NetScience Interview Mail 1998/06/04 Vol.006 |
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【丸山茂徳(まるやま・しげのり)@東京工業大学 理学部 地球惑星科学教室 教授】
研究:地質学、地球史
著書:「46億年 地球は何をしてきたか?」岩波書店
「生命と地球の歴史」共著、岩波書店
ほか
研究室ホームページ:http://www.geo.titech.ac.jp/maruyamalab/maruyamalab.html
○丸山茂徳氏らの「全地球史解読計画」は日本発の地球史解読計画です。地球全体がどのような歴史を刻んできたか、幅広い視野、学際的なアプローチで研究を行っておられます。全4回予定。(編集部)
■分かりました。僕は、地質学に限らず科学の目的は、我々人類の起源と歴史を知り、我々の将来を洞察することだと考えています。
[01:プルームテクトニクス] |
データベース |
■まずプレートテクトニクスについて説明しましょう。地球の表層がいくつかの硬い板、つまりプレートに分かれ、地球の変動がその運動によって起こる、というのが基本的なプレートテクトニクスの考えかたです。70年代にこの体系ができたことにより、地球科学の研究を進めることができるようになりました。この理論はある種の予言能力を持っているのです。これまで全くの独立した現象であるかのように捉えられていた火山や地震などの地学現象、そして生物の進化などをある程度統一的に見ることができるようになったのです。
■ですが、プレートテクトニクスの領域はたかだか地球の半径6400kmのうちの、ごくごく表層の部分、10分の1程度に過ぎません。70年代には地球の内部を知る方法はありませんでした。現在では地震波を使って地球内部を透視することができます。この地震波トモグラフィーと呼ばれる手法により、地球深部の内部構造を解き明かすことができるようになりました。そこには、巨大なマントルの上昇流──スーパープルームや、海溝から沈み込んだプレートの残骸──コールドプルームが映っていました。また数値実験、超高圧実験などにより、核やマントルのことが大分分かってきました。それだけではありません。これらの時間軸変動が、地層からかなりの精度で読み取ることが可能だと分かってきたのです。これらの成果により、全地球的な新しい地球観が生まれました。これが「プルームテクトニクス」です。全地球ダイナミクスとしての地球観です。
○もう少し詳しく教えて頂けますか?
■固体地球は、テクトニクスの異なる3つの領域から構成されています。以下の3つです。
■地球表層上にはさらに大気・海洋圏、生物圏があります。そして、これら全てを中心核から貫いて、磁気圏が広がっています。これらはそれぞれ別個に運動していますが、強い相互作用を及ぼしあってもいます。そして、その原動力はマントルの巨大なプルームの運動です。これが動くことにより地球全体に影響が及びます。
これら全てがどのように誕生し、形成されてきたのか探ることが我々の目的です。
[02:地球史7大事件] |
○現在までの、ざっとした知見と仮説を教えていただけますか。
■ええ。これまでの地球でのイベントは、基本的に全て、地球の冷却過程をドライビング・フォースとして起こっているものです。しかしその冷却過程は一定ではありません。地球内部からの熱の放出、地球内部の物質の流動は非定常的だったことが分かっています。
そしてそれに伴い、幾つかの出来事が起こってきたと考えています。我々は、地球史上での大事件を以下の7つに要約しています。
○それぞれについて教えて頂けますか。
■原始地球は45.5億年前、微惑星の衝突・合体によって誕生しました。当時の地球は衝突エネルギーの熱によってマグマの海(マグマ・オーシャン)に覆われた、中心まで全て灼熱の、液体の惑星であったと考えられています。その結果、微惑星に含まれていた重たい金属は、地球中心に沈み始めます。こうして核、マントル、地殻という構造が徐々に形成されていきます。
■原始大気層は激しく対流を繰り返し、地球を表面から冷却していきます。やがて雨が地表に到達し、マグマオーシャンを徐々に冷やし固めていきます。これがやがて海となるわけですが、海の形成時期にはまだ議論があります。我々は40億年前と考えています。
当時の地球ではまだプレートは形成されていませんから、プレートテクトニクスはありませんでしたが、雨が地表へ到達できるようになるまで地表が冷えると、急速に冷却化します。
しかもいったん海ができると、原始海洋は、原始大気中に大量に含まれていたと考えられる二酸化炭素を吸収してしまいました。その結果、温室効果がなくなり、地表はますます急速に冷えるようになります。こうして冷却はどんどん加速して、剛体のプレートが誕生します。
○連鎖反応的に冷却していくわけですね。
■その通りです。こうしてプレートテクトニクスが始まりますが、この時、大陸地殻が生まれ始めます。
大陸地殻は二酸化珪素に富む花崗岩で形成されていますが、これがあるのは海のある地球だけなのです。その理由はこうです。
玄武岩質地殻は、形成されるとき熱水──高温の海水と反応して含水鉱物を作ります。すると含水地殻は海溝で沈み込むとき、深さ30〜50km程度のところで溶け、二酸化ケイ素に富んだマグマを作るようになります。これが地表へ上昇して花崗岩、大陸地殻となるのです。沈み込む海洋地殻に水がなければ、熔融する温度が高くて地殻が融けることはありえないのです。
要するに、花崗岩の形成には海が必要なのです。これが当時の地球で起こっていたことです。
○海がないと大陸地殻もできないわけですね。それが始まったのが40億年前であると。
■そうです。これらが同時に起こったのが40億年前ですが、もう一つ重要なことが起こりました。生命の誕生です。
現在見つかっている最古の生物化石は、西オーストラリアのピルバラで発見されたバクテリアの化石です。また、39億年前の岩石の中から生物の痕跡ではないかと考えられているものも発見されています。
○欧米の研究者の多くは生命は浅海域で誕生したと考えているようです。先生方はその点については全く違う考え方をお持ちだと伺っていますが…。
■ええ、仰るとおりで、欧米の研究者の多くは、初期生命は浅海で生息していたと考えています。ところが我々は、初期生命は深海の熱水噴出孔近辺で生息していたと考えています。それは、周囲の地質の調査結果がそう示しているからです。発見されている化石の母岩はチャートという深海堆積物由来の岩石です。浅海域ではできません。また今はだいたいどのくらいの深さでできた岩石か、といったことも分かっています。深海ですよ。ところが、欧米の研究者はそういった周囲の堆積環境を考えていない。だから浅海で生息していたと思いこんでいるのです。この問題に関しては、これから国際的な学会の場で大いに議論していくつもりです。
○なるほど。では、これからの議論でどういう結論が出てくるのか楽しみにしています。
■ええ。では話を続けましょう。
27億年前、地球磁場が急に強くなりました。地球の磁場は外核の対流によって発生していると考えられていますが、このダイナモにスイッチが入ったわけです。
その理由はいろいろと考えられていますが、私は、マントルがそれまでの2層対流から1層対流になったことにあると考えています。つまり、地球が冷えていくに従って、沈み込んだプレートは冷たいまま、外核表面に崩落するようになったのです。すると、外核の一部が冷やされます。その結果、外核でも激しい対流が起きるようになったと考えるのです。
これにより磁場がうまれ、生物は浅海へ進出できるようになりました。そして、光合成をするものが現れ、後に大気組成を大きく変えていくことになります。
○地球磁場の誕生によって強烈な紫外線から守られるようになったわけですね。
■その通りです。
このように、地球が冷えるに従っていろいろな事が起こるわけです。最初は、地球の内部のマントルでは乱流的に対流が起こっていました。それが、冷えるに従って、一つ一つの対流がだんだん大型化してまとまってきます。19億年前には一つの大きな下降プルーム、スーパーコールドプルームというのができました。そして、そこに大陸が引き寄せられて合体し、一つの超大陸を作ったと考えられます。
超大陸が形成されると気候は寒冷化して、海水準が下がり、海退が起こり、生物の大量絶滅が起こります。やがて、その下から逆に上昇プルームが突き上げ、大陸は再び分裂していきます。
地球の大陸の動きはマントルの対流に支配されているのです。大陸地殻が海溝から沈み込むと、そのプレートはそのままどんどん沈み込むわけではなく、上部マントルと下部マントルの境界付近で溜まるわけです。大陸はだんだん近寄ってきます。しばらくすると下に沈み込んだプレートがつかえているせいであんまり進めなくなる。そうするとプレートの生産速度が落ち、地球内部からの熱の放出や脱ガスも減って地球全体が寒冷化します。
で、沈み込んだプレートが、ある程度溜まったらどうなるか。一気に核へ落っこちるわけです。すると下から熱いプルームが上昇してきて地表へ吹き出し、溶岩台地が出来、大陸が割れ、地球が温暖化する。このように、マントルの中のプルームの動きが地球全体の動きに大きな役割を果たしているのです。
○次号へ続く…。
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