NetScience Interview Mail 1999/07/22 Vol.062 |
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【井田茂(いだ・しげる)@東京工業大学 理工学研究科 地球惑星科学専攻 助教授】
研究:惑星系形成理論
著書:岩波講座 地球惑星科学12『比較惑星学』共著ほか
研究室ホームページ:http://www.geo.titech.ac.jp/nakazawalab/ida/ida.html
○惑星系形成理論の研究者、井田茂氏にお伺いします。現在、観測・理論両面で大きく進歩を遂げつつある惑星系の科学の現在をお楽しみ下さい。
6回連続予定。(編集部)
■ああ。
○最近の観測の結果、惑星系は普遍的なものかもしれない。でも太陽系はユニークかもしれない。また地球-月系はもっとユニークなものかもしれない、ということなのかな、と。
[01: 惑星系形成を統一的に理解したい] |
■最近は興味がかなり発散していまして。惑星系形成に関わるいろんなことに興味を持っていましてね。逆に収拾がつかなくなっちゃってるんですけど(笑)、星が生まれて周りに円盤ができる、っていうところから、現在の惑星系──それもカイパーベルトだとか小惑星とか、リングだとか、そういう細かいところや現在の姿をどう説明するかなんてところもありますし、それから途中過程、どうやって小惑星ができていくか、地球型惑星、木星型惑星──さらには木星型惑星があちこちでいっぱい発見されているんですが、それぞれの対応をどう説明するかとか。
そういう、太陽系が生まれて現在に至るまで、あれもこれもという感じですね。
○あれもこれも(笑)?。
■ま、自分の中では最終的にはそういうものがすべて有機的に繋がっていって、ある一つの統一的なシナリオを作りたいという気持ちがあるんですけどね。今はまだ、この場所あの場所と、とにかくあっちこっちにクビを突っ込んでいる、という感じですね。
○統一的な理解をしたい、ということですね。
■ええ。まだとてもそういうところには行き着かないんですけどね。小さいところを埋めていって、それが自分の中で繋がっていくといいなと思っているんですけどね。
○「小さいところ」というのを具体的にお願いできますか。
■たとえばですね、小惑星やカイパーベルト天体の軌道を見ると、ある場所に軌道が固まっていたりするんです。そういう細かい構造ですね、そういうところを詰めていってるんです。そういう小さいところが実は太陽系形成過程の大きなカギを握ったりするかもしれないということを期待してやっています。「小さいところ」というのはそういう意味です。それが全体のメカニズムのキーになっている、ということがあるかもしれない。そういうことを目指してやっているんです。
そういうことがあったらいいなあ、と(笑)。
[02: 現在の惑星系形成理論] |
○先生は、太陽系はユニークだ、というお考えなんでしょうか?
■…いや、自分でもまだどっちなんだろうな、という感じなんですけどね。
惑星系があるということは多分普通のことだと思うんですけど。でも太陽系のように整然と並んでいる惑星系、なおかつ地球には高等生物が発達している。そういうことはもしかしたら普遍的なことではないのかもしれないな、ある種の偶然性が重なりあわないとできない、初期条件の微妙なところでしかそういうシステムはできない、そういうことがあるのかもしれないなと。
一方で、太陽系のような惑星系は一般的かも知れないと、依然として思うこともあります。まあ誰もまだ分からないことだとは思うんですけど。自分の中でもまだ、地球がどれだけいっぱいあるのか、となると分からない。惑星系はいっぱいあるけれども、地球はどのくらいあるのか、となると難しいですね。
○ふーむ。ではまず今後のために(笑)、現在の惑星系形成理論についておおざっぱに伺えますか。
■はい。まず現状から説明しますが、これまでとにかく問題だったのが、我々が知っている惑星系が太陽系しかなかった、ということなんですね。だから何が普遍で何がユニークか分からなかったんです。惑星系自体が特殊なのかもしれかった。これまでは一応、太陽は普通の恒星なので、太陽に似た星のまわりには多分惑星系があるだろうと考えてモデルを作っていたんですが、本当にそうなのかということはみんな思っていたんです。
ところが最近、太陽系外の惑星系がどんどん見つかってきたんです。惑星系形成に関するものはおおざっぱに言って3種類あります。「原始惑星系円盤」と呼ばれるガスダスト円盤、これは惑星形成の途中の段階のものですね。あと「ベガ様星」と呼ばれるもの。これは惑星がそろそろできかかっているものです。もう一つは、恒星のまわりを公転する惑星の影響をドップラーシフトで調べることで、周囲を回る惑星を探すもので、かなりの数の大型の惑星が回っているのが見つかっています。これらの成果から、惑星系はどうやら普遍的らしい、ということが言えるようになってきています。
○理論的なものが実際に観測できるようになったと。
■そうです。つまり、分子雲、原始太陽系星雲、そして太陽系へという過程で惑星系ができるというのが大筋では正しいということが分かってきたんです。
○ガスダスト円盤、微惑星形成、衝突合体、という形が基本的には正しいと。
■ええ。まあいろいろ問題はあるんですが。
○たとえば?
■たとえば、木星型惑星のできる時期とかですね。木星型惑星の形成時間の問題というのがあるんです。
木星型惑星というのは固体のコアの周りにガス・エンベロープをまとった形になっているんですが、このガス・エンベロープは残存する原始惑星系円盤のガス成分を捕獲してできたと考えられています。したがって、コアは原始惑星系円盤が存在しているうちにできないといけない。原始惑星系円盤の存在時間は観測によると1000万年程度といわれています。
ところがこれまでの理論で単純に計算すると地球型の惑星というのは100万年くらいでできるんですが、木星のコアは1億年、土星が10億年、天王星や海王星に至っては100億年くらいかかることになっちゃったんですね。
○いまある惑星ができないじゃないかと。
■ええ。それはどう考えてもおかしい。で、最新のモデルでは、微惑星の衝突確率が当初考えられていたより多少大きいことがわかって、結果的には、木星と土星のコアに関しては原始惑星系円盤がまだ残っているウチに、つまりガスをまとう余裕があるうちにできるかも、ということになりました。ですが、まだ完全じゃないんです。
○ふーむ。
■それとね、太陽系の姿、つまり地球型惑星が水星、金星、地球、火星、と並んで、5AU以遠では巨大惑星が並ぶ、というものが、惑星系の普遍的な姿なのか特殊な姿なのかという問題もあります。
[03: 系外惑星の驚くべき多様性] |
■というのは、系外惑星──他の太陽系の惑星の木星型惑星というのは、我々の太陽系の木星とずいぶん違うんです。
○どんなふうに違うんですか?
■我々の太陽系の木星というのは、太陽からずいぶん離れたところにありますね。そして、きれいな円軌道を描いている。
○はい。
■ですが見つかった奴は──まあ特殊な奴かもしれませんが、0.05AU(AU=地球と太陽の間の距離。つまり地球は1AUの距離にあり、0.05AUは太陽と地球の距離の20分の1。なお太陽系で一番内側の惑星である水星は0.39AUの距離にある)くらいのところを、木星みたいなのがびゅんびゅん回っているんです。公転周期3,4日くらいでね。
そういう惑星系だとか、離心率(軌道のゆがみ方)が太陽系だと彗星に近いような形でひしゃげている奴とかが見つかっているんです。ですが今までのシナリオだと、そういうのを作るのはすごく難しいんですね。
○難しいというのは?
■惑星の軌道は、ほぼ円軌道を描いている微惑星や円盤ガスから形成されることや、円盤ガスの抵抗、あと重力相互作用を通して達成させるエネルギー等分配(重い微惑星ほど円軌道からの揺らぎが小さい)のせいで、とにかくできあがったときには円軌道になっちゃうんだ、ということが分かっているんです。また巨大ガス惑星は3AU以内ではガス捕獲が起こらないので、少なくともそこより遠くで作られた、ということになる。つまり巨大ガス惑星は必然的に太陽から遠いところで、円軌道で生まれると考えられるんです。なのに、水星軌道より内側のところをグルグル回っているというのは、かなり奇妙だということになるでしょう?
○先生はどんなふうにお考えですか。
■いったん太陽系みたいなのができたあとで、壊れたんじゃないかと僕は考えています。でもいきなりそういうのができちゃったんだと考えている人もいます。でも、そうすると初期状態にかなり変なものを考えないといけないんです、僕に言わせると。
○変な状態とは、どんな状態ですか。
■たとえば、非常に重たい円盤、ガス円盤が中心星と同じくらいの重さを持っている円盤とか、そういうものを考えないといけないんです。いきなり円盤がバカバカ潰れていって、いきなり木星ができたりとか、そういうのはどうだ、なんてことを言ってるんですが、観測的にはそんなに重たい円盤なんか見つかってないんですね。
○ちょっと無理がある?
■ええ、僕はそう思いますね。我々の太陽系みたいなものができてから壊れていくほうが、あり得るんじゃないかと。それに初期条件の違いで多少違うものができてもいいわけで、そういうものが壊れたり、できあがったあとで変化が起きることで、いまある変な惑星系の変わった姿は説明可能じゃないか、と思っているんです。
○そういう惑星系の寿命っていうのはどうなんですか。100億年は余裕で安定だっていう太陽系に比べると、ずいぶん短くなるんでしょうか。
■はじめにできた(円軌道の)惑星系が短かい時間で壊れてしまうものもあってもおかしくないと思います。壊れた惑星系では、たとえば軌道がぐちゃぐちゃになった木星土星みたいなのがグルグル回っていて、軌道は絶えず大きく変化しているわけですが、その中の一個の惑星がぽっとでちゃうと、いきなり安定になっちゃうんですね。
○ぽっと出ちゃう、というのは離心率が大きくなってどっかへ行っちゃう、ということですよね。そういうこともけっこうあるんですか。
■ええ、木星土星なんてのはものすごく大きいですから、重力が強い。それによって軌道をひん曲げられると簡単に系外へ出ちゃいます。で、一個が飛んでいくとまた系が安定する、というのは割と普通に見られることなんです。
○太陽系ができるときにもそういうことがあったんでしょうか?
■ええ、あったかもしれないんですけど、問題は、今の太陽系の惑星はきれいな円軌道を描いているということなんです。系外に放り投げるようなことがあったら反作用で自分の軌道もひん曲がってしまうはずなんですね。そういうことからいうと、大きなものが出ていったということは考えにくい。
もちろん小さいものを吹っ飛ばすぶんには全然構わなくて、木星なんかは多分、実際に周りにあった小さい天体をボンボン吹っ飛ばしたはずなんですね。軽いものを吹っ飛ばしても自分は揺らがないんで。だからほうき星なんかはそうやってできた、という人が多いですね。もともと太陽系の中にあったものが木星によってドンドンとばされて、完全には飛ばされきれなくて、また太陽系に戻ってきたモノが帚星になっている、と。
○じゃあ綺麗な円軌道を描いている太陽系というのはやっぱり特殊なんですか。その特殊性っていうのがなんだか今ひとつこう…。
■そうですね、その辺はまだ我々も分からないところで…。これまでの標準的な枠組みに従えば円軌道でかなり整然と並んだ惑星系がまずできる、というのは多分それほど間違いじゃないんですけど。だからそれがどこまで長続きするかですね。すごく壊れやすいものなのか、かなり安定なものなのか、そこが分からない。
○取りあえず円軌道を描くようなものができる、というところまでは、もう決まっているんですか。そこは動かない?
■ええ、僕はそう思ってますけど…。そもそも不安定なもの、というのはできないんですよ。たとえば一年で壊れてしまうようなものを10年かかって作る、というのは不可能なわけで、太陽系の惑星がたとえば1000万年とか100万年でできるとすると、その間は少なくとも安定な形状であるはずですよね。
でも未来永劫安定かといわれるとそうじゃなくて、10億年経ったら壊れるとか、そういうことはあってもおかしくない。さっきも言いましたが、長時間の惑星間摂動の積み重ねで不安定になっていっちゃったりするんです。ちょっとした配置や質量の違いによって全く変わってしまうんです。
○ふーむ。その辺をどう捉えるべきなのか、というのがどうもピンとこないんですよね…。計算式を解いてないからそりゃ当たり前なんでしょうけど。
■いや、ほとんどの人がまだそうだと思うんですよ。僕がいま言ったのも単なるアイデアで、他の科学者は違うこと考えているかもしれないし。
○ふーむ。
○次号へ続く…。
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