Posts tagged エピジェネティクス

生殖細胞ゲノムを利己的遺伝子から守る蛋白質 京都大学

“]01

(写真左)マウス精巣の外観。Tdrd9遺伝子欠損(右、KO)では正常(左、WT)と比べて精巣が明らかに萎縮する。(写真中央)正常マウス精巣の組織切片では矢印で示す成熟精子が多数観察される。(写真右)Tdrd9遺伝子欠損マウスの精巣では成熟精子は全く形成されず、矢頭で示す細胞死が広範に観察される。[Developmental Cell 17, 15 Dec 2009

米科学誌ディベロップメンタル・セルに掲載された。

京都大学 再生医科学研究所助教の中馬新一郎氏、同 物質-細胞統合システム拠点(iCeMS=アイセムス)教授の中辻憲夫氏らの研究グループは、ゲノムDNAデータベースの探索により生殖細胞で特異的に発現する「Tdrd9」遺伝子を発見し、その遺伝子を欠損したマウスを作出。マイクロアレイ実験、次世代型超高速シークエンス、プロテオミクス解析等を組み合わせてTdrd9遺伝子が生殖細胞の発生分化とゲノム恒常性に与える影響を解析した。その結果、Tdrd9遺伝子を失うと雄特異的に不妊になることが分かった。雄生殖細胞でレトロトランスポゾン「LINE-1」の発現が異常に亢進してゲノムがひろく損傷を受け、その結果、アポトーシスによる細胞死が引き起こされて精子細胞が全く形成されずに不妊になる。

哺乳類のゲノムのうち、蛋白質をコードする遺伝子領域は約1%程度で、その他、約半分近く (40-50%)は転移性遺伝子であるトランスポゾンの繰り返し配列が占めている。トランスポゾンには、ゲノム上を転移する「DNA型トランスポゾン」と RNAを介して増幅、転移を行う「RNA型レトロトランスポゾン」とがある。「RNA型レトロトランスポゾン」が活性化すると、ゲノムの様々な部位に高い 頻度で挿入が起こり、突然変異や染色体不安定性等を通じて細胞の性質が変化して様々な疾患の原因となる。

特に生殖細胞でレトロトランスポゾンが増幅、転移すると、本来の遺伝情報が変化して子孫に伝わるため、発生異常や遺伝病が起こる危険性が高くなる。このため、生殖細胞をレトロ トランスポゾンから守るしくみは個体の発生や種の維持に重要な働きをしていると考えられる。

レ トロトランスポゾンを抑える分子メカニズムは、DNAメ チル化による転写抑制と、低分子RNAを介したRNA干渉の2種類の経路が分かっていたが、それぞれの経路で働く遺伝子はよく分かっておらず、それらと DNAメチル化、RNA干渉が協調して働くメカニズムの解明も進んでいなかった。

LINE-1レトロトランスポゾンは、ゲノム中に約50万コピー存在する。Tdrd9遺伝子欠損マウスではそれが制御できなくなる理由は、LINE-1のmRNAを低分子RNAであるpiRNAに転換するRNA代謝経路に異常がおき、それに伴って、LINE-1転写活性を制御するゲノム領域の抑制的DNAメ チル化が外れることが原因だ。TDRD9蛋白質はpiRNA生合成に主要な役割を持つ「MIWI2蛋白質」と結合し、「TDRD9-MIWI2複合体」を作る。この複合体は同じようにレトロトランスポゾン抑制に重要な機能を持つ「TDRD1-MILI蛋白質」と協調して、レトロトランスボゾンを安定に抑制して生殖細胞のゲノムを守る重要な働きを持つことが明らかとなった。

レトロトランスポゾンは白血病や癌等の原因となるレトロウィルスと機能が似ていることから、この研究成果はレトロウィルス活性を抑える新たな手法の研究開発に繋がる可能性があるとしている。またトランスポゾンの転移活性を人為的 にコントロールできるようになればモデル動物作出にも使える。また低分子 RNAをとおして起こるエピジェネティクス修飾の変化は、ゲノムの機能発現を操作するための有効な手法の一つとして注目を集めている。

転写制御とエピジェネティクス

著者/訳者:加藤 茂明

出版社:南山堂( 2008-12 )

定価:¥ 5,880

Amazon価格:¥ 5,880

単行本 ( ページ )

ISBN-10 : 4525131314

ISBN-13 : 9784525131319


ニューロン数が制御される仕組みの一端が明らかに

東京大学分子細胞生物学研究所の平林祐介氏らは、神経幹細胞がニューロン産生を止める時期の決定に、「ポリコーム分子群」が役割を果たしていることをマウスを使った実験で明らかにした。米科学誌Neuronに発表した。

神経細胞のネットワークを正確に構築するためには、素子であるニューロンの数の制御が重要になる。ニューロンは発生期の一時期に「神経幹細胞」から作られる。その期間が長過ぎるとニューロンが過剰になり、短ければニューロンが不足する。そのタイミングが「ポリコーム分子群」によって制御されていることが明らかになった。

神経幹細胞は発生が進むとニューロンを生み出す能力を失い、グリア細胞のみを産出するようになる。ところがポリコーム分子群を構成する分子を無くした神経幹細胞は、発生が進んでも過剰にニューロンを生み出し続けた。

今回の成果は、幹細胞が様々な細胞を産み出す仕組みの解決に繋がり、また将来、ニューロンが失われる疾患に対する幹細胞を使った治療の実現にも貢献する可能性があるという。

引用元:ポリコームタンパク質群は大脳皮質神経系前駆細胞のニューロン分化能を抑制し、ニューロン産生期からアストロサイト産生期への転換を促進する

Neuron 63, 5, 600 – 613 (2009).

Get Adobe Flash playerPlugin by wpburn.com wordpress themes