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F1シミュレーター「フェラーリ・バーチャル・アカデミー」発売 国際 web トーナメントに参加可能

フェラーリが国際 web トーナメントに参加可能なF1シミュレーター「フェラーリ・バーチャル・アカデミー」を公開し、発売したとのこと。F10 のドライビング感覚をバーチャルで体験できるという。

Car Watchの記事によれば、

価格は「フィオラーノ・サーキット」が14.90ユーロ、「ムッジェッロ・サーキット」「ニュルブルクリンク・サーキット」が各9.90ユーロ。

 対応OSはWindows 7(32bit/64bit)/Vista/XP。対応する入力機器は、キーボード、マウス、ジョイパッド、ジョイスティック、ステアリングホイール/ペダルなど。

 同社F1チームの2010年マシン「F10」を再現した、PC用オンライン・シミュレーター。ドライバーのトレーニングに使われるシミュレーターを、誰もがオンラインで楽めるようにすべく公開された。開発には同チームのドライバーであるフェルナンド・アロンソ、フェリペ・マッサ、ジャンカルロ・フィジケラ3選手と、同チームのエンジニアが参加した。

 シミュレーターには空力やタイヤ、シャシー、サスペンションの特性や挙動が盛り込まれたほか、F10のコックピットやステアリングが忠実に再現されている。またヘルメットに取り付けられたカメラの映像で、ドライバーが受ける路面や重力の影響を体験できる。

フェラーリのリリースはこちらです。これによれば

ヘルメットに取り付けられたカメラを使い、ドライバーによって撮影したビデオを分析することで、ドライバーがコース上で受ける加速度によるストレスや、フォーミュラ・マシンをドライブする時に受ける首の筋肉への負荷を再現。

 サーキットでの実車の F10 およびバーチャルなテレメトリック・データの動的モデルを比較し、レーザー・スキャニングによって再現することで、それらが一致することを確認しました。シミュレーション・ラップの分析はコーナーごとに行い、ドライビングの感触とコントロールの反応が現実的になるように動的な挙動を修正しました。1000 Hz の周波数で処理を行うエンジンが、ドライビングにおける車輌にかかる力をミリ秒単位で計算を行うことで可能となりました。

以前テレビ番組で、若いドライバーの卵の人が、テレビゲームでも意外と練習になるといってゲームをやってるシーンが紹介されていました。実際のサーキットで走るよりもはるかに安価にすむので、カネがない人だとそういうトレーニングにならざるを得ないという面もあるわけですが、素人がゲームをやるのとはまた違った感覚を、実際のサーキットを走った人たちならば受け取っているのかもしれないなあと思いました。

今回のようなシミュレーターは、そういう人たちには大きな朗報なのかもしれませんね。各種特性がリアルにシミュレートされている点を活かせるかどうかは本人の技量次第でしょうし。


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二足歩行ロボット用物理演算シミュレーション ソフト「Go Simulation!」発売

Go Simulation! パッケージ

Go Simulation! パッケージ

推奨動作条件
OS Windows(R) XP SP2以上, Windows(R) VISTA 要.Net Framework 3.5
CPU Pentium(R) 4/Celeron D(R) 2GHz相当以上
グラフィック OpenGL(R)1.5以上対応GPU又はチップセット
解像度 1024×768以上
メモリ 256MB以上空き
HDD 100MB以上空き
ネットワーク インターネット接続

株式会社テクノロードは、二足歩行ロボット用物理演算シミュレーションソフトウェア「Go Simulation!」を9月18日に発売すると発表した。 価格は税込18,000円で、同社直販のほか、一部ロボットショップなどで販売する。

同社ウェブサイトからは動作確認用として機能が制限された無料デモ版をダウンロードできる。また後日、SimulinkやLabVIEWなどの産業用解析ソフトや、C++言語でライブラリ(DLL)を作る機能などを追加した大学や研究機関向けの「プロフェッショナル版」を発売予定としている。

「Go Simulation!」は物体の運動や接触、摩擦等をシミュレートする物理演算を行って、ロボットの動きを計算する。バランスを崩すと転倒したり、障害物を倒すといった現実世界に近い動作を専門的な知識なしで簡単に操作し、シミュレーションできる。物理演算API には、Open Dynamics Engineを採用している。

株式会社テクノロード「GoSimulation!」プレスリリース

「Go Simulation!」には市販されている二足歩行ロボットキット(近藤科学製の「KHR-3HV」、「KHR-2HV」、「KHR-1HV」、株式会社エイチ・ピー・アイ・ジャパン製の「G-ROBOTS」)のモデルデータが付属しているほか、設計エディタでロボットの寸法・質量・関節・サーボモータなどを細かく設計でき、実在のロボットやアニメのロボットなど、好きなロボットでシミュレーションを行うことができる。また3D CGソフトやCADソフトで作成したロボットのポリゴンデータを取り込み可能(STLファイル形式とXファイル形式の一部に対応)。

株式会社テクノロード「GoSimulation!」プレスリリース

モーション作成はロボットのポーズをタイムラインに並べることで行う。上級者向けとして、ロボットの行動制御をスクリプト言語で記述する機能もある。

また「ゲームモード」を持ち、2台のロボットでのバトル対戦や、障害物コースを走るタイムトライアルで遊べる。シミュレーション結果は動画としてAVI形式で保存できる。テクノロードの公式ページにて新しいロボットデータやステージデータを配布する予定としている。

株式会社テクノロード「GoSimulation!」プレスリリース

「Go Simulation!」は、二足歩行ホビーロボット大会「ROBO-ONE」の、シミュレーション大会「ROBO-ONE on PC」の公式ソフトウェアとして採用されている。株式会社テクノロードの代表取締役の杉浦氏は「ROBO-ONE on PC」での優勝経験を持っている。



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東大 先端研と富士通、スパコンでがんの再発・転移治療薬の開発へ

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ニュース(詳細) | 東京大学 先端科学技術研究センター.

東京大学 先端科学技術研究センター(先端研)と富士通株式会社は共同で、がんの再発・転移治療薬の開発に活用するスーパーコンピュータシステムを構築し、2010年8月1日より稼働を開始させたと発表した。

世界で初めて、がん細胞の一部である抗原(タンパク質)と抗体(タンパク質)との相互作用を分子動力学によりシミュレーションし、人工抗体の設計を行う。この手法ではIT創薬で一般的なコンピュータを活用した低分子とタンパク質との相互作用のシミュレーションと比較すると、約10倍の量の計算が必要となるため、短期間でシミュレーションを行えるスーパーコンピュータを導入した。

システムは富士通のブレードサーバ「PRIMERGY BX922 S2」によるPCクラスタ型のスーパーコンピュータ。300ノードで構成し、理論ピーク性能は38.3テラフロップス(1テラフロップスは毎秒1兆回の浮動小数点演算速度)。先端研における、がんの再発・転移を治療する「ゲノム抗体医薬品」設計のためのコンピュータシミュレーションに活用される。

最先端研究開発支援プログラム「がんの再発・転移を治療する多機能な分子設計抗体の実用化」のための研究開発は、先端研の児玉龍彦教授が中心となって推進しているプロジェクトで、ゲノム解読成果を基にしたがんの「ゲノム抗体医薬品」を、コンピュータシミュレーションを駆使することで設計し、臨床試験・治療を開始することを目指している。

抗体医薬品の研究開発には、

・1990年代からの動物実験により作った抗体医薬品をヒト型化し人間に適用できる抗体をつくる第一世代、

・2000年代からのがんに直接作用して放射線などによって治療できる抗体をつくる第二世代

があるが、今回の研究開発は、

・スーパーコンピュータによるシミュレーションを活用して抗体医薬品の基本構造の設計を行い、将来、日本で発生率の高いがん(肺、大腸、胃、肝臓、膵臓、前立腺、乳腺)や、再発・転移した進行性がんに対しても副作用の少ない画期的な第三世代

の抗体医薬品による治療ができることを目的としている。

このシステムの活用により、従来の実験による研究開発プロセスでは3〜4年間かかっても実現が難しいとされていた人工抗体の設計を、わずか数ヶ月で行えることを目的としているという。また将来は、この成果を元に、次世代スーパーコンピュータ(京速コンピュータ「京」)を活用して、さらに多くの抗体医薬品の開発を行うことを目指す。


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数原子層の金属酸化物薄膜表面上で単一水分子の移動や化学反応の制御に成功 金属酸化物超薄膜を用いた「機能性触媒」の創成に期待

数原子層の金属酸化物の薄膜表面上で、化学反応の選択制御に初めて成功|2010年 プレスリリース|理化学研究所.

独立行政法人理化学研究所の基幹研究所 表面化学研究室の申炯畯(Hyung-Joon Shin)客員研究員、鄭載勲(Jaehoon Jung)研修生、本林健太研修生、川合真紀理事(元主任研究員)、Kim 表面界面科学研究室の金有洙准主任研究員、国立大学法人大阪大学大学院工学研究科の森川良忠教授、柳澤将博士研究員らは、銀単結晶の上に形成した数原子層の酸化マグネシウム(MgO)薄膜の表面上で、単一水分子の移動や化学反応を選択的に制御することに成功し、その反応メカニズムを解明したと発表した。『Nature Materials』オンライン版(4月18日付け:日本時間4 月19日)に掲載される。

絶縁体で化学的に不活性な金属酸化物の1つであるMgOの薄膜が、金属や金属酸化物のバルク(固まり)にはなかった新しい反応経路を提供することを発見した。さらに、それらの反応経路の選択的制御を単一分子レベルで実現した。

具体的には原子レベルの分解能を有する走査型トンネル顕微鏡(STM)の探針から、薄膜表面上に吸着した水分子にトンネル電子を注入。水素原子を1つ取り出す反応と2つ取り出す反応、さらには単一水分子自体の移動を選択的に引き起こすことに成功した。将来、触媒反応機構の全容解明や高機能触媒の創成へ向けて、STM技術が大きく貢献する可能性があるという。

金属、半導体、絶縁体などの物質は、ナノメートル(nm:1nmは10-9m)サイズになると、バルク(固まり)とは違う特異な性質を現わす。例えば、化学的に不活性(安定)な金が、直径数nmのナノ粒子になると、ほかの貴金属触媒を上回る触媒活性を持つ。また、絶縁性の物質は、通常は電気を通しませんが、厚さを数nm以下に薄くすると、トンネル現象と呼ぶ量子力学的効果を発現し、わずかに電流を流すようになる。そのため、ナノレベルの微細材料による新機能発現を目指した研究が世界中で行われている。

同様に触媒開発でも、金属酸化物を薄膜化して新しい機能を発現する触媒の探索に注目が集まっている。高機能化を目標に設計する触媒では、触媒粒子の大きさが小さくなればなるほど、触媒上で起きている現象の微視的な理解が不可欠となる。特に絶縁体である金属酸化物薄膜の触媒活性は注目され始めたばかりで、薄膜化によって生まれた新しい触媒活性を示した例も報告されているが、原理については、分子レベルではまだ十分に分かっていないという。

研究チームは、化学的に不活性で絶縁性が優れていることから、磁気デバイスやディスプレイなどの材料に幅広く使われ、その結晶構造も塩化ナトリウムと同じ単純な立体構造をした酸化マグネシウム(MgO)を活用し、その薄膜化がもたらす新しい性質を調べた。

まず、原子レベルの精度で膜厚を制御した MgO薄膜を形成するために、格子定数(結晶格子の大きさと形を決める定数。銀は4.15オングストローム(Å)、酸化マグネシウムは4.20Å。)の値が近い銀の単結晶表面上に、酸素雰囲気中でマグネシウムを気化して蒸着させた後、 4.7K(摂氏−268.45℃)の極低温下で水分子を付着させた。

図1 銀単結晶表面上に作成したMgO薄膜の様子。(a)原子二層分のMgO薄膜のSTM像。(b)MgO薄膜の上に吸着した水分子のSTM像。(c)シミュレーションによって得たMgO薄膜と吸着した水分子の構造モデル図(左が薄膜上から見た図、右が横から見た図)。格子定数が近いため、銀原子とマグネシウム原子が重なっている。(赤丸;酸素原子 白丸;水素原子 青丸;マグネシウム原子 灰丸:銀原子)

図1 銀単結晶表面上に作成したMgO薄膜の様子。(a)原子二層分のMgO薄膜のSTM像。(b)MgO薄膜の上に吸着した水分子のSTM像。(c)シミュレーションによって得たMgO薄膜と吸着した水分子の構造モデル図(左が薄膜上から見た図、右が横から見た図)。格子定数が近いため、銀原子とマグネシウム原子が重なっている。(赤丸;酸素原子 白丸;水素原子 青丸;マグネシウム原子 灰丸:銀原子)

この薄膜表面の化学活性を水分子の分解反応に着目して調べた。原子レベルの空間分解能を持つ走査トンネル顕微鏡(Scanning Tunneling Microscope: STM)を利用することで、薄膜表面上を詳細に観察するとともに、トンネル電流として注入する電子のエネルギーと数を制御しながら、個々の水分子で分解反応を起こすなどして、化学反応の速度の解析を行った。

STMの探針から水分子に電子を注入すると、水分子は分解反応を起こす。この反応は、銅などの金属表面上でも観測され、その際に必要な電子の注入エネルギーは1 エレクトロンボルト(eV)以上である。

研究チームは、この水分子の分解反応を、MgOの薄膜上で引き起こした場合、金属や金属酸化物のバルクとは違って、0.45 eVのエネルギーで反応が起こることを発見した。

このことは、金属表面上では、水分子が電子的に励起されて反応を起こす一方、MgO薄膜上では、電子によって励起された分子振動が反応を引き起こすためだと考えられるという。MgO薄膜上では、水分子の振動寿命が長くなる。そのため、分子振動が励起されている間に次の電子がさらに振動を励起する「振動の多段励起」という新しい経路による反応が可能となったとしている(図 2d)。

図2 振動励起を介した水分子の分解反応の様子。(a)MgO薄膜上に吸着した水分子のSTM像(反応前)。(b)MgO薄膜上の水分子の分解生成物のSTM像(反応後)。(c)シミュレーションにより得られた分解生成物の構造モデル図。(赤丸;酸素原子 白丸;水素原子 青丸;マグネシウム原子)(d)振動の多段階励起により反応障壁を越え、反応するエネルギーダイヤグラム

図2 振動励起を介した水分子の分解反応の様子。(a)MgO薄膜上に吸着した水分子のSTM像(反応前)。(b)MgO薄膜上の水分子の分解生成物のSTM像(反応後)。(c)シミュレーションにより得られた分解生成物の構造モデル図。(赤丸;酸素原子 白丸;水素原子 青丸;マグネシウム原子)(d)振動の多段階励起により反応障壁を越え、反応するエネルギーダイヤグラム

さらに研究チームは、電子の注入エネルギーを1.5 eV以上に上げた場合には、金属表面上で起きていた現象と同様、電子的な励起を介した反応が起きることを確認した。

反応前後のSTM像を、理研のスーパーコンピュータ・システム「RICC(RIKEN Integrated Cluster of Clusters)」を利用して、第一原理電子状態計算法(実験結果に頼らないで、量子力学の基本原理から分子や結晶の性質を計算する方法)に基づくシミュレーション結果と比較したところ、振動励起を介した反応では水分子から水素原子が1つ抜けるのに対し、電子励起を介した反応では水素原子が2つ抜けることが分かった。

また、電子のエネルギーは0.45 eVのままで、トンネル電流の値(電子の注入頻度)を5ナノアンペア以下にした場合、水分子は分解せずに表面上を移動する現象が起こることも分かった。

このように水分子への電子の注入頻度やエネルギーを調節することによって、分子の移動・分解の制御、さらには分解反応の生成物を制御できるようになったという。

図4 振動励起を介した水分子の移動の様子。(a)MgO薄膜上に吸着した水分子が移動する前のSTM像。(b)STMから1つの水分子に電子を注入する様子。 (c)1つの水分子が移動した後のSTM像。

図4 振動励起を介した水分子の移動の様子。(a)MgO薄膜上に吸着した水分子が移動する前のSTM像。(b)STMから1つの水分子に電子を注入する様子。 (c)1つの水分子が移動した後のSTM像。

今後は、膜厚の変化が薄膜の化学活性にどう影響するかや別の金属酸化物や化学反応に対する活性を調べる。新機能の触媒や触媒の設計指針の確立が期待できるという。


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触覚の予測と定量化に向けた基礎技術を開発 NECと宇都宮大学

指先のシミュレーション図

指先のシミュレーション図

引用元: 触感覚の予測、定量化に向けた基礎技術を開発(2010年4月9日): プレスリリース | NEC.

NECは宇都宮大学と共同で、CTとMRIによる指先の測定と、指の構成要素の挙動予測を組み合わせることで、指先が物に接触して変形する度合いを高精度にシミュレーションする技術を開発したと発表した。

今日では機器の小型化・機能向上に加えて、長時間装着しても違和感がなく、スイッチの押し心地などインターフェースにも配慮した設計が重要になっている。人体の変形を高精度に予測し、人の感覚との相関をとることで、心理的要因を定量化し、使い心地の良い機器を効率的に開発するために用いる。今後はさらに分析を進め、触り心地や持ち心地の定量化を行い、携帯端末やウェアラブル機器におけるインターフェース開発への利用を目指す。

これまで、被験者モニターによらずに人体の変形量を予測するためには、特定の部位の形状や構成要素を、単純化して解析する有限要素法が取られてきた。しかし、この方法では、人体内部までの正確な形状の測定や、外的な刺激による部位の動きや影響の伝播などの正確なシミュレーションは困難だった。

今回開発された技術では、宇都宮大学の人体測定技術と、NECの長年に渡る携帯端末などで培ってきた解析ノウハウにより、高精度の変形予測を実現したとい う。

指先解析図

指先解析図

まず宇都宮大学と共同で、CT画像により皮膚・皮下組織・指骨を、MRI画像により皮下組織の脂肪組織を識別し測定する手法を開発した。高精度なCTを用い、MRI装置のスライス面を指に対し垂直になるよう微調整を加えながら撮影することで、より詳細な測定を実現したという。

さらにこの測定技術を用いて識別した指の構成要素をそれぞれ、指骨・爪を剛体、皮下組織・皮膚を弾性体、脂肪組織を弾性流動体に分類した。これらを1ミリ四方で分割した指先の部位に割り当て、測定データを元に分類ごとの特性を考慮しながら、全体としてどのような挙動を示すか予測する。これにより、実際の指の変形に近い高精度なシミュレーションを実現したという。


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構成論的アプローチに基づく「社会的知能発生学」研究用シミュレーションプラットフォーム「SIGVerse」が公開へ

パネルディスカッションの様子

公開シンポジウムでのパネルディスカッションの様子

人間やロボットの知能の原理に迫ることを目的として身体と環境との物理的相互作用や進化の役割等を探求している研究会である社会的知能発生学研究会は、3月24日、開発を続けていた構成論的アプローチに基づく「社会的知能発生学」研究用シミュレーションプラットフォーム「SIGVerse(シグバース)」を発表・公開し、国立情報学研究所で記者会見と公開シンポジウムを行った。ここでは、公開シンポジウム内で行われた国立情報学研究所の稲邑哲也氏による発表のメモを記事形式にしてお伝えする。

社会的知能発生学研究会は認知科学、発達、脳科学、複雑系など人や動物からヒントを得ながら、ロボットやシミュレーションなどを用いた構成論的・計算論的アプローチに基づいた議論を展開している研究者たちの集まり。「SIGVerse」とは、身体的・物理的相互作用のシミュレーション、社会的相互作用のシミュレーションを繋げらることを目指した基盤ソフトウェア・プラットフォームである。

「構成論的アプローチ」とは、対象を作って動かして、結果を見て検証する過程を通して理解する手法である。ただ単にシミュレーションしたり真似てみたりして終わりではない。現実と同じような結果に到達するに至った本質を理解することが目的である。知能の理解だけではなく、進化の過程のような一回しか起きなかった現象の理解にも有用だと考えられている。

たとえばミツバチの知能を理解するというミッションを考える。ミツバチは8の字ダンスの角度そのほかで、花の位置を伝える。ミツバチはどうやって8の字ダンスに情報をエンコードしているのか。構成論的アプローチでは仮想的な知覚機能と処理機能を持ったエージェントを作り、仮想世界のなかにバラ撒いてシミュレーションを行う。

またロボットを道具として使った人間の発達メカニズムを理解しようという「認知発達ロボティクス」も構成論的アプローチの一つである。発達・学習・知能のモデルを人工物の中に埋め込み、環境のなかで動かし、その挙動から、モデルの新たな理解を目指す。

ただ仮説を見出すのも難しく仮説の正しさを示すのも難しい。また実機を使うには負荷が高い。そもそも、大規模かつ複雑な世界での実験や、長期間にあたる連続実験はほとんど不可能である。そのため、シミュレーションによる実験が不可欠である。ではどうすればシミュレーションが容易に実行出来るか。

シミュレーションには二つの技法があるというのが研究会の意見だという。一つ目は「リアリスティック・シミュレーション」。もう一つは「構成論的シミュレーション」である。気象シミュレーションやフライト・シミュレータ、細胞内の分子の挙動のシミュレーションなどは「リアリスティック・シミュレーション」である。これに対して構成論的シミュレーションとは、ローレンツモデル、自己増殖オートマトン,チューリングパターン,チューリングマシーン、レスラーモデル,結合写像系などのことを指す。自然界そのものをシミュレーションするのではなく、自然界の裏に隠れている可能性があるモデルをシミュレーションするのが構成論的シミュレーションだという。

原理が分かっているものを正確に数値計算するのが「リアリスティック・シミュレーション」、原理がわからず、原理と因果関係を知りたいときに行うのが「構成論的シミュレーション」であり、「仮説的推論」を行うときに有用なアプローチであると稲邑氏は述べた。

また二つのシミュレーションを繋げられるようなシミュレータ環境があれば、研究を大きく進めることができるかもしれない。また身体的・物理的相互作用のシミュレーション、社会的相互作用のシミュレーションを繋げられることができるような基盤ソフトウェア・プラットフォームがあれば、「社会的知能発生学研究」を進めることができる。

そのような考えで作ったのが社会的知能発生学研究用のシミュレーションプラットフォーム「SIGVerse」である。社会を構成する多数のエージェント群、身体性に基づく視聴触覚、複雑な環境を扱え、自分の開発した知能エージェントを任意の場所のシステムから仮想世界に接続可能な枠組みなどを持ち、様々な研究分野を持つユーザが、目的別に容易に使うことのできるソフトウェアデザインとなっているという。

想定している応用例としては、

  • 人間のコミュニケーションモデルを考慮した言語進化シミュレーション
  • 社会的コミュニケーションを必要とするロボット知能の設計
  • 赤ちゃんの学習発達モデルのシミュレーションによる検討
  • 霊長類、昆虫等の社会的動物の行動モデルの解明を目指した構成論的研究
  • ロボットエージェント間のコミュニケーションに基づく学習・発達
  • パラレルワールドの並列シミュレーションによる比較・検討機能
  • 政治・経済等のマクロな社会シミュレーションへの展開

などを視野に入れているという。

シミュレータは実際には、力学計算や物理現象をシミュレーションする「物理・力学シミュレータ」、エージェントの知覚をシミュレーションする「知覚シミュレータ」、そして情報伝搬のスピード制御や視線情報などを管理する「コミュニケーション・シミュレータ」の3つを統合しているという。アプリケーションとしてはサッカーロボットのシミュレーションなどを考えているそうだ。

Second Life」や「OpenSimulator」と似ているのではないかとも思えるが、「Second Life」では物理シミュレーションや自律エージェントの設計は難しい。「Open Simulator」は知覚のシミュレーションが難しい。

Cyberboticsの「Webots」や、マイクロソフトの「Robotics Studio」、Player/Stage/Gazeboなどでも、コミュニケーションの物理的制約のシミュレーションが難しく、また知覚シミュレーションの粒度の階層性がないことが問題だという。「OpenHRP」はマルチエージェント環境が実行しにくくまた知覚シミュレーションが視覚に限定されているという制限がある。社会シミュレーションシステムにもArtificial Societyのマルチエージェントシミュレータ「artisoc」や、エージェントシミュレーション用言語「SOARS」などがあるが、物理的な認知やコミュニケーションの制約を記述することが困難だという。

「SIGVerse」の物理力学シミュレーションのエンジンには「ODE」を使用し、知覚シミュレーション中、高次、低次の3段階の情報が得られるようになっているという。声が距離や環境によって伝わりにくかったり、視線情報のコントロールや状態取得もできる。ソフトウェアは、センターのサーバーとクライアントに分かれている。ユーザーはクライアントの中からエージェントコントローラーを使ってロボットを制御する。そしてそれをセンターサーバに投げる。そうするとエージェントがインタラクションを始めるという仕組みだ。APIも公開される。C++で開発が可能だ。

稲邑氏は仮想世界のなかでお好み焼きをヒューマノイドと人間が一緒に焼くというサンプルプログラムを示した。「SIGVerse」は力学演算と知覚シミュレーションとコミュニケーションの統合シミュレータとしては世界初であり、知覚の粒度の制御ができること、物理的制約に基づくコミュニケーション、サーバクライアント形式によってマルチエージェントで実行出来るという。

今後については、柔らかい素材や筋骨格系モデルによるロボットエージェントの実装、構成論的にシミュレーションのモジュール化、再利用化が今後の課題であると述べてまとめた。様々な領域がフィードバックをかけあい、相互的に螺旋階段を登るように進化していける研究が発信できればと考えているという。

またその後に行われたパネルディスカッションのなかで奈良先端科学技術大学院大学 情報科学研究科 情報生命科学専攻の柴田智広氏は、「VR型SNS」みたいなものになるといいのではないかと考えているという。「SIGVerse」を多くの人が使うことで、人間の社会行動のサンプリングが可能になる。それを行動DBとして、ロボットや人工知能エージェントが記号接地やその擦り合わせのトレーニングを行う。

なお現状のサーバのスペックは、ヒューマノイド型のエージェントを10台くらいキッチン内で動かすシミュレーションを実行すると固まるくらいのレベルだそうだ。ただしコンピュータリソースが潤沢に使える時代はすぐに来ると考えているため、稲邑氏はまったく悲観していないと述べた。

国立情報学研究所のプレスリリース


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バーチャル試着や段ボールマネキンロボが登場 大阪でのロボット実証実験 

ロボットポータル-ロボナブル-2010.02.17 フルタニ産業、短時間で複数店舗の衣服をコーディネイトして試着できるシステム公開.

「ロボナブル」によれば2月16~21日の日程で、大阪「ロボットラボラトリー」がショッピングモール・クリスタ長堀で行っている実証実験で、バーチャル試着システムや、段ボール製マネキンロボットが登場したとのこと。


フルタニ産業の試着シミュレーションシステム「魔法の鏡」。
10月から販売予定とのこと。

イーガーの段ボール製マネキンロボット「D+ropop(ディーロポップ)」。
ファッションデザイナー大江瑞子氏デザインの洋服を着用して登場。


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理研とKEKほか、RHICで4兆度を実現 「完全液体」の温度を直接測定

米・重イオン衝突型加速器「RHIC」で、4兆度の超高温状態を実現|2010年 プレスリリース|理化学研究所.

独立行政法人理化学研究所BNL研究センターと大学共同利用機関法人高エネルギー加速器研究機構(KEK)を中心とする研究グループは、米国ブルックヘブン国立研究所(BNL)との国際共同研究で「相対論的重イオン衝突型加速器(RHIC)」を使って、金の原子核同士を限りなく光速に近い速度で衝突させ、約4兆度の超高温状態を初めて実験室で実現することに成功した。この高温状態では、元素の構成要素である陽子・中性子が融けて、クォーク・グルーオンからなる新物質相「クォーク・グルーオン・プラズマ(QGP)」になっているという。

4兆度は、太陽中心温度の10万倍も高く、宇宙をつくる元素を構成する陽子や中性子を融かして、クォーク・グルーオンからなるプラズマを生み出すために必要な温度よりも高温。これまでに実験室で実現していた温度としては最高だという。

RHIC(BNL提供) 世界初・唯一の衝突型重イオン加速器で、世界初・唯一の偏極陽子衝突加速器。

RHIC(BNL提供) 世界初・唯一の衝突型重イオン加速器で、世界初・唯一の偏極陽子衝突加速器。

宇宙創成直後の数十万分の1秒の間は「クォーク・グルーオン・プラズマ(QGP)」と呼ばれるクォークとグルーオンからなるプラズマ状態が存在して、宇宙を満たしていたと考えられている。その後、宇宙は冷えて、クォークやグルーオンは陽子や中性子に凝縮し、今日の宇宙をつくる物質(原子核や原子、それらの集まった星や惑星)ができ上がったという。逆に、超高温状態では陽子や中性子は溶けてクォーク・グルーオン・プラズマになると考えられる。

「格子ゲージ理論(陽子や中性子を構成する素粒子であるクォークおよびグルーオンの間の「強い相互作用」を計算するのに用いられる理論。空間を格子状に分割して、そこにクォークやグルーオンを配置し、その間の相互作用を計算機シミュレーションする。格子ゲージ理論の計算機シミュレーションには膨大な計算量が必要で、数千個のCPUを持つ超高速並列型専用計算機で数カ月にわたる計算を行う)」という理論計算方法を用いた大規模計算機シミュレーションで計算すると、このクォーク・グルーオン・プラズマを実現するのに必要な温度は約2兆度であると推定されている。

米国ブルックヘブン国立研究所(BNL)にある「相対論的重イオン衝突型加速器(RHIC)」では、金原子核などの重い原子核同士を、光速に近い速度まで加速して衝突させることで、この宇宙初期の高温・高密度状態を再現する実験を行っている。2000年のRHIC稼動開始後から実施してきたPHENIX実験の結果、RHICでの金原子核同士の衝突は、非常に高密度の物質を生み出していることが分かっていた。

PHENIX実験に用いる装置(BNL提供)  縦、横、長さがそれぞれ10m、10m、20mくらいあり、総重量3000トンの測定器。数十の測定器システムからなる。右上の図はビーム軸方向から見た図。ビームは、図の中心付近にある丸の真ん中で衝突する。衝突の結果生じる粒子を、その左右にある「西中央アーム」と「東中央アーム」で測定する。金+金の正面衝突の場合は、それぞれのアームに数百個の衝突発生粒子がはいるが、それを同時に測定することができる。右下の図はビーム軸の横から見た図で、右上の図の右側、東中央アームの方向から見た図。ビームは測定器の右側と左側から飛んできて、その中心で衝突する。中央アームはこの図では紙面の手前と奥にあるので描かれていない。この図で左右に描かれている南ミューオンアームと北ミューオンアームは、衝突から発生する「ミュー粒子」という透過性の強い素粒子を測定する。左下の写真は、右下図と同じ方向から見た実物の写真。左上は、2個の中央アームの写真。この写真では、東中央アームは保守・点検のために通常の位置から外側に引き出されている。建設費は約100億円で、日本からの参加機関がこの測定器全体の約 3分の1を作っている。

PHENIX実験に用いる装置(BNL提供) 縦、横、長さがそれぞれ10m、10m、20mくらいあり、総重量3000トンの測定器。数十の測定器システムからなる。右上の図はビーム軸方向から見た図。ビームは、図の中心付近にある丸の真ん中で衝突する。衝突の結果生じる粒子を、その左右にある「西中央アーム」と「東中央アーム」で測定する。金+金の正面衝突の場合は、それぞれのアームに数百個の衝突発生粒子がはいるが、それを同時に測定することができる。右下の図はビーム軸の横から見た図で、右上の図の右側、東中央アームの方向から見た図。ビームは測定器の右側と左側から飛んできて、その中心で衝突する。中央アームはこの図では紙面の手前と奥にあるので描かれていない。この図で左右に描かれている南ミューオンアームと北ミューオンアームは、衝突から発生する「ミュー粒子」という透過性の強い素粒子を測定する。左下の写真は、右下図と同じ方向から見た実物の写真。左上は、2個の中央アームの写真。この写真では、東中央アームは保守・点検のために通常の位置から外側に引き出されている。建設費は約100億円で、日本からの参加機関がこの測定器全体の約 3分の1を作っている。

RHICが生み出した高密度物質は、それまで考えられていたような「自由な」クォークやグルーオンからなる気体ではなく、その構成粒子が非常に強く相互作用をしている液体だという。この高密度物質は、ほとんど粘性ゼロの流体のように振る舞う。粘性ゼロの流体を「完全流体」と呼ぶことから、RHICで生み出した高密度物質は「完全液体」と呼ばれる。「完全液体」の性質を解明する上では温度の測定が重要だが、これまで直接的な測定は実現できていなかった。

衝突初期に発生する光子は高温物質から熱的に放射されるため「熱的光子」と呼ばれる。熱的光子の発生量とエネルギー分布は、衝突初期の温度とその後の時間発展を反映しているため、熱的光子を測定することで、衝突初期の温度を直接的に測定することが可能になる。しかし、金原子核同士の衝突では熱的光子を隠すバックグランド(雑音光子)が発生するため、熱的光子の測定は非常に困難だった。

研究グループは、高エネルギーの光子の一部が電子と陽電子対に変換することを利用して、熱的光子を雑音光子から分離し、その発生量とエネルギー分布を測定することに成功した。質量とエネルギーの関係式E=mc2に従って、光子(エネルギー)は物質(電子・陽電子対)に変換される。光子が電子・陽電子対に変換する割合は、理論により正確に計算することができるため、光子自身ではなく、電子・陽電子対を測定することで、もとの光子の発生量を求めることができる。

こうして求めた、熱的光子の発生量とエネルギー分布を、理論予想と比較することで、反応初期の高温物質の温度を推定した結果、理論計算から求められたクォーク・グルーオン・プラズマへの転移温度である約2兆度をはるかに超える、4兆度程度と推定された。

高密度物質の初期温度の測定  (右図)高温の物質は光を出す。その光の色(エネルギー分布:γ、γ*)と発生量から温度が分かる。高エネルギーの光子の一部は、電子(e−)と陽電子(e+)に変換する。  (左図)もしRHICで生成した物質が熱平衡に達していれば、そこからは「熱的光子」が出ているはずである。熱的光子を捕捉できれば、初期温度を決定できる。理論予想によれば、光子横運動量pT(光子のエネルギー)が1GeV/cから3GeV/cの間の直接光子の多くが、クォーク・グルーオン・プラズマ相からの熱的光子になる。摂動QCDとあるのは、クォークとグルーオンの散乱で生じる光子で、この成分は量子色力学(QCD)の摂動計算理論で計算でき、かつ陽子+陽子散乱でも発生する。光子のエネルギーが約3GeV以上では、この摂動QCD成分が熱的光子より多くなると予想される。また、1GeV以下では、クォーク・グルーオン・プラズマが冷えた後にできるハドロンガスから発生する光子の量が、クォーク・グルーオン・プラズマからの熱的光子よりも多くなる。従って、光子エネルギーが1GeVから 3GeVの間では、クォーク・グルーオン・プラズマからの熱的光子がほとんどになる。

高密度物質の初期温度の測定 (右図)高温の物質は光を出す。その光の色(エネルギー分布:γ、γ*)と発生量から温度が分かる。高エネルギーの光子の一部は、電子(e−)と陽電子(e+)に変換する。 (左図)もしRHICで生成した物質が熱平衡に達していれば、そこからは「熱的光子」が出ているはずである。熱的光子を捕捉できれば、初期温度を決定できる。理論予想によれば、光子横運動量pT(光子のエネルギー)が1GeV/cから3GeV/cの間の直接光子の多くが、クォーク・グルーオン・プラズマ相からの熱的光子になる。摂動QCDとあるのは、クォークとグルーオンの散乱で生じる光子で、この成分は量子色力学(QCD)の摂動計算理論で計算でき、かつ陽子+陽子散乱でも発生する。光子のエネルギーが約3GeV以上では、この摂動QCD成分が熱的光子より多くなると予想される。また、1GeV以下では、クォーク・グルーオン・プラズマが冷えた後にできるハドロンガスから発生する光子の量が、クォーク・グルーオン・プラズマからの熱的光子よりも多くなる。従って、光子エネルギーが1GeVから 3GeVの間では、クォーク・グルーオン・プラズマからの熱的光子がほとんどになる。

直接光子の測定結果  測定した電子対の量を直接光子の発生量に換算した。3種類の金+金衝突での光子発生量(▲、●、■) は、陽子+陽子衝突での発生量(▼)より多い。(▲、●、■)の違いは、金原子核の衝突の仕方の違いで、●はほぼ正面衝突した場合、■は少し中心が外れた衝突をした場合、▲は●、■を含むすべての衝突の平均に対応する。点線は、それぞれの場合について、陽子+陽子衝突で発生する光子の量をスケールしたもので、データ点は3GeV以下では点線より上にあることから、金+金衝突では陽子+陽子衝突より多くの光子が発生していることが分かる。赤い点線は初期温度を約4兆度とした理論計算による光子の発生量。理論計算の予想がデータをほぼ再現することから、初期温度は4兆度程度と推定できる。

直接光子の測定結果 測定した電子対の量を直接光子の発生量に換算した。3種類の金+金衝突での光子発生量(▲、●、■) は、陽子+陽子衝突での発生量(▼)より多い。(▲、●、■)の違いは、金原子核の衝突の仕方の違いで、●はほぼ正面衝突した場合、■は少し中心が外れた衝突をした場合、▲は●、■を含むすべての衝突の平均に対応する。点線は、それぞれの場合について、陽子+陽子衝突で発生する光子の量をスケールしたもので、データ点は3GeV以下では点線より上にあることから、金+金衝突では陽子+陽子衝突より多くの光子が発生していることが分かる。赤い点線は初期温度を約4兆度とした理論計算による光子の発生量。理論計算の予想がデータをほぼ再現することから、初期温度は4兆度程度と推定できる。

今後、さらに技術的改善を行い、クォーク・グルーオン・プラズマをより詳細に研究し、初期温度や粘性といった基本性質を精密に測定する。そして、創成直後の宇宙の状態や素粒子の基本相互作用の1つである「強い相互作用」とその理論である量子色力学(QCD)の性質の解明に挑む。


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分子素子間の電子伝導パスを明らかに 分子エレクトロニクスの基礎となる成果 東北大

分子間伝導

電子が隣の分子… | 受賞・成果等 | 東北大学 -TOHOKU UNIVERSITY-.

東北大学多元物質科学研究所の米田忠弘教授らは、「アルカンチオール自己組織化膜」の分子で伝導経路の解析を行い、電流が分子骨格に沿って流れるだけでなく、分子から分子に飛び移るパスを持っていることを明らかにした。分子エレクトロニクスの基礎となる伝導経路について明確な検証を行った最初の研究だという。

代表的な電子材料であるシリコンではバンドと呼ばれる結晶中の自由電子による伝導が中心と考えられているが、有機分子では電子は偏って存在し自由電子のような伝導は期待できず、電気伝導はホッピングと呼ばれる電子が飛び移る伝導機構による場合が多いと考えられている。だが分子内のどこをどのように電流が流れるかも分かっていなかった。

研究グループは電流が伝導の道筋で分子の振動を励起していくことを利用し、電流に含まれている分子振動の様子を精密に取り出す「電流の非弾性分光」という手段を用いた。振動エネルギーは正確に決まっているので、伝導電子がしきい値以上のエネルギーを持たないと振動を引き起こせない。そしてエネルギーの上下で電流にわずかな流れやすさの差が出る。その変化から分子振動のエネルギーと強度、さらには電流がどのような経路で伝導するかの情報を得ることができるのだという。

研究グループは、良く規定された分子を用いた実験と、精度の高いシミュレーションによって、高い精度で分子の振動解析を行った。そして、分子の骨格を伝導する「Intra-moleculeモード」という伝導経路だけではなく、分子から分子へ飛び移るIntra-moleculeモードを考えないといけないことを明らかにした。

分子を流れる電流を解析することで得られる分子振動分光が理論シミュレーションと一体化することで、電流が分子のどこを流れているのかという、従来まったく手のつかなかった領域に正確な情報を得られることが分かったという。

今回の研究は、分子伝導の計算技術が十分発展しており、分子中の伝導現象をシミュレーションできるレベルにあることを示したもの。分子振動による分子の分析は、分子エレクトロニクスの材料開発で一般に用いられるようになると予想されるという。

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地球外核の対流構造に円筒状の帯状流を発見 地球シミュレータ

外核内の対流構造。北極側から見た赤道面上の、渦度の回転軸方向成分を表す。赤が正、青が負の値を示している。(a)は低粘性モデルの場合。対流構造はある距離まで、動径方向に細長く伸びた、空間スケールの小さいシート状の構造を示す(実線の矢印部分)が、そこから対流構造が大きく変化し、経度方向に沿った構造が卓越した、空間スケールの大きい構造が形成されている(破線の矢印部分)。(b)より粘性が高い場合のモデル。a.で見られるような、2重対流構造は見られない。

外核内の対流構造。北極側から見た赤道面上の、渦度の回転軸方向成分を表す。赤が正、青が負の値を示している。(a)は低粘性モデルの場合。対流構造はある距離まで、動径方向に細長く伸びた、空間スケールの小さいシート状の構造を示す(実線の矢印部分)が、そこから対流構造が大きく変化し、経度方向に沿った構造が卓越した、空間スケールの大きい構造が形成されている(破線の矢印部分)。(b)より粘性が高い場合のモデル。a.で見られるような、2重対流構造は見られない。

プレスリリース<JAMSTECについて<独立行政法人海洋研究開発機構.

独立行政法人海洋研究開発機構(JAMSTEC)地球内部ダイナミクス領域の宮腰剛広研究員と国立大学法人神戸大学大学院工学研究科の陰山聡教授らは、地球シミュレータを用いた計算機シミュレーションにより、地球外核の新しい対流構造を発見したと発表した。

これまでに分かっていたシート状の形をした動径方向の流れ成分が卓越する構造よりもマントルに近い領域で、ほとんど経度方向(西向き)の成分しかもたない帯状の流れが卓越する構造。地球磁場生成のメカニズムの解明に向けた基盤的なシミュレーション研究として大きな一歩であると言えるという。2月11日付けの英国科学雑誌ネイチャーに掲載された。

地球表面から深さ約3000km〜5000kmの部分は外核と呼ばれ、数千度で溶融状態になった流体鉄が主な成分と考えられており、対流していると考えられている。地球は磁場を持っているので、流体鉄がその中を対流運動によって動くと電流が流れる。その電流が元々ある磁場を強めるように流れれば、このサイクルを繰り返す事で磁場は散逸されず維持出来るようになる。地球外核内で起電力を発生させ地球磁場を維持する機構の事を「地球ダイナモ」と呼ぶ。

地球ダイナモの詳しいメカニズムはよく分かっていない。特に地球外核は粘性率が低く、流体運動をシミュレーションしようとすると、より高い解像度が要求されるので、計算の困難さは飛躍的に増大しているのが現状だという。

研究グループは独自に考案した「インヤン格子(球を合同な二つの部分(「イン」と「ヤン」)に分け、それらを別々に計算し、相補的に組み合わせることで球全体を解くという格子系。野球の硬球が二つの合同な布を組み合わせて作られているのと似ている)」という新しい計算格子を使用し、地球シミュレータを用いて、これまでで最も高解像度で地球ダイナモの計算機シミュレーションを行った。

その結果、これまでたくさんの円柱状の渦の集まりになると考えられていた地球外核の対流構造は、カーテンのように薄いシート状であることが明らかになっていた。

今回、さらに高解像度シミュレーションを行った結果、外核の対流構造はシート状のものだけでなく、特徴の違う2種類の流れから成る2重対流構造を形成する事が分かった。

外核の中でも内核により近い領域では、動径方向の流れ成分が卓越し、細い上昇と下降運動が交互に並ぶ流れ(3次元的にはシート状の流れ)が形成されるのに対し、マントルにより近い領域では、経度方向の流れ成分が卓越し、西向きの帯状流れが形成される事が分かった(図2)(3次元的には、帯状の流れが南北に一様に形成されているという、円筒状の構造になる(図3)。

図2. 低粘性モデルの場合の、流れ場の様子。特徴の異なる2種類の流れから成る2重対流構造が形成されている。(a)北極側から見た赤道面上の流れの様子を、色のついた矢印の集合で表したもの。中心の白い球は内核。(b) a.での白い実線枠内を拡大したもの。マントルに近いこの領域では西向きの経度方向の流れが卓越している事が分かる。(c) a. の破線枠内を拡大したもの。内核に近いこの領域では、動径方向の向きの流れが卓越している。

図2. 低粘性モデルの場合の、流れ場の様子。特徴の異なる2種類の流れから成る2重対流構造が形成されている。(a)北極側から見た赤道面上の流れの様子を、色のついた矢印の集合で表したもの。中心の白い球は内核。(b) a.での白い実線枠内を拡大したもの。マントルに近いこの領域では西向きの経度方向の流れが卓越している事が分かる。(c) a. の破線枠内を拡大したもの。内核に近いこの領域では、動径方向の向きの流れが卓越している。

図3. 対流の3次元構造。図の上方向が北極側を、下方向が南極側を表す。赤と青の面はそれぞれ、渦度の回転軸方向成分の正、負の値の等値面を表す。図1aの、赤、青に対応している。図1で赤道面で見ると細く絞られた流れに見えていたものが、3次元的には回転軸方向に構造がほとんど変化しない、薄いシート状の流れになっている事が分かる。黄色い線は流線を表す。シート状流の外側では経度方向の流れ(帯状流)が卓越し、シート流をぐるりと取り囲むような流れが形成されている事が分かる。シート流と同様に、回転軸方向には流れ構造はほとんど変化せず、3次元的には円筒状の帯状流が形成されている。

図3. 対流の3次元構造。図の上方向が北極側を、下方向が南極側を表す。赤と青の面はそれぞれ、渦度の回転軸方向成分の正、負の値の等値面を表す。図1aの、赤、青に対応している。図1で赤道面で見ると細く絞られた流れに見えていたものが、3次元的には回転軸方向に構造がほとんど変化しない、薄いシート状の流れになっている事が分かる。黄色い線は流線を表す。シート状流の外側では経度方向の流れ(帯状流)が卓越し、シート流をぐるりと取り囲むような流れが形成されている事が分かる。シート流と同様に、回転軸方向には流れ構造はほとんど変化せず、3次元的には円筒状の帯状流が形成されている。

また、マントルにより近い領域は空間スケールの大きい流れが支配的であるのに対し、内核に近い領域ではスケールの小さい流れが支配的であり、かつ流れが大きく、強いダイナモ(発電機)作用が生じることが分かった。このような帯状の流れを伴う2重対流構造は、今回行った低粘性の領域において特に顕著に現れてくることも分かった。

地球磁場は、太陽からの荷電粒子の高速流(太陽風)や、宇宙線と呼ばれる高エネルギー粒子が地球の大気に直撃するのを防ぐ役割も果たしており、地球環境と密接な関係がある。地球表層環境とマントル活動、マントル活動と地球中心の流体核(外核)はお互いの境界を通じて関係し合っており、地球内部の動的挙動(ダイナミクス)を統一的に理解する上でも外核の挙動の解明は重要だという。今後は、地球中心核にある対流運動だけでなく、それらの運動とマントル活動がどのように関係し合っているかなど、地球内部の動的挙動(ダイナミクス)の解明に向けて研究を進めていくとしている。

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