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植物が非自己遺伝子を眠らせるしくみ

植物が非自己遺伝子を眠らせるしくみ

農業生物資源研究所 – プレスリリース – 植物が「よそ者遺伝子」を眠らせるしくみを発見 -.

農業生物資源研究所は、理化学研究所、大阪大学と協力して植物が不必要な遺伝子を眠らせておく「遺伝子サイレンシング」の新しいしくみを発見した。遺伝子組換え作物開発の効率化にも繋がる成果で、2009年12月10日に、ヨーロッパ分子生物学機構雑誌のオンライン版で公開された。

生物の遺伝情報のセットは「ゲノム」とよばれる。ゲノムには非自己遺伝子(トランスポゾン)とその残骸も多数存在していることがわかっている。生物にはこれらの非自己遺伝子の活動を妨げ、眠らせておくしくみがある。

新しい機能を持つ遺伝子組換え作物の開発では、導入した有用遺伝子を作物で安定に発現させることが必要だが、作物に導入された有用遺伝子はしばしば非自己の異物として植物に認識され、その機能発現を妨げられる場合が少なくない。このような現象は「遺伝子サイレンシング」とよばれ、様々な生物がもつ防御機能のひとつだが、遺伝子組換え作物の効率的な開発を妨げる要因ともなってる。

現在、 遺伝子組換え作物の開発にあたっては、導入した有用遺伝子がサイレンシングによって眠らされていない系統を多数の組換え体から選び出す方法がとられている。だが遺伝子サイレンシングを積極的に抑制したり、回避したりするための技術はまだ開発されていない。

トランスポゾンとよばれる因子はゲノムの中を飛び回る寄生因子のひとつで、ゲノム中の様々な位置に見出されるが、トランスポゾンが飛び込んだ先の遺伝子は分断され、その機能が破壊されてしまう。ゲノム中のトランスポゾンの多くは、すでに飛び回る機能を失った残骸として存在しているが、生物は、これらの残骸も含めてトランスポゾン全体を不活性な状態に保ち、眠らせてしまうことで、必要な遺伝子が破壊されてしまうことから自身を守っている。

今回の研究では、外来性導入遺伝子の発現抑制(サイレンシング)をつかさどる分子(MOM1)に注目して研究を進めた。MOM1の名前は、ギリシャ神話に登場する眠りの神様モルフェウスに由来している。

MOM1の働きにより外来性導入遺伝子が「眠らされて」しまうことは以前からわかっていたが、今回の実験結果から、MOM1がゲノム中の多くのトランスポゾンの残骸を眠らせておくためにも必要であることがわかった。研究グループは、眠っていたトランスポゾンの残骸が目覚める際の変化を追跡することで、遺伝子サイレンシングにおけるMOM1の役割の解明を試みた。

遺伝情報は、デオキシリボ核酸(DNA)の4つの文字の組み合わせからなる鎖のような形で記述されている。DNAの鎖は2重らせんを形成し、さらにタンパク質(ヒストン)のまわりに巻きついた形で細胞の中に格納されている。

これらのDNAやヒストンには、メチル基とよばれる小さな「しるし」がつけられることがあり、このメチル基をつけられた遺伝子領域がサイレンシングを受けや
すいことが以前から分かっていた。

遺伝子サイレンシングには複数のしくみが存在すると考えられており、そのひとつ(RNA依存的DNAメチル化経路[RdDM経路])では、まずトランスポゾンなどの非自己遺伝子から作られた異常なRNAが24塩基の低分子RNAに分解され、この低分子RNAが、DNAにメチル基を付けるタンパク質複合体を非自己遺伝子上に誘導することが知られていた。DNAに付けられたメチル基は何らかの因子によって認識され、ヒストンのメチル化を誘導することが予想されていたが、このしくみについては、これまでにごく限られた知見しか得られていなかった。

今回の解析では、まずMOM1の機能を破壊した植物で、遺伝子サイレンシングによる眠りから覚めた遺伝子を、ゲノムからくまなく拾い上げた。その結果、眠りから覚めた遺伝子の多くは、普段はRdDM経路で眠らされているトランスポゾンの残骸であることがわかり、MOM1がRdDM経路のどこかで働いている可能性が示された。

さらに、RdDM経路のひとつひとつのステップを順番に調べていったところ、低分子RNAの蓄積とDNAメチル化のステップまでは、正常に進行していることが
わかったが、ヒストンのメチル化に異常が検出された。

これらの結果から、MOM1は、DNAメチル化の情報をヒストンのメチル化に伝達するステップに必要なことが明らかになり、DNAとヒストンのメチル化をつなぐ新しいしくみの存在が示された。

RNA依存的DNAメチル化経路で働く因子とMOM1の役割

RNA依存的DNAメチル化経路で働く因子とMOM1の役割

今回の研究によって、これまで知られていなかった遺伝子サイレンシングのしくみの一端が明らかにされたが、これは複雑な遺伝子サイレンシングのごく一部分でしかない。今後は、非自己遺伝子のどのような特徴が異物と判断されて「しるし」がつけられるのか、また、ヒストンにつけられた「しるし」を認識して非自己遺伝子を眠らせる本体は何か、といった疑問に答えていくことが求められる。研究グループは、今回の成果は、遺伝子組換え作物の効率的な開発の妨げとなる遺伝子サイレンシングの積極的な制御や回避に向けた長期的な研究の中での、大きな一歩と考えているという。