NetScience Interview Mail 1999/10/21 Vol.074 |
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【淺間一(あさま・はじめ)@理化学研究所 工学基盤研究部 技術開発促進室】
極限環境メカトロニクスチーム チームリーダー
生化学システム研究室 副主任研究員
研究:ロボット工学
著書:長田正編著『自律分散をめざすロボットシステム』オーム社,東京,1995.ほか
研究室ホームページ:http://celultra.riken.go.jp/~asama/
○自律ロボットの研究者、淺間一さんにお話を伺います。
淺間氏はロボカップと呼ばれるロボットのサッカーに出場したり、様々な分散ロボットなどをお作りになっています。
近い将来、大きな役割を役割を果たすかもしれないロボット。
その研究現場からのお話、お楽しみ下さい。
7回連続。今回が最終回です。(編集部)
[20: 研究者がベンチャーをやるということ] |
○話は全く変わりますが、先生は「有限会社ライテックス」という自律ロボットを売るベンチャー企業の取締役、というもう一つのお顔もお持ちですね。
■ああ(笑)。
○先生がベンチャーをお作りになったのはいつごろの話なんですか。
■あれは去年(1998年)の四月だから、一年ほど前になりますかね。
○どういう経緯だったんでしょう。おおざっぱには有馬さんが理研にいた頃にそういう旗振りをした、ということでしたが、先生ご自身のほうは。
■うん、実はね、僕はベンチャーを作るのはあまり気が進まなかったんですよ。うちのボスの遠藤さんが作ろう作ろうといって始めたんですね。基本的には僕はあんまりベンチャー推進派じゃないんですよ。というのは研究に興味があって、金稼ぎに興味があるわけじゃないんで。
まあ金稼ぎに興味があったらこんなところにいないですよね(笑)。
○アメリカだったらまだしも、日本にはいないでしょうね(笑)。
■そうですね。アメリカではけっこうスピンアウトして実業家になる人も多いんですけどね。
○大学教授の給料もぜんぜん違いますね。
■うん、しかも大学教授もピンからキリまでいるでしょ。日本とは違うんですよ。日本はみんな同じなんですよ。どんなに偉い人でも馬鹿な先生でもみんな同じくらいの給料でしょ。あれがやる気に繋がってないってところはありますね。凄い人はむちゃくちゃ儲けるってくらいにならないとよくない。そういう意味ではベンチャーっていうのは活性化に繋がるかもしれないですね。
とにかく全てが平等主義っていうのはよくないですよ。平等な教育をして、みんな落ちこぼれないようにしましょう、ってやってると、結局一人ずつの個性みたいなのがね、評価されなくなっちゃいますからね。
○でも推進派ではないと?
■ええ。まあどうして推進派じゃないかというと、自分がより多くの時間を研究に使いたいから、という理由なんです。社会的にはそういうのがあったら、それをうまく利用する人がいるというのはいいんじゃないかと思うんですけどね。だからそういう意味では、理研がこういうことをやりだしたっていうのはいいことだと思うし。
○じゃあどっちかっていうと先生としては、TLOみたいなのが理研みたいにあればいい、という立場ですか。
■うん、そうですね。僕が今いる工学基盤研究部っていうのは一つの理研のTLOっぽいところを目指しはじめているんですよね。工学基盤研究部っていうのはもともとは研究支援っていうのをやってたんです。研究支援ていうのはもともとは研究者が欲しい機械を作ってあげたり実験したり、そういうことをやってたんですけど、そこでも独自の技術開発をやるようになりましてね。最近は特にそれをなんとか実用化に結びつけようとしているんですね。企業の人を呼んできたりだとか、ブレイクスルーを起こすようなツールを企業と共同開発したりとか、そういうことをやりだしたんです。 そういうときにやっぱベンチャーの芽が育つような形で応援したいな、ということになりまして、じゃあそういうマネージャーみたいな人を雇って、ベンチャーがうまく進むような形でやりましょうということを今の部長は考えているんですね。だから徐々に工学基盤研究部ってところはサービス業っぽいところからTLOっぽくなりつつありますね。
今多くの大学でTLOができつつありますよね。
○ええ。でも、根拠はないんですけど、あんまりうまくいかないんじゃないかという気がするんですよね。
■うん(笑)。鋭いですね。僕もそう思います(笑)。
○でも先生は一台お売りになったんでしょ。
■ええ、売りました。札幌の青少年科学館に。
○それはどういう形で?
■我々はベンチャーっていっても営業活動をあんまりやってなくて、社長だとか、営業する人は別にお願いする人がいて、その人たちにお願いしているわけですよ。で、その人がいろいろなところを回っているうちに、科学館で新しいことやりたいって言ってるからサッカーロボット売り込もうよ、って話になって、成就した話なんですね。だからやっぱりそうやって営業する人がいないとなかなかうまくいかないでしょうね。
学会なんかで話をするとね、「いやー、面白いですね、うちでも一台買いたいですけどそれは売り物になってるんですか」という話にはなるんだけど、それがなかなか実現しないのは、やっぱり営業活動がうまくないからなんでしょうね。
○そうでしょうね。後日必ず出かけていって繋げたりしないと、なかなかうまくいかないんでしょうね。
■ロボットを買いたいって思っていることと、実際に買うことにはかなり差がありますね(笑)。
[21: ロボットのアプリケーション 林業ロボット] |
○では他のロボットのアプリケーションについてですが、まあプラントとか家庭とかにも将来は入ってくるでしょうということもあると思うんですけど、先生は以前、林業に関するロボットを開発なさっていたとか。
■ええ、いまはいちおうプロジェクトは終わっているんですけどね。先日も林業機械化協会の方がお見えになって、今度新しいプロジェクトをやりたいんだけど、って仰ってました。
○林業機械化協会ですか。そういう協会があるんですね。
■ええ、林野庁の外郭団体で、そこの会長さんは南方先生っていって、東大の農学部の教授をされてた方なんですね。
面白いですよ、林業の機械っていうのは。木をガーッと切って、枝をはらって、で、球切りっていって数メートルごとにバサって切るんですね。そういうプロセッサーっていうでっかい機械があったり、でかい木を運び出す機械だとかね。
○みんなの社会科とかに出てきそうな機械たちですね。
■うん。アイデアは非常にプリミティブですよね。でもすごく実用になっている。現場で切るところなんか見てても、これはいいなあ、と思いますね。
○しかもコストとしても見合っているわけですよね。そこが凄いですね。
■そうそう。日本はまだ少ないんですよ。北欧とかカナダとかは平地だから、車両がどんどん中に入っていけるからね。日本の山はでこぼこだから大変ですが。
○そうですよね。ロボットもまずそこから考えないといけないんでしょ。やっぱり例の胴体を曲げるタイプで、クローラー(キャタピラ)でガーッといくような奴ですか。
■そうそう。実際にはイワフジって会社が作った下草を刈るロボットがあるんですけどね。林地っていうのはだいたい1.8mごとに植わっているんで、車体の幅を1.5mくらいになるようにしてやらないといけない。しかも段軸っていって、クローラーがそれぞれ独立にけっこう大きなストロークで動くようなものじゃないといけないんですね。
○自律ですか?
■いまは自律じゃないですね。遠隔操作のラジコンで後ろからついていくんです。それでもずいぶん違いますよね。 自律でできたらいいだろうと思うんですけど、けっこう大変ですよ。
○林の中にほったらかしておいたら勝手に動き回って下草を刈ってくれたりしてくれたら便利じゃないですか(笑)。
■そうですね。難しいのは木の認識なんですよ。雑草と木をどう見分けるかが非常に難しくて。素人がいったら全然分からないですね。しばらくして見慣れてくると、「あ、これは苗木だ」って分かるようになるんですけど。苗木よりも雑草のほうが背が高かったりしますから。家事ロボットを作って掃除をしろ、といったら赤ちゃん捨てちゃった、なんてジョークがありますが、まさにそういう世界です。
○そういうのの認識に、例のIDCを木にぺたぺたつけてタグにするというのは?
■うん。でも一年目の木なんかはタグをつけるどころか、ほんとにひょろひょろした状態でしょ。
○タグなんかつけたら成長の邪魔になりそうですね。
■ええ、だから現状ではまだまだ問題があるんです。
○将来的には? 個別にやっていけばなんとかなるやって感じなんでしょうか?
■うーん。そうですねえ。難しいですね。なかなか…。うーん、どうかなあ。
○通産省や科技庁が出してくる未来の街、みたいなマンガがありますよね。でもあれを実現するにはかなり大変だと先生方からすると思うんじゃないですか(笑)?
■うん、やっぱり全てのネックになるのが認識の部分なんですよ。何に使うにしろこれが最大の問題だと思いますね。
[22: ヒューマン・インターフェース ユーザー適応型可変環境システム] |
○環境認識ですか。
逆に言えば認識しなくてもすむようなアプリケーションなら簡単にいけるわけでしょう?
■ええ、そうだと思うんですよ。IDCの発想も一つはそこから来ているんです。認識を手助けするようなものを最初から周囲につけてしまおうと。
○あれはでもstructured enviromentじゃないと動かないですよね。だから工場とかでの使用を想定していらっしゃるんでしょうか? あるいは将来は家とかビル全体がインテリジェント化するだろうと考えていらっしゃる?
■ええ、いちおうそういうつもりなんです。だから工場とかビルとかオフィスとか病院だとか、家のなかっていうのは意外と難しいかもしれませんが、建物の中は割と入りやすいでしょうね。一番大変なのは野外ですね。
○ビルの壁面にかたっぱしから埋め込んで、さらにGPSみたいなものも使って、ということですか。じゃあ将来的にCPUがどんどん0コストになるような時代を想定して、ということですか。
■そうですね。そういうのがいいんですけどね。まあ用途によってね、今でもけっこう安くできると思うんですよ。機能的には中に全部載せる必要もないでしょうからね。IDCみたいなものはオーバースペックなんですよ。だから高級に作ってある分、ある程度高級なものに使わないと割があわない。
○具体的なものは?
■車なんかですね。車の履歴みたいなのを全部入れておいて、設計情報から運用情報まで全部入れておいて、中古車屋にいったらすぐに分かるとかね。車を見れば事故車かどうかも全部分かると。
あとは人間のIDカードでしょうね。皮膚の中に埋め込むとかいうのはやっぱりグロテスクだから、カード型で持ち歩けるものにしてね。健康情報とかを全部入れておくと。
で、持ち歩くものは他人が拾ってもありがたくない、っていうのが大事だと思うんですよ。盗んだからといって、何も役に立たないもの。
○使い方としては?
■たとえばIDCを持ち歩いていて、環境の方にはあちこちにリーダー/ライターがあると。自分が通ると、通ったところでは、あ、この人はどういう人だ、というのが分かると。たとえばその辺のアナウンスする機械も、「あ、こいつは日本人だ」って分かると日本語で案内するとか。「この人は身障者だ」と分かったらゆっくりエスカレーターを動かすとか。「こいつは案内されるのが嫌いらしい」と分かったらほっておくとかね。
とにかく環境自身が個人個人にあった動作をしてくれると。
○環境がインテリジェント化すると。
■ええ、環境がインテリジェント化することのもう一つ大事なポイントは、人間とのインターフェースをどう考えるかなんですね。たとえば今までの話っていうのは、人間と近づければ人間とのコミュニケーションがよくなるだろうという大前提があるんですけども、ヒューマン・インターフェースっていう意味でいうと、それはどうかな、と思うんですね。
機械同士が自分の言いたいことを伝えられる手段というのはいろいろ考えられるわけで。相手が人間だったら、逆にその手段は限られているんですよ。相手が機械だったらいろいろな手段を取りうるわけで。しかも、機械のインターフェースが「人間はこういうもんなんだよ」という発想でデザインされていたら、僕はダメだと思うんですよ。
○分かります。
■今までのインターフェースというのは実は全部そういうもので、たとえば原子力プラントのパネルをこういうふうに設計しましたと。それでたとえば100人のオペレーターに使ってもらったところ、90人の人が良い、と言いました。だからこのインターフェースは良いインターフェースです、なんて話になっているわけですよ。
これは逆で、10人の人はダメだと言ったわけですよね。じゃあその人がたまたま3交代でオペレーションしているときに事故が起こったら大変なことになるわけですよね。
飛行機なんかもそうです。「人間はこういう風にやってくれるもんだ」と人間を均質化して扱うところから始まっている。違うんです。人間ていうのは非常に個性的で、一人一人みんな違うんです。100人が100人みんな違っていて、そのどれにでも対応できる、っていうのが本来のインターフェースです。
○ええ。
■そのためには人間の個体情報、個別な情報を認識して、それに応じた多様性が取れる機械が、本当にヒューマン・インターフェースの良い機械なんです。だからたとえば計算機でも、WIndows98のOSが入っているパソコンがあったら、自分は使い方を覚えて一生懸命使わなくちゃいけない。Macintoshを使っている人は急に使いづらくなっちゃうと。たとえばフランスに行くと全部フランス語でわけがわからないと。ていう風になるんじゃなくて、計算機には全てリーダー/ライターがくっついていて、その前に誰かが座ると「あ、この人は日本人のMacintoshユーザーじゃないか。じゃあMacintoshのOSをどっかからダウンロードしてこよう」という形で、自分はどこにいてもパッと座れば、どこの計算機であれ、自分が普段使っている言語で、同じOS、同じキー配置で使えると。ていうなものになっていかなくちゃいけない。
これが本来の使い勝手の良い計算機だと思うんです。「ユーザー適応型可変環境システム」って呼んでいるんですけどね(笑)。
そういうのには一つ一つにその人が使っているユーザー環境の情報、その人がそういう情報を持ち歩いているか、あるいはその人の個体情報をどっかのサーバーで見るかすればその人がどういう環境を使っているかを機械が認識して、その人に合わせた環境に機械が自動的になってくれるようになると思うんですね。
[23: 超分散] |
○しかしまた、ずいぶんいろいろとなさってますね、一言でロボットといっても。
■そうですね(笑)。サッカーのウケがいいんでサッカーばっかり言われてますけど、私の中ではサッカーはごく一部なんです。
○先生は先生の将来の目標というのは、どのような…?
■目標は、「超分散」ですね。
○「超分散」?
■ええ。
○それはなんですか?
■地球ですよ。地球全体にセンサーをばらまいて、いまある地点がどういう状態であるかといったことを知る、と。地球全体で分散処理を行うわけです。
○メタネットワークみたいなものですか?
■うーん、そうですねえ。とにかくセンサーをいろんなところに置いて相互に通信しあって情報をやりとりするようなシステムですね。地球全体をインテリジェント化しようと。将来は実際かなりのものに埋め込まれていくでしょうから。 結構、本気なんですけどね(笑)。
○そりゃまた壮大な話ですね。ロボカップで人間に勝つっていうのとはまた違った意味で。
本日はどうもありがとうございました。
【1999/07/01、理化学研究所 和光キャンパスにて】
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*次号からは認知脳科学の研究者・松元健二氏のインタビューをお届けします。
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■イベント:
◇鳥取大学創立50周年記念特別企画フォーラムのお知らせ 11月13日
http://www.cjrd.tottori-u.ac.jp/cjrd/past/foramu_50.html
◇エデュテイメント2000京都
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◇『AIBO EXPO ’99』 10/30〜31 東京都港区北青山3丁目6-1 HANAE MORIビル 5F
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◇ワールド・バード・カウント
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◇第33回 東京モーターショー1999
http://www.motorshow.or.jp/
◇郵政省「研究開発成果をいかに社会導入するか」ワークショップ 10/28開催 東京TFT
http://www2.park.or.jp/mpt/index.html
■URL:
◇ISS/きぼうにおける研究シナリオ・利用戦略へのご意見募集
http://jem.tksc.nasda.go.jp/utliz/doc11.html
◇第7回衛星設計コンテスト最終審査会の一般公開について
http://yyy.tksc.nasda.go.jp/Home/Press/Press-j/199910/eisei_991012_j.html
◇「IARC-NASDA情報システム及び衛星データを利用する北極圏研究」公募研究提案の審査結果について
http://www.esto.or.jp/iarc/
◇毛利宇宙飛行士への質問大募集!!
http://jem.tksc.nasda.go.jp/shuttle/sts99/mohri_question.html
◇1999年の「しし座流星群」広報文章、国立天文台
http://www.nao.ac.jp/pio/leo/
◇JCO事故時における那珂研究所のモニタリングデータ 科学技術庁
http://www.sta.go.jp/genan/jco/jco91008.html
◇「NASDA NEWS」10月号
http://yyy.tksc.nasda.go.jp/Home/News/News-j/215index.htm
◇ルナ・プロスペクターの衝突で水は観測されず
http://science.nasa.gov/newhome/headlines/ast13oct99_1.htm
◇IKONOS衛星による画像データを公開、日本スペースイメージング株式会社
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