NetScience Interview Mail 2004/10/14 Vol.294 |
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【泰羅雅登(たいら・まさと)@日本大学総合科学研究所・日本大学医学部先端講座教授】
研究:認知神経生理学
著書:『脳のなんでも小事典』(共著/技術評論社)
『脳のしくみ』(池田書店)
研究内容の参考になるウェブサイト:三次元構造認知の神経メカニズム
○腕を伸ばしてコップを掴むとき、わたしたちは何も考えずに、適切な大きさに手を広げてコップを掴むことができます。どうしてでしょうか。人間がものを見たとき、脳ではどのような処理が行われているのでしょうか。たとえば人間は片目でものを見たときにも立体的に空間を感じることができます。それはどういう仕組みなのでしょうか。
また未知の空間を探索、すなわち知らない場所を訪れたとき、脳にはどのような変化が起きるのでしょうか。
今回からは、運動と視覚、この二つの神経学的基盤に関する研究についてのお話です。同時に、意識と無意識の際(きわ)の問題を探る話でもあります。(編集部)
○先生のお名前をgoogleで検索すると、実に色々な話題が出てきますね。 ■そうそう(笑)。幅広いです。 ○それで、どの話からお伺いすればいいのかなあと思いまして。今年の夏に、若手向けサマースクール(http://physiol.cognitom.com/project.php)でも講演されることになってますよね。あのへんが直近の仕事の話なんでしょうか?(インタビューは夏前に行われた) ■いや、あれはね、教育講座なんですよ。脳科学の論文を読むには、ちょっとしたコツがあるんですよね。ちょっとしたコツがわからないと、わけがわからないことになるんで、そのへんの話です。だから直接の仕事の話じゃないんですよ。大学院のときに、ほらこれ読めと論文を渡されて、えらく苦労するわけじゃないですか。そのノウハウを教えてあげようという、本当に教育講座です(笑)。 ○論文読む上でのコツっていうのは?
■コツっていうのは、たたえば、脳科学を理解するための基礎的な解剖学用語の知識みたいなことですね。 ○はい。僕も先生方のお話を伺うとき、最初はまったく分かりませんでした。今でもどこがどこだか、分からなくなるときが多くて。 ■そうでしょ。しかもいやらしいのは、同じ事を言っているのに違う呼び方があるんですよ。たとえば内側(ないそく)外側(がいそく)、latelal(外側)、medlial(内側)っていうのがあるんだけど、この呼び方は相対的なんですよね。だからどこを基準に取って言っているのか、その基準の取り方で、ある点が内側になったり,外側になったりする。さらに面倒なのは、脳のある溝に対する位置関係を言うのに、内側,外側のかわりに、人によっては背側(はいそく、dorsal)、腹側(ふくそく、ventral)という言葉を使ったりと、てんでんばらばらなんですよ。ほんと僕もそうだったんだけど、最初そのへんのところで、論文を読むときにつまずいていやになちゃうんですよ。 ○なるほど。 ■でもこれは実は単純なルールで、それが分かればすっと分かっちゃうんです。しょうもないところなんだけど、意外とね、誰も教えてくれないんですよ。だからそれを教えてあげようということです。 ○ふーん。
■生理学会若手の会のサマースクールはざっくばらんな会で神経科学者ばっかりじゃなくて、心理学やってる人とか、工学系でロボットや理論をやっていて興味を持っている人、リハビリの現場で働いていて、神経をもっと知りたいという人が来たりする会なんです。それと去年ぐらいから大学院や学部の単位として認定してくれる大学も出てきました。
○では、最近はどんなことを?
■幅広いです(笑)。メインの仕事はサルでの神経活動のレコーディングです。頭頂葉の機能をメインにやってますね。 ○じゃあやっぱりまず手の運動の視覚的コントロール、そちらからお伺いするのが良さそうですね。 ■そうですね、一番の根本はそこからスタートしてますからね。 ○それがどのように立体視の研究へと繋がるのか……。
■頭頂葉が手の運動の視覚的コントロールに関与しているということを90年に論文に出したんですね。 ○はい。
■でも実際にはね、ヒトの運動データを詳細に調べていくと、腕を対象に向かって動かしていく間に、対象物に合わせて手の「構え」をつくっているんですよね。大きいものだったら指を大きく開いているし、相手が小さいものだったらあんまり大きく開かない。 ○軸? ■たとえば、鉛筆の様な細長い物が置いてあるとすると、それを掴んだりつまんだりするときには、手首を適切な角度に回して、軸方向に合わせないといけないですよね。そういったことも意識的には考えなくてよくって、手を伸ばしている間に自動的にやっているわけですね。 ○なるほど。 ■じゃあどうなってるかというと、対象物を見たときに、それがどこにあって、どんな格好をして、と、ぱっと見た瞬間に対象物のそういう情報を分析して、手の運動をコントロールしてるんですね。で、そういう機能が頭頂葉で行われているということがヒトの研究である程度わかっていたんだけど、90年にサルの頭頂葉で実際にそういうニューロンを見つけて調べたわけです。 ○ええ。
■で、結局、頭頂葉のニューロンは、いまやってる運動の情報と、対象物の視覚情報を比較して、いわば、運動のモニターをしてるっていう結論になったんですが、じゃあその次、その視覚情報ってなんだろうということになったんですね。 ○3次元的なボリュームみたいなものが重要だということですか。 ■そうそう。 ○それが必要であると予想した理由は?
■第一の理由は、この研究ではサルに、押しボタンスイッチ、つまみスイッチ、レバースイッチ、ちっちゃなつまみスイッチと、操作する動作と形状が違う4つのスイッチを使って実験したんです。 ○反応が変わるんですか? どんなふうに?
■棒の頭が右上斜め45度を向いているときには、レバーを握るときにすごく強く反応するんだけれど、逆に左斜め下方向を向いたレバーを握る時には活動が抑制されてしまう。
■このあと、この研究は、今、近畿大学医学部の助教授の村田先生が引き継いでやってくれるんですけど、彼は、動作は握るという単純な動作に限定してしまって、握る対象物の形を、単純だけれどバリエーションをもたせて実験したわけです。リング、板、球、立方体、砲弾型、直方体なんかを使って調べたんですが、ある形をしたものを握らせたときにすごく強く反応するニューロンが見つかったんです。 ○それは自分の手の形によるんですか、それとも握ったときの相手の形による? ■うん、頭頂葉のニューロンの面白いのは、さっき話したように対象の形の視覚情報の入力があるんだけれど、自分の手の形の視覚情報の入力があるんですね。それと、運動に関した入力として、運動野からの運動信号の出力の一部が入力しているみたいだけれど、でも、握った時の相手の形、というか、体性感覚(触覚)の情報は調べた限りでは入力がないんです。 ○へえ。すると、ビジュアルセンサー入力と運動出力の信号ですね。それが統合されると。
■そう。それが頭頂葉でマッチングしてる。自分の運動がちゃんとできているかどうかモニターしているわけです。そこが一番面白いところなんです。 ○はい。
■ちょっと話が飛んじゃったんですけど、村田君の実験では操作運動はすべて掴むという動作で一様だったわけです。彼は同じ形状だけど大きさが違う対象を用意して調べたりして、視覚的には相手の単純な3次元形態がいちばん大事だということが分かってきたということです。
○人間は、どんな形で3次元の情報を持ってるんでしょうか。先生のお名前をパラパラと検索したなかにも出てきますが、ビーダーマンは基本的な「ジオン(geon)」という形が組み合わさって表現されているんじゃないかという考え方を示してますよね。 ○次号へ続く…。
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発行人:株式会社サイネックス ネットサイエンス事業部【科学技術ソフトウェアデータベース・ネットサイエンス】 編集人:森山和道【フリーライター】 |
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