動物園は子ども達のみならず人々の憩いの場である。近年は自然保護の観点から、希少種の「方舟」としての役割も期待されている。だが同時に、檻の中にクマやトラを閉じこめた動物園は矛盾を抱えた存在でもある。
その動物園の問題点や新たな可能性を取材したのが『動物園にできること』。著者は動物園に対する「フクザツな気持ち」を抱えたまま、様々な展示を模索し続ける動物園先進国・アメリカを取材する。
人間にとって動物とはどんな存在なのか? 自然とは何なのか? 人と自然のありよう、スタンス、距離感。それらが非常にクリアーに見えてくる象徴的な場所、それが動物園なのだ。
結局、答えは提出されず、フクザツな思いはやはり解消されない。矛盾を抱えた存在、人間そのままのように。だが、とにもかくにも色々考えることが必要なのかもしれない。
近年、保護の必要が叫ばれている動物の一つに、チンパンジーを始めとする霊長類たちがいる。霊長類はヒトに近い。だから医学薬学実験にも使われやすいのである。ここにも動物とのスタンスの取り方の難しさがあるように思うのだが、それを真っ向から否定する編者の論文から始まるのが『霊長類学を学ぶ人のために』。現役研究者達の手になるサル学参考書だ。内容は霊長類学の歴史から始まり、系統分類、生態、性差、性行動、霊長類の種間関係、音声コミュニケーション、母子関係、雌間関係など、面白い話題が詰め込まれている。霊長類学の現在を一望できるばかりか、巻末にはブックガイドまでついている、お買い得の一冊となっている。
ただ若干まとまりすぎで、一つ一つの文章からは今ひとつ、研究者達の「思い」のようなものが伝わってこない。一般読者としてはこの点が少々残念だったのだが、同様の感想を抱いた方には『サルの生き方 ヒトの生き方』の併読をおすすめしたい。ハヌマンラングールの子殺し報告で名高い著者が、あちこちに書いてきた文章をまとめ、加筆して一冊分にしたもの。
こういう本は得てしてまとまりに欠け大して面白くないことが多いのだが、本書は違う。それは、行間に満ちあふれた熱気のようなもののせいかもしれない。論文には書けないが本には書ける、そんな研究者の熱い「思い」、気概のようなものが、文章のあちこちから噴き出しているのである。本はやはりこうであって欲しい。
猿害という大問題が起こっている地域もあるが、サルの中にヒトを見るというか、ヒトの中にサルを見るというか、とにかく見ていて飽きないからだろう、サルは人気がある。霊長類はおおよそ200種いるそうだが、日本はごく身近にサルがいる、珍しい国だ。サルがいたことが日本人の自然観に何らかの影響を与えていることは、間違いないように思う。
最後に、気軽にめくれる楽しい本を。『どうぶつの妊娠・出産・子育て』は、サルをはじめ、カンガルーやコウモリ、ムササビ、ゾウ、ウシ、ウマ、カバ、アザラシ、ラッコなど、哺乳類の妊娠出産子育てを易しく写真入りで紹介する本。
これらの動物の生殖過程解明には、動物園や水族館で実際の飼育にあたっている人々が大きく貢献している。動物園にはこんな役割もある。
もりやま・かずみち
サイエンスライター