NetScience Interview Mail 2002/02/07 Vol.174 |
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【篠原正典(しのはら・まさのり)@財団法人 環境科学技術研究所 環境シミュレーション研究部 研究員】
研究:動物行動学
著書:「イルカ・クジラ学(仮題)」(共著、東海大学出版会 2002年6月出版予定)
○財団法人 環境科学技術研究所 環境シミュレーション研究部の篠原正典さんのお話を配信致します。環境科学技術研究所では人工閉鎖環境、通称ミニ地球の研究が行われており、篠原さんはそのなかに入って生活を行う予定になっています。(編集部)
…前号から続く (第5回)
[13: やっぱり痩せる?] |
データベース |
■成人の日本人男性ならカロリー的には、なんとかなるようなんですよ。中でやる作業がどのくらいで、ということをちゃんと算出しないといけないんですけども。
もう一つ現段階で問題なのが、化学薬品を何種類かまぜものを与えて水耕栽培で育った野菜の栄養価です。例えば、コマツナは栄養豊富な野菜だからと育ててみても、本来野生で育てているものと比較するとミネラルやビタミンはがた落ち。カロリーだけ合わせたり、特定のミネラルだけ合わせても仕方ないですから、全体にバランスよくしないといけないんですけど。
○それは今の我々の普通の食生活においても言えることですね。栄養をとってるようで、実はあんまり取れてないんじゃないかと。
■ええ。そう言いますね。栄養分析なんかもして、実際にどうなってるのかも調べないと。中に入った人間が栄養面でどうなるかまでは評価しないかもしれませんけどね。中に入ってる間は採血とかの医療行為はできませんし。
○でも、終わったらするんでしょう?
■ええ。確定ではありませんが、入る一ヶ月前に一回、直前に一回、出てすぐ、出たあと一ヶ月後にもう一回やることになるだろうと。
○動物性タンパクは当然あんまり取れなくなりますよね。そうすると筋肉も脂肪も落ちそうですね。TV番組の「サバイバー」に出てくる人たちみたいになっちゃったりして(笑)。
[14: 人間の行動も観察したほうがいいのでは] |
○閉じ込められた環境といえば、動物園の動物だと、常同行動といって同じことを繰り返ししたり、同じところを行ったりきたりするという行動が見られますね。
■うん、似たような実験での人間の心理評価って、大抵はアンケートみたいなことをするんです。でも友達とも話していたんですが、動物行動を測るように行動指標で測ってみたほうがいいんじゃないかと思うんですよね。チンパンジーやゴリラでも出るわけですから。
○たとえばどんな行動が出るんですか。
■先ほど仰ったような常同行動のほか、毛をむしったり指を噛みちぎったり、というような自虐的行動、あるいは、過度に他個体、たとえば子どもとかに暴力を加える虐待みたいな行動をとるとか。まあいろいろあるんですけどね。対象がヒトの場合はそういうのを見るという視点はほとんどなくて、面接して「どうだい?」って聞いてみたりだとか、ペーパーテストみたいなものばかりなんですね。
○意外と見落とされてるんじゃないでしょうか。
■……そう思うんですよ。
○そこで自分で自分を観察?
■うん、研究員は僕ら二人だけじゃないんです。予定ではさらに追加で2〜3人取ることになってまして。
○じゃあ5人入ることも?
■いや、いっぺんに入ることはないんですが、交代要員です。まあどういう形の運用になるのかは未定です。
○なぜそんなにいっぱい必要なんですか。
[15: 閉じ込め実験は労働基準法違反?] |
■ただ、今の日本の法律では、長期に渡って閉じ込める実験は労働基準法に触れるという解釈もあるらしいんですよ。
24時間労働とみなされる一週間の閉じ込めをやったら、その後、3週間は休まないといけないんです。そうすると順番に一人一人入れていって物質循環のための閉鎖実験やろうと思ったても最低でも4人は必要という勘定になる、ということなのでしょうかね。
○労働基準法? そんなの、実験だからということで特例扱いはできないんですか?
あるいは、住民票を移して、そこに住んでることにするとか、抜け道はありそうですが。
■うん、ところがそれも難しく、そう解決するか取り組んでるところなんですよ。給料もらってるじゃないですか。となると労働じゃないですか。JAMSTECでの閉鎖実験では、解雇して、一人事業主、つまり自分が社長でもあり社員でもある状態にしてから、入ってもらったそうです。そうすれば労働基準法に触れなくなるので。
○そうしないとダメなんですか?
じゃあ今回も?
■うん、それが一番有力かなあと。NASDAの宇宙飛行士がシャトルに乗るときは、あそこはアメリカだし宇宙空間だしということで許されていたらしいんですが、今回、ISSじゃないですか。ISSの“きぼう”モジュールの中は日本なんだそうです。それで結構問題になってるそうです。
○そんなしょーもないことで(笑)?
はー、そんなアホくさい問題もあるんですねえ。
[16: いまの研究手法では「分かった」という実感を得られない……?] |
○話を変えますが、篠原さんは、もともとは何を?
■大学からはずっと京大にいたんですけども、動物行動学をやってました。行動学も大きくわけるとメカニズムを調べるほうと、究極要因ていうんですか、適応価みたいなものから照らして考えるほうと、二つあるんです。片方が「How」で片方が「Why」ですね。Whyのほうを僕はやってたんです。生物でもメカニカルなほうをやっていたら、多少はいまの仕事に役に立っていたのかもしれませんが。
○「WHY」というのは、具体的には?
■動物や人間が行動するときに、なぜそんなことをするのか、なぜそのようなことをするようになったのか、というような問い方ですね。イルカの行動をやってたんです。
○なるほど。それで、どうしてその仕事をいわば中断、やめてしまって、いまのお仕事に移られたんですか?
■そうですね……。はじめに方法ありきだなと思ったんです。自分が本当に知りたいことは、これでは分からないんじゃないかと、そんなふうに思ったんです。かなりゆらいだ時期がありましてね(笑)。
○どういうことですか?
■うん……。
たとえば、自分がやりたいことを理解してもらおうと思ったら、通じる言葉じゃないといけないですよね。数学的な裏付けや、ある程度の論理性もないといけない。ちいちゃい話で、行動生態学でいえば、動物がある行動をするのはなぜか、と問えば、こうこうこういうコストとベネフィットがあってどうこう、という進め方になるわけですよ。皆がそういう捉え方をするもんだから、そうした土俵に乗せないと進まないところがあって。複雑なものを見たいのに、その説明は、ある一つの淘汰レベルの一次元の数値での説明にもっていかれちゃう。
で、哲学とか論理学とかの本とかも色々読んでみたんですが、ああいう考え方を今の科学者はもっと謙虚に受け止めないといけないんじゃないかと。
○どういうことでしょうか。
■今みたいに科学的な手法、論文を書くための手法で、自分が本当に知りたいようなことが分かるのかということです。自分の興味や関心をずっと持続させながらやっていけるだろうかと疑問に思ったんです。
自分でパラダイムシフトを起こせるくらいの天才だったらそんな疑問は抱かなかったでしょうけどね。
誰かのデータや手法の上にのって仕事をしていくし、そういうジャーナルに論文を出すと。それは本当に、自分が知りたいことを研究していると言えるんだろうかと。それを強く思ったんですよ。
○……
■そのときは、行動の仕事に加えて、遺伝子を使って過去の行動の軌跡を追うような生化学的な仕事もしていたんです。マイクロサテライトDNAを取り出してね。イルカでは試料の採取が難しくて、あまり使われてなかったんですけど、群れの中の遺伝的組成を調べて、系譜を追ったりとかそういうことをしていたんですよ。
でも、自分では新しい手法に着手した、面白い素材を選んだ、でも結局それを進めていく上でも、同じ様な紋切り型のやり方をしないといけない。それでこれは困ったなあと。でも、かっとんだことを言うと、同僚からも、あるいは先生からもそっぽ向かれちゃう。
ある程度年をとってきて、それなりの業績のある人、たとえばハミルトンみたいな人だったらちょっと変わったこと言ってもそんなに批判はされないでしょうけども、普通のステップを踏みながら科学者になろうとしている若造がそんなことはできないしなあと、すごく悩んだ時期があったんです。
○……。
■飲まずにこういう話をするのは照れくさいですが(笑)。
○つまり、いまの研究手法では「分かった」という実感を得られないんじゃないかと思ったということですか。
■そう。「説明」はできるんですよ。僕に言わせれば言い訳みたいな説明ですけどね。そういう言い方もできるだろうけど、といったものですよね。確かに論文は書けるけれども、それでは精神的満足は絶対に得られない。自分が満足できるレベルで、どんなことができるかなあとか思ったんです。
■これの面接受けるときにもね、閉じ込められるじゃないですか、それでどんな採用試験をするかでもめたらしいんです。あとから聞いたんですけど。初めは極地研に聞いて、越冬隊のケースも問い合わせたらしいんですけど、どうも違うと。それで結局、宇宙飛行士の人の試験を参考にしたんだそうです。宇宙飛行士とは違うんですけどね。
で、心理面接のときにも、そういうことをいろいろ突っ込まれたんです。自分自身の存在基盤に関わるような、そこを揺るがすような嫌な質問をいっぱいされたんです。
○どんな質問ですか。
■自己を否定されるような質問ですね。
○就職面接でやるような、圧迫面接ですか。君はそんなんでいいのかね、みたいな。
■そうです。そのとき僕が答えたのは−−、立場がどうであれ、自分の知的好奇心が満たされるような仕事ができれば自分自身は納得できると。そういうことを半ば言い訳として言い続けたんです。
実際にそう思うんですよ。
動物行動学をやろうだとか、科学的な発見をして大きなことを、ということは中学生や高校生の頃から思ってましたけども、それよりも、やっぽり、知りたいことを知りたいっていうのがあるじゃないですか。
○ええ。
■社会的な立場や、やり方はどうであれ。
○なるほど。
まあ、そういうことを考えるか考えないかは、研究者であるなしに関わらず、人に寄るんじゃないでしょうか。考えるひとはそういうことばっかり考えちゃうし、考えない人は全然考えない。
■そうでしょうね。僕はここ数年くらい、ずっと考えてるんです。
京大時代の同期はみんな助手とかになってるし、もらう嫁さんまで一流の研究者だったりするんですね(笑)。僕は論文書くどころかそれ以前の段階で悩んじゃってる。これは困ったなあとそっちの方を向いて焦ったりもする一方で、別の方を向いて、哲学や論理学の本を読んだりしてました。
まあこうして、環境科学技術研究所に就職したんで、ここで新しい発見の仕方を見つけたいなと思ってるところなんですけどね。
○次号へ続く…。
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■新刊書籍・雑誌:
◇『ナノテクの衝撃 日本経済を救うキーテクノロジー』
(日刊工業新聞特別取材班、大阪科学技術センター、関西ナノテクノロジー推進会議 編/日刊工業新聞社)
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◇『バイオテロ! 細菌兵器の恐怖が迫る』(著者いろいろ/朝日新聞社)
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◇『凍る体 低体温症の恐怖』(船木 上総/山と渓谷社)
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◇『Baby ER 新生児集中治療室』(エドワード・ヒュームズ/秀潤社)
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◇裳華房 自然科学系の雑誌一覧−最新号の特集等タイトルとリンク−
http://www.shokabo.co.jp/magazine/
■イベント:
◇農林水産省
「食と農について武部農林水産大臣と消費者が語り合う会」の開催及び傍聴の 募集について
2月17日(日)15時〜
http://www.maff.go.jp/work/press020125-01.html
◇裳華房 2002年 学会主催一般講演会・公開シンポジウムなど
http://www.shokabo.co.jp/keyword/2002_openlecture.html
◇裳華房 冬の研究所等の一般公開
http://www.shokabo.co.jp/keyword/2001_openday.html
■ U R L :
◇NASDA H-2A2号機の打ち上げについて
http://yyy.tksc.nasda.go.jp/Home/Press/j/2002/200202/h2af2lf_020204_j.html
◇毎日 電子ペーパー量産化へ 凸版、Eインクが提携強化
http://www.mainichi.co.jp/digital/computing/archive/200202/04/1.html
◇毎日 英国科学博物館:日本の科学技術展始まる AIBOなど登場
http://www.mainichi.co.jp/news/flash/keizai/20020202k0000m020093000c.html
http://www.sciencemuseum.org.uk/exhibitions/japan/index.asp
◇毎日 ES細胞:サルの卵子使用し未受精卵から発生に成功 米社
http://www.mainichi.co.jp/news/selection/archive/200202/01/20020201k0000m040196000c.html
◇日経B2O 「ASIMO」初の海外出張・NY証取で取引開始ベル鳴らす
http://b2o.nikkei.co.jp/contents/news10/evening/20020131df1i012z31.cfm
◇朝日新聞 パーキンソン病治療に役立つ神経細胞の作製に成功 京大
http://www.asahi.com/science/news/K2002020300062.html
◇朝日新聞 国際チームのヒトゲノムの論文が1位 米調査会社、引用ランク修正
http://www.asahi.com/science/today/020203a.html
◇朝日新聞 <化学で輝く 21世紀の錬金術:4>
極小の化学工場 欠点生かす逆転の発想。東京大学の北森武彦教授。
http://www.asahi.com/science/special/kagayaku/020130.html
◇JAMSTEC Blue Earth 第14巻 第1号(通巻第57号)(2002年1、2月)
http://www.jamstec.go.jp/pdf/blue_pdf/be57pdf/be57.html
◇ZDNet 2足歩行ロボット王座決定戦! 「ROBO-ONE」グランプリ明日開幕
http://www.zdnet.co.jp/news/0202/01/robo_one.html
◇ascii24 日本科学未来館で2足歩行ロボット格闘競技会が開催
http://ascii24.com/news/i/topi/article/2002/02/01/633238-000.html
◇HotWired 不思議な「氷ミミズ」が宇宙旅行のカギを握る?
http://www.hotwired.co.jp/news/news/20020201307.html
◇BizTEch 2001年のエイズ患者報告数は614人、過去最悪
http://biztech.nikkeibp.co.jp/wcs/show/leaf?CID=onair/biztech/prom/167534
◇SANYO 聞きにくかった声が聞こえる 業界初、ゆっくり通話機能搭載の骨伝導電話機を発売
http://www.sanyo.co.jp/koho/hypertext4/0201news-j/0117-1.html
◇国土交通省 「首都圏の大手民鉄及び公営地下鉄の鉄道運行情報リアルタイム提供実証実験を開始」
〜インターネット、携帯電話で列車の運行情報をリアルタイムに提供〜
http://www.mlit.go.jp/kisha/kisha02/08/080130_.html
◇総務省 「平成13年度『インターネット基盤技術の高度化(e!プロジェクトの推進)に関する調査研究』の委託先の決定
『 松下通信工業株式会社 』モバイルインターネット基盤技術の高度化に関する調査研究」
http://www.soumu.go.jp/s-news/2002/020125_4.html
◇農林水産省 水と緑の田園通信
http://www.denen.maff.go.jp/InterServ/MULTIMEDIA/html/top/contents.html
農林水産省と環境省の連携による「田んぼの生きもの調査」の結果について
http://www.denen.maff.go.jp/InterServ/MULTIMEDIA/html/contents/tanbo/kekka13/index.htm
◇日経コミュニケーション 印刷物からも不正利用を特定 テクマトリックス、電子透かしソフト
http://www4.nikkeibp.co.jp/NCC/news_top10/f_ncc2709.html
◇BizTech 東芝、デジタル機器技術の新開発棟を公開
http://biztech.nikkeibp.co.jp/wcs/show/leaf?CID=onair/biztech/biz/167105
◇東京新聞 リストラが生んだニッケル乾電池 寿命は「アルカリ」の5倍 デジカメ市場が狙い 東芝電池・宮本邦彦さん
http://www.tokyo-np.co.jp/00/sci/20020129/ftu_____sci_____005.shtml
◇[緊急発信]地震対策 南海地震体験者座談会 地形に応じた避難訓練を /和歌山
http://headlines.yahoo.co.jp/hl?a=20020130-00000002-mai-l30
◇東北大学 カムランド・オフィシャルサイト
http://www.awa.tohoku.ac.jp/KamLAND/index.html
◇国立社会保障・人口問題研究所 日本の将来推計人口
http://www.ipss.go.jp/Japanese/newest02/newest02.html
◇ベストサイエンスブック2001決定。 一位は『エレガントな宇宙』(草思社)
http://www.moriyama.com/questionnaire/01bestsci.html
◇科学技術者のための総合リソースガイド・NetScience
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皆様からお寄せいただいた情報を掲示する欄です。情報をお待ちしております。
基本的には一行告知ですが、情報が少ないときにはこういう形で掲示していきます。
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発行人:株式会社サイネックス ネットサイエンス事業部【科学技術ソフトウェアデータベース・ネットサイエンス】 編集人:森山和道【フリーライター】 |
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