科学アカデミー紀要『Proceedings of the National Academy of Sciences of the United States of America(PNAS)』2010年3月23日号に掲載された。

研究チームは、母性染色体上のUbe3a遺伝子を欠損したマウスを用いて、大脳皮質にある視覚野の可塑性を、神経活動に伴う脳の代謝変化を画像化する「内因性シグナル光学イメージング(神経活動に伴う脳の代謝変化を検出することで、活動した脳の部位と活動の大きさを画像化する技術)」という手法で調べた。

その結果、生後4週目の発達時期(臨界期)に片目からの視覚経験を短期的に遮蔽(しゃへい)すると、野生型マウスは、遮蔽眼の視覚野の活動が顕著に弱まるという可塑性を示した。その一方、Ube3a母性欠損マウスは、活動の弱まる程度が低く(可塑性の度合いが小さく)なることを発見した。

また、臨界期が終了する生後6週目では、長期的に視覚経験を遮へいすると、野生型マウスは非遮へい眼の視覚野の活動が強くなるという特徴的な可塑性を示すが、Ube3a母性欠損マウスは、野生型マウスが臨界期で示したように遮へい眼の視覚野の活動が弱まることが分かった。

これらの結果から、母性染色体上のUbe3a遺伝子の機能が、大脳皮質の神経機能の成熟に必須であることが判明した。アンジェルマン症候群の主な症状である精神発達遅滞の病態解明と、その治療法の開発に役立つことが期待できるという。

「Ube3a」遺伝子は、細胞内で不要になったタンパク質に目印を付加する機能(ユビキチンリカーゼ活性)を持つタンパク質の1つをコードする。この遺伝子が欠損すると「アンジェルマン症候群」という遺伝性の神経発達障害を引き起こす。

Ube3a遺伝子は、ヒトの場合15番染色体に存在する。父母からそれぞれ受けついだ2本の染色体のうち脳では母方由来のものだけが発現する。これは「ゲノム刷り込みによる母性発現」による(全遺伝子の1%以下と推定されるごく一部の遺伝子では、一方の親由来の染色体からの発現が選択的に抑制され、他方の親由来の染色体からのみ発現が起こる。このような親特異的な遺伝子発現の抑制をゲノム刷り込みと呼ぶ)。

研究チームは「アンジェルマン症候群」の病態の一部に、Ube3a遺伝子の欠損による神経回路の発達異常がかかわっているのではないかと考え、マウスの大脳皮質にある視覚野の神経回路をモデルにして、その役割を調べた。

マウスの視覚野の生後発達とその後の成熟は、視覚中枢同士の規則正しい神経細胞の結合の形成や、視覚経験が回路の精緻(せいち)化に影響を及ぼす臨界期の開始と終了など、複数の過程が生後1週から6週にかけて一定の順番で進む。また、これらの過程が遺伝的プログラムと視覚経験の相互作用によって起こるために、視覚野の神経回路は脳の生後発達を詳細に調べるために極めて有用なモデルとなっているという。

マウスは生後4週目になると、視覚野が顕著な感受性を示して発達する臨界期という時期を迎える。このときの視覚野のUbe3aタンパク質の発現を調べると、野生型マウスの神経細胞では主に細胞核に強い局在が見られた。

だがUbe3a母性欠損マウスの神経細胞では、父性染色体上のUbe3a遺伝子は正常であるにもかかわらず、Ube3aタンパク質の発現がほぼ完全に消失していました。この結果は、ヒトの脳で報告されているのと同様に、マウスの視覚野でも、Ube3a遺伝子が母性染色体から発現していることを示す。

図1 マウス視覚野におけるUbe3aの母性発現。(A)一対のUbe3a遺伝子の片方を欠く(ヘテロ欠損)母マウスと野生型父マウスの交配により、母親由来の染色体上のUbe3a遺伝子を欠いた母性欠損マウスが得られる。(B)野生型マウスとUbe3a父性欠損マウスの視覚野の神経細胞では、細胞核染色で染まる核(青の丸い部分)の場所に、Ube3aタンパク質の存在(緑の丸い部分)が観察される。一方、Ube3a母性欠損マウスでは、この Ube3aタンパク質が消失し、核の部分が黒く抜けて見える。

図1 マウス視覚野におけるUbe3aの母性発現。(A)一対のUbe3a遺伝子の片方を欠く(ヘテロ欠損)母マウスと野生型父マウスの交配により、母親由来の染色体上のUbe3a遺伝子を欠いた母性欠損マウスが得られる。(B)野生型マウスとUbe3a父性欠損マウスの視覚野の神経細胞では、細胞核染色で染まる核(青の丸い部分)の場所に、Ube3aタンパク質の存在(緑の丸い部分)が観察される。一方、Ube3a母性欠損マウスでは、この Ube3aタンパク質が消失し、核の部分が黒く抜けて見える。

また、このUbe3a母性欠損マウスの視覚野の機能が臨界期にどう発達するかを調べた。具体的には、生後4週目に片目を数日間閉じて視覚経験を遮蔽したときの可塑性の度合いを、マウスの脳部位の神経活動を画像化できる「内因性シグナル光学イメージング」を用いて調べた。

図2 内因性シグナル光学イメージングによる視覚野活動の画像化。(A)麻酔下のマウスに視覚刺激を提示し、視覚野表面の画像を赤色照明下でCCDカメラにより連続的に取得する。(B)マウス視覚野(上図の灰色部分)の表面画像(下左図)と、視覚刺激提示中に取得した画像を数学的に解析して得られる視覚反応画像(下右図)。反応が強いほど、活動した脳の領域が黒く表現される。この技術により、長さ約1mm、幅約0.5mmの小さなマウスの視覚野の活動を画像化することができる。

図2 内因性シグナル光学イメージングによる視覚野活動の画像化。(A)麻酔下のマウスに視覚刺激を提示し、視覚野表面の画像を赤色照明下でCCDカメラにより連続的に取得する。(B)マウス視覚野(上図の灰色部分)の表面画像(下左図)と、視覚刺激提示中に取得した画像を数学的に解析して得られる視覚反応画像(下右図)。反応が強いほど、活動した脳の領域が黒く表現される。この技術により、長さ約1mm、幅約0.5mmの小さなマウスの視覚野の活動を画像化することができる。

野生型マウスの視覚野は、臨界期に片眼からの視覚経験を短期間(4日間)遮蔽すると、遮へい眼に対する視覚野の活動が弱くなる「眼優位可塑性」という可塑性を引き起こす。しかし、Ube3a母性欠損マウスでは、この眼優位可塑性の度合いが野生型マウスに比べて約28%と著しく減少していた。このことは、母性染色体のUbe3a遺伝子欠損によって、視覚野の神経回路の適応性を大幅に失ったことを示している。

図3 Ube3a母性欠損マウスの視覚野における臨界期可塑性の障害。(A) 内因性シグナル光学イメージングで測定した臨界期の視覚野の反応。野生型マウスでは4日間の片眼遮へいによって遮へい眼の反応の強さが弱くなるが(臨界期可塑性)、Ube3a母性欠損マウスではこの減弱がほとんど起こらない。(B) それぞれの眼に対する視覚野の反応の強さの相対的な比を計算すると、野生型マウスでは、4日間の片眼遮蔽後にこの比が非遮蔽眼方向に大きく変化するが、Ube3a母性欠損マウスでは、この変化は28%と小さい(可塑性の度合いが小さい)。この差は片眼遮蔽を14日まで延長しても存続する。

図3 Ube3a母性欠損マウスの視覚野における臨界期可塑性の障害。(A) 内因性シグナル光学イメージングで測定した臨界期の視覚野の反応。野生型マウスでは4日間の片眼遮へいによって遮へい眼の反応の強さが弱くなるが(臨界期可塑性)、Ube3a母性欠損マウスではこの減弱がほとんど起こらない。(B) それぞれの眼に対する視覚野の反応の強さの相対的な比を計算すると、野生型マウスでは、4日間の片眼遮蔽後にこの比が非遮蔽眼方向に大きく変化するが、Ube3a母性欠損マウスでは、この変化は28%と小さい(可塑性の度合いが小さい)。この差は片眼遮蔽を14日まで延長しても存続する。

次に、臨界期終了後の視覚野の発達の様子を調べた。研究チームは以前の研究で、野生型マウスが臨界期を終了する生後6週に、より長期間(7日間)片眼を遮蔽することで、非遮蔽眼に対する視覚野の活動が増強する「成体眼優位可塑性」を報告していた(臨界期後でも片眼遮蔽の期間を長くすれば、程度は小さくなるが明らかな眼優位可塑性が起こる現象)。

しかし、Ube3a母性欠損マウスではこの「成体眼優位可塑性」が見られず、むしろ臨界期に見られる「眼優位可塑性」のような遮蔽眼の視覚野の活動の減弱がゆるやかに起こった。

このことは、母性染色体のUbe3a遺伝子が欠損すると、臨界期終了後の視覚野の発達の段階でも、その可塑性が臨界期終了以前の未熟な状態にとどまってしまうことを示す。つまり、母性由来のUbe3a遺伝子が、大脳皮質視覚野の機能の成熟に必須な役割を持つと結論づけることができたとしている。

図4 臨界期終了後のUbe3a母性欠損マウスの視覚野の可塑性。(A)内因性シグナル光学イメージングで測定した臨界期終了後の視覚野の反応。(B)野生型マウスでは7日間の片眼遮へい後に非遮蔽眼の反応の増強が見られるが(成体眼優位可塑性)、Ube3a母性欠損マウスではこの特徴が見られず、むしろ臨界期の可塑性のように遮へい眼の反応が減弱し続ける。

図4 臨界期終了後のUbe3a母性欠損マウスの視覚野の可塑性。(A)内因性シグナル光学イメージングで測定した臨界期終了後の視覚野の反応。(B)野生型マウスでは7日間の片眼遮へい後に非遮蔽眼の反応の増強が見られるが(成体眼優位可塑性)、Ube3a母性欠損マウスではこの特徴が見られず、むしろ臨界期の可塑性のように遮へい眼の反応が減弱し続ける。

さらに、Ube3a母性欠損マウスの視覚にかかわる脳領域間の結合の様子を調べると、生後1週目に形成される眼から視床への神経結合と、視床から大脳皮質視覚野への神経結合はほぼ正常だった。

しかし視覚野内の神経回路の構造に着目し、生後4週目のマウス視覚野を緑色蛍光タンパク質でラベルして、第5層の神経細胞の棘突起密度を調べると、Ube3a母性欠損マウスの神経細胞では、細胞体から上方向に伸びる樹状突起上の棘突起密度は正常だったが、水平方向へ伸びる樹状突起上の棘突起密度が野生型マウスに比べ減少していた。

これは、Ube3a母性欠損マウスでは、脳の領域間の回路の大まかな配線は保たれているものの、視覚野内の局所的な神経回路の結合に異常があることを示している。

図5 Ube3a母性欠損マウスの神経細胞の棘突起。(A) 視覚野の神経細胞の模式図。(B)(A)の点線部分の拡大写真。Ube3a母性欠損マウスでは細胞体から水平方向に伸びる樹状突起上の棘突起が減少していた。

図5 Ube3a母性欠損マウスの神経細胞の棘突起。(A) 視覚野の神経細胞の模式図。(B)(A)の点線部分の拡大写真。Ube3a母性欠損マウスでは細胞体から水平方向に伸びる樹状突起上の棘突起が減少していた。

今後は、Ube3aタンパク質の欠損によってなぜ神経回路の発達に影響が及ぶのかを調べる。また障害を回復させる働きをもつ薬物や遺伝子を探索する。


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構成論的アプローチに基づく「社会的知能発生学」研究用シミュレーションプラットフォーム「SIGVerse」が公開へ

パネルディスカッションの様子

公開シンポジウムでのパネルディスカッションの様子

人間やロボットの知能の原理に迫ることを目的として身体と環境との物理的相互作用や進化の役割等を探求している研究会である社会的知能発生学研究会は、3月24日、開発を続けていた構成論的アプローチに基づく「社会的知能発生学」研究用シミュレーションプラットフォーム「SIGVerse(シグバース)」を発表・公開し、国立情報学研究所で記者会見と公開シンポジウムを行った。ここでは、公開シンポジウム内で行われた国立情報学研究所の稲邑哲也氏による発表のメモを記事形式にしてお伝えする。

社会的知能発生学研究会は認知科学、発達、脳科学、複雑系など人や動物からヒントを得ながら、ロボットやシミュレーションなどを用いた構成論的・計算論的アプローチに基づいた議論を展開している研究者たちの集まり。「SIGVerse」とは、身体的・物理的相互作用のシミュレーション、社会的相互作用のシミュレーションを繋げらることを目指した基盤ソフトウェア・プラットフォームである。

「構成論的アプローチ」とは、対象を作って動かして、結果を見て検証する過程を通して理解する手法である。ただ単にシミュレーションしたり真似てみたりして終わりではない。現実と同じような結果に到達するに至った本質を理解することが目的である。知能の理解だけではなく、進化の過程のような一回しか起きなかった現象の理解にも有用だと考えられている。

たとえばミツバチの知能を理解するというミッションを考える。ミツバチは8の字ダンスの角度そのほかで、花の位置を伝える。ミツバチはどうやって8の字ダンスに情報をエンコードしているのか。構成論的アプローチでは仮想的な知覚機能と処理機能を持ったエージェントを作り、仮想世界のなかにバラ撒いてシミュレーションを行う。

またロボットを道具として使った人間の発達メカニズムを理解しようという「認知発達ロボティクス」も構成論的アプローチの一つである。発達・学習・知能のモデルを人工物の中に埋め込み、環境のなかで動かし、その挙動から、モデルの新たな理解を目指す。

ただ仮説を見出すのも難しく仮説の正しさを示すのも難しい。また実機を使うには負荷が高い。そもそも、大規模かつ複雑な世界での実験や、長期間にあたる連続実験はほとんど不可能である。そのため、シミュレーションによる実験が不可欠である。ではどうすればシミュレーションが容易に実行出来るか。

シミュレーションには二つの技法があるというのが研究会の意見だという。一つ目は「リアリスティック・シミュレーション」。もう一つは「構成論的シミュレーション」である。気象シミュレーションやフライト・シミュレータ、細胞内の分子の挙動のシミュレーションなどは「リアリスティック・シミュレーション」である。これに対して構成論的シミュレーションとは、ローレンツモデル、自己増殖オートマトン,チューリングパターン,チューリングマシーン、レスラーモデル,結合写像系などのことを指す。自然界そのものをシミュレーションするのではなく、自然界の裏に隠れている可能性があるモデルをシミュレーションするのが構成論的シミュレーションだという。

原理が分かっているものを正確に数値計算するのが「リアリスティック・シミュレーション」、原理がわからず、原理と因果関係を知りたいときに行うのが「構成論的シミュレーション」であり、「仮説的推論」を行うときに有用なアプローチであると稲邑氏は述べた。

また二つのシミュレーションを繋げられるようなシミュレータ環境があれば、研究を大きく進めることができるかもしれない。また身体的・物理的相互作用のシミュレーション、社会的相互作用のシミュレーションを繋げられることができるような基盤ソフトウェア・プラットフォームがあれば、「社会的知能発生学研究」を進めることができる。

そのような考えで作ったのが社会的知能発生学研究用のシミュレーションプラットフォーム「SIGVerse」である。社会を構成する多数のエージェント群、身体性に基づく視聴触覚、複雑な環境を扱え、自分の開発した知能エージェントを任意の場所のシステムから仮想世界に接続可能な枠組みなどを持ち、様々な研究分野を持つユーザが、目的別に容易に使うことのできるソフトウェアデザインとなっているという。

想定している応用例としては、

  • 人間のコミュニケーションモデルを考慮した言語進化シミュレーション
  • 社会的コミュニケーションを必要とするロボット知能の設計
  • 赤ちゃんの学習発達モデルのシミュレーションによる検討
  • 霊長類、昆虫等の社会的動物の行動モデルの解明を目指した構成論的研究
  • ロボットエージェント間のコミュニケーションに基づく学習・発達
  • パラレルワールドの並列シミュレーションによる比較・検討機能
  • 政治・経済等のマクロな社会シミュレーションへの展開

などを視野に入れているという。

シミュレータは実際には、力学計算や物理現象をシミュレーションする「物理・力学シミュレータ」、エージェントの知覚をシミュレーションする「知覚シミュレータ」、そして情報伝搬のスピード制御や視線情報などを管理する「コミュニケーション・シミュレータ」の3つを統合しているという。アプリケーションとしてはサッカーロボットのシミュレーションなどを考えているそうだ。

Second Life」や「OpenSimulator」と似ているのではないかとも思えるが、「Second Life」では物理シミュレーションや自律エージェントの設計は難しい。「Open Simulator」は知覚のシミュレーションが難しい。

Cyberboticsの「Webots」や、マイクロソフトの「Robotics Studio」、Player/Stage/Gazeboなどでも、コミュニケーションの物理的制約のシミュレーションが難しく、また知覚シミュレーションの粒度の階層性がないことが問題だという。「OpenHRP」はマルチエージェント環境が実行しにくくまた知覚シミュレーションが視覚に限定されているという制限がある。社会シミュレーションシステムにもArtificial Societyのマルチエージェントシミュレータ「artisoc」や、エージェントシミュレーション用言語「SOARS」などがあるが、物理的な認知やコミュニケーションの制約を記述することが困難だという。

「SIGVerse」の物理力学シミュレーションのエンジンには「ODE」を使用し、知覚シミュレーション中、高次、低次の3段階の情報が得られるようになっているという。声が距離や環境によって伝わりにくかったり、視線情報のコントロールや状態取得もできる。ソフトウェアは、センターのサーバーとクライアントに分かれている。ユーザーはクライアントの中からエージェントコントローラーを使ってロボットを制御する。そしてそれをセンターサーバに投げる。そうするとエージェントがインタラクションを始めるという仕組みだ。APIも公開される。C++で開発が可能だ。

稲邑氏は仮想世界のなかでお好み焼きをヒューマノイドと人間が一緒に焼くというサンプルプログラムを示した。「SIGVerse」は力学演算と知覚シミュレーションとコミュニケーションの統合シミュレータとしては世界初であり、知覚の粒度の制御ができること、物理的制約に基づくコミュニケーション、サーバクライアント形式によってマルチエージェントで実行出来るという。

今後については、柔らかい素材や筋骨格系モデルによるロボットエージェントの実装、構成論的にシミュレーションのモジュール化、再利用化が今後の課題であると述べてまとめた。様々な領域がフィードバックをかけあい、相互的に螺旋階段を登るように進化していける研究が発信できればと考えているという。

またその後に行われたパネルディスカッションのなかで奈良先端科学技術大学院大学 情報科学研究科 情報生命科学専攻の柴田智広氏は、「VR型SNS」みたいなものになるといいのではないかと考えているという。「SIGVerse」を多くの人が使うことで、人間の社会行動のサンプリングが可能になる。それを行動DBとして、ロボットや人工知能エージェントが記号接地やその擦り合わせのトレーニングを行う。

なお現状のサーバのスペックは、ヒューマノイド型のエージェントを10台くらいキッチン内で動かすシミュレーションを実行すると固まるくらいのレベルだそうだ。ただしコンピュータリソースが潤沢に使える時代はすぐに来ると考えているため、稲邑氏はまったく悲観していないと述べた。

国立情報学研究所のプレスリリース


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赤ちゃんロボット「M3-neony」と集団コミュニケーションロボット「M3-synchy」を開発 阪大ほか

赤ちゃんロボット「M3-neony」(上)と集団コミュニケーションロボット「M3-synchy」(下)

赤ちゃんロボット「M3-neony」(上)と集団コミュニケーションロボット「M3-synchy」(下)

赤ちゃんロボットと集団コミュニケーションロボットを開発−認知発達研究の普及型ヒト型ロボット・プラットフォームを実現−.

大阪大学 大学院工学研究科の浅田稔教授らは、人間とロボットの認知発達研究のための普及型ヒト型ロボット・プラットフォームとして、赤ちゃんロボット「M3-neony(エムスリー・ネオニー)」と、集団コミュニケーションロボット「M3-synchy(エムスリー・シンキー)」を開発したと発表した。

「M3」はManmade (Wo)man(人造人間)に由来する。neonyは新生児(neonate)に、synchyは複数のロボットの同調(synchronize)による 円滑なコミュニケーションをイメージした。

ロボットを用いた人間の認知発達メカニズムの理解に用いるための研究プラットフォームとしてのヒト型ロボット。ヒト型であり、運動性能と感覚機能を備えたロボットであり、ロボットに関する専門知識が少ない研究者でも容易に扱えることが大きな特徴だとしている。汎用モーターや制御マイコンを採用したことで、保守性と開発容易性を備え、ロボットへの専門知識が少ない研究者でも容易に実験することが可能だという。

「M3-neony」

赤ちゃんロボット「M3-neony」は、赤ちゃんの発達過程でみられる「身体バブリング(赤ちゃんの発達過程でみられる運動学習の1つ。体をランダムに動かすことで筋肉の動きや身体部位の構成との関係性を認識し獲得していくこと。音声バブリングにちなんで、このように呼ばれる)」による運動学習や、身体接触を伴う介助による学習などを研究することが可能だという。

2007年と2008年のロボカップ世界大会のヒューマノイドリーグで優勝したVstone社を中心とした「TeamOsaka」の「VisiON-4G」を元にしたロボットで、身長は人間の新生児と同程度の大きさの約50cm、重量約3.5kg。22個のモーター、頭部に2個のカメラ(CMOS 30万画素)と2個のマイクロフォン、胴体に2軸ジャイロと3軸加速度、全身に90個の触覚センサーを持つ。

既存の小型ヒューマノイドと比べると、豊富なセンサーを持たせたことを特徴としている。バックパックはあるものの、高性能モーター(最大トルク41kgf・cm、回転速度0.14s/60°)により、乳幼児の複雑で強力な動きを模倣させることが可能だという。

各種センサーは乳幼児の知覚をなぞらえており、顔や物体、音声、接触などを認識させて身体バブリングによる運動学習や、身体接触を伴う養育者の介助に基づく学習など、さまざまな認知発達研究ができるという。

「M3-synchy」

集団コミュニケーションロボット「M3-synchy」は、複数のロボットと人間の間の言語的・非言語的コミュニケーションを研究することが可能で、特に視線行動によるコミュニケーション実現に適した機能を備えているという。

身長約30cm、重量約2.3kgの車輪移動型の小型ロボットで机上で使える。17個のモーター、頭部に広角レンズ付きCCDカメラ(33万画素、水平画角約120度)1、マイクロフォン2、出力装置としては全身に15個のLEDと、胴体部にスピーカーを持つ。

身振りや表情(視線と口の動き)、LEDによる頬の紅潮、スピーカーによる発話のほか、カメラとマイクロフォンによる顔や物体認識、音声認識などが可能。

これまでの卓上用の小型ロボットと比較すると、眼球に3自由度、首に3自由度、腰に2自由度と、非言語コミュニケーションに重要な自由度を豊富に持っているとしている。

言語的・非言語的な様式によるコミュニケーション、特にアイコンタクトなどの視線行動による集団コミュニケーションを実現することで、社会的コミュニケーション能力の学習・発達などの研究を行えるという。

ロボットの動作はWindowsPC上のモーションエディタによって作成する。OSはない。デバイスのアクセスに特殊なドライバなどを必要としないため、ユーザーが自由な環境でモーターの制御およびセンサー情報処理プログラムを開発することができるため、研究者それぞれの研究目的に合わせた学習プログラムの設計が可能だとしている。

動画は、
47ニュース 大阪大が赤ちゃん型ロボット開発
で見られる。

また、浅田氏らの研究に興味がある方は、
インプレス「Robot Watch」に掲載された

人・ロボットの社会的発達を研究するための子供型ロボット「CB2」
〜「浅田共創知能システムプロジェクト」を訪ねて
http://robot.watch.impress.co.jp/cda/column/2007/08/03/584.html

も合わせてご覧頂ければ幸いである。

この人この世界 2008年12月-2009年1月 (NHK知るを楽しむ/月)
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講談社
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