化学

東大 先端研と富士通、スパコンでがんの再発・転移治療薬の開発へ

photo2
ニュース(詳細) | 東京大学 先端科学技術研究センター.

東京大学 先端科学技術研究センター(先端研)と富士通株式会社は共同で、がんの再発・転移治療薬の開発に活用するスーパーコンピュータシステムを構築し、2010年8月1日より稼働を開始させたと発表した。

世界で初めて、がん細胞の一部である抗原(タンパク質)と抗体(タンパク質)との相互作用を分子動力学によりシミュレーションし、人工抗体の設計を行う。この手法ではIT創薬で一般的なコンピュータを活用した低分子とタンパク質との相互作用のシミュレーションと比較すると、約10倍の量の計算が必要となるため、短期間でシミュレーションを行えるスーパーコンピュータを導入した。

システムは富士通のブレードサーバ「PRIMERGY BX922 S2」によるPCクラスタ型のスーパーコンピュータ。300ノードで構成し、理論ピーク性能は38.3テラフロップス(1テラフロップスは毎秒1兆回の浮動小数点演算速度)。先端研における、がんの再発・転移を治療する「ゲノム抗体医薬品」設計のためのコンピュータシミュレーションに活用される。

最先端研究開発支援プログラム「がんの再発・転移を治療する多機能な分子設計抗体の実用化」のための研究開発は、先端研の児玉龍彦教授が中心となって推進しているプロジェクトで、ゲノム解読成果を基にしたがんの「ゲノム抗体医薬品」を、コンピュータシミュレーションを駆使することで設計し、臨床試験・治療を開始することを目指している。

抗体医薬品の研究開発には、

・1990年代からの動物実験により作った抗体医薬品をヒト型化し人間に適用できる抗体をつくる第一世代、

・2000年代からのがんに直接作用して放射線などによって治療できる抗体をつくる第二世代

があるが、今回の研究開発は、

・スーパーコンピュータによるシミュレーションを活用して抗体医薬品の基本構造の設計を行い、将来、日本で発生率の高いがん(肺、大腸、胃、肝臓、膵臓、前立腺、乳腺)や、再発・転移した進行性がんに対しても副作用の少ない画期的な第三世代

の抗体医薬品による治療ができることを目的としている。

このシステムの活用により、従来の実験による研究開発プロセスでは3〜4年間かかっても実現が難しいとされていた人工抗体の設計を、わずか数ヶ月で行えることを目的としているという。また将来は、この成果を元に、次世代スーパーコンピュータ(京速コンピュータ「京」)を活用して、さらに多くの抗体医薬品の開発を行うことを目指す。


コンピューターで薬を創ろう (先端科学技術をやさしく紹介するシリーズ)
創薬バリューチェイン
ケイディーネオブック
売り上げランキング: 372614


タンパク質計算科学 ―基礎と創薬への応用― [CD-ROM付]
神谷 成敏 肥後 順一 福西 快文 中村 春木
共立出版
売り上げランキング: 105228



人工光合成が可能に? 可視光での量子収率およそ90%、リン酸銀の画期的な酸化特性を発見 物材研 実現に大きく一歩前進

可視光照射下でのMB色素の分解実験(左)。Ag 3PO4を用いた場合のMB溶液の色の変化。4分でほぼ完 全に脱色。右はリン酸銀Ag3PO4

可視光照射下でのMB色素の分解実験(左)。Ag 3PO4を用いた場合のMB溶液の色の変化。4分でほぼ完 全に脱色。右はリン酸銀Ag3PO4

人工光合成の実現に大きく一歩前進 高活性光触媒材料を発見 – プレスリリース | NIMS.

独立行政法人物質・材料研究機構の光触媒材料センターは、「リン酸銀(Ag3PO4)」が可視光照射下で極めて高い酸化力を発揮する光触媒材料であることを発見した。Nature Materials誌電子版に掲載された。

光触媒材料センターは、リン酸銀の画期的な酸化特性を、水分解による酸素発生試験とメチレンブルーの分解試験により見いだした。酸素発生試験では、他の可視光応答型光触媒の効率を遙かに凌ぎ、しかも,可視光照射下での量子収率は、およそ90%と驚異的な値を示した。同様に、メチレンブルー分解試験においても、光酸化性能が極めて高かったという。

常温で太陽光エネルギーのみを利用して起こり、環境への新たな負荷も少ない光触媒技術は、 太陽エネルギー=水素エネルギー変換技術や環境問題解決の切り札として注目されている。しかしながら、現在、幅広く研究されている二酸化チタン(TiO2)は、太陽光の4%程度である紫外線でしか光触媒反応を起こさない。光触媒技術を有効に活用するには、太陽光の約43%を占める可視光を効果的に利用できる高い可視光活性を持った光触媒材料(可視光応答型光触媒)の開発と、それを用いたシステムの構築が必要となる。

これまで二酸化チタンとは全く異なる新しい可視光活性型の光触媒の開発には多くの努力が注がれ、多数の可視光型光触媒も見出されていたものの、量子収率は概ね数%程度で、実用化を図るには性能が不十分だった。

光触媒材料センターではこれまで、新しい可視光による光触媒特性をもつ材料を研究してきた中で、既存の酸化物であるリン酸銀(Ag3PO4)に着目した。

このリン酸銀は有害化学物質の分解・除去に利用できるだけではなく、光電極システムの薄膜電極材として利用したり、あるいは適切な還元材料と組み合わせて利用したりすることで、水分解による水素製造や二酸化炭素の還元による燃料・資源の合成などへの応用も可能となるという。

また、植物の光合成においても量子効率は93%前後であることから、無機材料においてこれほどの高い量子収率が得られたことは人類の夢である人工光合成の実現に大きく一歩前進したことを意味するとしている。


トコトンやさしい光触媒の本 (B&Tブックス―今日からモノ知りシリーズ)
垰田 博史
日刊工業新聞社
売り上げランキング: 243119


図解雑学 光触媒 (図解雑学シリーズ)
佐藤 しんり
ナツメ社
売り上げランキング: 347479


ナノファイバーによる分子レールを開発 ナノ医療診断ツールの開発や人工細胞の構築などにつながる可能性

微小物質を運搬できるナノメートルサイズの繊維でできた「分子の線路」を開発.

京都大学 大学院工学研究科の浜地 格教授らは、ナノテクノロジーの鍵となる材料の1つとして期待されているナノメートルサイズの直径を持った新しい繊維(ファイバー)を開発し、それがたんぱく質分子やナノ粒子などの物質を輸送する線路「分子レール」として機能することを実証した。「Nature Communications」に掲載された。

生物の細胞内では、生体物質を細胞内の色々な場所へ効率よく輸送するために、たんぱく質の自己組織化によってできた微小管のような一次元ファイバーが発達しており、このファイバーの上をモーターたんぱく質が種々の物質を結合して運ぶことが知られている。例えば、細胞内に存在するたんぱく質の自己組織化によって形成されている微小管は、モーターたんぱく質に結合した種々の生体物質を目的の場所に輸送するレールとして働いている。

近年、ナノテクノロジー分野の材料開発において、分子の自己組織化を利用したボトムアップアプローチによって作製されたナノファイバーが、電子やホールを輸送できるナノ電子材料としての可能性が提唱されている。しかし、自己組織化ナノファイバーが生体の微小管のように分子や物質輸送のレールとなりうる可能性については、ほとんど明らかになっていなかった。

研究グループは、水にも油にも馴染む性質を持った両親媒性分子が形成する自己組織化ヒドロゲルと、その基本構造であるナノサイズの極細繊維の機能開発を進めている。

自己組織化によりナノファイバーを形成する両親媒性分子の構造

自己組織化によりナノファイバーを形成する両親媒性分子の構造

研究グループは今回、合成分子同士が集まってできた直径10〜100nmの人工ナノファイバーを開発し、その性質を詳細に調べた。ファイバー内では、ファイバーの構成分子同士が繊維構造を維持したまま活発に運動して行き来し、構成分子は川の流れのような流動性を持っていることが分かった。また、この移動の挙動は、ファイバー構成分子が持っている電荷に依存して変化し、ファイバーに電場をかけることでコントロールできることも明らかになった。

そして、この自己組織化ナノファイバーを物質輸送のレールとして利用するために物質結合部位を導入すると、たんぱく質やナノ粒子がナノファイバー表面に結合して、そのファイバー上を一次元的に移動することも分かった。

自己組織化による物質結合能を有するナノファイバーの形成と結合したナノ物質の移動の概念図

自己組織化による物質結合能を有するナノファイバーの形成と結合したナノ物質の移動の概念図

すなわちナノファイバーが分子のレールとなって物質を運んでいることも発見した。特に、ナノ粒子の場合には、その動きを1個ずつ独立に顕微鏡によって観察することができることから、ナノ粒子がファイバー上を運動している様子を直接可視化して、解析した。

また、この自己組織化ナノファイバーはマイクロ流路(高さと幅が共に数10µmの小さな流路)を利用すると、その向きを揃えることも可能で、ビーズの移動を直線状にコントロールできることも明らかにした。

マイクロ流路中で配向させた自己組織化ナノファイバーにナノビーズが結合し、長軸に沿って運動していることを可視化した顕微鏡画像(スケールバー=5µm)。左と中央は各時間でファイバー上のナノビーズ(1、2、3、4)の位置を捉えた画像、右は各ナノビーズが1分39秒630ミリ秒の時間内で1次元方向に往復運動した軌跡(赤、紫、青、緑の線で表示)を画像に重ねたもの。

マイクロ流路中で配向させた自己組織化ナノファイバーにナノビーズが結合し、長軸に沿って運動していることを可視化した顕微鏡画像(スケールバー=5µm)。左と中央は各時間でファイバー上のナノビーズ(1、2、3、4)の位置を捉えた画像、右は各ナノビーズが1分39秒630ミリ秒の時間内で1次元方向に往復運動した軌跡(赤、紫、青、緑の線で表示)を画像に重ねたもの。

詳しい検証の結果、ビーズの運動速度(0.3µm/s)は分子レールを構成している両親媒性分子がファイバー中を流れる速度とほぼ一致した。

このことは、レールに結合した物質はレール自身の流れ、すなわち両親媒性分子の流動性を利用して運ばれることを示している。つまり、微小管などの生体輸送システムとは全く異なったメカニズムを持った人工の分子レールができたことを意味する。また、その速度はある種の微小管結合たんぱく質あるいはDNA結合たんぱく質が微小管、もしくはDNA上を一次元ランダム運動する速度(拡散係数=0.1〜0.4µm^2/s)とほぼ同じで、分子の世界では十分早いものだったという。

開発したナノファイバーによる分子レールは、細胞内ファイバーの物質輸送システムとはメカニズムは全く異なる。だが、色々な環境下で使用できる新たな物質輸送用ナノレールとしての応用は、極微小で微量な物質の輸送・分離、またその解析につながることが期待出来るという。

これまでにボトムアップアプローチで作製された分子マシンでは、ナノメートルスケールの分子運動でしか実現していなかった。今回のように顕微鏡でも観察可能な、マイクロメートルスケールにもおよぶ分子の運動と移動を制御した人工システムは、ほとんど例がないという。

生体の微小管上の分子モーターのように、望みの条件で動きの方向性を制御するためには新たな戦略が必要になる。ナノファイバーに結合した物質の動きの方向性の制御が重要だと考えられるという。現在ファイバーに結合したナノ物質の動きは一次元に制御されてはいるものの、その運動方向はランダムで、現時点では方向性を規制するためには電場を利用する必要がある。

今回のような人工分子レールシステムは、マイクロメートルスケールにおける極微小で微量のナノ物質の輸送・分離や解析を利用したナノ医療診断ツールの開発や人工細胞の構築などにつながる可能性がある。


図解 よくわかるナノファイバー
本宮 達也
日刊工業新聞社
売り上げランキング: 474331


医療ナノテクノロジー―最先端医学とナノテクの融合
杏林図書
売り上げランキング: 34365


効率よく光を捕集し伝達する「多孔性共役高分子」の合成に成功

光励起エネルギーがクマリン分子に集まってくる様子。ポリフェニレン骨格をもつ多孔性共役高分子を紫色、励起エネルギーを受け取るクマリン分子が緑色。クマリン分子は多孔性高分子のポア(孔)に入っている。

光励起エネルギーがクマリン分子に集まってくる様子。ポリフェニレン骨格をもつ多孔性共役高分子を紫色、励起エネルギーを受け取るクマリン分子が緑色。クマリン分子は多孔性高分子のポア(孔)に入っている。

効率よく光を捕集し伝達する高分子の合成に成功  詳細|トピックス|分子科学研究所.

自然科学研究機構分子科学研究所の江グループ(江 東林准教授)と大阪大学・関グループは、効率よく光を捕集し伝達する高分子の合成に成功したと発表した。

太陽光を化学エネルギーや電気エネルギーに変換できる分子システムの構築が注目されている。光エネルギーの利用は、光を吸収することから始まる。

光子密度の希薄な太陽光を効率的に利用するには、光吸収ユニットを高密度に集積化する必要がある。これまでに、様々な分子システムが提案されているが、ほとんどの系では光吸収ユニットを持っていても、ユニット間の協同作用が無く、捕集した光エネルギーを欲しい場所まで運搬できなかった。

分子科学研究所の江グループでは、一昨年、π(パイ)電子系 共有結合性骨格をもった高分子化合物を世界で初めて合成し、続いて昨年、光エネルギーを伝達することができる特性を持った共有結合性骨格の合成に成功した。この高分子は、二次元のポリピレンシートが積層されてできる立方体構造をもつものだった。

今回、江グループは、「多孔性共役高分子(共役鎖が三次元的につながった多孔性高分子)」の合成に成功し、さらに効率よく光を捕集し、伝達できる新しい光捕集システムを構築した。

「多孔性共役高分子」は電子が分子全体に広がった共役構造を持ちながら、巨大な表面積を有するユニークな高分子。このような特徴により光捕集アンテナとして優れた特性を持ち、光を吸収するユニットを高密度に集積することができる。

共役構造は三次元的に広がっているため、吸収した光エネルギーは特定のユニットにとどまることなく、高分子骨格を高速移動できることが特徴だという。

江グループでは、三次元構造を有する多孔性共役高分子に着目し、独自の手法により多孔性高分子の内部に光励起エネルギーを受け取るクマリン分子を組み込むことで、三次元骨格で捕集した光エネルギーをその場所に伝達することを可能にした(図)。

具体的には、ポリフェニレン骨格をもつ多孔性共役高分子は、1,2,4,5̶テトラブロモベンゼンと1,4ーフェニルジホウ素酸をモノマーとした重縮合反応によって合成され、ポアサイズが1.56ナノメートル(ナノは10億分の1)、表面積が1グラム当たり1083平方メートルの多孔性共役高分子が得られた。

この高分子のポアに、共役高分子骨格の励起エネルギーを受け取る分子としてクマリン6という色素を物理的に内包することによって、エネルギー伝達システムを構築した。

今回合成に成功した高分子では、分子にあたった光は、分子全体に広がるπ共役を介して目的の場所まで伝達されるため大変効率よくエネルギーを運ぶことができるのでエネルギー移動効率は90%に達し、トップクラスの効率を示しているという。

方向性を持って光励起エネルギーをほしい場所に伝達できることは変換システムに欠かせない。今回の研究成果は、この光変換システムの構築に必須の技術を提供するものであり、太陽エネルギーの電気エネルギーへの変換に貢献することが期待されるという。


高分子の化学
高分子の化学
posted with amazlet at 10.05.17
北野 博巳 宮本 真敏 前田 寧 福田 光完 伊藤 研策 功刀 滋
三共出版
売り上げランキング: 303802


有機機能性材料化学―基本原理から応用原理まで
原田 明 御崎 洋二 井上 将彦 三宅 幹夫 今堀 博 田中 耕一 宮林 恵子 井上 佳久 樋口 弘行 中辻 慎一
三共出版
売り上げランキング: 443235


金属錯体の光化学 (錯体化学会選書)
佐々木 陽一 石谷 治 石井 和之 石田 斉 大越 慎一 加藤 昌子 小池 和英 杉原 秀樹 民秋 均 野崎 浩一
三共出版
売り上げランキング: 32426


多孔性金属錯体のナノ粒子を簡便に合成、ガス分子を取り込む仕組みを明らかに

分子の取り込みにより構造を変える多孔性金属錯体のイメージ図。ゲスト分子の吸着に伴い細孔は押し広げられる。

分子の取り込みにより構造を変える多孔性金属錯体のイメージ図。ゲスト分子の吸着に伴い細孔は押し広げられる。

1つずつ分子を取り込む固体材料のナノ粒子化に成功 -ナノサイズの固体物質、ガス分離材料に新たな知見- — 京都大学.

京都大学 物質-細胞統合システム拠点(iCeMS=アイセムス)の北川進 副拠点長と、ドイツアーヘン工科大学ドイツ・ウール研究所(DWI)の田中大輔 博士と ユルゲン・グロル博士らの研究グループは、環境負荷の少ない分離プロセス技術の開発などに大きく貢献できる可能性がある技術の開発に成功した。固体中に存在するナノサイズの細孔の形が変形して効率よく小分子を取り込む物質の特性を調べ、その粒子サイズを極限まで小さくすることで、分子を取り込む強さをコントロールする事に成功したという。均一なナノ粒子ではバルクと比べガス分子の吸着挙動が大きく変化したことも明らかにした。イギリスの科学誌「Nature Chemistry(ネイチャー・ケミストリー)」オンライン速報版で公開される。

今回、研究グループは、分子の取り込みにあわせて細孔の形を変える「ナノ孔物質」の合成および微粒子化を行い、粒子サイズと分子を取り込む仕組みの相関を解析した。

約1nmサイズの規則的な細孔を持つ「多孔性金属錯体」の中には、ガス分子を取り込む際に細孔の形をガス分子にあわせて包み込むように変化させるものが存在する。このように、ターゲットとなる分子にあわせて分子レベルで孔の構造が変わる物質は、排気ガスに含まれる二酸化炭素などの温室効果ガスや窒素酸化物(NOx)のような有害な小分子を効率的に取り込む分離剤として注目されている。

しかし一方で、孔の形が変形する際に重要となるファクターは未だ明らかにされていない。また分離に向けた精密な材料設計の指針を立てることは困難だった。

今回の研究では、新たに開発したナノ~メゾ領域(5~100 nm)の粒子サイズの合成手法を用いることで、多孔性金属錯体のナノ粒子を簡便に合成することに成功し、ガス分子を取り込む仕組みを明らかにした。

アーヘン工科大学DWIの研究グループは今回、界面活性剤を用いてナノサイズのエマルジョンを作成し、その内部を反応場として多孔性金属錯体ナノ粒子を合成した。特に、この反応溶液に超音波を照射することで、通常は1日程度かかる反応時間を10分以下に短縮することに成功した。

従来の合成方法(左)と本研究で開発した合成手法(右)。界面活性剤と超音波照射を併用して、反応溶液をエマルジョン化し、内部を反応場とすることで均一なナノ粒子の合成することができる。

従来の合成方法(左)と本研究で開発した合成手法(右)。界面活性剤と超音波照射を併用して、反応溶液をエマルジョン化し、内部を反応場とすることで均一なナノ粒子の合成することができる。

京都大学のグループは、今回合成したナノ粒子と従来の手法で合成した 0.1mm程度の大きな粒子サイズを持つ物質のガス吸着挙動を評価、比較した。その結果、ナノ粒子は従来知られていた相とは異なる中間状態を経由して、格段に早く構造を変化させ分子を取り込むことを発見した。

吸着速度の変化の様子。均一なナノ粒子化した多孔性金属錯体はバルク錯体と比較し、ガス分子は迅速に細孔内へ吸着され、応答速度は非常に速くなる。

吸着速度の変化の様子。均一なナノ粒子化した多孔性金属錯体はバルク錯体と比較し、ガス分子は迅速に細孔内へ吸着され、応答速度は非常に速くなる。

今回の研究では固体材料の粒子サイズをナノレベルまで微小化するだけで、分子を包み込む強さと速さが大きく変わることを示した。粒子サイズが不揃いであると細孔への吸着速度も遅い部分が生じてしまう。均一ナノ粒子化したことにより、ガス分子は迅速に細孔内へ吸着され、非常に速い応答速度を得ることに成功したのだという。

また分子を取り込む強さも粒子サイズによって変化することが示された。粒子のサイズを変えるだけで吸着挙動が大きく変わる性質は、他の吸着剤では報告されていない。これはこの研究で明らかとなった多孔性金属錯体特有の非常にユニークな特性であり、これまで分離が困難であった小分子ガスを簡便に除去する技術開発への応用が期待できるという。

また従来の多孔性金属錯体の合成法では、高温、高圧を要求する過酷な反応条件や、数日を要する長い合成時間を必要としていたため、この材料のナノ粒子化を実現するのが難しく、その基礎的な分子吸着特性に関する研究も充分に行えなかった。今回開発した界面活性剤と超音波照射を併用する方法は、従来の手法で制約となっていたナノ粒子調製の制約を大きく緩和させる。この手法を用いることで、今後より多くの多孔性金属錯体ナノ粒子の特性が研究されていくことが期待できるとしている。


もっと知りたいナノ粒子の世界
小石 眞純
日刊工業新聞社
売り上げランキング: 196301


ナノ粒子のはなし (SCIENCE AND TECHNOLOGY)
小石 眞純 石井 文由
日刊工業新聞社
売り上げランキング: 594707



鉄鋼を超える強度を保つシート状汎用プラスチック 整列したナノ結晶をダイヤモンド同等強度を持つひも状分子が結ぶ

鉄鋼のように強い汎用プラスチックの創製.

広島大学 大学院総合科学研究科の彦坂正道 特任教授と岡田聖香 博士研究員らは、JST産学連携事業の一環として、鉄鋼を超える比強度(引張り破壊強度を比重で割った値)を持ち、安価で、水に浮く軽さで、リサイクルが可能なシート状の超高性能汎用高分子材料(汎用プラスチック)の創製に成功したと発表した。2010年6月発行の日本の学術雑誌「Polymer Journal」に掲載される予定。

彦坂特任教授らは、融点以下に冷やした高分子の融液(1つの物質のみが融けた状態の液体)を引っ張って結晶化させる製法により、代表的汎用プラスチックであるポリプロピレンの結晶化度をほぼ100%に高めることに成功し、引張強度をこれまでの7倍以上の230Mpa(メガパスカル)に高め、比強度を鉄鋼の2〜5倍にした。

この材料は高層ビルや家屋などの建築材料にも適しており、耐水性も加味されるので、橋梁やダムなどの構造材としても期待でき、また透明率が高いのでガラス 代替も考えられるという。

高分子材料は軽量・安価・高成形性といった利点を持ち、世界年産約3億トン弱にも達する。しかし、強度や耐熱性などの材料特性が金属などより著しく劣るために高度な性能要求に応えることができない。

その原因は、非晶率(結晶にならない部分の比率。結晶性物質において、結晶にならずに単に固化しただけの相の比率)の高さにある。結晶性高分子は長いひも状分子だが、融液(液体)中で毛玉のように互いに絡み合う部分が多いために薄い板状結晶にしかなれず、非晶と結晶が層構造を成し「球晶」というゴルフボールのような結晶体になる。

従来型の高分子結晶の成り立ち(画像提供:広島大学 戸田 昭彦 教授)。通常、長いひも状の高分子は、融液(液体)状態では毛玉のように互いに絡み合い、結晶状態では折りたたまれるようにして厚さ10nmの薄板状の「折りたたみ鎖結晶」となる。これがさらに非晶と交互に積み重なった積層構造を構成し、これを素材として、球晶というゴルフボール状の数十〜数百µmサイズの粗大な結晶を構成する。このため、その結晶化率は50%に満たず、これがプラスチックの弱さの要因となっている。

従来型の高分子結晶の成り立ち(画像提供:広島大学 戸田 昭彦 教授)。通常、長いひも状の高分子は、融液(液体)状態では毛玉のように互いに絡み合い、結晶状態では折りたたまれるようにして厚さ10nmの薄板状の「折りたたみ鎖結晶」となる。これがさらに非晶と交互に積み重なった積層構造を構成し、これを素材として、球晶というゴルフボール状の数十〜数百µmサイズの粗大な結晶を構成する。このため、その結晶化率は50%に満たず、これがプラスチックの弱さの要因となっている。

つまり、球晶内には結晶にならず、固化しただけの非晶が半分以上残ってしまう。そこで結晶化度(固体に含まれる結晶の割合)を増大する方法を探して現在に至っている。難点を補完するために、高強度と高耐熱性などを特長とするスーパーエンジニアリングプラスチック(スーパーエンプラ)や繊維強化プラスチックが開発され、航空機の構造材や高級産業製品などに利用されているが高価なため、汎用の工業製品などに利用することは経済的に難しかった。

彦坂特任教授は、1987年に高分子の結晶化のメカニズムを説明する「高分子滑り拡散理論(「高分子は長いひも状分子が絡み合いを解き、蛇のように滑りながら結晶格子上に配列していく」という理論)」を提唱。「長いひも状分子である高分子」の本性に着目し、高分子の研究を続けてきた。だが、結晶性高分子が融液の状態からいかにして結晶化を開始し、固体になるのかというメカニズムをなかなか解明できなかった。

そこで彦坂特任教授と岡田博士研究員らは、(財)高輝度光科学研究センターの大型放射光施設「SPring-8」を利用して、高分子結晶化初期のナノレベルでのメカニズムの解明に挑戦した。

そして「結晶の赤ん坊」である「ナノ核(結晶の赤ん坊、または種のこと。約0.数nm以上のサイズで、原子・分子で数えると数個以上集まった結晶)」生成の直接観察に成功し、2007年に結晶化初期のメカニズムを明らかにした。研究グループは、その後も結晶化を制御することによって、従来はなかった新しい構造と活性の発現を目指す研究を続けてきた。

研究グループが、高結晶化度と超高性能実現の方策として狙いを定めたのは「ナノ配向結晶体(NOC: Nano Oriented Crystals)」。ひも状の高分子鎖が、融液段階で、毛玉状に絡まっているために非晶が発生する。ならば、これを一定方向に並べた上で結晶化すれば、結晶化度の高いナノ配向結晶体が実現すると考えたのだという。

そのためには、高分子融液を引っ張って伸ばしながら結晶化させる必要がある。しかし融液、つまり液体を引っ張ることは簡単にはできない。

そこで「過冷却融液(融点以下に冷やした高分子の融液)」を潰して伸長するというアイデアを考えた。左右に細長い溝の中に融液を入れて瞬間的に圧力を加えて潰すと、融液内には左右に広がる激流が生じる。すると急流にさらされた布のように、ひも状分子が引き伸ばされ、高配向したナノ結晶が実現する可能性があるからだ。

押し潰しによる伸長結晶化の原理図。結晶化を開始する過冷却温度に下げた高分子融液に、上部から力をかけて押し潰し、融液を急速伸長させることにより、伸長結晶化を実現する。

押し潰しによる伸長結晶化の原理図。結晶化を開始する過冷却温度に下げた高分子融液に、上部から力をかけて押し潰し、融液を急速伸長させることにより、伸長結晶化を実現する。

研究グループは、このアイデアを実現して、SPring-8において観察し、この仮説の正しさをナノレベルの解析で検証することに成功した。

NOC生成のメカニズム。高分子の過冷却融液が押し潰されることで、高分子鎖が引き伸ばされて、配向融液となるために、微結晶の種である「ナノ核」が融液内でまんべんなく瞬時に生成されるようになる。

NOC生成のメカニズム。高分子の過冷却融液が押し潰されることで、高分子鎖が引き伸ばされて、配向融液となるために、微結晶の種である「ナノ核」が融液内でまんべんなく瞬時に生成されるようになる。

問題はどの程度の速さで潰せばよいかだ。過冷却融液を潰す圧力と速度を変えながら伸長と配向の様子を観察したところ、1秒間に数百倍も伸長するような、大きな伸長歪み速度(伸長変形の速度)によって、同じ結晶化温度でも結晶化が一気に100万倍も速くなる「臨界伸長歪み速度」が確認できた。

臨界伸長歪み速度の確認。10^3秒前後を要していた結晶化が開始されるまでの待ち時間(誘導時間)が、1秒間に200倍の伸長が実現する力を押し潰しによって加えた時点の伸長歪み速度(赤い点線部分)で、一気に10^-3秒と100万倍速くなる「臨界伸長歪み速度」が発見された。

臨界伸長歪み速度の確認。10^3秒前後を要していた結晶化が開始されるまでの待ち時間(誘導時間)が、1秒間に200倍の伸長が実現する力を押し潰しによって加えた時点の伸長歪み速度(赤い点線部分)で、一気に10^-3秒と100万倍速くなる「臨界伸長歪み速度」が発見された。

さらに、メカニズムを知るために、臨界伸長ひずみ速度以上で伸長結晶化して得られる試料の様子をSPring-8で観察した。すると過冷却融液中の高分子鎖が平行に並んだ完璧に近い配向融液になり、無数の核がミリ秒オーダーで生成し、融液全体の92%が結晶化することを確認した。

図5 NOCの結晶化。高分子融液を押し潰した瞬間にNOCが結晶化する様子をハイスピードカメラで観察した偏光顕微鏡画像。青と黄色の部分が配向結晶化している証拠。わずか数m秒で急速に配向結晶化が進む様子が見られる。

図5 NOCの結晶化。高分子融液を押し潰した瞬間にNOCが結晶化する様子をハイスピードカメラで観察した偏光顕微鏡画像。青と黄色の部分が配向結晶化している証拠。わずか数m秒で急速に配向結晶化が進む様子が見られる。

NOCは、引っ張り破壊強度、つまり引っ張る力に耐える強度が同重量の鉄鋼の2〜5倍という値を示す。

プラスチックシートの引っ張り破壊強度比較。ナノ配向結晶体の引張り破壊強度は、従来の汎用プラスチックの約7倍であり、エンプラ、スーパーエンプラと同等以上であり、従来の結晶性高分子シート中では最大級の強度を示す。

プラスチックシートの引っ張り破壊強度比較。ナノ配向結晶体の引張り破壊強度は、従来の汎用プラスチックの約7倍であり、エンプラ、スーパーエンプラと同等以上であり、従来の結晶性高分子シート中では最大級の強度を示す。

シートの比強度の比較

シートの比強度の比較

しかも耐熱性は通常のポリプロピレンより50℃以上高い176℃だった。

NOCの高耐熱性。耐熱温度とは、熱変形量が3%以上となる温度を意味する。従来品(OPP)の耐熱温度と比較すると50℃ 以上増大している。一般的なスーパーエンプラの耐熱温度条件は150℃以上だが、NOCはこれを大きく上回る。

NOCの高耐熱性。耐熱温度とは、熱変形量が3%以上となる温度を意味する。従来品(OPP)の耐熱温度と比較すると50℃ 以上増大している。一般的なスーパーエンプラの耐熱温度条件は150℃以上だが、NOCはこれを大きく上回る。

また光の波長より小さいナノ結晶であるがゆえに高い透明性を示した。

 結晶性高分子の透明性の比較。縦軸は透明性を示すヘイズ値(資料の厚さを0.3mmに換算)。左端が透明性を高めたNOC。クリアフォルダーとは比較にならない透明であり、さらにポリスチレン製の弁当の透明な蓋より透明度はかなり高く、ガラス並みの透明度。

結晶性高分子の透明性の比較。縦軸は透明性を示すヘイズ値(資料の厚さを0.3mmに換算)。左端が透明性を高めたNOC。クリアフォルダーとは比較にならない透明であり、さらにポリスチレン製の弁当の透明な蓋より透明度はかなり高く、ガラス並みの透明度。

さらに何も混ぜ物を加えないので、高い収率でリサイクルができる可能性があるという。しかも高分子融液を潰すという単純な工程が加わるだけなので、従来の成形法を少し改良した成形法で成形ができるために、製造コストは従来のプラスチックと大差はないとしている。

NOCをX線回折法で調べると、20〜30nm(ナノメートル=10^-9m)のナノ結晶が一列に並んでいた。しかも長さが2µm(マイクロメートル=10−6m)の1本のひも状分子鎖が100個以上のナノ結晶を貫いて、強い結合によって結びつけていた。このひも状分子は、炭素が共有結合で連なっているものなので、ダイヤモンドと同じ強度を持つ。

つまり無数のナノ結晶が整然と並び、これをダイヤモンドと同等の強度を持つひも状分子がしっかりと連結している構造だったために超高性能が生まれたと考えられるという。本研究グループは、この構造を「鎧モデル」と名づけた。

NOCの「鎧モデル」模式図。NOCは、直径が20〜30nmのナノ結晶が、伸長方向に整然と並んでいる。1本の強靭なひも状分子の長さは2µmなので、1本の分子は約100個のナノ結晶体を貫通しながら結びつけている。ダイヤモンドと同等の強度のひも状分子が、ほぼ100%結晶化されたナノ結晶を連結している様子が鎧に似ているので、その構造を「鎧モデル」と名づけた。

NOCの「鎧モデル」模式図。NOCは、直径が20〜30nmのナノ結晶が、伸長方向に整然と並んでいる。1本の強靭なひも状分子の長さは2µmなので、1本の分子は約100個のナノ結晶体を貫通しながら結びつけている。ダイヤモンドと同等の強度のひも状分子が、ほぼ100%結晶化されたナノ結晶を連結している様子が鎧に似ているので、その構造を「鎧モデル」と名づけた。

NOCは、鉄鋼の2から5倍、アルミニウムの6倍の比強度(重量当たりの引張破断強度)と、通常のプラスチックより50℃以上高い耐熱性、透過率99%の実現も可能な透明性、さらに廃材が高率で再生可能な高リサイクル率の可能性などさまざまな優れた特性を持つ。これに加え、成形性が良く、さびないなどのプラスチック本来の特性も備えている。また、NOCを折りたたんでも、力を外すと、再び元の形状に戻る。この強靭さと弾力性の両立は、鉄鋼をはるかにしのぐ。そのため既存の特殊な高分子材料(エンプラ)にとって代わることは十分に期待されるという。

超高性能高分子材料の国内市場規模。スーパーエンプラは、フィルム、シート、板材などとして活用されており、その市場規模は7000億円を超え、世界市場の規模はその10倍。この市場もNOCのターゲットとなる。

超高性能高分子材料の国内市場規模。スーパーエンプラは、フィルム、シート、板材などとして活用されており、その市場規模は7000億円を超え、世界市場の規模はその10倍。この市場もNOCのターゲットとなる。

また比強度の大きさから、鉄鋼やアルミニウムなどの金属材料に代替することで、製品の軽量化を図ることが期待される。また、高剛性と高靱性を備え、錆ないことから、高層ビルや家屋などの建築材料にも適しており、耐水性も加味されるので、橋梁やダムなどの構造材としての利用も期待できるという。しかも透過率99%という高い透明性は、ガラスの代替材としても期待できる。

産業化を見据えた研究開発ロードマップ

産業化を見据えた研究開発ロードマップ


図解 適用事例にみる高分子材料の最先端技術―なぜ、高分子材料を使うのか
松浦 一雄 尾崎 邦宏
工業調査会
売り上げランキング: 573408


図解 高分子新素材のすべて―21世紀の機能材料をひも解く
国武 豊喜
工業調査会
売り上げランキング: 468886


基礎高分子科学
基礎高分子科学
posted with amazlet at 10.04.20
高分子学会
東京化学同人
売り上げランキング: 129513


数原子層の金属酸化物薄膜表面上で単一水分子の移動や化学反応の制御に成功 金属酸化物超薄膜を用いた「機能性触媒」の創成に期待

数原子層の金属酸化物の薄膜表面上で、化学反応の選択制御に初めて成功|2010年 プレスリリース|理化学研究所.

独立行政法人理化学研究所の基幹研究所 表面化学研究室の申炯畯(Hyung-Joon Shin)客員研究員、鄭載勲(Jaehoon Jung)研修生、本林健太研修生、川合真紀理事(元主任研究員)、Kim 表面界面科学研究室の金有洙准主任研究員、国立大学法人大阪大学大学院工学研究科の森川良忠教授、柳澤将博士研究員らは、銀単結晶の上に形成した数原子層の酸化マグネシウム(MgO)薄膜の表面上で、単一水分子の移動や化学反応を選択的に制御することに成功し、その反応メカニズムを解明したと発表した。『Nature Materials』オンライン版(4月18日付け:日本時間4 月19日)に掲載される。

絶縁体で化学的に不活性な金属酸化物の1つであるMgOの薄膜が、金属や金属酸化物のバルク(固まり)にはなかった新しい反応経路を提供することを発見した。さらに、それらの反応経路の選択的制御を単一分子レベルで実現した。

具体的には原子レベルの分解能を有する走査型トンネル顕微鏡(STM)の探針から、薄膜表面上に吸着した水分子にトンネル電子を注入。水素原子を1つ取り出す反応と2つ取り出す反応、さらには単一水分子自体の移動を選択的に引き起こすことに成功した。将来、触媒反応機構の全容解明や高機能触媒の創成へ向けて、STM技術が大きく貢献する可能性があるという。

金属、半導体、絶縁体などの物質は、ナノメートル(nm:1nmは10-9m)サイズになると、バルク(固まり)とは違う特異な性質を現わす。例えば、化学的に不活性(安定)な金が、直径数nmのナノ粒子になると、ほかの貴金属触媒を上回る触媒活性を持つ。また、絶縁性の物質は、通常は電気を通しませんが、厚さを数nm以下に薄くすると、トンネル現象と呼ぶ量子力学的効果を発現し、わずかに電流を流すようになる。そのため、ナノレベルの微細材料による新機能発現を目指した研究が世界中で行われている。

同様に触媒開発でも、金属酸化物を薄膜化して新しい機能を発現する触媒の探索に注目が集まっている。高機能化を目標に設計する触媒では、触媒粒子の大きさが小さくなればなるほど、触媒上で起きている現象の微視的な理解が不可欠となる。特に絶縁体である金属酸化物薄膜の触媒活性は注目され始めたばかりで、薄膜化によって生まれた新しい触媒活性を示した例も報告されているが、原理については、分子レベルではまだ十分に分かっていないという。

研究チームは、化学的に不活性で絶縁性が優れていることから、磁気デバイスやディスプレイなどの材料に幅広く使われ、その結晶構造も塩化ナトリウムと同じ単純な立体構造をした酸化マグネシウム(MgO)を活用し、その薄膜化がもたらす新しい性質を調べた。

まず、原子レベルの精度で膜厚を制御した MgO薄膜を形成するために、格子定数(結晶格子の大きさと形を決める定数。銀は4.15オングストローム(Å)、酸化マグネシウムは4.20Å。)の値が近い銀の単結晶表面上に、酸素雰囲気中でマグネシウムを気化して蒸着させた後、 4.7K(摂氏−268.45℃)の極低温下で水分子を付着させた。

図1 銀単結晶表面上に作成したMgO薄膜の様子。(a)原子二層分のMgO薄膜のSTM像。(b)MgO薄膜の上に吸着した水分子のSTM像。(c)シミュレーションによって得たMgO薄膜と吸着した水分子の構造モデル図(左が薄膜上から見た図、右が横から見た図)。格子定数が近いため、銀原子とマグネシウム原子が重なっている。(赤丸;酸素原子 白丸;水素原子 青丸;マグネシウム原子 灰丸:銀原子)

図1 銀単結晶表面上に作成したMgO薄膜の様子。(a)原子二層分のMgO薄膜のSTM像。(b)MgO薄膜の上に吸着した水分子のSTM像。(c)シミュレーションによって得たMgO薄膜と吸着した水分子の構造モデル図(左が薄膜上から見た図、右が横から見た図)。格子定数が近いため、銀原子とマグネシウム原子が重なっている。(赤丸;酸素原子 白丸;水素原子 青丸;マグネシウム原子 灰丸:銀原子)

この薄膜表面の化学活性を水分子の分解反応に着目して調べた。原子レベルの空間分解能を持つ走査トンネル顕微鏡(Scanning Tunneling Microscope: STM)を利用することで、薄膜表面上を詳細に観察するとともに、トンネル電流として注入する電子のエネルギーと数を制御しながら、個々の水分子で分解反応を起こすなどして、化学反応の速度の解析を行った。

STMの探針から水分子に電子を注入すると、水分子は分解反応を起こす。この反応は、銅などの金属表面上でも観測され、その際に必要な電子の注入エネルギーは1 エレクトロンボルト(eV)以上である。

研究チームは、この水分子の分解反応を、MgOの薄膜上で引き起こした場合、金属や金属酸化物のバルクとは違って、0.45 eVのエネルギーで反応が起こることを発見した。

このことは、金属表面上では、水分子が電子的に励起されて反応を起こす一方、MgO薄膜上では、電子によって励起された分子振動が反応を引き起こすためだと考えられるという。MgO薄膜上では、水分子の振動寿命が長くなる。そのため、分子振動が励起されている間に次の電子がさらに振動を励起する「振動の多段励起」という新しい経路による反応が可能となったとしている(図 2d)。

図2 振動励起を介した水分子の分解反応の様子。(a)MgO薄膜上に吸着した水分子のSTM像(反応前)。(b)MgO薄膜上の水分子の分解生成物のSTM像(反応後)。(c)シミュレーションにより得られた分解生成物の構造モデル図。(赤丸;酸素原子 白丸;水素原子 青丸;マグネシウム原子)(d)振動の多段階励起により反応障壁を越え、反応するエネルギーダイヤグラム

図2 振動励起を介した水分子の分解反応の様子。(a)MgO薄膜上に吸着した水分子のSTM像(反応前)。(b)MgO薄膜上の水分子の分解生成物のSTM像(反応後)。(c)シミュレーションにより得られた分解生成物の構造モデル図。(赤丸;酸素原子 白丸;水素原子 青丸;マグネシウム原子)(d)振動の多段階励起により反応障壁を越え、反応するエネルギーダイヤグラム

さらに研究チームは、電子の注入エネルギーを1.5 eV以上に上げた場合には、金属表面上で起きていた現象と同様、電子的な励起を介した反応が起きることを確認した。

反応前後のSTM像を、理研のスーパーコンピュータ・システム「RICC(RIKEN Integrated Cluster of Clusters)」を利用して、第一原理電子状態計算法(実験結果に頼らないで、量子力学の基本原理から分子や結晶の性質を計算する方法)に基づくシミュレーション結果と比較したところ、振動励起を介した反応では水分子から水素原子が1つ抜けるのに対し、電子励起を介した反応では水素原子が2つ抜けることが分かった。

また、電子のエネルギーは0.45 eVのままで、トンネル電流の値(電子の注入頻度)を5ナノアンペア以下にした場合、水分子は分解せずに表面上を移動する現象が起こることも分かった。

このように水分子への電子の注入頻度やエネルギーを調節することによって、分子の移動・分解の制御、さらには分解反応の生成物を制御できるようになったという。

図4 振動励起を介した水分子の移動の様子。(a)MgO薄膜上に吸着した水分子が移動する前のSTM像。(b)STMから1つの水分子に電子を注入する様子。 (c)1つの水分子が移動した後のSTM像。

図4 振動励起を介した水分子の移動の様子。(a)MgO薄膜上に吸着した水分子が移動する前のSTM像。(b)STMから1つの水分子に電子を注入する様子。 (c)1つの水分子が移動した後のSTM像。

今後は、膜厚の変化が薄膜の化学活性にどう影響するかや別の金属酸化物や化学反応に対する活性を調べる。新機能の触媒や触媒の設計指針の確立が期待できるという。


絵とき「薄膜」基礎のきそ (Electronics Series)
小林 春洋
日刊工業新聞社
売り上げランキング: 171302


表面科学からみた触媒分子設計 (表面・薄膜分子設計シリーズ)
宮崎 栄三
共立出版
売り上げランキング: 941701


ナノの世界が開かれるまで
五島 綾子 中垣 正幸
海鳴社
売り上げランキング: 825427


フラーレンによる動物への遺伝子導入に成功 東大

水溶性フラーレンTPFEによる生体への遺伝子導入。水溶性フラーレンTPFEでは、図中央に示す4つの正電荷を有するアミノ基が通常型フラーレン (C60)に付随しており、そのため負電荷のDNAと図中央左のように結合する。これは100nm程度のナノ粒子を形成し細胞膜を通過し、細胞内では再び TPFEとDNAに戻る。ここでは、GFP遺伝子導入に成功し、細胞内にGFPが生じるため、図下右では一連のマウス気管支細胞にGFPが緑色に発現して いることが分かる。青色は核を示す。

水溶性フラーレンTPFEによる生体への遺伝子導入。水溶性フラーレンTPFEでは、図中央に示す4つの正電荷を有するアミノ基が通常型フラーレン (C60)に付随しており、そのため負電荷のDNAと図中央左のように結合する。これは100nm程度のナノ粒子を形成し細胞膜を通過し、細胞内では再び TPFEとDNAに戻る。ここでは、GFP遺伝子導入に成功し、細胞内にGFPが生じるため、図下右では一連のマウス気管支細胞にGFPが緑色に発現して いることが分かる。青色は核を示す。

引用元: 世界初、フラーレンによる動物への遺伝子導入に成功 – プレスリリース – 東京大学 大学院理学系研究科・理学部.

東京大学医学部附属病院 血液浄化療法部 准教授 野入英世と東京大学大学院理学系研究科 化学専攻 教授 中村栄一らの共同研究チームは、フラーレン(炭素原子がサッカーボール状につながった分子)を用いた生体への遺伝子導入に成功したと発表した。フラーレンの医療応用を射程圏内に捉えた研究成果で、遺伝子導入の報告は世界初。米国科学アカデミー紀要「Proceedings of the National Academy of Sciences of the United States of America(PNAS)」オンライン版Early Editionに発表される。

研究チームは、通常のフラーレン(C60)に、負に帯電したDNAに結合できるように正電荷を持つ4つのアミノ基をもたせた「水溶性フラーレン(TPFE)」を合成し、GFP(緑色蛍光蛋白質)遺伝子で導入確認を行った。研究グループはフラーレン遺伝子導入試薬は肝臓や腎臓に機能障害もなく安全性にも優れているとしている。

その後、糖尿病治療効果のあるインスリン遺伝子をもつDNAと結合させて動物の体内に導入し、遺伝子が発現することで血中インスリン濃度が上がり、血糖が下がることを世界で初めて示した。

これまでの遺伝子導入法では、ウィルスや脂質類似物質が用いられてきたが、安定性や安全性を初めとした種々の問題点が克服できず実用段階には到達していない。TPFEは低毒性で安価に大量合成できることから、本研究の発展による新たな遺伝子導入法の展開が期待されるという。



究極のシンメトリー―フラーレン発見物語
ジム バゴット
白揚社
売り上げランキング: 815251


分子素子間の電子伝導パスを明らかに 分子エレクトロニクスの基礎となる成果 東北大

分子間伝導

電子が隣の分子… | 受賞・成果等 | 東北大学 -TOHOKU UNIVERSITY-.

東北大学多元物質科学研究所の米田忠弘教授らは、「アルカンチオール自己組織化膜」の分子で伝導経路の解析を行い、電流が分子骨格に沿って流れるだけでなく、分子から分子に飛び移るパスを持っていることを明らかにした。分子エレクトロニクスの基礎となる伝導経路について明確な検証を行った最初の研究だという。

代表的な電子材料であるシリコンではバンドと呼ばれる結晶中の自由電子による伝導が中心と考えられているが、有機分子では電子は偏って存在し自由電子のような伝導は期待できず、電気伝導はホッピングと呼ばれる電子が飛び移る伝導機構による場合が多いと考えられている。だが分子内のどこをどのように電流が流れるかも分かっていなかった。

研究グループは電流が伝導の道筋で分子の振動を励起していくことを利用し、電流に含まれている分子振動の様子を精密に取り出す「電流の非弾性分光」という手段を用いた。振動エネルギーは正確に決まっているので、伝導電子がしきい値以上のエネルギーを持たないと振動を引き起こせない。そしてエネルギーの上下で電流にわずかな流れやすさの差が出る。その変化から分子振動のエネルギーと強度、さらには電流がどのような経路で伝導するかの情報を得ることができるのだという。

研究グループは、良く規定された分子を用いた実験と、精度の高いシミュレーションによって、高い精度で分子の振動解析を行った。そして、分子の骨格を伝導する「Intra-moleculeモード」という伝導経路だけではなく、分子から分子へ飛び移るIntra-moleculeモードを考えないといけないことを明らかにした。

分子を流れる電流を解析することで得られる分子振動分光が理論シミュレーションと一体化することで、電流が分子のどこを流れているのかという、従来まったく手のつかなかった領域に正確な情報を得られることが分かったという。

今回の研究は、分子伝導の計算技術が十分発展しており、分子中の伝導現象をシミュレーションできるレベルにあることを示したもの。分子振動による分子の分析は、分子エレクトロニクスの材料開発で一般に用いられるようになると予想されるという。

分子エレクトロニクスの話 (先端科学技術をやさしく紹介するシリーズ)
齋藤 軍治
ケイディーネオブック
売り上げランキング: 467740

低温でも動作する固体酸化物燃料電池の開発に繋がる成果 京大

低温での固体酸化物のイオン拡散

固体酸化物における低温での酸素イオン拡散の解明 -低温動作可能な固体酸化物燃料電池開発へ向けた新知見- — 京都大学.

京都大学 化学研究所の島川祐一教授と、京都大学大学院工学研究科物質エネルギー化学専攻、陰山 洋 教授、フランス レンヌ第一大学、Werner Paulus 教授らは共同で、ペロブスカイト構造酸化物の単結晶薄膜を用いた還元反応の研究の過程で、固体酸化物中での酸素イオンの拡散が300℃以下で異方的に起こることを発見したと発表した。低温でも動作する固体酸化物燃料電池の開発に繋がる成果だという。Nature Chemistry電子版で公開された。

に固体燃料電池は、電池内に液体を一切使わない利点があるが、固体電解質におけるイオン伝導が通常は700℃以上の高温でしか起こらない。そのため、広範な実用化のためにはより低温でのイオン伝導材料を開発することが必要とされていた。

ペロブスカイト構造酸化物は高温(700℃~900℃)で酸素イオン伝導を示す。そのため固体酸化物燃料電池の電解質として広く研究開発されてきた。最近、このペロブスカイト構造の酸化物をアルカリハライドで還元することで、より多くの酸素の離脱が起こることが分かり、反応過程での酸素の拡散を伴う酸化還元反応を解明することが固体電解質を開発するための鍵として注目されていたという。

今回の研究グループの実験では、パルスレーザー蒸着法という薄膜成長技術を用いて、酸素欠損ペロブスカイト構造であるブラウンミレライト構造酸化物CaFeO2.5のエピタキシャル単結晶薄膜を結晶方位を制御して成長させることに成功した。

この薄膜は、CaH2というアルカリハライド還元剤を用いると300℃での低温においても還元反応が進行し、無限層構造CaFeO2に変化する。この時の酸素の離脱が起こるためのイオンの拡散が、結晶内の二方向に沿ってしかも異なる拡散エネルギーで起こることをはじめて突き止めた。

この研究成果は、固体酸化物中の酸素イオンの動きを初めて明らかにしたもので、低温で動作可能な固体酸化物燃料電池の電解質などの開発に役立つものとして期待されているという。

 

図解 新エネルギーのすべて
工業調査会
売り上げランキング: 24857

 

燃料電池―実用化への挑戦
堤 敦司 槌屋 治紀
工業調査会
売り上げランキング: 283520

 

Get Adobe Flash playerPlugin by wpburn.com wordpress themes