壮大な新世界
講談社刊
98年11月26日
446ページ 定価2300円
著者 ウィリアム・クノーキ
訳者 成毛真
評者 森山和道
投資銀行ハーバードキャピタル・グループの創業社長が来るべき時代を語る。ちなみに訳者はマイクロソフト日本法人社長。
爆発的に進行する情報化によって、場所というものを超越し、「四次元化」した「脱時空社会」が訪れようとしているというのが著者の主張である。
「四次元化」とはどういうことか。著者は文明をこう捉えている。
人類は「ゼロ次元」の狩猟時代から、交易を始めた「1次元」の農耕時代、大航海時代によって平面全てを手に入れた「2次元」時代、航空と宇宙開発による3次元時代を経て今日に至った。だがいまだ、「場所」というものに囚われている。それが解放される時代が「四次元化」であり、著者のいうところの「脱時空社会」である。「近く」や「遠く」といった言葉が意味をなさなくなる社会が、脱時空社会なのだ。テレプレゼンス、ヴァーチャル・リアリティなど技術の進歩は、間違いなく新たな時代を到来させるという。
新たな次元への転換は、常に社会を根底から変えてきた。「脱時空社会」では何が起こるのか。著者は言う。既存の「国家」という概念は崩壊する。国境がないも同然になるのだから「グローバル」は当たり前になる。企業の力は伸び、国家の力は落ち込む。会社は「アメーバ化」し、自由自在に組織を変形させ、一定の大きさを超えると分裂する。「中央」や「末端」といった言葉は死語と化す。
もちろん、良いことばかりではない。あらゆる組織が再編成されていく社会では、持てる者と持たざる者が二極分化する可能性がある。民族間、階層間の対立も激化するかもしれない。だが、それらは乗り越えられると著者はいう。
超国家という概念すら古くさくなった社会で政府は何をすべきか。それは「教育」であるという。教育こそが人的資源を増大させる。未来は、人材にこそかかっているのだ。
著者は該博な知識と幅広い視野で未来を見通して見せる。それは大変革の時代である。「歴史上まれに見る瞬間」に立ち会えることを幸福と考えるか、不幸と考えるか。それは考え方次第である。
文章は歯切れ良く、読みやすい。ざっくりしているが、楽観的な考え方が新鮮で、面白い本である。
もりやま・かずみち
サイエンスライター