森山和道

サイエンスライター。科学書の書評屋もやってます。

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書評 『建築する動物たち ビーバーの水上邸宅からシロアリの超高層ビルまで』

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「SFマガジン」2009年9月号掲載

建築する動物たち ビーバーの水上邸宅からシロアリの超高層ビルまで
(マイク・ハンセル(Mike Hansell) 著 長野敬・赤松眞紀 訳 青土社 2400円(税別) ISBN : 978-4-7917-6485-3)

建築する動物たち ビーバーの水上邸宅からシロアリの超高層ビルまで

 建築する動物たちには鳥や昆虫など様々な動物の作り出す巣や道具が紹介されている。もっとも印象的だったのは、数百個の砂粒を張り合わせた球形の家の電顕写真だ。フリルのようなひだ飾りのついた開口部が開き、数本のスパイクが突き出している。全体の大きさは約一五〇マイクロメートル。和名でツボカムリと呼ばれる有殻アメーバの殻である。

 アメーバは単細胞生物だ。脳はない。だが、複雑な構造を作り出すことができるのだ。この殻構造が作り出される過程はきちんとは分かっていない。だがこの構造物の存在は「つくり手に脳はいらない」ことを示していると著者は述べている。このほか自然界の様々な例から言えることは、複雑な構築物も、簡単な方法で作り得ることを示しているという。十分に「賢い」材料を使うことで、自然と目標とした構造を作り出すことができるのだ。

 このほか、著者は道具作成は進化においてそれほど有利とは言えないのではないかと本書で論じている。人間は自分を中心に考えてしまうので、道具作成は絶対に有利で、しかも予測そのほかの高度な能力が必須であると想定してしまいがちだ。だが実際には、材料や手順を適切に分割してしまえば、何も考えなくても構造物を作る事はできる。それどころか、クモに自分に適した繭構造を作らせてしまう寄生蜂まで自然界には存在する。

 道具を作るには、道具を作り、使う行動、ならびにその関連遺伝子が進化する必要があるわけだが、それすら利用してしまう動物がいることに、ただただ驚いてしまった。

建築する動物たち ビーバーの水上邸宅からシロアリの超高層ビルまで
マイク・ハンセル
青土社
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Written by 森山和道

3月 1st, 2011 at 12:00 pm

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書評 『時計の時間、心の時間 退屈な時間はナゼ長くなるのか?』

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「SFマガジン」2009年10月号 掲載

時計の時間、心の時間 退屈な時間はナゼ長くなるのか?
(一川誠 著 教育評論社 1400円(税別) ISBN : 978-4-905706-42-7)

時計の時間、心の時間―退屈な時間はナゼ長くなるのか?

 時計の時間、心の時間の裏表紙には四角形の背景の上に4つの丸が描かれている。本を持ってゆるゆると上下左右に動かすと、あら不思議、丸が背景の上を滑って動く。

 何を言っているかわからないだろうが、実際に本書を手に取ってご覧頂きたい。視覚は様々な信号処理が複合されて構成された知覚である。中には速い処理もあれば遅い処理もある。それがたまたまズレて知覚されることがあるわけだ。

 我々の知覚処理には必ず一定の時間が必要だ。視覚の場合は0.1秒程度かかる。時間遅れを感じないのは錯覚である。地球上で身体を持って生きる動物として、そのように進化してきたのだ。本書は時間知覚を中心として、知覚の不思議を探った一冊である。さらさらと読むだけで様々な感覚知覚の不思議、すなわち我々が感じている時間・空間の特性が実際の物理的特性を忠実に反映したものではないことについて実感できる本である。かなり深い話も多いが、人は過去に行った作業に対して実際よりも短く評価する特性があるとか、体温によって体感時間が変化するとか、様々な時間知覚に関する蘊蓄を読むだけでも面白い。この手の本には珍しく参考文献リストもついているところも嬉しい。

 人間が感じる時間は、身体的な拘束、身体性に基づいている。そのため物理的な時間とは異なり、一定には流れない。時計が刻む時間は人間が作り出した道具の一種であり、時計に合わせて生活することで不都合が生じるのであればそれは道具の使い方が悪いのだと本書は述べている。

時計の時間、心の時間―退屈な時間はナゼ長くなるのか?
一川 誠
教育評論社
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Written by 森山和道

2月 23rd, 2011 at 3:02 pm

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書評 『宇宙で暮らす道具学』

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「SFマガジン」2009年11月号 掲載

宇宙で暮らす道具学
(松村秀一/松本信二 監修 宇宙建築研究会 編著 雲母書房 1800円(税別) ISBN : 978-4-87672-277-8)

宇宙で暮らす道具学

 東大の松村秀一教授を中心として二〇〇三年に始められた宇宙建築研究会がまとめた本が宇宙で暮らす道具学だ。

 清水建設やヒルトンホテルがまとめた軌道上の宇宙ホテル構想や、実際の軌道上構造物である国際宇宙ステーションやミールなどの構法の基本的考え方、将来のインフレータブル(展開)構造物、建築物内の閉鎖環境を制御するシステム、将来の月面建築物用建設機械、レゴリスをそのまま、あるいは加熱処理することで利用出来るだろう建設資材、水を利用しない硫黄コンクリート、火星あるいは月面上での居住施設と移動ロボットを組み合わせたシステム、宇宙服などなどが、雑多に紹介されている。

 バラエティに富んだ複数の書き手による本で、一冊の本としてはまとまっているとは正直言い難い。だが本誌(SFマガジン)の読者たちが読まなければ誰が読むのかと言いたいような本なのでこちらで紹介したい。

 この本の背景にある哲学は「はじめに」に書かれている。「道具」とは、人間が環境に働きかけようとしたときに現れる概念だ。地球上とはまったく異なる宇宙環境で使うために地球上では考える必要すらないことを考え抜いた結果、これまでと異なる道具が現れるのは道理である。

 いっぽう、宇宙で使われる道具には地球上で使う道具に比べると経験が積み重ねられていない。そのためまだ道具と人間の関係に深みが欠けており、多くの人が宇宙空間に飛び出していいくためにはこの欠落を埋めて行く必要があるという。生命維持とミッション達成でいっぱいいっぱいになっているのが現状だが、せめてフィクションがその欠落を埋めて行くと面白いかもしれない。

宇宙で暮らす道具学
宇宙で暮らす道具学
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宇宙建築研究会 松村 秀一
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Written by 森山和道

2月 21st, 2011 at 6:37 pm

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書評 『謎解き・人間行動の不思議 感覚・知覚からコミュニケーションまで』

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SFマガジン2009年12月号 掲載

謎解き・人間行動の不思議 感覚・知覚からコミュニケーションまで
(北原義典 講談社ブルーバックス 940円(税別) ISBN : 978-4-06-257654-3)

謎解き・人間行動の不思議 (ブルーバックス)

 人間の行動の原理や法則性を研究し、人間の知覚の特性を調べる人間行動科学のトピックスを一問一答の実験的アプローチで説明した入門書が謎解き・人間行動の不思議だ。有名なルビンの杯、マッハ効果などから始まり、奥行きに関する錯視や、存在しない輪郭が知覚される主観的輪郭、遮蔽によって逆に視覚・聴覚における入力情報のまとまりが知覚されるようになる謎など、様々な錯覚が紹介されている。触覚に関する錯覚、刺激によって時間が短く知覚される時間縮小錯覚なども紹介されており、錯覚好きは、めくっているだけで楽しい本だ。

 後半は、記憶や学習、思考、そして社会行動に関する人間の考え方やふるまい方のクセのようなものが紹介される。人間は絶対量よりも変化に敏感だし、社会関係においてバランスを取るような行動を示す。また論理的には同じ問題であっても、具体的で身近な問題になると解を見出すことができるのに、抽象的な状態だと解が導けなかったりする。これは我々の演繹推論の仕組みが、完全な論理推論ではなく、意味内容にも踏み込んでいる事を示すという。

 人間とはどういう存在なのか、まだまだ分かってない事が多い。そもそも本書では人を「情報処理」装置と見なしているが、その前提そのものももしかすると間違っているのかもしれない。

 なお著者は日立製作所とATRで音声言語処理やヒューマンインターフェースの研究に従事している研究者である。作る側の論理ではなく使う側の論理でモノを設計することが使いやすい製品の提供に繋がる。それはすなわち人間行動の分析と研究から始まる、という。

謎解き・人間行動の不思議 (ブルーバックス)
北原 義典
講談社
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Written by 森山和道

2月 16th, 2011 at 3:46 pm

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書評 『悩ましい翻訳語 科学用語の由来と誤訳』

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「SFマガジン」2010年2月号 掲載

悩ましい翻訳語 科学用語の由来と誤訳
(垂水雄二 八坂書房 1900円(税別) ISBN : 978-4-89694-946-9)

悩ましい翻訳語―科学用語の由来と誤訳

 外国の言葉を日本語にするのは難しい。言葉は状況によて意味を変えるし、おまけに日本語も色々な使われ方をするからである。同じ言葉であっても文脈によって訳しわけなければならない。

 悩ましい翻訳語はドーキンスの『利己的な遺伝子』ほかの科学書を訳出して来た翻訳者による本だ。「ギニア豚」と誤訳されてしまうモルモットや、樫の木とされることが多いオークなどありがちな誤訳例から、公害のような「政治的誤訳」の類まで、様々な翻訳語に関する四九編の蘊蓄エッセイである。

 主に科学書の翻訳に関連するトピックが多いが、小説しか読まない人であっても、楽しみながら勉強になるだろう。適切な言葉を異なる文化圏の中から探さなければならない翻訳者たちの苦労がよく分かる。特に動植物の名前において、ふつうの名詞に形容詞がついているものは要注意だという。大変だ。

 専門書の翻訳で困ることは学術用語集が定められている訳語がある一方で、それが適切だとは思えないケースだという。無理な言い換えをしていることがあり、また特定の学会でしか通じない言葉が使われていることがあるからだという。

 たとえばニューロンの「発火」なども恥ずかしい誤訳に端を発しているのだと著者は嘆く。「恐竜」も誤訳に属するという。ただ、「汎化」は、著者は心理学でしか使われてないと述べているのだが、ネットで検索すればすぐに分かるように実際には他分野でも使われている言葉だ。

 言葉の世界は難しく悩ましい。

悩ましい翻訳語―科学用語の由来と誤訳
垂水 雄二
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Written by 森山和道

2月 1st, 2011 at 12:00 pm

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