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産総研:脳波計測による意思伝達装置「ニューロコミュニケーター」を開発.

独立行政法人 産業技術総合研究所(産総研)脳神経情報研究部門ニューロテクノロジー研究グループの長谷川良平 研究グループ長は、頭皮上の脳波を測定して脳内意思を解読し、意思伝達を行う装置「ニューロコミュニケーター」を開発したと発表した。

超小型モバイル脳波計と、高速・高精度の脳内意思解読アルゴリズム、さらに効率的な意思伝達アプリケーションを統合した、実用的な「ブレイン-マシン インターフェース(BMI)」システムだとしている。最大500種類以上のメッセージが生成可能で、アバターが人工音声でメッセージを読み上げるという。

筋萎縮性側索硬化症など、発話や書字が困難な重度の運動障害者でも脳活動により意思を伝達できる可能性があり、2〜3年後をめどに10万円以下で実用化を目指す。

「ブレイン-マシン インターフェース(BMI)」とは脳と外部機器との直接入出力を行う技術。BMI技術は、脳機能や身体機能に障害のある患者の治療や、ハンディキャップをもつ人の生活の質を向上させる技術として期待されている。

今回、産総研が開発した「ニューロコミュニケーター」は、頭皮上の脳波を測定し、脳内意思を解読して意思伝達を行うシステムで、認知機能に直接アクセスする「認知型BMI技術」を使って開発された。

このシステムには、以下の3つの「コア技術」があるという。

1つ目は「モバイル脳波計の開発」。携帯電話の半分以下の大きさで、8チャンネルの頭皮上脳波を計測できる超小型無線脳波計だ。BMI実用化を目指す装置としては世界最小レベルであり、かつ将来の量産化を見込んで設計しているという。無線方式でヘッドキャップに直接取り付けることができ、ユーザーの動きを制約せず、ノイズも乗りにくいという。また既存の脳波計は大型で家庭用電源が必要だが、この装置はコイン電池で長時間稼働するため、外出先でも使用可能だという。

モバイル脳波計

モバイル脳波計

2つ目は、「高速・高精度の脳内意思解読アルゴリズム」。従来の同様の脳波で入力するシステムでは、PC画面上に並べて提示される選択肢の属性(明るさや形など)を一瞬だけ変化させることを、擬似ランダムに何度か繰り返し、視覚刺激の変化による「P300 誘発脳波(視覚刺激や聴覚刺激の提示後、300ミリ秒後に出現する陽性の電位変化)」の反応の強さの違いによってユーザーの選択を予測・推測するという手法が多かった。提示回数を増やすと予測精度が高くなるが、時間がかかる。逆に提示回数を少なくすると予測に要する時間が短くなるが、精度が悪くなるという課題があった。

今回のシステムでは、脳内意思決定の時間的変化を定量化するために独自に開発していた「仮想意思決定関数(認知課題1試行ごとの意思決定にかかわる脳内処理過程を推定する関数。脳活動と意思決定の結果との関連を多変量解析の手法を組み合わせて分析し、意思決定がまだなされていない状態から何らかの意思決定がなされるまでの連続的な時間経過を視覚化することが可能だという)」を活用し、高速かつ高精度で予測を行うことに成功した。これまでのところ、1回の選択に2〜3秒という早さで90 %以上の予測精度を実現している。

コア技術の3つ目は、「効率的な意思伝達支援メニュー」。脳活動に着目した従来の意思伝達装置はメッセージの種類が少ないことや、メッセージを作るまでの時間がかかった。産総研ではこの問題を解決するために、少ない操作回数で多様なメッセージを作成することができる「階層的メッセージ生成システム」を開発した。

このシステムではユーザーは、タッチパネル画面に提示された8種類のピクトグラム(非常口や車イスなどさまざまな事象を単純な絵にした絵文字)の中から伝えたいメッセージと関連のあるものを1つ選ぶ作業を3回連続で行う。3つのピクトグラムの組み合わせ(8の3乗)で最大512種類のメッセージを作成することができる。このシステムに、選択肢のピクトグラムを擬似ランダムにフラッシュして「P300脳波」を誘発する機能を付け加えることで、タッチパネル操作だけでなく脳波によっても入力できるようにした。

階層的メッセージ生成システムの例

階層的メッセージ生成システムの例

この3つのコア技術を統合することで実用的なBMIシステムである「ニューロコミュニケーター」を実現したとしている。

平成21年度障害者保健福祉推進事業「障害者自立支援機器等研究開発プロジェクト」の支援を受けて開発したもので、プロジェクトでは、学校法人 日本大学医学部(研究分担者:深谷 親 准教授)と共同で、在宅の障害者や入院患者への臨床応用も検討しているという。また、判別しやすい脳波を誘発する視覚刺激の提示方法に関しても、国立大学法人 豊橋技術科学大学エレクトロニクス先端融合研究センター(研究分担者:南 哲人 特任准教授)と共同で研究を行っているという。

今後は、パーツの選択や製造工程などを見直して最終的には10万円以下(他に要パソコン)の製品として、2〜3年後をめどに実用化を目指す。また開発予定の脳波計および解析システムは、脳波に着目した家庭での健康管理や、教育やスポーツ分野におけるニューロフィードバックシステムの導入、ニューロマーケティング分野におけるフィールド調査の促進など、さまざまな経済効果や新規市場開拓効果が見込まれるとしている。


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