電話マナーが変わるかもしれない。受話器を取って「はい、○○です」と言う代わりに「××さんですね?」と先方に呼びかけるようになるかもしれない。これではまるでオバサンだが、ついにNTTの「ナンバー・ディスプレイ」「ナンバー・リクエスト」が始まる。
皆さんの所へも封筒が届いていると思うので、今更いちいち言うことでもないと思うのだが、一応おさらいしておく。このサービスによって、電話をかけた方の番号が、着信側に提示されるようになる。受話器を取り上げる前に、どの番号から発信された電話なのかが分かるようになるのだ。電話機がちょっと進歩すれば、取り損なった電話の相手を確認することもできるし、例えば電話してきた相手によって着信音を変えるようなこともできるようになるだろう。これまで匿名性の高かった電話呼び出しが、個性を持つのだ。電話メディア登場以来の久々の変化かもしれない。
企業ならば、顧客の特定はもちろん、認証に使うこともできる。コンピュータと結んで、電話着信と同時に顧客データを表示させたり、受付担当への自動選択・自動接続もできるようになるだろう。現在でも、例えばピザ屋などは一度住所と電話番号を登録すれば、次回からはこちらの電話番号を言うだけですむ。それが、さらに1ステップなくなるわけだ。累計など各種データも自動収集できるようになるだろう。通信販売、宅配、デリバリー、タクシー、病院、チケット予約などの業界では、すぐにでも応用が可能だろう。NTTが言うところのCTI(Computer Telephony Integration)的な使い方だ。これと、データ多重放送をどう組み合わせていくか。これが、今後のメディア利用の動向を握っている。
利用する個人の目から見ると、どうか。こうなると、電話番号がそのまま個人番号となるわけで、国民総背番号が電話番号に変わっただけじゃないかと思えてきてしまう。実際、最近では携帯電話番号から相手のデータを調べる裏サービスがあるらしい。データが流出しているのだ。初めて電話した相手が自分の情報をデータベース化して持っていたら、これはやっぱり気持ち悪い。
そうは言っても、番号通知サービスの流れは止まらないだろう。このサービスをフルに使える新しい電話機も程なく登場するだろうから、電話機そのものの買い換えも一気に進むかもしれない。
いたずら電話がかかってこない女性というのは、どうもほとんどいないらしい。番号通知サービスの宣伝文句の一つが悪戯電話の減少なのだが、その効果はちょっと疑問だ。公衆電話からの番号は公開されないからである。将来的には公衆電話情報も告知する予定らしいが、それでも効果は薄そうだ、となんとなく思う。実際、事前のモニター調査でも「なくなった」と回答している人は1割に過ぎない。「ナンバー・リクエスト」──番号を開示しない相手からの電話は受け付けない機能──がどのくらい使われるのか、この辺が気になる。
とにかく気になる所の多いこのサービスが、今後どのように使われるのか。注目していきたい。
●「ナンバー・ディスプレイ」
http://www.nttinfo.ntt.co.jp/dlij/SER_J/pstn/CLI_J.html
(森山 和道/TVディレクター/moriyama@moriyama.com/http://www.moriyama.com)