NetScience Interview Mail 1998/12/03 Vol.031 |
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【中田節也(なかだ・せつや)@東京大学 地震研究所 火山噴火予知研究推進センター 助教授】
研究:火山岩岩石学
著書:『火山とマグマ』(共著、東京大学出版会)
『防災』(共著、東京大学出版会)
ほか
ホームページ:http://hakone.eri.u-tokyo.ac.jp/vrc/nakada/index.html
○今回から火山の研究者、中田節也氏にお伺いします。
中田氏は雲仙普賢岳噴火の岩石学・地質学、特にマグマの上昇にともなう脱ガスと結晶作用について研究を行っておられます。また、 ボーリング試料を元に伊豆大島の岩石学的発達史などの研究も行っておられます。
7回連続予定。(編集部)
[01: 「ビールの栓抜き」のたとえ話] |
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■例えばですね。
マグマがどうして上がってくるかというと、地上までのいろんな場所でやや違いますが、基本的にはマグマの浮力なんです。マグマが周囲の岩よりも軽くなるとあがってくるわけです。
じゃあどうして軽くなるかというと、マグマの中に溶け込んでいる水が何かの拍子に分離して水蒸気になると、泡立ってマグマ全体が軽くなるんです。たとえば、ビール瓶の栓を抜くと泡立ったビールがふわっと吹き出してくる、これと同じことがマグマでもおこるんです。ビールの場合は溶け込んでいるのが水ではなくて炭酸なんですが。
○一方で、ビールの量がどのくらい溜まってるかとか、温度がどのくらいかとか、あるいはビールをどのくらい振っているのかも分からない。それをはっきりさせましょう、というのが火山学という学問なんだろうと、アナロジーで捉えているんですけど…。
■そう、いま仰った通りで、確かにね、ビールの栓をゆっくり抜いたらどうなるか、あるいは勢いよく抜いたらどうなるかということを考えているわけですよ。
温まったビール瓶や少しゆすった後の瓶でも、少しずつ栓を抜いてやると、ビールがふきこぼれなかった経験があるでしょう。これは一旦できた泡が瓶の上に集まって、栓のすき間からガスだけが逃げるからなんです。マグマでもゆっくり上昇する場合には泡同士がくっついて、泡伝いにガスがマグマから外へ逃げてしまうようなんです。
○なるほど。
■ところが、あったまったビール瓶の栓を勢い良く抜くと沢山吹きこぼれますね。マグマも速く上昇してくると、粘り気のあるマグマの中で泡の成長が追いつかないんです。結局、地上に出て圧力が急激に減少すると、気泡は膨張破裂して、マグマを粉々に吹き飛ばして、爆発的な噴火が起こるわけなんです。
○ふむふむ。
■でも誰がマグマの栓を抜く役目をしているのかがよく分からないんです。つまり、その、何がコントロールしているのか…。いろいろ推測してるわけなんですがね。まあ、そういうのはマグマが実際に見えるようになれば実証されるわけですけど。ですからマグマの上昇のスピードが何でコントロールされているかを調べることは、 火山学的に見ても非常に重要なことなんです。
○なるほど。
■もっとも、ビールの例えっていうのは、あんまりよくないかもしれないんですよ。マグマっていうのは冷える一方なんです。できてから地上にでるまでっていうのは、マグマの温度はひたすら低下する一方ですから。
だからビールは、そのまま栓を抜いたっていうよりは…。冷凍庫に放り込むと、だんだんシャーベット状になって凍ってくるんですが、氷に入らずに最後に残ったガスの圧力で栓が抜けたり、ビール瓶が割れたりすること、それを噴火に例えたほうが良いという人もいるんですよ。
○ああ、そうかもしれないですね。
■まあ、どっちも単なる例えですからね(笑)。噴火はビール瓶で簡単に再現できるようなもんじゃないです。
ガスの逃げ方と、マグマの上昇の仕方かな、それをうまく例えられるのが「ビールの栓抜き」なわけですよ。
[02: 脱ガスのメカニズム] |
○発泡と断熱ということに関してはどうなんですか? たとえばカプチーノなんかは表面を覆った細かい泡が放熱を防いでいるんじゃないかと思うんですが、そういう現象はマグマの場合はないんでしょうか。
先生の御本を拝読すると、泡の体積が60%を超えるとそれぞれの泡が結合しはじめ、脱ガスが効果的に起こる、という理論が紹介されていますね。フムフムと思ったんですが、一方で、マグマというのはかなり粘っこい発泡体ですよね。それで逆に熱が逃げにくくなったり、脱ガスが起こりにくくなったりはしないんですか?
■熱っていうことで考えたら確かにそれはあると思います。泡ができちゃうと空気の膜ができちゃうわけですから冷えにくくなりますね。
でもね、そもそもマグマの中で泡ができるのは温度より圧力効果なんです。マグマは溜まりからほとんど冷えずに上昇しているというデータがあります。
今考えているのは、泡を作るもとのガス自体がマグマの中に溶け込んでいるわけでしょ、それがどうやって泡を作ってマグマの外に逃げるかという話なんですよ。だから泡に逃げるということは泡を伝って外へ逃げればいいわけで、それは別に、熱は逃がさないけど、ガスは逃げるわけです。
○脱ガスの話と放熱は別だということですか?
■泡同士がくっついて膜が破れて、二つが一つにくっついて、大きくなる。ガスはそこを伝って移動するわけです。粘り気のあるマグマの中で一個の気泡が移動するには大変時間がかかる。でも、泡が連結してしまうと、遠いところから泡の”パイプ”を伝ってガスが簡単に逃げられるようになるわけです。そうして、連鎖的にドンドンドンドン、ガスが逃げるわけです。
だからカプチーノと違うのは、カプチーノの場合は泡の成分は中にあるわけじゃないですよね。炭酸のジュースと違って。いわばマグマの場合は、コーヒーの中に泡の元となるモノがあって、それがどう逃げるかという話なんですよ。
ただ、マグマから泡ができると発熱することがわかっているので、マグマが泡泡になることが断熱的な効果があるとも言えるでしょうね。
○ああ、噴火という現象に限って言えば、脱ガスの効率を考えればいいから、熱のことなんか考えないで良い、ということなんですか?マグマ溜まりの結晶分化だとかには関わって来るんじゃないかと思っていたんですが。
■ああ、それはですね、噴火にとってはガスっていうのは非常に重要なんですね。マグマに溶けるガスの量は、その種類と圧力によってほとんど決まっているんです。もちろん、マグマがガスを含んでいるかどうかによって、マグマが結晶化のしやすさはものすごい左右するんですけど、ガスが逃げるか逃げないかということと、マグマが結晶化するかどうかということは、必ずしも1:1ではないんですよ。
○どういうことでしょうか?
■ちょっと説明しづらいんだけど、爆発的噴火をするかどうかっていうことは中にあったガスが、どれだけスムーズにマグマの外に飛び出せるかどうかという問題なんですよね。温度はどちらかというというと、結晶ができるかどうかという問題で、ガスができるかどうかという問題とは直接関係ないんですよ。だから仮に気泡がたくさんあってマグマから熱が逃げにくくなっても、爆発力とは直接は関係ないんですよ。
○ふーむ。別にこの話にこだわっているわけではないんですが、一方で、熱が逃げていくと雲仙みたいに途中で固化してしまって栓をしてしまう、っていうこともあるんじゃないんですか?
■ああ、でも温度自身はあんまり関係ないんですよ。
溶岩の中にいろんな結晶ができますが、その結晶を調べると、結晶化したときの温度が推定できるんですよ。で、雲仙の溶岩っていうのはどうだったかというと、そこから温度を見積もると、だいたい900度くらいなんですね。で、実際に上がってきたときの温度を直接測定してみると、だいたい860℃くらいなんですよ。だから地下にあったマグマが地上に上がってくる間──距離にしてだいたい6キロくらい上昇するんですけどね、その間、温度は数十度くらいしか低下しないんです。ですから、温度はあんまり関係ないんですよ。
○そうなんですか。そんなに温度が変わってないとは思ってませんでした。
■でも、温度が下がらなくても溶岩が固まってしまうことがあるんですよ。これは、ちょっと難しいかもしれないけど――マグマっていうのは一種の液体ですよね。そこでは、その中では酸素と水素がある構造を持って結びついているわけですね。
○SiO2の4面体ですね。
■ええ、それが編み目のように繋がっているわけです。で、その中に水を加えちゃうと、その編み目が切れちゃって、いままでドロドロだった奴がサラサラになるわけです。で、逆に水が逃げちゃうと、それが繋がってがっちりしてドロドロに粘っこくなっちゃうわけです。そうすると地下ではサラサラであったマグマでも、地上近くになってガスが十分に逃げちゃうと、ドロドロになって、ドロドロになりすぎるとガラスのように固まっちゃうんです。
○つまり、温度低下による影響というのはほとんど関係なくて、圧力低下による発泡、つまり脱ガスが起こって、それに伴って固化するということなんですね。
■そう、温度は実際にはほとんど一定なんです。で、地上近くに出てきて固まっているのも、固まってはいるんだけど結晶はあんまりできてないんです。ガラスになっているわけです。下ではサラサラからドロドロの液体なんだけど、上ではそれが冷えちゃって──いや「冷えて」というのはおかしいんだけど(笑)、冷えて固まったようにガラスになっているんです。水が抜けたために、同じ温度でも液体から固体になってしまったというわけなんです。
○なるほど、単に状態変化であるということなんですね。分かりました。
○次号へ続く…。
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