『教室がインターネットにつながる日』は、<インターネット>なる言葉が世間にこれだけ普及する前からネット利用教育を推進してきた教員たちによる本である。彼らはネット教育黎明期に、試行錯誤しながら自力で実践を行ってきた。彼らの汗と苦労が滲んだ本書には、未だに刊行されている浮ついた<ネット万歳>論は皆無である。彼らは、ネットの「向こう側」には人がいること、教育の本当の意義は直接体験に始まる事を理解している。
大きく分けて、イントロダクション編・実践編・技術編の3編からなる。<インターネット>そのものの簡単な歴史と解説、そして教育へのインパクトと本質が綴られるイントロダクション。様々な学校間交流、クラスをまたいだ学習、地域情報発信、力づくと手作りで学校をネットへ接続した記録を現場教員が語る実践編。そしてUNIX入門の技術編の3つである。ネットを金のない学校に引っ張ってくるためには並々ならぬ努力が必要である。本書は学校にネットを導入する上で立ちはだかる数々の問題──端末や電話代からはじまって、業者の選び方、構内のケーブル引き回しなどの現場の汗が不可欠な問題から、ネット教育を実践したことによる生徒達、そして教員側の変化まで幅広く扱っている。ネット利用教育を考えている現場教員はもちろん、小学生や中学生などを抱える親は必読の本と言えるだろう。複数の著者による文集本にありがちな、バラバラな印象は本書にはない。読みやすい本だ。
また「学校」を、「会社」あるいは「社会」に置き換えれば、本書は、あるコミュニティーにネットを導入する時の貴重な参考資料となる。WWWによる情報発信、メーリングリストの活用、そして何よりまだ根強いらしい「ネット楽園幻想」あるいは「ネット恐怖症」「ネット=仮想現実論」を打ち破るために、本書で引かれているケースは、学校という極端な環境を舞台にしたものだけに、大いに参考になるだろう。
『教室がインターネットにつながる日 インターネット利用教育の理論と実践』 深田昭三・玉井基宏・染岡慎一編著 北大路書房、2000円 『教室がインターネットにつながる日』ホームページ http://www.csi.ad.jp/school/book/
森山 和道/フリーランス・ディレクター
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