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太陽系に存在する最も希少な同位体タンタル180が超新星爆発のニュートリノで生成されたことを解明  日本原子力研究開発機構:プレス発表.

日本原子力研究開発機構 量子ビーム応用研究部門の早川岳人研究主幹、先端基礎研究センターの千葉敏研究主幹、国立天文台 理論研究部の梶野敏貴准教授らの共同研究グループは、これまで宇宙における起源が不明であったTa- 180(タンタル180)(タンタルは金属の一種。タンタルには、Ta-181とTa-180の2種類の同位体があるがTa-181の同位体比は99.988%で、Ta- 180の同位体比は0.012%)が、超新星爆発において発生する、膨大な量のニュートリノによる核反応で生成したことを理論的に明らかにした。

ニュートリノは質量が非常に小さく「弱い相互作用」で他の粒子と反応する素粒子の一種で、電子型ニュートリノ、ミュー型ニュートリノ、タウ型ニュートリノ及び、それぞれの反粒子の6種類のニュートリノが存在する。

太陽系には約290種類の同位体が存在している。ほとんど同位体についてはどのような核反応、天体環境で生成されたかが明らかになっている。しかし、太陽系に存在する最も希少な同位体Ta-180の生成起源は不明だった。

過去30年間にわたり、超新星爆発における急速な中性子の捕獲反応、漸近巨大分枝星7)での遅い中性子捕獲反応、超新星爆発の光核反応、銀河系宇宙線による核破砕反応等の様々な仮説が提唱されてきた。しかし、太陽系に存在すべきTa-180の推定量が実在量より少ないという問題があった。

このような中、超新星爆発で発生するニュートリノによる生成が提唱された(図1)。

図1

太陽の8倍以上重い恒星は、寿命の最期に超新星爆発を起こす。超新星爆発では中心部に生成された原始中性子星から膨大な量のニュートリノが放出され、このニュートリノが超新星の外層に存在するタンタル 181や、ハフニウム180 8)とニュートリノ-原子核相互作用を起こし、タンタル180を生成する(図2)。

図2

しかし、この理論を提案した米国の超新星研究グループによる計算では、太陽系に存在すべきTa-180の量が実在量より多すぎるという問題があった。これは、Ta- 180には安定な核異性体(原子核において基底状態以外の準安定な状態)と、短時間で消滅する基底状態(原子核においてエネルギー的に最も安定な状態)が存在するが、計算による推定量には、核異性体だけでなく基底状態の量も含んだ合計量であったためだった。現在太陽系に存在する Ta-180は全て核異性体なので、超新星爆発において核異性体がどれだけ生成するかを計算する必要があった。

今回、研究グループは、これまで計算出来なかった超新星爆発において刻々と変化する温度に対する核異性体の割合を、核異性体と基底状態を異なる同位体と見なす新しいモデルを構築して、計算できるようにした。

超新星爆発では、Ta-180の核異性体と基底状態の両方が生成され、超新星爆発の高温の環境では、高エネルギーの光の吸収と放出によって核異性体と基底状態が相互に変換される(図3)。

図3

この変換割合は温度に依存する。超新星爆発においてTa-180が生成される外層では、1ギガケルビン以上の極めて高い温度に達した後に急速に温度が下がる。数十秒後にはTa-180の核異性体と基底状態の割合は変化しなくなり、基底状態は消滅して核異性体のみが残る。

図4

従来の理論では、基底状態と核異性体だけでなく全ての中間状態を組み込んで計算する必要があった。だがタンタル180の中間状態の数は膨大で、全てが明らかになってはいない。そのため、核異性体の割合を計算できなかった。

新理論の特徴は、基底状態と核異性体を別々の種類の同位体と見なした点。これによって中間状態を考慮する必要がなく、これまでできなかった計算が可能になった。

計算の結果、超新星爆発の温度が十分に下がった時点で、核異性体が0.39生存することが判明しました(全量を1としている)。さらに、この値が超新星爆発の爆発エネルギー、最高温度、冷却の平均時間等の物理条件に依存しないことが判明した。

既存の超新星爆発でのニュートリノ元素生成理論で計算されたTa-180の推定量(基底状態+核異性体)に、この研究で得られた0.39を掛けて核異性体のみの量を求めたところ、太陽系における推定量と実在量がほぼ一致した(図5)。これまでTa-180の起源を説明するため様々な仮説が提唱されてきたが、今回初めてTa-180の生成起源を始めて定量的に説明することができた。

図5

さらに、太陽系に存在するTa-180の量を説明するには、超新星爆発において電子型ニュートリノ、及びその反粒子の平均エネルギーは約12MeVでなければならないことも判明した。

この研究成果は、素粒子物理学や宇宙物理学等の広い分野に波及効果があるという。たとえば岐阜県神岡鉱山内に設置された世界最大規模のニュートリノ検出装置「スーパーカミオカンデ」で期待される超新星ニュートリノ観測の予想、ニュートリノ振動の理解にも貢献する。

宇宙に存在する水素やヘリウム等の軽元素は「ビッグバン」で生成され、より重い元素はビッグバン以降に誕生した恒星の中の核反応で生成された。

恒星の中の核反応で生成された重元素は、超新星爆発や太陽風で放出された。放出された物質は「星間ガス」として宇宙空間にただよっていたが、星間ガスから次世代の恒星が誕生し、次のサイクルに入っていった。このようなサイクルによって、銀河系内に存在する物質の割合は刻々と進化してゆき、今から約46億年前に我々の太陽系が誕生した。

そのため、太陽系に存在する元素や同位体の割合は銀河系における物質の化学進化を記録した重要な情報であり、太陽系に存在する全ての同位体の起源を解明することが物質の進化を解明する上で必要不可欠な研究だとされている。

今回判明した超新星爆発で発生するニュートリノの平均エネルギーは、スーパーカミオカンデ等で期待される次の超新星爆発のニュートリノ観測の予想にも役立つ。

超新星は、銀河系内で20年に1回の頻度で発生すると推定されている。前回、1987年に大マゼラン雲に現れた超新星1987Aからのニュートリノを東京大学のカミオカンデ・グループが人類史上初めて捉えることに成功し、小柴昌俊博士のノーベル賞につながった。次の超新星ニュートリノの観測によって、より詳細な超新星爆発の理解が進むと期待されている。

ニュートリノには、電子・ミュー・タウ型とそれらの反粒子の6種類が存在する。スーパーカミオカンデで捉えることができるのは、主に電子型ニュートリノである。ニュートリノ補足確率は、電子型ニュートリノのエネルギーに依存する。これまでの素粒子物理学の研究によって、極めて軽いけれども異なる3種類の質量を持つニュートリノが存在しており、真空中や物質中を通過する間に互いに入れ替わる、ニュートリノ振動と呼ばれる現象が存在することが判明している。

超新星において中心部の原始中性子星で発生したミュー・タウ型ニュートリノが、外層に到着する短い時間の間にニュートリノ振動によって電子型ニュートリノに変わることが予想されている。ミュー・タウ型ニュートリノと、電子型ニュートリノでは、ニュートリノ-原子核の相互作用の仕方が異なる。Ta-180の量を検証することで超新星爆発時に外層に存在していた電子型ニュートリノの量と平均エネルギーを推定でき、ニュートリノ振動の未知のパラメーター(混合角θ13及び、質量階層)の値の範囲に制限を与える。この成果はPhysical Review CのRapid Communicationとして出版される予定。


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