物理学

生体-人工分子ハイブリッド系による人工光合成システムを使った高感度光センサーを開発 東大

生体光合成系コンポーネントと金ナノ粒子を分子接続した高感度光センサー – プレスリリース – 東京大学 大学院理学系研究科・理学部.
東京大学大学院理学系研究科 化学専攻の西原寛教授のグループは、東京理科大学の井上康則教授グループ、名古屋大学の中里和郎教授グループと共同で、生体光電変換システムである光化学系I(PSI)に人工分子ワイヤーを差し込み、金ナノ粒子へ接続することで人工光合成システムを開発した。さらにこの生体-人工分子ハイブリッド系に2種の界面活性剤を添加することによって水溶液中の金ナノ粒子上への電子の蓄積を可能にし、光電変換の高感度化に成功したと発表した。

バイオ光センサーの構築法

バイオ光センサーの構築法

植物の光合成システムの量子収率(光化学反応において、実際に化学反応を起こした光子の数と吸収された光(量)子の数との比)、すなわち光電変換効率はほぼ100%に達し、模倣した人工光合成システムでは未だに高い光電変換効率は達成されていない。

本研究グループは、生体分子の機能をそのまま利用して、人工材料と組み合わせた新たな光電変換システムを構築してきた。具体的には温泉に生息している好熱性藍色細菌 Thermosynechococcus elongatus から光化学系I (PSI) を抽出し、電子伝達部位として機能しているビタミン K1を人工キノン型分子ワイヤーで置換し、そのワイヤーを電極に接合した系で、光照射によりPSI内で発生した電子を分子ワイヤーを通して電極へと導き、外部信号として取り出すことを目論んでいる。

なお電子を出す側と受け取る側の分子の間に適当な分子を結合すると、電子の移動速度が空間を飛び移るよりずっと速くなる。空間よりも電子を速く移動させることができる分子鎖を「分子ワイヤー」と呼ぶ。その電子移動速度は結合する分子の構造で大きく変化する。

バルク金属では表面上の原子が無数にあるのでキャパシタンスが大きく、一電子の出し入れによって表面ポテンシャルは殆ど変化しない。だが、表面積をナノサイズまで小さくすると、キャパシタンスの大きさが限られるので、一電子の出し入れによって、表面ポテンシャルが顕著に変わる。したがって電気化学的には、ナノ粒子の1電子酸化還元波が数百ミリボルトおきに現れるようになる。

生体-人工分子連結体を、金ナノ粒子を介して金電極基板に固定した系では、金ナノ粒子の単電子移動特性を利用できれば、少数フォトンを電位変化として観測できる高感度光センサーが構築できる。しかし、誘電率の高い水溶液中では金ナノ粒子の単電子移動特性を観測することが難しい。

マイクロ金電極の写真(a)と構造図(b)

マイクロ金電極の写真(a)と構造図(b)

西原教授らは、基板に単分子層固定した粒径の揃った金ナノ粒子が水溶液中であっても、2種の界面活性剤を加えることによって疎水的環境を生じ、単電子移動の観測ができることを見出した。そこでこの界面活性剤により金ナノ粒子周囲の疎水性を制御する手法を生体-人工分子-金ナノ粒子(直径1.7 ± 0.1 nm)連結体に適用することによって、これまでの報告例に比較して、光電変換応答の格段の高速化および高感度化(SN比の増大)に成功した。

ダブル界面活性剤添加時の光電応答

ダブル界面活性剤添加時の光電応答

今回の電極は17 µm平方のマイクロサイズだが、さらにナノサイズまで小型化することにより、室温で少数フォトンを検出できる系が達成できるという。

生体分子を利用することで、効率が高いだけでなく、生産コストも低く、環境負荷も低いというメリットもある。そのため、今後、生体コンポーネントと分子ワイヤーの連結システムを他の新しい戦略に使用することも可能だという。


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絶対零度まで凍らない量子スピン液体の熱伝導性 京都大学

絶対零度まで凍らないスピンの液体が示す不思議な性質を発見 — 京都大学.

“Highly Mobile Gapless Excitations in a Two-Dimensional Candidate Quantum Spin Liquid”
(二次元量子スピン液体における高易動度で ギャップのない励起)
Minoru Yamashita, Norihito Nakata, Yoshinori Senshu, Masaki Nagata, Hiroshi M. Yamamoto, Reizo Kato, Takasada Shibauchi, Yuji Matsuda

京都大学の山下穣 理学研究科助教、芝内孝禎 同准教授、松田祐司 同教授の研究グループは、加藤礼三 理化学研究所主任研究員らの研究グループと共同で、量子力学的な「零点振動」と「幾何学的フラストレーション」の効果で、絶対零度まで凍結しない「量子スピン液体」の研究を行った。

通常電気を流すものは熱を良く伝える。ところが「量子スピン液体」状態は、電気を全く流さない絶縁体だが、金属と同じくらい熱をよく伝えることを発見した。絶対零度における物質の全く新しい凝縮状態の理解へつながるという。2010年6月4日に米国科学誌「Science」に掲載された。

温度を下げると水は氷になる。温度を下げると水分子が運動エネルギーを失って、秩序を持って整列してしまうことによる。温度にはこれ以上下がらない絶対零度(-273.15℃)という温度がある。この温度ではすべての運動が完全に停止してしまうと考えられていた。ところが、ミクロな世界を支配する量子力学の法則によると、原子は絶対零度でも揺らぎながら運動することが可能となる。ということは、絶対零度でも液体のままでいることが可能であることになる。

電子はスピンと呼ばれる性質を持っている。スピンは、高温ではそれぞれバラバラな向きを向いているが(スピンの液体状態)、温度を下げるにしたがって規則的に整列、つまりミクロな磁石の極が一方向にそろったような状態ができる(スピンの固体状態)。

これまで絶対零度では、スピンは必ず整列する、つまりスピンの固体状態になってしまうと考えられてきた。しかし、スピンが幾何学的にうまく整列できない状況がある。たとえば三角形に並んだスピンが互いに異なる向きになりたい場合が挙げられる(図1参照)。このような状況は「フラストレーション」とよばれ、この関係に陥ったスピンはうまく整列することができないため、量子力学的な効果と相まって、絶対零度までスピンも液体状態にとどまることが可能だと期待されてきた。

最近になって三角格子を持つ物質が実際に合成可能になり、絶対零度でもスピンが整列しない物質が発見された。これまでの常識を覆すものであり「量子スピン液体」と呼ばれ、最近大きな注目を集めているという。

図1:スピンの整列とフラストレーション。スピンの強磁性秩序(a)、反強磁性秩序(b)と三角格子におけるフラストレーション(c)。電子のもつ磁気的性質であるスピンは磁石のN極とS極のように向きを持ち、図にあるように矢印で表すことができる。物質によって (a)のように一方向に整列する性質(強磁性秩序)や、(b)のように反対向きに整列しようとする性質(反強磁性秩序)を持つ物質など様々なものが存在する。互いに反対向きになりたい場合、(b)のような四角格子ではうまく整列することができるが、(c)のような三角格子の場合、異なる向きと隣り合うスピンがあるためにどちらにも向けなくなるフラストレーションが発生する。

図1:スピンの整列とフラストレーション。スピンの強磁性秩序(a)、反強磁性秩序(b)と三角格子におけるフラストレーション(c)。電子のもつ磁気的性質であるスピンは磁石のN極とS極のように向きを持ち、図にあるように矢印で表すことができる。物質によって (a)のように一方向に整列する性質(強磁性秩序)や、(b)のように反対向きに整列しようとする性質(反強磁性秩序)を持つ物質など様々なものが存在する。互いに反対向きになりたい場合、(b)のような四角格子ではうまく整列することができるが、(c)のような三角格子の場合、異なる向きと隣り合うスピンがあるためにどちらにも向けなくなるフラストレーションが発生する。

今回の京都大学のグループは、理化学研究所の加藤主任研究員によってつい最近発見された量子スピン液体状態を持つ有機物質(図2参照)を絶対零度近くまで冷却し、量子スピン液体がどのように熱を伝えるかを調べた。通常、金属中では電子が自由に動き回ることが可能で、この電子が熱も運んでくれるため、金属はよく熱を伝える。それに対して、プラスチックや布のような絶縁体では、電子が流れないために熱はほとんど伝わらない。

2。EtMe3Sb[Pd(dmit)2]2を横から見た図(a)。Pd(dmit)2分子の作る層を上から見たのが(b)の図で、二量体化したPd(dmit)2分子が三角格子を組んでいる。青い矢印は量子スピン液体状態におけるスピンの模式図。二量体化したPd(dmit)2分子が三角格子を組む物質。隣り合うスピンの間の力がほぼ等しく、ほぼ正三角形になっている。”]図2:三角格子を持つ有機化合物EtMe3Sb[Pd(dmit)2]2。EtMe3Sb[Pd(dmit)2]2を横から見た図(a)。Pd(dmit)2分子の作る層を上から見たのが(b)の図で、二量体化したPd(dmit)2分子が三角格子を組んでいる。青い矢印は量子スピン液体状態におけるスピンの模式図。二量体化したPd(dmit)2分子が三角格子を組む物質。隣り合うスピンの間の力がほぼ等しく、ほぼ正三角形になっている。

しかしながら今回の研究で「量子スピン液体」は絶縁体であるにもかかわらず、金属に匹敵するほど熱を良く伝えることが発見された(図3参照)。

図3:金属、絶縁体、量子スピン液体における熱の流れ。金属においては自由に動きまわる電子が熱を運ぶが、電子が動けない絶縁体の中では電子は熱を運べない。量子スピン液体物質は絶縁体で電子は全く動けないにもかかわらず、スピンがあたかも金属中の電子のように良く熱を運ぶことが明らかになった。

図3:金属、絶縁体、量子スピン液体における熱の流れ。金属においては自由に動きまわる電子が熱を運ぶが、電子が動けない絶縁体の中では電子は熱を運べない。量子スピン液体物質は絶縁体で電子は全く動けないにもかかわらず、スピンがあたかも金属中の電子のように良く熱を運ぶことが明らかになった。

この性質は、スピン液体状態のスピンが、単にランダムな方向を向いた普通の液体状態ではなく、全く新しい量子力学的な液体状態であることを意味しているという。

量子スピン液体状態の特異な性質を実験的に明らかにすることに成功したことで、絶対零度近くにおける物質の新しい凝縮状態の理解へつながると考えられるという。また量子スピン液体状態は、超伝導と密接な関係を持っていることも指摘されており、新しい超伝導発現機構の解明にも役立つと考えられる。




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最も希少な金属「タンタル180」は超新星爆発のニュートリノで生成された

太陽系に存在する最も希少な同位体タンタル180が超新星爆発のニュートリノで生成されたことを解明  日本原子力研究開発機構:プレス発表.

日本原子力研究開発機構 量子ビーム応用研究部門の早川岳人研究主幹、先端基礎研究センターの千葉敏研究主幹、国立天文台 理論研究部の梶野敏貴准教授らの共同研究グループは、これまで宇宙における起源が不明であったTa- 180(タンタル180)(タンタルは金属の一種。タンタルには、Ta-181とTa-180の2種類の同位体があるがTa-181の同位体比は99.988%で、Ta- 180の同位体比は0.012%)が、超新星爆発において発生する、膨大な量のニュートリノによる核反応で生成したことを理論的に明らかにした。

ニュートリノは質量が非常に小さく「弱い相互作用」で他の粒子と反応する素粒子の一種で、電子型ニュートリノ、ミュー型ニュートリノ、タウ型ニュートリノ及び、それぞれの反粒子の6種類のニュートリノが存在する。

太陽系には約290種類の同位体が存在している。ほとんど同位体についてはどのような核反応、天体環境で生成されたかが明らかになっている。しかし、太陽系に存在する最も希少な同位体Ta-180の生成起源は不明だった。

過去30年間にわたり、超新星爆発における急速な中性子の捕獲反応、漸近巨大分枝星7)での遅い中性子捕獲反応、超新星爆発の光核反応、銀河系宇宙線による核破砕反応等の様々な仮説が提唱されてきた。しかし、太陽系に存在すべきTa-180の推定量が実在量より少ないという問題があった。

このような中、超新星爆発で発生するニュートリノによる生成が提唱された(図1)。

図1

太陽の8倍以上重い恒星は、寿命の最期に超新星爆発を起こす。超新星爆発では中心部に生成された原始中性子星から膨大な量のニュートリノが放出され、このニュートリノが超新星の外層に存在するタンタル 181や、ハフニウム180 8)とニュートリノ-原子核相互作用を起こし、タンタル180を生成する(図2)。

図2

しかし、この理論を提案した米国の超新星研究グループによる計算では、太陽系に存在すべきTa-180の量が実在量より多すぎるという問題があった。これは、Ta- 180には安定な核異性体(原子核において基底状態以外の準安定な状態)と、短時間で消滅する基底状態(原子核においてエネルギー的に最も安定な状態)が存在するが、計算による推定量には、核異性体だけでなく基底状態の量も含んだ合計量であったためだった。現在太陽系に存在する Ta-180は全て核異性体なので、超新星爆発において核異性体がどれだけ生成するかを計算する必要があった。

今回、研究グループは、これまで計算出来なかった超新星爆発において刻々と変化する温度に対する核異性体の割合を、核異性体と基底状態を異なる同位体と見なす新しいモデルを構築して、計算できるようにした。

超新星爆発では、Ta-180の核異性体と基底状態の両方が生成され、超新星爆発の高温の環境では、高エネルギーの光の吸収と放出によって核異性体と基底状態が相互に変換される(図3)。

図3

この変換割合は温度に依存する。超新星爆発においてTa-180が生成される外層では、1ギガケルビン以上の極めて高い温度に達した後に急速に温度が下がる。数十秒後にはTa-180の核異性体と基底状態の割合は変化しなくなり、基底状態は消滅して核異性体のみが残る。

図4

従来の理論では、基底状態と核異性体だけでなく全ての中間状態を組み込んで計算する必要があった。だがタンタル180の中間状態の数は膨大で、全てが明らかになってはいない。そのため、核異性体の割合を計算できなかった。

新理論の特徴は、基底状態と核異性体を別々の種類の同位体と見なした点。これによって中間状態を考慮する必要がなく、これまでできなかった計算が可能になった。

計算の結果、超新星爆発の温度が十分に下がった時点で、核異性体が0.39生存することが判明しました(全量を1としている)。さらに、この値が超新星爆発の爆発エネルギー、最高温度、冷却の平均時間等の物理条件に依存しないことが判明した。

既存の超新星爆発でのニュートリノ元素生成理論で計算されたTa-180の推定量(基底状態+核異性体)に、この研究で得られた0.39を掛けて核異性体のみの量を求めたところ、太陽系における推定量と実在量がほぼ一致した(図5)。これまでTa-180の起源を説明するため様々な仮説が提唱されてきたが、今回初めてTa-180の生成起源を始めて定量的に説明することができた。

図5

さらに、太陽系に存在するTa-180の量を説明するには、超新星爆発において電子型ニュートリノ、及びその反粒子の平均エネルギーは約12MeVでなければならないことも判明した。

この研究成果は、素粒子物理学や宇宙物理学等の広い分野に波及効果があるという。たとえば岐阜県神岡鉱山内に設置された世界最大規模のニュートリノ検出装置「スーパーカミオカンデ」で期待される超新星ニュートリノ観測の予想、ニュートリノ振動の理解にも貢献する。

宇宙に存在する水素やヘリウム等の軽元素は「ビッグバン」で生成され、より重い元素はビッグバン以降に誕生した恒星の中の核反応で生成された。

恒星の中の核反応で生成された重元素は、超新星爆発や太陽風で放出された。放出された物質は「星間ガス」として宇宙空間にただよっていたが、星間ガスから次世代の恒星が誕生し、次のサイクルに入っていった。このようなサイクルによって、銀河系内に存在する物質の割合は刻々と進化してゆき、今から約46億年前に我々の太陽系が誕生した。

そのため、太陽系に存在する元素や同位体の割合は銀河系における物質の化学進化を記録した重要な情報であり、太陽系に存在する全ての同位体の起源を解明することが物質の進化を解明する上で必要不可欠な研究だとされている。

今回判明した超新星爆発で発生するニュートリノの平均エネルギーは、スーパーカミオカンデ等で期待される次の超新星爆発のニュートリノ観測の予想にも役立つ。

超新星は、銀河系内で20年に1回の頻度で発生すると推定されている。前回、1987年に大マゼラン雲に現れた超新星1987Aからのニュートリノを東京大学のカミオカンデ・グループが人類史上初めて捉えることに成功し、小柴昌俊博士のノーベル賞につながった。次の超新星ニュートリノの観測によって、より詳細な超新星爆発の理解が進むと期待されている。

ニュートリノには、電子・ミュー・タウ型とそれらの反粒子の6種類が存在する。スーパーカミオカンデで捉えることができるのは、主に電子型ニュートリノである。ニュートリノ補足確率は、電子型ニュートリノのエネルギーに依存する。これまでの素粒子物理学の研究によって、極めて軽いけれども異なる3種類の質量を持つニュートリノが存在しており、真空中や物質中を通過する間に互いに入れ替わる、ニュートリノ振動と呼ばれる現象が存在することが判明している。

超新星において中心部の原始中性子星で発生したミュー・タウ型ニュートリノが、外層に到着する短い時間の間にニュートリノ振動によって電子型ニュートリノに変わることが予想されている。ミュー・タウ型ニュートリノと、電子型ニュートリノでは、ニュートリノ-原子核の相互作用の仕方が異なる。Ta-180の量を検証することで超新星爆発時に外層に存在していた電子型ニュートリノの量と平均エネルギーを推定でき、ニュートリノ振動の未知のパラメーター(混合角θ13及び、質量階層)の値の範囲に制限を与える。この成果はPhysical Review CのRapid Communicationとして出版される予定。


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「スピン流」を使って絶縁体に電気信号を流すことに成功 東北大学 発熱によるエネルギーロスなし

スピン流

絶縁体に電気信号を流すことに成功 省エネデバイスに新展開 | 受賞・成果等 | 東北大学 -TOHOKU UNIVERSITY-.

東北大学金属材料研究所の齊藤英治教授らは、慶應義塾大学 大学院理工学研究科修士課程2年の梶原瑛祐(ようすけ)氏、東北大学金属材料研究所の前川禎通 教授と高梨弘毅 教授、FDK社との共同で、電子のスピンを用いて絶縁体に電気信号を流す方法を発見した。イギリスの科学雑誌「Nature」3/11日号に掲載される。

通常、絶縁体には電気は流れない。だが電気信号をスピンに変換して「磁性ガーネット結晶」と呼ばれる絶縁体へと注入し、絶縁体中を「スピンの波」として伝送して再び電気に変換することによって、絶縁体中も電気信号を伝送できることを発見した。

しかも絶縁体の中をジュール熱の発生なしに信号を流せるため、発熱によるエネルギーロスの問題を根本的に解決しうる。よってこの電気信号伝送は、省エネルギー技術へも応用できるという。

電子は「電荷」と「スピン」の2つの性質を持つ。これまでのエレクトロニクスでは電荷を利用して来たが、今回の研究では、スピンを使うことで「スピン流」という形で絶縁体にも電気信号を流すことができることを利用した。

絶縁体である磁性ガーネット薄膜の高品質表面に2つの白金(Pt)電極薄膜を付けて精密な電気測定を行い、一方の白金電極に流した電流が絶縁体を介して、離れたもう一方の白金電極に電圧を発生させることを発見した。この電気信号伝送は、磁場を加えることで容易にスイッチオン・オフする。

この現象は、白金電極中の電流が「スピンホール効果」と呼ばれる固体中の相対論効果によって電子スピンの流れ(スピン流)を生み出し、これが磁性ガーネット中をスピンの波として伝わり、このスピンの波がもう一方の白金電極中でスピンホール効果により電圧に変換されたものと考えられるという。磁性ガーネットなどの磁性を持った絶縁体は、電流は通さないがスピンの波は通す物質であることがポイントだとしている。


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理研とKEKほか、RHICで4兆度を実現 「完全液体」の温度を直接測定

米・重イオン衝突型加速器「RHIC」で、4兆度の超高温状態を実現|2010年 プレスリリース|理化学研究所.

独立行政法人理化学研究所BNL研究センターと大学共同利用機関法人高エネルギー加速器研究機構(KEK)を中心とする研究グループは、米国ブルックヘブン国立研究所(BNL)との国際共同研究で「相対論的重イオン衝突型加速器(RHIC)」を使って、金の原子核同士を限りなく光速に近い速度で衝突させ、約4兆度の超高温状態を初めて実験室で実現することに成功した。この高温状態では、元素の構成要素である陽子・中性子が融けて、クォーク・グルーオンからなる新物質相「クォーク・グルーオン・プラズマ(QGP)」になっているという。

4兆度は、太陽中心温度の10万倍も高く、宇宙をつくる元素を構成する陽子や中性子を融かして、クォーク・グルーオンからなるプラズマを生み出すために必要な温度よりも高温。これまでに実験室で実現していた温度としては最高だという。

RHIC(BNL提供) 世界初・唯一の衝突型重イオン加速器で、世界初・唯一の偏極陽子衝突加速器。

RHIC(BNL提供) 世界初・唯一の衝突型重イオン加速器で、世界初・唯一の偏極陽子衝突加速器。

宇宙創成直後の数十万分の1秒の間は「クォーク・グルーオン・プラズマ(QGP)」と呼ばれるクォークとグルーオンからなるプラズマ状態が存在して、宇宙を満たしていたと考えられている。その後、宇宙は冷えて、クォークやグルーオンは陽子や中性子に凝縮し、今日の宇宙をつくる物質(原子核や原子、それらの集まった星や惑星)ができ上がったという。逆に、超高温状態では陽子や中性子は溶けてクォーク・グルーオン・プラズマになると考えられる。

「格子ゲージ理論(陽子や中性子を構成する素粒子であるクォークおよびグルーオンの間の「強い相互作用」を計算するのに用いられる理論。空間を格子状に分割して、そこにクォークやグルーオンを配置し、その間の相互作用を計算機シミュレーションする。格子ゲージ理論の計算機シミュレーションには膨大な計算量が必要で、数千個のCPUを持つ超高速並列型専用計算機で数カ月にわたる計算を行う)」という理論計算方法を用いた大規模計算機シミュレーションで計算すると、このクォーク・グルーオン・プラズマを実現するのに必要な温度は約2兆度であると推定されている。

米国ブルックヘブン国立研究所(BNL)にある「相対論的重イオン衝突型加速器(RHIC)」では、金原子核などの重い原子核同士を、光速に近い速度まで加速して衝突させることで、この宇宙初期の高温・高密度状態を再現する実験を行っている。2000年のRHIC稼動開始後から実施してきたPHENIX実験の結果、RHICでの金原子核同士の衝突は、非常に高密度の物質を生み出していることが分かっていた。

PHENIX実験に用いる装置(BNL提供)  縦、横、長さがそれぞれ10m、10m、20mくらいあり、総重量3000トンの測定器。数十の測定器システムからなる。右上の図はビーム軸方向から見た図。ビームは、図の中心付近にある丸の真ん中で衝突する。衝突の結果生じる粒子を、その左右にある「西中央アーム」と「東中央アーム」で測定する。金+金の正面衝突の場合は、それぞれのアームに数百個の衝突発生粒子がはいるが、それを同時に測定することができる。右下の図はビーム軸の横から見た図で、右上の図の右側、東中央アームの方向から見た図。ビームは測定器の右側と左側から飛んできて、その中心で衝突する。中央アームはこの図では紙面の手前と奥にあるので描かれていない。この図で左右に描かれている南ミューオンアームと北ミューオンアームは、衝突から発生する「ミュー粒子」という透過性の強い素粒子を測定する。左下の写真は、右下図と同じ方向から見た実物の写真。左上は、2個の中央アームの写真。この写真では、東中央アームは保守・点検のために通常の位置から外側に引き出されている。建設費は約100億円で、日本からの参加機関がこの測定器全体の約 3分の1を作っている。

PHENIX実験に用いる装置(BNL提供) 縦、横、長さがそれぞれ10m、10m、20mくらいあり、総重量3000トンの測定器。数十の測定器システムからなる。右上の図はビーム軸方向から見た図。ビームは、図の中心付近にある丸の真ん中で衝突する。衝突の結果生じる粒子を、その左右にある「西中央アーム」と「東中央アーム」で測定する。金+金の正面衝突の場合は、それぞれのアームに数百個の衝突発生粒子がはいるが、それを同時に測定することができる。右下の図はビーム軸の横から見た図で、右上の図の右側、東中央アームの方向から見た図。ビームは測定器の右側と左側から飛んできて、その中心で衝突する。中央アームはこの図では紙面の手前と奥にあるので描かれていない。この図で左右に描かれている南ミューオンアームと北ミューオンアームは、衝突から発生する「ミュー粒子」という透過性の強い素粒子を測定する。左下の写真は、右下図と同じ方向から見た実物の写真。左上は、2個の中央アームの写真。この写真では、東中央アームは保守・点検のために通常の位置から外側に引き出されている。建設費は約100億円で、日本からの参加機関がこの測定器全体の約 3分の1を作っている。

RHICが生み出した高密度物質は、それまで考えられていたような「自由な」クォークやグルーオンからなる気体ではなく、その構成粒子が非常に強く相互作用をしている液体だという。この高密度物質は、ほとんど粘性ゼロの流体のように振る舞う。粘性ゼロの流体を「完全流体」と呼ぶことから、RHICで生み出した高密度物質は「完全液体」と呼ばれる。「完全液体」の性質を解明する上では温度の測定が重要だが、これまで直接的な測定は実現できていなかった。

衝突初期に発生する光子は高温物質から熱的に放射されるため「熱的光子」と呼ばれる。熱的光子の発生量とエネルギー分布は、衝突初期の温度とその後の時間発展を反映しているため、熱的光子を測定することで、衝突初期の温度を直接的に測定することが可能になる。しかし、金原子核同士の衝突では熱的光子を隠すバックグランド(雑音光子)が発生するため、熱的光子の測定は非常に困難だった。

研究グループは、高エネルギーの光子の一部が電子と陽電子対に変換することを利用して、熱的光子を雑音光子から分離し、その発生量とエネルギー分布を測定することに成功した。質量とエネルギーの関係式E=mc2に従って、光子(エネルギー)は物質(電子・陽電子対)に変換される。光子が電子・陽電子対に変換する割合は、理論により正確に計算することができるため、光子自身ではなく、電子・陽電子対を測定することで、もとの光子の発生量を求めることができる。

こうして求めた、熱的光子の発生量とエネルギー分布を、理論予想と比較することで、反応初期の高温物質の温度を推定した結果、理論計算から求められたクォーク・グルーオン・プラズマへの転移温度である約2兆度をはるかに超える、4兆度程度と推定された。

高密度物質の初期温度の測定  (右図)高温の物質は光を出す。その光の色(エネルギー分布:γ、γ*)と発生量から温度が分かる。高エネルギーの光子の一部は、電子(e−)と陽電子(e+)に変換する。  (左図)もしRHICで生成した物質が熱平衡に達していれば、そこからは「熱的光子」が出ているはずである。熱的光子を捕捉できれば、初期温度を決定できる。理論予想によれば、光子横運動量pT(光子のエネルギー)が1GeV/cから3GeV/cの間の直接光子の多くが、クォーク・グルーオン・プラズマ相からの熱的光子になる。摂動QCDとあるのは、クォークとグルーオンの散乱で生じる光子で、この成分は量子色力学(QCD)の摂動計算理論で計算でき、かつ陽子+陽子散乱でも発生する。光子のエネルギーが約3GeV以上では、この摂動QCD成分が熱的光子より多くなると予想される。また、1GeV以下では、クォーク・グルーオン・プラズマが冷えた後にできるハドロンガスから発生する光子の量が、クォーク・グルーオン・プラズマからの熱的光子よりも多くなる。従って、光子エネルギーが1GeVから 3GeVの間では、クォーク・グルーオン・プラズマからの熱的光子がほとんどになる。

高密度物質の初期温度の測定 (右図)高温の物質は光を出す。その光の色(エネルギー分布:γ、γ*)と発生量から温度が分かる。高エネルギーの光子の一部は、電子(e−)と陽電子(e+)に変換する。 (左図)もしRHICで生成した物質が熱平衡に達していれば、そこからは「熱的光子」が出ているはずである。熱的光子を捕捉できれば、初期温度を決定できる。理論予想によれば、光子横運動量pT(光子のエネルギー)が1GeV/cから3GeV/cの間の直接光子の多くが、クォーク・グルーオン・プラズマ相からの熱的光子になる。摂動QCDとあるのは、クォークとグルーオンの散乱で生じる光子で、この成分は量子色力学(QCD)の摂動計算理論で計算でき、かつ陽子+陽子散乱でも発生する。光子のエネルギーが約3GeV以上では、この摂動QCD成分が熱的光子より多くなると予想される。また、1GeV以下では、クォーク・グルーオン・プラズマが冷えた後にできるハドロンガスから発生する光子の量が、クォーク・グルーオン・プラズマからの熱的光子よりも多くなる。従って、光子エネルギーが1GeVから 3GeVの間では、クォーク・グルーオン・プラズマからの熱的光子がほとんどになる。

直接光子の測定結果  測定した電子対の量を直接光子の発生量に換算した。3種類の金+金衝突での光子発生量(▲、●、■) は、陽子+陽子衝突での発生量(▼)より多い。(▲、●、■)の違いは、金原子核の衝突の仕方の違いで、●はほぼ正面衝突した場合、■は少し中心が外れた衝突をした場合、▲は●、■を含むすべての衝突の平均に対応する。点線は、それぞれの場合について、陽子+陽子衝突で発生する光子の量をスケールしたもので、データ点は3GeV以下では点線より上にあることから、金+金衝突では陽子+陽子衝突より多くの光子が発生していることが分かる。赤い点線は初期温度を約4兆度とした理論計算による光子の発生量。理論計算の予想がデータをほぼ再現することから、初期温度は4兆度程度と推定できる。

直接光子の測定結果 測定した電子対の量を直接光子の発生量に換算した。3種類の金+金衝突での光子発生量(▲、●、■) は、陽子+陽子衝突での発生量(▼)より多い。(▲、●、■)の違いは、金原子核の衝突の仕方の違いで、●はほぼ正面衝突した場合、■は少し中心が外れた衝突をした場合、▲は●、■を含むすべての衝突の平均に対応する。点線は、それぞれの場合について、陽子+陽子衝突で発生する光子の量をスケールしたもので、データ点は3GeV以下では点線より上にあることから、金+金衝突では陽子+陽子衝突より多くの光子が発生していることが分かる。赤い点線は初期温度を約4兆度とした理論計算による光子の発生量。理論計算の予想がデータをほぼ再現することから、初期温度は4兆度程度と推定できる。

今後、さらに技術的改善を行い、クォーク・グルーオン・プラズマをより詳細に研究し、初期温度や粘性といった基本性質を精密に測定する。そして、創成直後の宇宙の状態や素粒子の基本相互作用の1つである「強い相互作用」とその理論である量子色力学(QCD)の性質の解明に挑む。


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ダークマターを検出するXMASS(エックスマス)検出器、ほぼ完成

「暗黒物質」とらえる目、東大施設でほぼ完成 : ニュース : 宇宙 : YOMIURI ONLINE(読売新聞).

この不思議な検出器は、いったい何なんだろうと思って検索してみると、

(C)東京大学宇宙線研究所 神岡宇宙素粒子研究施設

(C)東京大学宇宙線研究所 神岡宇宙素粒子研究施設

(C)東京大学宇宙線研究所 神岡宇宙素粒子研究施設

XMASS実験-現状

こちらのサイトに2008年11月から今日に至るまでの経過が、写真と共に掲載されていました。

XMASS実験では今後、ダークマターだけでなく、スーパーカミオカンデでは観測できない低エネルギー太陽ニュートリノ実験やニュートリノの質量を測定 する2重ベータ崩壊実験が展開されて行く予定です。例えば、10トンの液体キセノンを用いると低エネルギー太陽ニュートリノを一日に約10事象観測できま す。このように、XMASS液体キセノン検出器は多目的の宇宙素粒子検出装置になると期待されています。

とのこと。

で、XMASS実験については概要のサイトによれば

XMASS(エックスマス)実験は、液体キセノン(約-100℃)を用いてダークマターを直接探索することを目的としています。

(中略)

検出器の感度は、既存のダークマター探索実験の感度よりも100倍良く、ダークマターを直接捕らえ、発見できる可能性が非常に高いと考えられています。将来は、サイズを大きくし、多目的な約20トンクラスの検出器へと拡張していく計画です。

ということだそうです。検出原理はこちら

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原子力機構と新日鉄エンジニアリング、国際熱核融合実験炉(イーター)超伝導コイル用導体の製造を開始

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日本原子力研究開発機構:プレス発表.

独立行政法人日本原子力研究開発機構と新日鉄エンジニアリング株式会社は国際熱核融合実験炉(イーター)に使用する超伝導コイル用導体の製造を開始したと発表した。製造工場が福岡県北九州市若松区。

イーター計画とは、日本、欧州、米国、ロシア、中国、韓国、インドの7極の協力により、フランスのカダラッシュにイーターを建設する国際研究開発プロジェクト。イーターの開発により核融合エネルギーの実現に近づくことが期待されている。

導体は約1,000本の超伝導素線を撚り合せた「撚線(よりせん)」を、「ジャケット」と呼ばれる金属製保護管に入れたもの。原子力研究開発機構と新日鉄エンジニアリング株式会社は、厚さ1.9mmの薄いジャケットの変形を0.1mm以下に抑える溶接方法を開発し、また品質管理においても、レーザーを用いて、溶接による突起を0.1mm以下で検出する技術を確立した。

まず初めに模擬導体を製造することにより導体製造技術を実証し、3月頃から合計33本(約23km分)の実機導体製造を本格的に開始する予定だという。

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トコトンやさしい核融合エネルギーの本 (B&Tブックス―今日からモノ知りシリーズ)

著者/訳者:井上 信幸 芳野 隆治

出版社:日刊工業新聞社( 2005-07 )

定価:

単行本 ( 159 ページ )

ISBN-10 : 4526055026

ISBN-13 : 9784526055027



産総研、原子レベルで化学反応の可視化に成功

a)電子線照射により二量化がすすみ融合していくC60フラーレン分子の変化を捉えた電子顕微鏡像。左から右にかけて電子線照射量が増加し、化学反応が進行している。 (b)分子のコントラスト(明暗)を強調した画像。 (c)分子のモデル構造。

a)電子線照射により二量化がすすみ融合していくC60フラーレン分子の変化を捉えた電子顕微鏡像。左から右にかけて電子線照射量が増加し、化学反応が進行している。 (b)分子のコントラスト(明暗)を強調した画像。 (c)分子のモデル構造。

産総研:原子レベルで化学反応の可視化に成功.

M. Koshino, Y. Niimi, E. Nakamura, H. Kataura, T. Okazaki, K. Suenaga, S. Iijima: “Analysis of the reactivity and selectivity of fullerene dimerization reactions at the atomic level” (フラーレン分子の二量化反応における反応性と選択性の原子レベル解析), Nature Chemistry, advanced online publication(2010). http://dx.doi.org/10.1038/nchem.482

独立行政法人 産業技術総合研究所(産総研)ナノチューブ応用研究センター カーボン計測評価チームの越野雅至 研究員、岡﨑俊也 主任研究員、ナノテクノロジー研究部門 自己組織エレクトロニクスグループ 片浦弘道 研究グループ長らは、JST 新見佳子 技術員、国立大学法人 東京大学大学院 理学系研究科化学専攻 中村栄一 教授と共同で、フラーレン分子の二量化反応を原子レベルで解析することに成功したと発表した。化学反応する1つ1つの分子を原子レベルで可視化した。

単層カーボンナノチューブの中にフラーレン分子を閉じ込め、密度、温度、金属原子の効果、与えるエネルギーなどを変化させて反応性を最適化し、電子顕微鏡で反応を見た。その結果、ひとつひとつの分子の向きが反応に直接影響することなどが明らかになった。Nature Chemistryのオンライン速報版に掲載された。
フラーレン分子2個に電子線を照射すると二量化反応が起こる。この研究では、フラーレン分子(直径0.7〜0.8 nm)をカーボンナノチューブ(内径約1.2〜1.5 nm)の中に閉じ込め、収差補正機構を備えた電子顕微鏡を用いて、フラーレン分子の二量化反応の様子を原子レベルで観察した。極低温(セ氏−269度)や低加速電圧(80 kV)といった、さまざまな環境における高分解能観察が可能になり、高速フーリエ変換を用いた画像処理技術などを組み合わせた。

カーボンナノチューブの中に閉じ込めたC60フラーレン分子の電子顕微鏡像は、透過像であるため「透かし絵」のように見える。分解能が上がり、よく見えるようになると、カーボンナノチューブ自身の縞模様がC60フラーレン分子自身の模様と重なって現れ、構造解析の妨げとなる。この画像に数学的な処理(高速フーリエ変換など)を施すとチューブの縞模様だけを消すことができ、C60フラーレン分子の模様だけが浮かび上がり、原子レベルでの観察が可能となった。

電子線を照射してまず最初に分子がくっつくとき、どこの面で結合が形成されるのか。反応途中の情報を得る分析手法はこれまでなかった。実際の顕微鏡像と電子顕微鏡像のコンピューターシミュレーションの比較を行ったところ、二量化反応の初期段階は、いくつかの結合様式が予想されたが、[2+2]環化縮合のモデル構造が実験像をうまく説明できることが分かった。反応がさらに進むとC60フラーレン分子が融合したピーナツ構造になり、さらに電子を照射していくとピーナツ型の分子はチューブ状に変化した。

このように、C60フラーレン分子の二量化反応が進むにつれて2つの分子の電子顕微鏡像が変化していく様子から、分子同士が初めに接触した後どのように相互作用し、さらにどのように結合の再構成が起こるかを明らかにすることができた。またカーボンナノチューブ内に閉じ込めた分子の数(濃度)や温度、金属原子の有無、反応に使われるエネルギーの大きさなど、さまざまな外部要因が化学反応に与える影響を詳細に調べることにより、いろいろな実験条件で原子レベルでの化学反応の可視化が可能であることを示した。

今後はこの技術を有機分子や生体分子へ応用することで、個別分子の反応機構の解明、分子間相互作用の動的な解析、さらには新薬開発など構造化学に基づく分子設計などの幅広い分野での発展が期待されるという。

サッカーボール型分子C60―フラーレンから五色の炭素まで (ブルーバックス)

著者/訳者:山崎 昶

出版社:講談社( 1997-04 )

定価:

新書 ( 170 ページ )

ISBN-10 : 4062571684

ISBN-13 : 9784062571685


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テンソル力が原子核のシェル構造や魔法数を変える仕組みを明らかに 東大ほか

陽子や中性子が原子核内の軌道上を周回運動している時に働くテンソル力の効果。帯状の矢印は周回運動の向きを表す。小さな矢印はスピン。

陽子や中性子が原子核内の軌道上を周回運動している時に働くテンソル力の効果。帯状の矢印は周回運動の向きを表す。小さな矢印はスピン。

原子核の力の解明とエキゾチック原子核の構造進化 – プレスリリース – 東京大学 大学院理学系研究科・理学部.
東京大学大学院理学系研究科物理学専攻の大塚孝治教授、日本大学文理学部物理学科 鈴木俊夫教授、日本原子力研究開発機構 研究副主幹 宇都野穣氏、東京大学大学院理学系研究科物理学専攻 修士2年の角田直文氏、同じく博士2年の月山幸志郎氏らは、原子核の存在限界、内部構造、質量を決めるシェル構造についての新しく、統一的な理論を示し、原子核を構成する陽子や中性子の間に働く核力の知られざる性質を見出し、陽子や中性子の数とともに原子核が進化する様相を明らかにしたと発表した。

宇宙での物質創成の道筋を探る上でも役立つ成果だという。アメリカ物理学会の「フィジカルレビューレターズ(Physical Review Letters)」2010年1月8日号に掲載された。

原子核には、原子のまわりを回る電子が持つのと似たシェル構造や魔法数(マジックナンバー)がある。魔法数と同じ数の陽子数、又は、中性子数の原子核では特別な安定性が起こる。地球上の物質を構成する寿命が無限か極めて長い原子核を「安定核」と言う。魔法数は1949年に発見しノーベル賞を受賞したメイヤー・イェンゼンの理論は安定核の性質をよく説明し、半世紀にわたって信じられてきた。

だが、1990年代頃から安定核ではなく、寿命の短い「不安定核」、あるいは、「エキゾチック核」と呼ばれる原子核が、RIビーム加速器によって作られるようになった。すると安定核では起こらないことが実験で見え始めたという。

原子核を構成する陽子や中性子の間には「核力」とよばれる力が働く。核力にはいくつかの成分があり、そのいくつかは、陽子や中性子が中間子をやり取りすることによって働く。

中間子のひとつ、パイ中間子1個が陽子と中性子の間でやり取りされると「テンソル力」という力が働く。陽子や中性子は「スピン」と呼ばれる自転運動をしている。「テンソル力」が働くと、陽子と中性子の距離が同じであっても、スピンの向きと同じか直角かによって、力が引力になったり、斥力になったりする。中間子が関与するとこのような奇妙な力が発生するのである。

この奇妙な「テンソル力」が原子核のシェル構造や魔法数をどのように変えるかは分かっていなかった。今回、研究グループは、それを明らかにした。テンソル力の効果は、原子核の中での軌道を周回している陽子や中性子が相手に対して、反対向きに動いているか、あるいは、並んで同じ向きに動いているかで、引力か斥力かに変わる。引力に働けば、より多く中性子を原子核に含めることができ、中性子過剰なエキゾチック原子核が作れる。それらは宇宙での物質創成にも寄与する。一方、斥力であれば、あまりたくさんの中性子を詰め込むことはできず、物質創成のルートはそこで途切れるという。

エキゾチック原子核は超新星などの天体現象で短時間の間、大量、多種に作られ、それらの連鎖反応の結果、地球の鉄より重い元素ができた。そのシナリオを完成させるには、連鎖反応の途中の原子核の性質が分からないといけない。それに必要な知識を与える成果だという。

大学院原子核物理

著者/訳者:吉川 庄一 玉垣 良三 大塚 孝治 森田 正人 谷畑 勇夫

出版社:講談社( 1996-10 )

定価:

単行本 ( 238 ページ )

ISBN-10 : 4061532251

ISBN-13 : 9784061532250


原子核物理入門

著者/訳者:鷲見 義雄

出版社:裳華房( 1997-08 )

定価:

Amazon価格:¥ 3,564

単行本 ( 230 ページ )

ISBN-10 : 4785328096

ISBN-13 : 9784785328092


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