オスにしかない筋肉を作り出す神経細胞を同定 ショウジョウバエで
左:ローレンス筋上のMindニューロンの末端。右:MARCM法によって染め出された神経節内のMindニューロン細胞体と樹状突起
Tetsuya Nojima, Ken‐ichi Kimura, Masayuki Koganezawa, and Daisuke Yamamoto (2010) Neuronal synaptic outputs determine the sexual fate of postsynaptic targets. Current Biology, in press.
「シナプス前ニューロンからの出力がシナプス後細胞の性を決定する」
引用元: 雄にしかない筋肉をつくりだす脳の中の仕組みを発見 | プレスリリース | 東北大学 -TOHOKU UNIVERSITY-.
東北大学大学院の野島鉄哉 博士研究員(研究当時、大学院生)と山元大輔教授らの研究グループは北海道教育大学の木村賢一教授との共同研究で、ショウジョウバエの雄にしかない筋肉「ローレンス筋」を動かし、また作るために必須と考えられる単一の運動ニューロンをみつけ、形成過程を明らかにした。イギリスの科学雑誌『Current Biology』に近く掲載される。
生物のからだには性による違いがある。キイロショウジョウバエでは、成虫の雄にしかない一対の筋肉、「ローレンス筋」が知られており、それが形成されるかどうかは筋細胞の性ではなく、筋肉をコントロールする神経(運動ニューロン)の性が雄であるか否かで決まること、そのためには、 フルートレス(Fruitless)たんぱく質(脳神経系の雄化因子として働くタンパク質)の存在が必須であることが知られていた。
しかしその運動ニューロンそのものがどれかはこれまで不明だった。また運動ニューロンがどのようにして筋肉を「男性化」するのかも分かっていなかった。
今回、fruitless が働かなくなった変異体の雄でローレンス筋がなくなっているところに、MARCM法(細胞が分裂する際に相同染色体の間でのつなぎかえを誘発し、たまたまつなぎかえが起こった細胞だけが標識される、あるいは変異型になるようにする手法)を使って少数のニューロンにだけfruitless+を発現させ、ローレンス筋形成が回復した時にどのニューロンにfruitless+が発現していたかを特定する方法で、ローレンス筋を作り出す単一運動ニューロンを同定した。またなぜ雄にしかないのか、筋肉形成の仕組みを明らかにすることに成功した。
研究では、まず、ローレンス筋の上にある神経末端の近くに色素の詰まった極細ガラス管を置き、そこから神経に色素を取り込ませて、問題の運動ニューロンだけを標識した。その結果、筋肉と同じ側に、細胞体と一本の長い神経突起(軸索)のあるニューロンと、神経節の正中に細胞体があって両側に軸索をのばすニューロンの2種類が、ローレンス筋につながっていることがわかった。
次に、これらのニューロンにローレンス筋を作る能力があるかどうかを調べました。fruitless遺伝子の機能が失われた突然変異体の雄ではローレンス筋が欠如する。だが正常なfruitless遺伝子を遺伝子組換えによって導入し、運動ニューロンで働かせると、ローレンス筋が形成されるようになる。そこで、ローレンス筋に伸びている2種類のニューロンの一方に限定して正常型組換えfruitless遺伝子を働かせてみたところ、軸索を1本だけ持つニューロン(Mindと命名)のみがローレンス筋を作る能力を持っていることがわかった。
ローレンス筋は雄の5番目の腹部体節にだけ形成されて、雄の他の体節や雌にはない。雄の腹部第5体節以外のところや雌では、Mindニューロンが発生の途中で細胞死によって失われるためだと考えられるという。
Mindニューロンから筋肉への情報伝達は、化学物質によって担われている。Mindニューロンからの化学物質の放出を止めてしまうと、ローレンス筋は形成されない。このことから、Mindニューロンからは、収縮の司令をする物質のほかに、ローレンス筋の雄特異的な形成を支配している物質が放出されると考えられるという。
今後は、Mindニューロンから放出されてローレンス筋を作るように働きかける化学物質の本体の特定を目指す。ローレンス筋以外にも性特異的な神経の接続相手となる神経、筋肉、腺などは数多くあるという。またヒトのからだに見られる性差にもこの機構が寄与しているとすれば、発症に性差の認められる疾病の原因解明や治療への貢献が期待できるとしている。
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