NetScience Interview Mail 2004/10/28 Vol.296 |
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【泰羅雅登(たいら・まさと)@日本大学総合科学研究所・日本大学医学部先端講座教授】
研究:認知神経生理学
著書:『脳のなんでも小事典』(共著/技術評論社)
『脳のしくみ』(池田書店)
研究内容の参考になるウェブサイト:三次元構造認知の神経メカニズム
○腕を伸ばしてコップを掴むとき、わたしたちは何も考えずに、適切な大きさに手を広げてコップを掴むことができます。どうしてでしょうか。人間がものを見たとき、脳ではどのような処理が行われているのでしょうか。たとえば人間は片目でものを見たときにも立体的に空間を感じることができます。それはどういう仕組みなのでしょうか。
また未知の空間を探索、すなわち知らない場所を訪れたとき、脳にはどのような変化が起きるのでしょうか。
今回からは、運動と視覚、この二つの神経学的基盤に関する研究についてのお話です。同時に、意識と無意識の際(きわ)の問題を探る話でもあります。(編集部)
…前号から続く (第3回)
○頭頂葉がやっている機能っていうのは、見たもの、まわりの空間にあるものの情報表現と、空間での距離情報や位置情報も含めてですか? ■もともと空間視といわれていますから、そうですが、位置情報に関しては、あんまりきっちり調べられてないんですよ。 ○いま皆さんやってらっしゃるところだろうとは思うんですけども。身体座標とか、空間座標とかってことですよね。 ■はいはい。 ○あのへんの研究は、いまどういうところまで進んでるんでしょうか。 ■奥行き方向の位置座標に関しては、あんまり仕事はないんですよ。 ○なぜですか? ■我々は対象物に対して視線を移しますよね、そうすると、「注視ニューロン(fixation neuron)」といって、あるところを見つめると反応するニューロンがあるんです。その注視ニューロンの中に、奥行き方向に注視点を動かすと反応が変わるニューロンがあるんです。 ○なるほど。 ■とすると、空間内の座標っていうのはこういうニューロンでコーディングされているかな、という話になっていて、そこから先をきちっと調べた研究はないですね。 ○いまもまだそのくらいのレベルですか。 ■そうですね。 ○じゃあ、ロボットがいま、超音波で自分の周囲にあるのを調べたり、本当におおざっぱに距離を測ったりしてますが、それとほとんど同じような……。 ■そうですね。だから自分が視線をはずしている場所の奥行き方向の位置情報がどう やってコーディングされているかについてはちゃんと調べられてないんです。 ○うーん、そうなんですか。見ているところの奴しか分かってないわけですね。 ■ただし、垂直平面内の位置に関してはちゃんと調べられていて、頭頂葉には2種類のニューロンがあって、視線の方向を変えると空間座標も変わってしまうというニューロンと、視線の位置方向に関わらず、空間内の座標を必ず表現するニューロン、その二つが見つかっています。 ○まだそういうレベルなんですか。
■ええ。垂直平面内で位置をコードしているニューロンがあるから、奥行き方向もたぶんそれと同じだろうと考えて、あまりやってないのかな。 ○ほう、それはどんなものですか。 ■手の届く範囲とそれ以外、って判断ですね。そういう感じのニューロンはよく見つかります。
○なるほど。 ■サルにはわかってるみたいですね。 ○でも人間でも、こうやって手を伸ばしてみないと、実際には届くか届かないか分からないじゃないですか。でも、体は分かっちゃってるんですか。 ■うん。意識に上らない経験的なもんでしょうかね。それまでの生活のなかで経験的にできあがってきたものでしょうね。見切り。 ○うーん。たとえば、いま、そこの紙の束を見るとおおざっぱな位置が分かりますよね。それでだいたいの距離が頭のなかで表現されますよね。で、形はこうで、紙っていうのはこういう物理特性だっていうことが頭のなかで記憶と照合されて、よく分かってない仕組みで、手のかまえとか動作そのほかが計画されて、実際にリーチングされるわけですよね? ■はい。
○その、なんていうんでしょうね、手が届くか届かないか、ギリギリの距離にあるじゃないですか。そういうときって、その場所での空間表現ってどうなってるんでしょうか。バーッと手を伸ばしていくときには3次元のボクセルなのかよく分かりませんが、そういうもののなかに空間が表現されているのかもしれませんよね。そのときに特定の場所の知覚が拡大されているようなことはあるんでしょうか。というのは、聴覚の話を聞いていると、特定の範囲の空間の知覚の解像度が上がることがあるらしいですね。 ■どうでしょう。解像度が上がるという話とはすこしずれますけど、頭頂葉には手の回りに視覚の受容野があるニューロンがあるんですよ。で、サルをトレーニングして熊手のようなものを使って遠くにある餌をとれるようにすると、視覚の受容野が手の回りだけじゃなくて熊手の先まで拡大するという研究がありますね。 ○ふーむ。 ■位置の情報に関して、東北大学の電気通信研の川上先生(平成16年3月でご退官)が心理物理学的に研究されて、知覚のモデルをつくっておられますよ。ギブソンってご存じですよね?
○はい。『生態学的視覚論』のギブソンですよね。 ■川上先生によると、人が壁にずーっと近づいていくと、ある法則でもってぶつからないようにすっと避けるんだそうです。それを理論モデルとして説明できる。それでナナメの壁との距離を測る神経機構があるはずなんだけれど、そういう証拠はないですかと聞かれたんですが、残念ながら、見つかっていません。
○ロボットの先生に話を聞いていると、たとえばそこのドアを開けてガッと入った瞬間、このイスのところに来る前に、もう動作計画をやってるはずなんだと。部屋のなかの風景を見た瞬間に、このイスの前に立つときの最後の足が左か右かも計画されてるはずなんだというんですよね。でないと、パッと歩いていってイスの前に立てるはずがないと。僕らは何も考えずやってるんだけど、実はそういう計算をやってるんですよと。 ■そうそうそうそう。 ○確かにそれは理屈として分かる。少なくともロボットはそうしないと制御できない。だから人間もやってるはずだと彼らは言うわけですが、そのへんは先生はどうお考えですか。実際に生き物を見ている立場から。 ■それは確かにそうだと思うんです。操作運動に関しては絶対にそうですよね。どのくらいの距離のところにあって、どんな大きさで、それから傾きがどのくらい。その判断はすごく速いですよ。見た瞬間に組み上げてますよね。 ○それは既存の−−たとえばジオンのような基本形が実在するとして、基本形に対して基本的な構えが事前に計算されているんでしょうか。たとえば丸だったらこういう構えなんだ、という形で。 ■そうですね。操作運動に関しては、基本はどのくらい指の間隔を開くか、手首の回転角度をどうするかことだけなんですよ。あんまり細かいことはやってない。ただ、小さな物や細い溝の中の物を取るときは親指と人差し指で、大きな物は全部の指で掴む等と言ったことは、たぶん、事前に計算されているでしょうね。 ○先ほどの、意識にのぼるか、のぼらないかの話に関連するんですけども、「エビングハウスの大きさの錯視(2円の大きさの錯視。大きな複数の円に囲まれた中心円と、小さな複数の円に囲まれた中心円の大きさが同じに見えない錯視。ティッチナー錯視とも)」の図形に向かって手をのばすときに、知覚では片方が大きく感じているんだけど、手は正しい大きさに指が開いているという実験がありましたよね。
■はいはい。グッデールの実験ですね。グッデールたちはね、頭頂葉の手の運動は、錯覚に騙されないと言ってるんですね。「見え」としては違っていても、手の運動のほうはちゃんと制御されてますよと言ってるんですね。それはありそうな感じがします。 ○迷っている?
■運動のためだけだって言い過ぎている。彼らは知覚と運動のための視覚情報処理が完全に別物と考えているんですね。さっきから言ってますけど、確かに意識に上らない部分はあるんだけれど、これまでの経験からして、「生体はそんなにすっきりはいかないよ」って思っちゃうんですね。 ○はい。
■でもこのあいだ、Scienceにテクスチャーの勾配で面の傾きを識別しているニューロンが頭頂葉にあると、発表したんですよ。 ○はい。
■で、その逆に、阪大の藤田さんや、ベルギーのOrbanは、二次元の情報処理だけしていると考えられている側頭葉で両眼視差に反応するニューロンを見つけてます。 ○なるほど。いろいろと情報がグルグルとフィードバックされているのかもしれないですね……。 ○次号へ続く…。
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発行人:株式会社サイネックス ネットサイエンス事業部【科学技術ソフトウェアデータベース・ネットサイエンス】 編集人:森山和道【フリーライター】 |
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