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メスらしさのはじまり「HIBOTAN」遺伝子群の発見 ゲノム解読が明かすメスとオスへの進化

ゲノム解読がはじめて明かすメスとオスへの進化 – プレスリリース – 東京大学 大学院理学系研究科・理学部.

東京大学大学院理学系研究科生物科学専攻 准教授の野崎久義氏、奈良女子大学 特任助教の西井一郎氏、東京大学大学院理学系研究科生物科学専攻 博士課程3年の浜地貴志氏、元東京大学大学院理学系研究科 外国人客員共同研究員・現米国ソーク研究所 客員研究員のPatrick Ferris氏、ソーク研究所 助教授のJames Umen氏らは、緑藻類ボルボックスのゲノム解読から、メスまたはオスだけがもつ複数の遺伝子群を明らかにしたと発表した。

特にメス特異的な「HIBOTAN」遺伝子群の発見は、メスが「性の原型」そのままではなく、そこから進化するためにメスらしさをもたらす新たな遺伝子の獲得が必要であったことを強く示唆しているという。

緑藻類ボルボックス(Volvox carteri )の無性生殖の群体。次の世代の16個の娘群体が親群体の中につくられている。娘群体は孫世代をつくる大きな細胞を分化させている。西井一郎撮影。

緑藻類ボルボックス(Volvox carteri )の無性生殖の群体。次の世代の16個の娘群体が親群体の中につくられている。娘群体は孫世代をつくる大きな細胞を分化させている。西井一郎撮影。

「性」が原始の生物で誕生して以来、合体する2個の配偶子が、未分化で同じ大きさの「同型配偶」(単細胞藻類、粘菌類など)から、次第に大型で運動能力のない「卵」に小型で運動能力のある「精子」が受精する「卵生殖」(ボルボックス、高等動植物など)へと進化したと推測されている。だが「メスらしさ」と「オスらしさ」が原始の性からどのように進化したかはこれまで明らかでなかった。

2006年に研究グループは卵生殖するボルボックスの仲間(プレオドリナ)で、オス特異的遺伝子「OTOKOG I」を発見した。そして「メス」が同型配偶の性の原型(プラス交配型)から、「オス」は性の派生型(マイナス交配型)からそれぞれ進化したことを明らかにした。

同型配偶の交配型とメスとオスとの進化的な対応関係はついたものの、雌雄の配偶子が未分化な同型配偶の交配型から卵と精子をつくるメスとオスがどのような遺伝子を獲得して進化したかは、明らかではなかった。また、メスは「性の原型」から進化したものであり、高等動植物ではメスのゲノムに特異的な遺伝子が認められない、または稀であることから、同型配偶のプラス交配型からメスを進化させたと考えられるメス特異的な遺伝子は存在しない可能性もあった。

高等動物や陸上植物に近縁な生物では同型配偶のものが現存しないので、メスとオスの進化研究には不向きである。しかし、緑藻類のボルボックスやプレオドリナのような群体性ボルボックス目の生物では、同型配偶から卵生殖まで様々な様式の有性生殖が知られており、有性生殖の進化研究のモデル生物群と研究グループは考えている。群体性ボルボックス目に極めて近縁な同型配偶の単細胞緑藻クラミドモナスで性の分子遺伝学的研究が進展していることも、これらの生物群の利点だという。

群体性ボルボックス目の進化の模式図。細胞数の増加と共に非生殖細胞が分化・増大、並びに雌雄性の発展的進化が観察される。系統関係はこれまでの我々の分子系統学的研究に基づく。

群体性ボルボックス目の進化の模式図。細胞数の増加と共に非生殖細胞が分化・増大、並びに雌雄性の発展的進化が観察される。系統関係はこれまでの我々の分子系統学的研究に基づく。

同型配偶の生物では配偶子の大きさ等に差がないために異なる性(交配型)を便宜的にプラスまたはマイナスとしている。プラスとマイナスの配偶子は合体する。

クラミドモナスではマイナス交配型がプラスに対して優性で、マイナス交配型は性特異的な「MID 遺伝子」によって決定されている。MID遺伝子の存在でプラスの性はマイナスに転換する。よって、性の原型はMID遺伝子を欠くプラス型 であり、マイナス型の性はMID遺伝子によってプラス型から派生したものと考えられる。メスとオスが分化した群体性ボルボックス目(プレオドリナ)では MID と起源を同じくする遺伝子 (PlestMID) がオスだけにあり、それが上述の「OTOKOG I」である。

MID のような交配型に特異的な数個の遺伝子は交叉による組換えが起こらない原始的な性染色体構造を構成している。従って、同型配偶からメス・オスに分化した卵生殖への進化に、このような性染色体領域の遺伝子群がどのように関連するかは進化生物学的に非常に興味深い問題であり、このため、クラミドモナスに近縁なメスとオスの配偶子(卵・精子)が分化した群体性ボルボックス目のボルボックス・プレオドリナ等の性染色体領域のゲノム解読が期待されていたという。

しかし、性染色体に局在する遺伝子は進化速度が速い。そのために探索が困難であり、ボルボックス・プレオドリナ等における性染色体領域のゲノム構造に関してはほとんど知見がなかった。

研究グループは、卵生殖のボルボックス・プレオドリナ等のメスとオスの性染色体領域のゲノム構造の解読と遺伝子群の同定と解析を行って、同型配偶のクラミドモナスの性染色体領域のそれと比較した結果、同型配偶からメスとオスを進化させた遺伝子群がどのようなものであるかが明らかとなり、性染色体領域における卵生殖を生み出した遺伝子・ゲノムレベルでの進化生物学的基盤が解明できると考えた。

卵生殖のボルボックス(Volvox carteri)は雌雄異株で、メスとオスの性が遺伝的に決定されている。今回、アメリカ側の研究グループがメス株のゲノム解読を進めた結果、メスの性染色体領域のおおまかな構造は明らかになっていた。しかし、ボルボックスのオス株に関してはゲノム解読が着手されておらず、性染色体領域に局在をするオス特異的遺伝子も同定されていなかった。

緑藻類ボルボックス(Volvox carteri )。有性生殖を誘導すると多くの卵をもつ独特のメス群体がつくられ、オス群体でつくられた精子の束が泳いできてばらばらの精子となり(右上写真矢印)入り込む。野崎久義撮影。

緑藻類ボルボックス(Volvox carteri )。有性生殖を誘導すると多くの卵をもつ独特のメス群体がつくられ、オス群体でつくられた精子の束が泳いできてばらばらの精子となり(右上写真矢印)入り込む。野崎久義撮影。

そのため、今回の日本側の研究チームは独自に開発した「縮重プライマー(単一のアミノ酸に対して可能な塩基配列すべての組み合わせの混合物からなるプライマー。目的の遺伝子の塩基配列が不明である場合に用いる)」を用いてボルボックスのオス特異的遺伝子を探索し、精子形成を誘導したVolvox carteriオス株培養液からオス特異的遺伝子「OTOKOG I」を単離した。

このボルボックスの「OTOKOG I」をマーカー(目印)としたゲノム解析の結果、オスの性染色体領域が含まれるゲノム断片を探索することに成功し、ゲノム断片の解読を端にしてオスの性染色体領域の全貌が明らかになった。また、ボルボックスのメスとオスの性染色体領域には繰り返し配列(リピート)が多く、コードされている遺伝子のアノテーション(遺伝子の機能を予測し注釈として意味付けすること)は難しかった。

だが、磁気ビーズ上に増幅したDNA断片を大量・高速・安価に配列決定する「次世代シーケンサー」を駆使した「トランスクリプトーム解析(細胞に存在するRNAの配列を網羅的に決定し、転写産物の動体を詳細に解析すること)」で、多くのメスまたはオス特異的遺伝子の存在を明らかにした。

解読されたボルボックスの性染色体領域はメスとオスのそれぞれで1.0Mb(百万塩基対)で、同型配偶のクラミドモナスの性染色体領域(0.2-0.3Mb)の約5倍に拡大していることが明らかとなった。オスの性染色体領域には “OTOKOG I”等のオス特異的遺伝子が10 個、メスの領域にはメス特異的遺伝子が5 個解読された。

同型配偶から卵生殖への進化の模式図。Nozaki et al. (2006) および今回の研究成果に基づく。

同型配偶から卵生殖への進化の模式図。Nozaki et al. (2006) および今回の研究成果に基づく。

特に5個のメス特異的 “HIBOTAN ”遺伝子群すべてが同型配偶のクラミドモナスでは認められないもので、これらの遺伝子の獲得が同型配偶のプラス交配型からメスに進化する直接的な原因となったと考えられるという。

従って、メスは単なる性の原型ではなく、メスへの進化には、メスらしさをもたらす遺伝子群の新たなる獲得が必要であったことが示唆されるという。一方、オス特異的遺伝子10個中の8個がクラミドモナスでは認められない遺伝子であり、精子を形成するオスに進化するために獲得されたことが推測されるとしている。

また、ボルボックスのメスとオスの性染色体領域に共通して存在する遺伝子の中に、両性で配列が著しく異なるものが認められた。特に細胞分裂に関係するヒトの網膜芽細胞腫のガン抑制遺伝子と相同のMAT3 遺伝子がボルボックスのオスでは遺伝子構造や発現がクラミドモナスのものと著しく異なり、細胞分裂して小さな精子を形成するというオスらしさを進化させた原因の遺伝子群のひとつであると推測された。

プラス・マイナスの同型配偶からメスとオスの卵生殖に至る進化のゲノムレベルの基盤は、両性の遺伝子が組み替えしない性染色体領域に存在する。また、性染色体領域の拡大とこの領域に局在する遺伝子の両性での特異化および性特異的遺伝子の新たなる獲得が、メスとオスへの進化に直接影響したと考えられるという。

この研究では、同型配偶からメスとオスの性をもつ卵生殖に至る進化の根本原因が両性で特異的な遺伝子群を新たに獲得したことを初めて明らかにした。

メスは同型配偶の “性の原型” から進化し、高等動植物ではメスのゲノムに特異的な遺伝子が一般的に認められないことから、メスは「性の原型」そのものだと考えられることもあった。しかし、今回のボルボックスの性染色体のゲノム解読によるメス特異的 “HIBOTAN ” 遺伝子群の発見は、メスは単なる性の原型ではなく、メスへの進化には、メスらしさをもたらす遺伝子の新たなる獲得が必要であったことを示している。このことは雌雄の性に関する根本的な概念に影響し、生物学のみならず、様々な学問分野に大きく浸透するものと思われるという。

今回、性染色体のゲノムを解読した生物は群体性ボルボックス目でメスとオスの差異が最も顕著なボルボックスであり、メスとオスが進化した直後の段階ではない。これまでの系統学的研究によると群体性ボルボックス目でメスとオスが進化したのはヤマギシエラと ユードリナの分岐の間であり、この両者の両性(交配型プラスとマイナス、メスとオス)の性染色体領域のピンポイント的ゲノム比較を実施することで、メスとオスの進化のより直接の原因となった遺伝子をあぶり出すことが可能になると考えられるという。


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オスにしかない筋肉を作り出す神経細胞を同定 ショウジョウバエで

左:ローレンス筋上のMindニューロンの末端。右:MARCM法によって染め出された神経節内のMindニューロン細胞体と樹状突起

左:ローレンス筋上のMindニューロンの末端。右:MARCM法によって染め出された神経節内のMindニューロン細胞体と樹状突起

Tetsuya Nojima, Ken‐ichi Kimura, Masayuki Koganezawa, and Daisuke Yamamoto  (2010) Neuronal synaptic outputs determine the sexual fate of postsynaptic targets. Current Biology, in press.
「シナプス前ニューロンからの出力がシナプス後細胞の性を決定する」

引用元: 雄にしかない筋肉をつくりだす脳の中の仕組みを発見 | プレスリリース | 東北大学 -TOHOKU UNIVERSITY-.

東北大学大学院の野島鉄哉 博士研究員(研究当時、大学院生)と山元大輔教授らの研究グループは北海道教育大学の木村賢一教授との共同研究で、ショウジョウバエの雄にしかない筋肉「ローレンス筋」を動かし、また作るために必須と考えられる単一の運動ニューロンをみつけ、形成過程を明らかにした。イギリスの科学雑誌『Current Biology』に近く掲載される。

生物のからだには性による違いがある。キイロショウジョウバエでは、成虫の雄にしかない一対の筋肉、「ローレンス筋」が知られており、それが形成されるかどうかは筋細胞の性ではなく、筋肉をコントロールする神経(運動ニューロン)の性が雄であるか否かで決まること、そのためには、 フルートレス(Fruitless)たんぱく質(脳神経系の雄化因子として働くタンパク質)の存在が必須であることが知られていた。

しかしその運動ニューロンそのものがどれかはこれまで不明だった。また運動ニューロンがどのようにして筋肉を「男性化」するのかも分かっていなかった。

今回、fruitless が働かなくなった変異体の雄でローレンス筋がなくなっているところに、MARCM法(細胞が分裂する際に相同染色体の間でのつなぎかえを誘発し、たまたまつなぎかえが起こった細胞だけが標識される、あるいは変異型になるようにする手法)を使って少数のニューロンにだけfruitless+を発現させ、ローレンス筋形成が回復した時にどのニューロンにfruitless+が発現していたかを特定する方法で、ローレンス筋を作り出す単一運動ニューロンを同定した。またなぜ雄にしかないのか、筋肉形成の仕組みを明らかにすることに成功した。

研究では、まず、ローレンス筋の上にある神経末端の近くに色素の詰まった極細ガラス管を置き、そこから神経に色素を取り込ませて、問題の運動ニューロンだけを標識した。その結果、筋肉と同じ側に、細胞体と一本の長い神経突起(軸索)のあるニューロンと、神経節の正中に細胞体があって両側に軸索をのばすニューロンの2種類が、ローレンス筋につながっていることがわかった。

次に、これらのニューロンにローレンス筋を作る能力があるかどうかを調べました。fruitless遺伝子の機能が失われた突然変異体の雄ではローレンス筋が欠如する。だが正常なfruitless遺伝子を遺伝子組換えによって導入し、運動ニューロンで働かせると、ローレンス筋が形成されるようになる。そこで、ローレンス筋に伸びている2種類のニューロンの一方に限定して正常型組換えfruitless遺伝子を働かせてみたところ、軸索を1本だけ持つニューロン(Mindと命名)のみがローレンス筋を作る能力を持っていることがわかった。

ローレンス筋は雄の5番目の腹部体節にだけ形成されて、雄の他の体節や雌にはない。雄の腹部第5体節以外のところや雌では、Mindニューロンが発生の途中で細胞死によって失われるためだと考えられるという。

Mindニューロンから筋肉への情報伝達は、化学物質によって担われている。Mindニューロンからの化学物質の放出を止めてしまうと、ローレンス筋は形成されない。このことから、Mindニューロンからは、収縮の司令をする物質のほかに、ローレンス筋の雄特異的な形成を支配している物質が放出されると考えられるという。

今後は、Mindニューロンから放出されてローレンス筋を作るように働きかける化学物質の本体の特定を目指す。ローレンス筋以外にも性特異的な神経の接続相手となる神経、筋肉、腺などは数多くあるという。またヒトのからだに見られる性差にもこの機構が寄与しているとすれば、発症に性差の認められる疾病の原因解明や治療への貢献が期待できるとしている。


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