NetScience Interview Mail
1999/03/18 Vol.045
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【春山純一(はるやま・じゅんいち)@宇宙開発事業団 つくば宇宙センター
                   先端ミッション研究センター】
 研究:SELENE月探査計画、彗星研究

○NASDAの春山純一氏にお伺いします。
 今回が最終回です。8回連続。(編集部)



前号から続く (第8回/全8回)

[19: 月はステップ]

■私は生命の起源に興味があるんですが、月はステップだと思ってます。

○その先は彗星ですか。

■そうですね。自分だけが調べれば良いというものでもないし。他の国の探査計画とかが利用できるなら、それはそれで良いと思ってます。ただし、自分がやりたいことを人に任せた場合、どこまで自分がやりたいことを体現してきてくれるかは分からないし、やっぱり自分で知りたいというのもありますね(笑)。

○そうでしょうね。

■いずれにしても月はステップで、いずれは火星や彗星も調べたいし、提案していきたいと思ってます。まだ時期尚早だし、そもそも自分の実力がないんで、ステップかなあと思ってます。

[20: 有人探査]

○春山さんご自身としては、有人探査についてのご興味は? どうお考えですか。

■そこがですね、迷うところなんですよ(笑)。うん。
 やっぱり人の力は凄いんですけど、有人探査の怖さは、人に焦点があたってしまうところなんですね。チャレンジャーのように事故が起こると、全てがストップしてしまう。経費も膨大ですしね。一長一短なんですよね。
 でもいずれ、有人が非常にやりやすい時代になれば、有人でやれることも念頭に置いて、探査するようになると思うんですね。

○はい。

■それこそさっきの、インフラがあると手を考えるということですね。でも自分から積極的に有人有人っていうべきかというと、そこには迷いがあって、無人でもできることはたくさんありますよ、という今のところの私のスタンスなんですね。

○先ほどの宇宙開発に対する態度の話と同じで…。

■まだ、情報が少ない。どこまで、人間活動ができるのか見えていないから、人間を送り込むのはまだ。放射線環境とか、まだまだ分からないことがあるんで。だからそれは、やるな、ということではなく、やって、判断を下すべきことだと思ってますね。
 だから、まだ判断材料がないということです。判断材料がないときに全てをストップさせるのは勿体ないということですね。

○なるほど。

■でも不思議なことにですね、宇宙開発ってカネがかかるカネがかかるって言われながらですね、アメリカでいろいろ考え直すと、非常に安く、かつ小型化もできているから、まあやっぱり、そういう努力する態度というか、何かしら知恵を働かすようになればできるんじゃないかと思うんですよ。定常的にやっていくとかすれば、さらに安くできるかもしれないですしね。やっぱりそれも時代の流れ次第じゃないかと思うんです。

○宇宙は思っていたより近い、ってことになるかもしれないですね。

■そうですね。
 いまは人工衛星がバカバカ打ち上がっている時代ですよね。我々の父親とか祖父とかの世代は、そんなことは夢物語だったと思うんですよ。でもいつの間にか、こういう宇宙に1000個以上の衛星が稼働する時代になったんですから。

[21: ふたたび月へ]

○一方で、僕らの世代で一番引っかかっているのは、特に月だと、アポロ、つまり人が30年近く前に行ってて、なぜそれから空白の時代になっちゃったのかということだと思うんですね。僕も月を見るたびに思っているんですが。

■うん、私が最初に思ったのは、月はやはり誰にとっても面白くなかったということなんだろうなと。そういうことかなあと思っていたんですけど、でもやっぱり、知られていないことは、まだまだたくさんあるんだなあと思うようになりました。
 やっぱり月は近いですよ、何をするにしても。

○<セレーネ>は5日で着いちゃうんですからね。

■ええ。距離を感覚で言うとですね、地球に一番近づく星は金星なんですが、金星が一番近づくときの距離は、地球から月までの、ちょうど100倍なんですよ。つまり100倍も違う。私とあなたはいまこうして1mくらいの距離で喋っていますが、金星は100m先なんですよ。そう考えると、やっぱりまずは月だろうなと思います。漠然とした話ですけどね。
 しかも、地球とはこれだけ顔の違う天体なんですね。だから調べることはいっぱいあるだろうなと思います。

○大きさが違うだけで、これだけ違うんですもんね。
 でもこの30年はあまりにも長いですよね。NASDAの「ふたたび月へ」っていうキャッチフレーズを見る度に思うんですよ。

■それは正直なところだと思いますよ。我々が小さいときには、既にいまの時代は、当然、探査機どころか月面基地ができていると言われていましたからね。何が、これだけ遅らせたのかというのは分からないですけどね。

○個人的には、これは実はかなり大事な問題なんじゃないかなーと思っているんです。いったい何故、これだけ遅れてしまったのか…。

■でも多分、一般の人の多数決の論理じゃないところで世の中決まってしまうことが多いような気がしません? 結局、今回のミッションでも誰か非常に大きな声の人がいて、バババッと動いてしまったというところがあると思うんですよ。もちろん潜在的にはそういうモチベーションを持っていた人がわっと集まってきたというところもあるんですけどね。
 だからそういう、ものとか時代とかを見る能力と、うまい地位にいる人が、体現してしまうのかもしれませんね。ケネディのような。

○そうかもしれませんね。

[22: サイエンティストとエンジニアとの協力]

○今日お話を伺っていて思ったことがあるんですが。春山さんにとって月っていうのは、例えばアメリカにフィールドがあったとして、そこまでの旅費がちょっと高いだけ、という感覚ですか?

■火星とか彗星とかに行かないで、月を目指すっていうのはということですか?

○ええ。

■うん、そうですね。正直言ってそうですね。旅費も高けりゃ危険性も高い(笑)。

○いわば、ラジコンヘリを日本からアメリカまで飛ばしていって、なんか色々探る、っていう感じでしょうからね。

■そういうところは確かにありますね。そういう風に感じてる人が多いんじゃないかな。

○サイエンスの人はそうでしょうね。技術開発の人は特殊なラジコンヘリを作るのが…。

■いや、逆ですよ。サイエンティストは、飛ばしてくれるんだったら飛ばして欲しいと思っているんですよ。だけど、やっぱり、技術屋さんがそこまで来てくれないっていう印象があるんです。こう言っちゃ悪いんですけど(笑)。なんとなく見てて、不満が残るんですよ。

○来てくれないっていうのは?

■行ってくれない、達してくれない、ということですね。ニーズを満たしてくれない。
 それはまあ、NASDAが中心になってきたこともあって、NASDAは失敗しちゃいけない、まあ宇宙研もそうですけどね。あんまり無謀なことをしちゃいけない。探査機を飛ばすということはやっぱり大変なことなんですよね。それを考えると、まだ技術屋さんがそこまで技術開発できていないっていうか、慎重であるっていうか。そういうものは感じますね。

○ふーむ。

■サイエンティストとしては、自分が行きたい天体があって、ここにこれだけのものを送ってくれないかなあというのは、結構あるんですよ。でも「何をバカなこと言っているの」、って言われるのかな、と。
 でも、サイエンスサイドにも、要求をきちんと吟味しないといけない、ということもあると思います。あまり強い要求根拠もなく、なんとなくやったほうがいいとか、という程度でリスクや負担を増大させるのは、自分たちの首を絞めることにもなるといえますね。
 いずれにしても、サイエンティストとエンジニアとが真剣に議論するのが大事でしょうか。その意味で、サイエンティストとエンジニアが近くにいる宇宙研やNASDAは、前にも言いましたが、やはり探査をするには非常にいい環境であるといえるでしょうね。

○なるほど。
 行って分かることっていうのが、そこに行かないと得られない情報だから大きいと言えば大きいんだけど、でも、本当に大きな情報が得られるのか、っていうこともあるわけですよね。サイエンスだからそれは当たり前といえば当たり前なんですが。フィールドに行って何もなかったってことは、実際よくあることだし。
 でも、面白いものが見つかるといいですね。

■そうですねえ(笑)。

○期待しています。
 本日はどうも有り難うございました。

【1998/11/30, つくば宇宙センターにて】

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*次号からはてんかんと精神病理学の研究者、深尾憲二朗さんへのインタビューをお送りします。


[◆Information Board:イベント、URL、etc.]

■イベント:
◇科教協東京支部 春の研究集会 4/18
http://member.nifty.ne.jp/Sugiyama/tokyo.htm

■URL:
◇遺伝子操作に関するアンケート(NHK)
http://www.nhk.or.jp/forum/life/dna/index.htm

◇すばる望遠鏡の日本語ページ
http://www.subaru.nao.ac.jp/j_index.html

◇ G-Search, 「JOIS(科学技術情報データベース)」 オープン
http://wdbs.g-search.or.jp/corp/whatsnew.html#19990309c

◇気象庁さくらの開花予想(第1回)
http://www.kishou.go.jp/info/990303/sakura1.html

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NetScience Interview Mail Vol.044 1999/03/11発行 (配信数:11,881部)
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編集人:森山和道【フリーライター】
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