iTunes Store(Japan)

米・重イオン衝突型加速器「RHIC」で、4兆度の超高温状態を実現|2010年 プレスリリース|理化学研究所.

独立行政法人理化学研究所BNL研究センターと大学共同利用機関法人高エネルギー加速器研究機構(KEK)を中心とする研究グループは、米国ブルックヘブン国立研究所(BNL)との国際共同研究で「相対論的重イオン衝突型加速器(RHIC)」を使って、金の原子核同士を限りなく光速に近い速度で衝突させ、約4兆度の超高温状態を初めて実験室で実現することに成功した。この高温状態では、元素の構成要素である陽子・中性子が融けて、クォーク・グルーオンからなる新物質相「クォーク・グルーオン・プラズマ(QGP)」になっているという。

4兆度は、太陽中心温度の10万倍も高く、宇宙をつくる元素を構成する陽子や中性子を融かして、クォーク・グルーオンからなるプラズマを生み出すために必要な温度よりも高温。これまでに実験室で実現していた温度としては最高だという。

RHIC(BNL提供) 世界初・唯一の衝突型重イオン加速器で、世界初・唯一の偏極陽子衝突加速器。

RHIC(BNL提供) 世界初・唯一の衝突型重イオン加速器で、世界初・唯一の偏極陽子衝突加速器。

宇宙創成直後の数十万分の1秒の間は「クォーク・グルーオン・プラズマ(QGP)」と呼ばれるクォークとグルーオンからなるプラズマ状態が存在して、宇宙を満たしていたと考えられている。その後、宇宙は冷えて、クォークやグルーオンは陽子や中性子に凝縮し、今日の宇宙をつくる物質(原子核や原子、それらの集まった星や惑星)ができ上がったという。逆に、超高温状態では陽子や中性子は溶けてクォーク・グルーオン・プラズマになると考えられる。

「格子ゲージ理論(陽子や中性子を構成する素粒子であるクォークおよびグルーオンの間の「強い相互作用」を計算するのに用いられる理論。空間を格子状に分割して、そこにクォークやグルーオンを配置し、その間の相互作用を計算機シミュレーションする。格子ゲージ理論の計算機シミュレーションには膨大な計算量が必要で、数千個のCPUを持つ超高速並列型専用計算機で数カ月にわたる計算を行う)」という理論計算方法を用いた大規模計算機シミュレーションで計算すると、このクォーク・グルーオン・プラズマを実現するのに必要な温度は約2兆度であると推定されている。

米国ブルックヘブン国立研究所(BNL)にある「相対論的重イオン衝突型加速器(RHIC)」では、金原子核などの重い原子核同士を、光速に近い速度まで加速して衝突させることで、この宇宙初期の高温・高密度状態を再現する実験を行っている。2000年のRHIC稼動開始後から実施してきたPHENIX実験の結果、RHICでの金原子核同士の衝突は、非常に高密度の物質を生み出していることが分かっていた。

PHENIX実験に用いる装置(BNL提供)  縦、横、長さがそれぞれ10m、10m、20mくらいあり、総重量3000トンの測定器。数十の測定器システムからなる。右上の図はビーム軸方向から見た図。ビームは、図の中心付近にある丸の真ん中で衝突する。衝突の結果生じる粒子を、その左右にある「西中央アーム」と「東中央アーム」で測定する。金+金の正面衝突の場合は、それぞれのアームに数百個の衝突発生粒子がはいるが、それを同時に測定することができる。右下の図はビーム軸の横から見た図で、右上の図の右側、東中央アームの方向から見た図。ビームは測定器の右側と左側から飛んできて、その中心で衝突する。中央アームはこの図では紙面の手前と奥にあるので描かれていない。この図で左右に描かれている南ミューオンアームと北ミューオンアームは、衝突から発生する「ミュー粒子」という透過性の強い素粒子を測定する。左下の写真は、右下図と同じ方向から見た実物の写真。左上は、2個の中央アームの写真。この写真では、東中央アームは保守・点検のために通常の位置から外側に引き出されている。建設費は約100億円で、日本からの参加機関がこの測定器全体の約 3分の1を作っている。

PHENIX実験に用いる装置(BNL提供) 縦、横、長さがそれぞれ10m、10m、20mくらいあり、総重量3000トンの測定器。数十の測定器システムからなる。右上の図はビーム軸方向から見た図。ビームは、図の中心付近にある丸の真ん中で衝突する。衝突の結果生じる粒子を、その左右にある「西中央アーム」と「東中央アーム」で測定する。金+金の正面衝突の場合は、それぞれのアームに数百個の衝突発生粒子がはいるが、それを同時に測定することができる。右下の図はビーム軸の横から見た図で、右上の図の右側、東中央アームの方向から見た図。ビームは測定器の右側と左側から飛んできて、その中心で衝突する。中央アームはこの図では紙面の手前と奥にあるので描かれていない。この図で左右に描かれている南ミューオンアームと北ミューオンアームは、衝突から発生する「ミュー粒子」という透過性の強い素粒子を測定する。左下の写真は、右下図と同じ方向から見た実物の写真。左上は、2個の中央アームの写真。この写真では、東中央アームは保守・点検のために通常の位置から外側に引き出されている。建設費は約100億円で、日本からの参加機関がこの測定器全体の約 3分の1を作っている。

RHICが生み出した高密度物質は、それまで考えられていたような「自由な」クォークやグルーオンからなる気体ではなく、その構成粒子が非常に強く相互作用をしている液体だという。この高密度物質は、ほとんど粘性ゼロの流体のように振る舞う。粘性ゼロの流体を「完全流体」と呼ぶことから、RHICで生み出した高密度物質は「完全液体」と呼ばれる。「完全液体」の性質を解明する上では温度の測定が重要だが、これまで直接的な測定は実現できていなかった。

衝突初期に発生する光子は高温物質から熱的に放射されるため「熱的光子」と呼ばれる。熱的光子の発生量とエネルギー分布は、衝突初期の温度とその後の時間発展を反映しているため、熱的光子を測定することで、衝突初期の温度を直接的に測定することが可能になる。しかし、金原子核同士の衝突では熱的光子を隠すバックグランド(雑音光子)が発生するため、熱的光子の測定は非常に困難だった。

研究グループは、高エネルギーの光子の一部が電子と陽電子対に変換することを利用して、熱的光子を雑音光子から分離し、その発生量とエネルギー分布を測定することに成功した。質量とエネルギーの関係式E=mc2に従って、光子(エネルギー)は物質(電子・陽電子対)に変換される。光子が電子・陽電子対に変換する割合は、理論により正確に計算することができるため、光子自身ではなく、電子・陽電子対を測定することで、もとの光子の発生量を求めることができる。

こうして求めた、熱的光子の発生量とエネルギー分布を、理論予想と比較することで、反応初期の高温物質の温度を推定した結果、理論計算から求められたクォーク・グルーオン・プラズマへの転移温度である約2兆度をはるかに超える、4兆度程度と推定された。

高密度物質の初期温度の測定  (右図)高温の物質は光を出す。その光の色(エネルギー分布:γ、γ*)と発生量から温度が分かる。高エネルギーの光子の一部は、電子(e−)と陽電子(e+)に変換する。  (左図)もしRHICで生成した物質が熱平衡に達していれば、そこからは「熱的光子」が出ているはずである。熱的光子を捕捉できれば、初期温度を決定できる。理論予想によれば、光子横運動量pT(光子のエネルギー)が1GeV/cから3GeV/cの間の直接光子の多くが、クォーク・グルーオン・プラズマ相からの熱的光子になる。摂動QCDとあるのは、クォークとグルーオンの散乱で生じる光子で、この成分は量子色力学(QCD)の摂動計算理論で計算でき、かつ陽子+陽子散乱でも発生する。光子のエネルギーが約3GeV以上では、この摂動QCD成分が熱的光子より多くなると予想される。また、1GeV以下では、クォーク・グルーオン・プラズマが冷えた後にできるハドロンガスから発生する光子の量が、クォーク・グルーオン・プラズマからの熱的光子よりも多くなる。従って、光子エネルギーが1GeVから 3GeVの間では、クォーク・グルーオン・プラズマからの熱的光子がほとんどになる。

高密度物質の初期温度の測定 (右図)高温の物質は光を出す。その光の色(エネルギー分布:γ、γ*)と発生量から温度が分かる。高エネルギーの光子の一部は、電子(e−)と陽電子(e+)に変換する。 (左図)もしRHICで生成した物質が熱平衡に達していれば、そこからは「熱的光子」が出ているはずである。熱的光子を捕捉できれば、初期温度を決定できる。理論予想によれば、光子横運動量pT(光子のエネルギー)が1GeV/cから3GeV/cの間の直接光子の多くが、クォーク・グルーオン・プラズマ相からの熱的光子になる。摂動QCDとあるのは、クォークとグルーオンの散乱で生じる光子で、この成分は量子色力学(QCD)の摂動計算理論で計算でき、かつ陽子+陽子散乱でも発生する。光子のエネルギーが約3GeV以上では、この摂動QCD成分が熱的光子より多くなると予想される。また、1GeV以下では、クォーク・グルーオン・プラズマが冷えた後にできるハドロンガスから発生する光子の量が、クォーク・グルーオン・プラズマからの熱的光子よりも多くなる。従って、光子エネルギーが1GeVから 3GeVの間では、クォーク・グルーオン・プラズマからの熱的光子がほとんどになる。

直接光子の測定結果  測定した電子対の量を直接光子の発生量に換算した。3種類の金+金衝突での光子発生量(▲、●、■) は、陽子+陽子衝突での発生量(▼)より多い。(▲、●、■)の違いは、金原子核の衝突の仕方の違いで、●はほぼ正面衝突した場合、■は少し中心が外れた衝突をした場合、▲は●、■を含むすべての衝突の平均に対応する。点線は、それぞれの場合について、陽子+陽子衝突で発生する光子の量をスケールしたもので、データ点は3GeV以下では点線より上にあることから、金+金衝突では陽子+陽子衝突より多くの光子が発生していることが分かる。赤い点線は初期温度を約4兆度とした理論計算による光子の発生量。理論計算の予想がデータをほぼ再現することから、初期温度は4兆度程度と推定できる。

直接光子の測定結果 測定した電子対の量を直接光子の発生量に換算した。3種類の金+金衝突での光子発生量(▲、●、■) は、陽子+陽子衝突での発生量(▼)より多い。(▲、●、■)の違いは、金原子核の衝突の仕方の違いで、●はほぼ正面衝突した場合、■は少し中心が外れた衝突をした場合、▲は●、■を含むすべての衝突の平均に対応する。点線は、それぞれの場合について、陽子+陽子衝突で発生する光子の量をスケールしたもので、データ点は3GeV以下では点線より上にあることから、金+金衝突では陽子+陽子衝突より多くの光子が発生していることが分かる。赤い点線は初期温度を約4兆度とした理論計算による光子の発生量。理論計算の予想がデータをほぼ再現することから、初期温度は4兆度程度と推定できる。

今後、さらに技術的改善を行い、クォーク・グルーオン・プラズマをより詳細に研究し、初期温度や粘性といった基本性質を精密に測定する。そして、創成直後の宇宙の状態や素粒子の基本相互作用の1つである「強い相互作用」とその理論である量子色力学(QCD)の性質の解明に挑む。


物質のすべては光―現代物理学が明かす、力と質量の起源
フランク・ウィルチェック
早川書房
売り上げランキング: 2962


「標準模型」の宇宙 現代物理の金字塔を楽しむ
ブルース・シューム
日経BP社
売り上げランキング: 80945