NetScience Interview Mail 2000/09/14 Vol.114 |
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【平藤雅之(ひらふじ・まさゆき)@農林水産省 農業研究センター 研究情報部 モデル開発研究室 室長】
研究:計算生物学、アグリインフォマティクス
著書:バイオエキスパートシステムズ(コロナ社、ISBN4-339-02277-2)
ホームページ: http://model.narc.affrc.go.jp/
○計算生物学、アグリインフォマティクスの研究者、平藤雅之さんのお話をお届けします。
平藤さんの研究主題は「桃源郷」。
なんだそれ、と思った方は、本シリーズをお読み下さい。(編集部)
[11: 植物がどう空間に分布していくかを時間的に追跡したい] |
データベース |
■環境情報以外には画像がメインですね。
○ああ、さっきの。植物が動いていたやつ。
■ええ。植物が空間的にどんなふうに分布していくかということを時間的に追跡したいんですね。昔だったらモノサシでいちいち測るしかなかった訳ですが、今だとデジタル画像で詳細に記録しておいて、後でまとめて2次元的な解析ができます。次のステップは3次元的に撮って、複数の角度から見たりしたいと思ってます。
○画像処理をするんですか?
■ええ。データ量が膨大なので詳細な解析をしなくても良い方法はないかなと、いま逃げる方法を考えているところです。
○逃げる方法とは?
■たとえば、このサイズの生態系でも非常に複雑なシステムなので、そのモデルは非常に自由度の大きいものになるわけですね。だから何個か代表点を選んで、それだけから全体のダイナミクスが分からないかな?と理論的なことを考えています。
○ふむふむふむ。
■この方法がだめでも,どうせデータは自動で記録されていますから何度でもやり直せます。画像でやっている理由というのはそれなんですよ。全部記録できるでしょ。あとになって、「○○の記録が欲しかったなあ」ということが普通の実験では多いわけです。これは画像で取っているので、どっかにそのデータが入っている可能性が高いのです。つまり非常に冗長なデータの取り方をしておけば、後でなんとかなる訳です。
このコンセプトは、天文学者にとっての望遠鏡なんです。
○ああ、なるほど。
■画像データであれば,ぞれの植物の研究者が、それぞれのところを見ればいい。たとえば,ネギの研究者はネギを見ればいいし,レタスの研究者はレタスを見ればいい。そして競合の様子を見たい人は競合してるところを見ればいい訳です。
気孔の研究している人は、このマニピュレーターの先に顕微鏡カメラが付いてるので、それで観察すればいい。このシステムがまさに一つのマイクロコスモスであり,それぞれ部分的な情報から色んな研究ができます。
[12: 「桃源郷」研究の多目的性 〜宇宙育種、対デブリ防御層としての土〜] |
■そういう面でも多目的なんですが,その面でも生態系はなるべく多様な方がいいんです。
たとえばたくさんの種が生育しているので,この生態系自体が育種施設にもなるんです。宇宙だと非常に高エネルギーの放射線があたる確率が高いですよね。伝統的な品種改良ではγフィールド(放射線育種圃場)が使われていますが、宇宙での放射線ほどエネルギーレベルは高くありません。非常に高い放射線で、どんな品種が出てくるか興味深いものがあります。
○将来の課題?
■そう、宇宙へ行ったときに。中国はそれをビジネスとしてやろうとしているらしいですね。育種のため種子を打ち上げるとか。
○え、そんなことやろうとしてるんですか。
■らしいですよ。そのニュースを読んだとき「あっ、しまった! 宇宙育種の基本特許を取っとけば良かった」って思ったんです(笑)。種子ビジネスって地上に降ろしたときに劇的に効くでしょ。宇宙空間で作る単結晶と違って,一つでも画期的な新品種が見つかれば、あとは地上で増殖できますから。
○なるほど。
■だから種子ビジネスは宇宙で意外とチャンスがあるんじゃないかなと思います。
○宇宙で品種改良して持って帰ってくると。
■ええ、遺伝子組み換えほどには不自然な方法じゃないわけですね。地表だと稀にしか高エネルギーの放射線は来ないので、その時間軸をぐーっと圧縮した感じですよね。短時間で変異体が見つかるという感じです。
○…。
■他にも機能があるんですよ。これ、土ですよね。土がスペースデブリの最終防衛層になるんです。
○なるほどね。
■万一,デブリが外装突き抜けても土の層で止まる場合もあるでしょう。しかも土だから、穴が空いたら穴に詰まってくれますよね。水耕栽培だと水が全部流出しちゃいます。
○なんか「ガンダム」みたいな話ですね(笑)。
■イメージはガンダム型のスペースコロニーです(笑)。サイド3。あれですよね(笑)。
[13: 不動産商品としてのガンダム型スペースコロニーの魅力] |
○でもですね…。子どもの頃は何とも思わなかったですけども、もしコロニーを作るとしても、ああはならないでしょ。あんなに無駄な空間を作るはずがない。中心部まで中身ぎっちりのアパートの集合体みたいな奴になるんじゃないかと思いますけども。
■僕は、さらにまたガンダム型に戻るんじゃないかと思うんですよ。というのは、結局、建設コストが全てでしょ。
○ええ。
■建設コストというのは住民の満足度で決まるわけですよね。そうすると、たとえば青山のワンルームマンションの価格でもし作れるなら、青山のマンションクラスの居住性が求められるわけですね。ガンダムの世界では湖があったりしてたでしょ。あのくらいになったらもっと高くなっちゃうでしょ。というか、もっと高くしてもいいわけですよ。
○なるほど。
■普通のサラリーマンっていうのは5000万円とか6000万円とかのローンを組んで、猫の額くらいの庭が付いている一戸建てを買って一生を終えるわけですよね。ところが今では少子化で両親の家がある。そうなると5000万とか6000万円が浮くわけです。
しかし5000万、6000万円を使おうと思っても、それに匹敵する満足度を与えてくれる商品って意外とないですよね。今時,海外旅行へ行っても大してからないでしょう。
その次は何かというと、最近流行っているのは1000万円くらい払って豪華客船に乗るツアーぐらいですよね。
○はい。
■だから,5000万〜6000万円クラスの民生用の大型商品の市場が隠れているんです。
その大型商品ってなんだろうか?と考えたときに、ガンダム型のスペースコロニーって意外といいかも知れないと思うわけです。5000万〜6000万円払ったらそこに居住権が買えて、好きなときに行ったり来たりできたらどうですか。
そこがそれこそ、害虫がぜんぜんいなくて、木にハンモックつるして寝てても蚊に刺されないような快適なところで、食べるものは全部無農薬──なにせ害虫がいませんからね──で体にいい。環境条件もストレスがないので病気にもなりにくい。
年をとって一番気になるのは病気ですよね。医療水準が高くて、病気になりにくくて、しかも快適。インターネットで地上とはいくらでもコミュニケーションできる。そうなると、宇宙に住んじゃえばいいじゃないかというオプションはありうるでしょう。
○ふむふむ。
■日本の狭くて刺激のないシルバー向けマンションに住むよりも、そっちのほうが良いという人は結構いそうな気がします。あと、ベンチャーで一稼ぎして、もう引退しちゃった人とか。もっとも引退せずに,そこで新しいビジネスだってできるでしょうしね。
○アメリカのリタイアしちゃったような人たちのことですね。
■ええ。彼らはパッとお金を稼いでさっさとリタイアしますからね。そうなると、そこへ住むのがステイタスになりますよね。
○つまり高くても、それなりのサービスが提供できれば、21世紀以降の人はそれを払うだろうと。
■そうです。あとゼネコンの問題もあるでしょ。地上には…
○もう作るところがない(笑)。
■そう(笑)。「こんなところに作られちゃ困る」とか言われているわけでしょ。でもゼネコンの技術を維持するには、それ相応の投資を続けなくちゃいけない。それにゼネコンがなくっちゃ,やっぱり困りますよね。
○公共事業がいらなくなるはずはないですからね。
■そう。そうなると何か巨大な目標が必要でしょう。「それは宇宙だ」というのは、経済の「カネは回さなくちゃいけない」という原則からすると、結構良い投資先ですよね。
しかも、やったことによる技術が地上にどんどんスピンアウトするでしょ。
○そうですね。
しかし、そういうことを正直に言う研究者の方は珍しいですね。
■ふつうの研究者は経済のことはあまり興味ないですよね。
○宇宙開発したいっていう人たちも、あまりそういうことは言わないですよね。NASDAの人たちにしても。まあ、あの人たちはモノを作るのが好きですからね。
■ええ、経済から云々、という人は少ないでしょうね。
○一般の人の夢とか心情にはあまり興味がないんだろうなとは思いますね。そこをうまく掴んだほうが得だろうなと思うんですけど。
[14: 株好きの研究者] |
○平藤さんがそういうことをお考えになるようになったのは? 前からですか? 研究者としては珍しいタイプだと思いますが。
■もともと経済学が好きなんです(笑)。
世の中でいまネットトレーディングというのが流行ってますが、そのずっと前に、パソコン通信で株取引ができる時代があったんですね。真っ先にやっていました。
○直結でやったりしてるとこもありましたね。
■ええ。そのころに株価予想のためにニューラルネットのソフトを趣味で作っていたんです。世の中にまだニューラルネットのソフトが出回るずいぶん前のことです。自分の予想やコメントを掲示板に書き込んだりしていました。金融工学という言葉もまだなくて,そのころの大手総研はやっと多変量解析を使い始めた段階でしたから,非線形予測(今でいうカオス予測)という新しい方法でプロを出し抜くというというのは,アマチュアの趣味としてはものすごく面白かったんです。
○ふーん…。
■あれって自分で投資しちゃうと、経済学そのものが趣味になっちゃうんですよ(笑)。計量経済やマクロ経済の本などもちゃんと読破しておかないと不安を感じちゃうんです。そのとき,マルコビッツの論文(後にノーベル賞を受賞)も読んでたんですが,これじゃ非線形系ではうまく行かないよ!と思ったんです。ずっと後に,某大手総研でその論文を勉強しているらしい!なんていう噂が流れて来ると,おいおいプロが今頃そんなことやっていて大丈夫なの?という感じでした。
そのうち、世の中がバブルになってきて、金融工学だなんだと言い出したりする人が出てきたんですね。カオスやニューロもそろそろ潮時!という気がしたんです。その頃,やっと時代感覚がちょっとずれたノーベル賞受賞者たちが現場にやってきたんです(笑)。
○(笑)。
■アメリカにも似たような人たちがいて,かすかな噂でお互いの存在を知るわけです。そういった人たちがずーっと先にやっちゃって、終わった頃にエライ人たちがやってくる,というのがいつものパターンですね。
○それがおいくつくらいの時ですか。
■20代から30前半ごろですね。
○そのときはどちらに?
■もうここ(農業研究センター)にいました。
○えっ、ここでそんなことやってて大丈夫だったんですか。
■もちろん土日ですよ。
○なるほど、土日の遊びですか。
[15: 農業用機械のAIをやっていた時代もあった] |
○研究は何をやっていたんですか?
■なにやってたかなあ…。
○次号へ続く…。
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■新刊書籍・雑誌:
◇『「街路樹」デザイン新時代』(ポピュラー・サイエンス221) 渡辺達三 著
本体1600円+税 裳華房 http://www.shokabo.co.jp/mybooks/ISBN4-7853-8721-1.htm
街路樹は市民生活にどのような役割を果たしてきたのか.新しい街路樹の姿を探る.
◇『進化の風景 −魅せる研究と生物たち−』 石川 統 著
本体2200円+税 裳華房 http://www.shokabo.co.jp/mybooks/ISBN4-7853-5833-5.htm
自らの研究生活で出会った興味深い現象,不思議な生物たちを題材に,生物研究・進化研究の魅力を語る.
◇雑誌「生物の科学 遺伝」別冊12号 『地球の進化・生命の進化』
本体2600円+税 裳華房 http://www.shokabo.co.jp/iden/betu/12/iden_betu12.html
地球科学者と生命科学者のホットなセッションによるダイナミックな「進化」研究の現在.
■イベント:
◇Mathematicaユーザー会 ワークショップ事例発表者募集
11月3日(祝) 東京電機大学 千葉キャンパスにて
http://www.jip.co.jp/si/mathuser/
◇裳華房ホームページ「今月のキーワード」 秋の研究所等の一般公開
http://www.shokabo.co.jp/keyword/labo_autumn.html
http://www.shokabo.co.jp/
■ U R L :
◇航空機搭載映像レーダにより新たに三宅島山頂の陥没の映像を取得 郵政省通信総合研究所
http://www.crl.go.jp/pub/whatsnew/press/000904/000904.html
http://www.crl.go.jp/ck/ck521/index-J.html
◇「NASDA NEWS」の最新号(No.226 2000年 9月号)
http://yyy.tksc.nasda.go.jp/Home/News/News-j/226index.htm
◇オゾンホール、過去最大規模 気象庁ほか
http://www.kishou.go.jp/press/
ftp://ftp.hq.nasa.gov/pub/pao/pressrel/2000/00-137.txt
http://www.floridatoday.com/space/explore/images/2000b/091000b.jpg
◇三宅島及び周辺4島の通信サービスの現況と対策について NTT 東日本
http://www.ntt-east.co.jp/release/0009/000908.html
◇Audacious & Outrageous: Space Elevators NASA Science NEWS
http://spacescience.com/headlines/y2000/ast07sep_1.htm
*ここは、科学に関連するイベントの一行告知、URL紹介など、
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発行人:田崎利雄【科学技術ソフトウェアデータベース・ネットサイエンス事業部】 編集人:森山和道【フリーライター】 |
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