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絶対零度まで凍らない量子スピン液体の熱伝導性 京都大学
6月 7th
絶対零度まで凍らないスピンの液体が示す不思議な性質を発見 — 京都大学.
“Highly Mobile Gapless Excitations in a Two-Dimensional Candidate Quantum Spin Liquid”
(二次元量子スピン液体における高易動度で ギャップのない励起)
Minoru Yamashita, Norihito Nakata, Yoshinori Senshu, Masaki Nagata, Hiroshi M. Yamamoto, Reizo Kato, Takasada Shibauchi, Yuji Matsuda
京都大学の山下穣 理学研究科助教、芝内孝禎 同准教授、松田祐司 同教授の研究グループは、加藤礼三 理化学研究所主任研究員らの研究グループと共同で、量子力学的な「零点振動」と「幾何学的フラストレーション」の効果で、絶対零度まで凍結しない「量子スピン液体」の研究を行った。
通常電気を流すものは熱を良く伝える。ところが「量子スピン液体」状態は、電気を全く流さない絶縁体だが、金属と同じくらい熱をよく伝えることを発見した。絶対零度における物質の全く新しい凝縮状態の理解へつながるという。2010年6月4日に米国科学誌「Science」に掲載された。
温度を下げると水は氷になる。温度を下げると水分子が運動エネルギーを失って、秩序を持って整列してしまうことによる。温度にはこれ以上下がらない絶対零度(-273.15℃)という温度がある。この温度ではすべての運動が完全に停止してしまうと考えられていた。ところが、ミクロな世界を支配する量子力学の法則によると、原子は絶対零度でも揺らぎながら運動することが可能となる。ということは、絶対零度でも液体のままでいることが可能であることになる。
電子はスピンと呼ばれる性質を持っている。スピンは、高温ではそれぞれバラバラな向きを向いているが(スピンの液体状態)、温度を下げるにしたがって規則的に整列、つまりミクロな磁石の極が一方向にそろったような状態ができる(スピンの固体状態)。
これまで絶対零度では、スピンは必ず整列する、つまりスピンの固体状態になってしまうと考えられてきた。しかし、スピンが幾何学的にうまく整列できない状況がある。たとえば三角形に並んだスピンが互いに異なる向きになりたい場合が挙げられる(図1参照)。このような状況は「フラストレーション」とよばれ、この関係に陥ったスピンはうまく整列することができないため、量子力学的な効果と相まって、絶対零度までスピンも液体状態にとどまることが可能だと期待されてきた。
最近になって三角格子を持つ物質が実際に合成可能になり、絶対零度でもスピンが整列しない物質が発見された。これまでの常識を覆すものであり「量子スピン液体」と呼ばれ、最近大きな注目を集めているという。
図1:スピンの整列とフラストレーション。スピンの強磁性秩序(a)、反強磁性秩序(b)と三角格子におけるフラストレーション(c)。電子のもつ磁気的性質であるスピンは磁石のN極とS極のように向きを持ち、図にあるように矢印で表すことができる。物質によって (a)のように一方向に整列する性質(強磁性秩序)や、(b)のように反対向きに整列しようとする性質(反強磁性秩序)を持つ物質など様々なものが存在する。互いに反対向きになりたい場合、(b)のような四角格子ではうまく整列することができるが、(c)のような三角格子の場合、異なる向きと隣り合うスピンがあるためにどちらにも向けなくなるフラストレーションが発生する。
今回の京都大学のグループは、理化学研究所の加藤主任研究員によってつい最近発見された量子スピン液体状態を持つ有機物質(図2参照)を絶対零度近くまで冷却し、量子スピン液体がどのように熱を伝えるかを調べた。通常、金属中では電子が自由に動き回ることが可能で、この電子が熱も運んでくれるため、金属はよく熱を伝える。それに対して、プラスチックや布のような絶縁体では、電子が流れないために熱はほとんど伝わらない。
2。EtMe3Sb[Pd(dmit)2]2を横から見た図(a)。Pd(dmit)2分子の作る層を上から見たのが(b)の図で、二量体化したPd(dmit)2分子が三角格子を組んでいる。青い矢印は量子スピン液体状態におけるスピンの模式図。二量体化したPd(dmit)2分子が三角格子を組む物質。隣り合うスピンの間の力がほぼ等しく、ほぼ正三角形になっている。”]![三角格子を持つ有機化合物EtMe3Sb[Pd(dmit)2]2 図2:三角格子を持つ有機化合物EtMe3Sb[Pd(dmit)2]2。EtMe3Sb[Pd(dmit)2]2を横から見た図(a)。Pd(dmit)2分子の作る層を上から見たのが(b)の図で、二量体化したPd(dmit)2分子が三角格子を組んでいる。青い矢印は量子スピン液体状態におけるスピンの模式図。二量体化したPd(dmit)2分子が三角格子を組む物質。隣り合うスピンの間の力がほぼ等しく、ほぼ正三角形になっている。](http://moriyama.com/node/wp-content/uploads/2010/06/02.jpg)
しかしながら今回の研究で「量子スピン液体」は絶縁体であるにもかかわらず、金属に匹敵するほど熱を良く伝えることが発見された(図3参照)。
図3:金属、絶縁体、量子スピン液体における熱の流れ。金属においては自由に動きまわる電子が熱を運ぶが、電子が動けない絶縁体の中では電子は熱を運べない。量子スピン液体物質は絶縁体で電子は全く動けないにもかかわらず、スピンがあたかも金属中の電子のように良く熱を運ぶことが明らかになった。
この性質は、スピン液体状態のスピンが、単にランダムな方向を向いた普通の液体状態ではなく、全く新しい量子力学的な液体状態であることを意味しているという。
量子スピン液体状態の特異な性質を実験的に明らかにすることに成功したことで、絶対零度近くにおける物質の新しい凝縮状態の理解へつながると考えられるという。また量子スピン液体状態は、超伝導と密接な関係を持っていることも指摘されており、新しい超伝導発現機構の解明にも役立つと考えられる。
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磁気的性質の違う量子ドットを使って、電子スピンの向きによる電流制御デバイスが可能に スピンに依存した電子の透過・捕獲現象を1個1個の電子で初観測
3月 30th
磁性の違う2種の人工原子で、スピンに依存した電子の透過・捕獲に成功|2010年 プレスリリース|理化学研究所.
理研基幹研究所河野低温物理研究室の大野圭司専任研究員、台湾交通大学物理学部の林志忠教授、国立大学法人東京大学工学部および独立行政法人科学技術振興機構国際共同研究量子スピン情報プロジェクトの樽茶清悟教授、NTT物性基礎研究所の都倉康弘研究員らは、磁場を発生するコイルの中に、異なる材料でできた2つの半導体人工原子(量子ドット)を電極間に並べて設置し、一定磁場の下で電圧を変化させると、電子スピンの向きに応じて、人工原子内を電流が流れたり(電子が透過したり)、流れなかったり(電子が捕獲されたり)する新しい現象を発見した。アメリカの科学雑誌『Physical Review Letters』オンライン版(4月1日付け:日本時間4月2日)に掲載される。
電子スピンのエネルギー差は磁場の強さに比例して大きくなる。この比例定数を「g因子」と呼ぶ。固体中の電子スピンのg因子の値は、構成する母体材料の種類で決まる。半導体人工原子の作製に適したガリウムヒ素(GaAs)やインジウムヒ素(InAs)などの化合物半導体は、その組成を変えることでg因子を変化させられる。
研究グループは、たった電子1個しか占有できないほどの極小デバイスとして、インジウムガリウムヒ素(InGaAs)でできた人工原子1つと、 GaAsでできた人工原子1つを考案して、ソース電極−絶縁体−InGaAs人工原子−絶縁体−GaAs人工原子−ドレイン電極というサンドイッチ構造の半導体人工分子素子を作製し、極低温の磁場中に設置した。
それぞれの人工原子には1つのエネルギー軌道準位があり、磁場を加えると、上向きスピン準位と下向きスピン準位の異なる準位に分裂する。ソース・ドレイン電極間に印加する電圧を変えて、これら2つの準位の相対的な位置を制御することで、半導体人工分子素子が特定のスピンを持つ電子を1個ずつ透過させたり捕獲したりする現象を発見した。この現象を利用すると、スピンに依存した新しい電流制御が可能になるため、将来の半導体スピントロニクスや電子スピンを用いた量子情報処理への応用が期待できるとしている。
少数の電子を微小な空間に閉じこめることのできる半導体人工原子は、電気的な測定により、人工原子内部の電子の挙動を知ることができるため、基礎科学・応用の両面から注目を集めている。中でも、GaAs 、InAs、AlAsなどのIII−V族化合物半導体からなる合金は組成を変えることで、合金中の電子スピンの磁気的性質(g因子)が変化する特徴を持つ。
g因子が異なる材料を薄膜絶縁体の両側に配置して電極で挟んで電圧を加えると、トンネル電流により電子を人工原子から別の人工原子に移動させることができる。移動する電子スピンの向きは、「入れ物」である人工原子の性質で決まる。結果として電子の磁気的性質を電気的に変化させることができる。これまでの実験は、10億個程度の電子スピンの集団が、ほとんど向きがばらばらな状態でg因子の異なる領域を行き来しているだけで、個別の電子を観察することはできなかったが、今回は、1個の電子に着目し、磁場中にある人工原子内での挙動について詳細に観察することができた。
研究グループは、ソース電極−絶縁体−InGaAs人工原子−絶縁体−GaAs人工原子-絶縁体−ドレイン電極の順に積層した構造を、直径約 500nm(1nmは10億分の1m)の円柱状に加工した。それぞれの人工原子の厚さは約10nmで、g因子の値は、InGaAs人工原子の場合が−0.89、GaAs人工原子の場合が−0.33と異なる。
積層構造の模式図。ドレイン電極から順に各素子を積層し、ソース電極まで蒸着したところで500nmの円柱状に加工した。
この円柱の周囲にゲート電極を設置し、負電圧を加えることで電子を円柱の中心付近に閉じ込めるようにした。ゲート電極に−1V程度の電圧を加えると、人工原子中の電子の居場所を、直径約30nm、高さ10nmとさらに極小の領域に限定できる。そのため、たった1個の電子だけを閉じ込めることができる半導体人工分子素子を作製することができた。
この半導体人工分子素子を、0.1ケルビンの極低温の環境下で、最大15テスラの磁場を発生するコイルの中に設置。一定磁場の条件のもと、ソース・ドレイン電極間に数十mVの電圧を加えて、ソース電極から透過した電子が、2つの人工原子の上向きスピン準位や下向きスピン準位を透過して、ドレイン電極まで到達する電流の様子を測定した。
積層構造を円柱状に切り出し、ゲート電極をつけた人工分子素子。上:試料の光学顕微鏡写真(左)と電子顕微鏡写真(右)。中央に見えるのが直径500nm の円柱。実際にはそこから幅200nmの補強梁が2方向(右上と左下方向)に伸びている。図右の左上から右下に伸びる明るい部分はゲート電極。下:人工分子素子の模式図。
2つの人工原子には、それぞれ1つのエネルギー軌道準位があり、ソース・ドレイン電極間に加える電圧を変化させて、各人工原子の軌道準位のエネルギーを相対的に調整することができる。磁場の無い状態では、ある特定のソース・ドレイン電圧で、各人工原子の軌道準位のエネルギーが一致するため、電流のピークを1つだけ測定できる。
磁場がない場合の素子のエネルギー図と電流・電圧特性の模式図。2つの人工原子の軌道準位がちょうどそろうとき、電子がソース電極からドレイン電極に移動できる。このとき、素子の電流・電圧特性に電流のピークが現れる。
これはソース電極から絶縁膜を通ってInGaAs人工原子へ透過した電子が、そのスピンの向きに関係なく、次のGaAs人工原子へ透過し、最後はドレイン電極へ到達したことを意味する。一方、磁場を印加した状態でこの測定を行うと、このような電流が流れないことが分かった。
そこで、電流の磁場依存性を測定し数値シミュレーションと比較したところ、興味深い現象が起こっていたという。
磁場を加えると、人工原子の各軌道準位が異なる大きさに分裂して、上向きスピン準位、下向きスピン準位を持つ。このとき、各人工原子のg因子の値が違うため、ソース・ドレイン電極間に加える電圧を変化させて、例えば下向きスピン準位を一致させても上向きスピン準位は一致しない。同様に、上向きスピン準位を一致させても、下向きスピン準位は一致しない。すなわち、電子が持つ上下2つの向きのスピンのうち、前者は下向きスピンの電子だけ、後者は上向きスピンの電子だけしか通り抜けることができない。
しかし、ソース電極からは、上下どちらかの向きのスピンを持つ電子がランダムに透過する。下向きスピン準位が一致した状態で、もし下向きスピンの電子が透過すれば、その電子は透過してドレイン電極まで到達するが、ひとたび上向きスピンの電子が透過すると、上向きスピン準位の不一致により、その電子は次のGaAs人工原子へ透過することができず、InGaAs人工原子内に捕獲される。人工原子内には1個の電子しか占有できない。そのため、次の電子がソース電極から透過しようとしても、電子間のクーロン反発により透過することはできない。従って、その後の電子の流れは遮断されたままとなる。
同様に、上向きスピン準位が一致した状態では、ソース電極から下向きスピンの電子が透過すると、その電子はInGaAs人工原子内に捕獲され、電流の流れは遮断される。つまり、透過する電子のスピンの向きに依存して、電子の透過・捕獲が行われるという新しい電流制御現象が現れることを発見した。
磁場を加えた場合の素子のエネルギー図と電流・電圧特性の模式図。磁場を印加すると、人工原子の軌道準位は上向きスピン準位(下側)と下向きスピン準位(上側)に分裂する。ソース・ドレイン電圧を変化させて下向きスピン準位をそろえても(a)、上向き準位がそろわないため、下向きスピンの電子しかドレイン電極まで到達できない。ひとたび上向きスピンの電子がInGaAs人工原子内に捕獲されると、その後の電流は流れなくなる。同様に、上向きスピン準位をそろえても(b)、下向き準位がそろわないため、上向きスピンの電子しかドレイン電極まで到達できない。ひとたび下向きスピンの電子がInGaAs人工原子内に捕獲されると、その後の電流は流れなくなる。
この研究では、たった電子1個しか占有できないほどの大きさで、異なるg因子を持った個々の人工原子を、空間的に複数並べた系を作ることができた。半導体人工分子素子の電子輸送を明らかにしたことから、将来の半導体スピントロニクスや電子スピンを用いた量子情報処理への応用が期待されるという。
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「スピン流」を使って絶縁体に電気信号を流すことに成功 東北大学 発熱によるエネルギーロスなし
3月 12th

絶縁体に電気信号を流すことに成功 省エネデバイスに新展開 | 受賞・成果等 | 東北大学 -TOHOKU UNIVERSITY-.
東北大学金属材料研究所の齊藤英治教授らは、慶應義塾大学 大学院理工学研究科修士課程2年の梶原瑛祐(ようすけ)氏、東北大学金属材料研究所の前川禎通 教授と高梨弘毅 教授、FDK社との共同で、電子のスピンを用いて絶縁体に電気信号を流す方法を発見した。イギリスの科学雑誌「Nature」3/11日号に掲載される。
通常、絶縁体には電気は流れない。だが電気信号をスピンに変換して「磁性ガーネット結晶」と呼ばれる絶縁体へと注入し、絶縁体中を「スピンの波」として伝送して再び電気に変換することによって、絶縁体中も電気信号を伝送できることを発見した。
しかも絶縁体の中をジュール熱の発生なしに信号を流せるため、発熱によるエネルギーロスの問題を根本的に解決しうる。よってこの電気信号伝送は、省エネルギー技術へも応用できるという。
電子は「電荷」と「スピン」の2つの性質を持つ。これまでのエレクトロニクスでは電荷を利用して来たが、今回の研究では、スピンを使うことで「スピン流」という形で絶縁体にも電気信号を流すことができることを利用した。
絶縁体である磁性ガーネット薄膜の高品質表面に2つの白金(Pt)電極薄膜を付けて精密な電気測定を行い、一方の白金電極に流した電流が絶縁体を介して、離れたもう一方の白金電極に電圧を発生させることを発見した。この電気信号伝送は、磁場を加えることで容易にスイッチオン・オフする。
この現象は、白金電極中の電流が「スピンホール効果」と呼ばれる固体中の相対論効果によって電子スピンの流れ(スピン流)を生み出し、これが磁性ガーネット中をスピンの波として伝わり、このスピンの波がもう一方の白金電極中でスピンホール効果により電圧に変換されたものと考えられるという。磁性ガーネットなどの磁性を持った絶縁体は、電流は通さないがスピンの波は通す物質であることがポイントだとしている。
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