森山和道

サイエンスライター。科学書の書評屋もやってます。

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書評『小林・益川理論の証明 陰の主役Bファクトリーの腕力』

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「SFマガジン」2009年3月号 掲載

小林・益川理論の証明
(立花隆(たちばな・たかし) 著 朝日新聞出版 1900円(税別) ISBN : 978-4-02-250523-1)

立花隆 小林・益川理論の証明 陰の主役Bファクトリーの腕力

小林・益川理論の証明は、立花隆が2000年頃に「サイアス」という科学雑誌で連載していた記事をまとめ、前に解説、後ろに座談会記録を付した本である。

 まずは小林誠、益川敏英両氏のノーベル賞受賞報道に対する「程度が低い」という怒りから始まる前書きでは、本の成立経緯と、CP対称性の破れを記述した小林・益川理論の意義が大ざっぱに、だがかなり長めに解説されている。

 第2部は連載記事を再録した部分だが、この連載は「サイアス」休刊に伴って中途半端な形で終わった。しかも最後2回の内容のうちかなりの部分は休刊に対する怒りで占められている。第3部の座談会では高エネ研の理論系・実験系の先生たちが、両氏のノーベル賞受賞が決まったときの喜びやその後の展開、さらなる期待を語っている。

 本としての作りは急ごしらえで、索引すらない。だが、確かにこれだけの紙幅を割いて標準理論や小林・益川理論の意義や歴史的経緯、そしてそれの検証に使われている「現代の極限技術が生んだ最大最高の機械」である加速器・検出器がどれだけ凄いものなのかを一般向けに解説した本は他にない。「サイアス」休刊騒動も既に8年以上前の話であり何とも懐かしい。立花節も楽しめる。

 連載当時、最先端技術と科学が共に手を携えて猛進する様を楽しませてもらっていた読者の一人として残念だった事は、彼が連載はどこかで続けると何度も述べていたにも関わらず、結局、どこでも続かなかったことである。彼くらいのネームバリューがある書き手ならばネットで自前連載する手もあったと思うのだが、実に残念である。

立花隆 小林・益川理論の証明 陰の主役Bファクトリーの腕力
立花 隆
朝日新聞出版
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Written by 森山和道

8月 15th, 2011 at 12:33 pm

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書評『宇宙環境と生命 宇宙生物学への招待』

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「SFマガジン」2009年4月号 掲載

宇宙環境と生命 宇宙生物学への招待
(佐藤温重(さとう・あつしげ) 著 裳華房 1600円(税別) ISBN : 978-4-7853-8786-0)

宇宙環境と生命―宇宙生物学への招待 (ポピュラー・サイエンス 286)

 宇宙飛行中には筋肉中のタンパク質合成が抑制され、アクチンフィラメントが減少する。宇宙飛行の筋肉の萎縮はユビキチン依存性タンパク質分解系による収縮性タンパク質の分解が原因の一つだという。宇宙環境と生命は、広い意味での宇宙環境が生物に与える影響を調べたこれまでの研究結果や、日本の研究者たちの活動などをまとめた本だ。一言で宇宙環境といっても無重量や高エネルギーの宇宙線はもちろん、宇宙船内はエチレンガスの濃度が高めである、といった話も含まれる。本書はハンドブックサイズながら、それらもろもろが圧縮されて収録されている。

 記述は良くも悪くもマニアックで網羅的だ。たとえば宇宙に滞在した飛行士の免疫系が低下する話は多くの読者が知っているだろうが、それが具体的にどのような細胞内情報伝達系を傷害していると考えられているかとか、細胞骨格にどんな影響が出るかといったことまでは、ほとんどの読者は知らないだろう。本書ではそういった事柄も紙幅の限界はあるものの、細かい情報まで記載されていて面白い。もっと大きな内容構成でもそれは同じで、地上でできる宇宙模擬実験や、この領域の研究を行うときに研究者が考えなければならないことまで触れられている。

 宇宙環境は産業利用も検討されているが、まだ本当に有用性があるかどうかは認められておらず、良くメディアで目にするタンパク質の結晶実験も具体的な構造解析や医薬品開発に寄与する結果は得られてないのが現状だという。本書中にはところどころ日本の宇宙開発に関する意見めいたものが行間に読めて、それもまた気になった。

宇宙環境と生命―宇宙生物学への招待 (ポピュラー・サイエンス 286)
佐藤 温重
裳華房
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Written by 森山和道

7月 8th, 2011 at 11:57 am

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書評『もしかしたら、遺伝子のせい!? 魚臭くなる病ほか遺伝子にまつわる話』

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SFマガジン 2009年6月号 掲載

もしかしたら、遺伝子のせい!? 魚臭くなる病ほか遺伝子にまつわる話
(リサ・シークリスト・チウ(Lisa Seachrist Chiu) 著 越智典子 訳 白揚社 2800円(税別) ISBN : 978-4-8269-0153-6 原題:When A Gene Makes You Smell Like A Fish… and Other Tales about the Genes in Your Body, 2006)

もしかしたら、遺伝子のせい!?―魚臭くなる病ほか遺伝子にまつわる話

 タンパク質が多く含まれる食品を消化する際の副産物トリメチルアミンを分解するための肝酵素が作れなくなる、トリメチルアミン尿症、またの名を「魚臭症候群」という遺伝子異常があるそうだ。
もしかしたら、遺伝子のせい!?は、遺伝子が環境との相互作用の中で、私たちの身体に与える影響を様々なトピックスで紹介する本である。

 人間の遺伝子は99.9%同じだ。だが残りの0.1%のわずかな違いが人それぞれの個性を生み出すもととなる。そしてその差異が、個人の人生においては大きな意味を持つ。「魚臭症候群」の場合は、一対のFMO3遺伝子のうち、両方に欠陥がある場合のみ発症する。原因は一つだ。しかしながら対応法は様々で、酵素を入れればいいといったような簡単な方法ではすまないようだ。人体、遺伝子の仕組みは単純ではない。

 本書は、後天的なエピジェネティックな遺伝子の修飾や日本人の起源の問題まで、様々な話題を収録している。なかでも特に面白かったのは、獲得免疫系の起源が4億5000万年前のウイルス感染にあるという話と、哺乳類の胎盤を作る仕組みに、やはりゲノムに組み込まれたレトロウイルスが深く関わっているという話だ。本書を読む限りでは、この説はかなり確からしいものに思える。獲得免疫系に胎盤となると、どちらも進化の過程において大きな役割を果たしたことは確実だ。一つの個体の発達過程でもじゅうぶんすぎるほど複雑なのだが、遺伝子レベルで見ると、生物は想像以上にダイナミックに、考えだすと頭がくらくらするほど大きなレベルで相互作用しているらしい。

もしかしたら、遺伝子のせい!?―魚臭くなる病ほか遺伝子にまつわる話
リサ・シークリスト チウ
白揚社
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Written by 森山和道

6月 23rd, 2011 at 2:53 pm

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書評『環境を<感じる> 生物センサーの進化』

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「SFマガジン」2009年7月号 掲載

環境を<感じる> 生物センサーの進化
(郷康広(ごう・やすひろ)・颯田葉子(さった・ようこ) 著 岩波書店(岩波科学ライブラリー) 1200円(税別) ISBN : 978-4-00-007498-8)

環境を“感じる”―生物センサーの進化 (岩波 科学ライブラリー)

 ニワトリは匂いセンサーが少なく、イルカは嗅覚や味覚をほとんど使ってない。環境を<感じる> 生物センサーの進化は味や匂いの受容体など、感覚の進化に関する本だ。生物は遺伝子を重複させることで、新たな遺伝子を獲得し、新たな感覚を得てきた。もともとの受容体の種類が異なるため、感覚の知覚は生物それぞれで全く異なったものだと考えられる。

 人では、嗅覚や苦みに関連する遺伝子が壊れている。機能を失う偽遺伝子化の速度もヒトでは他の霊長類と比べて数倍速くなっているという。なぜだろうか。

 著者らはこの理由について、ヒトの脳が急速に大容量化したことが関連しているのではないかと推測しているそうだ。つまり脳が、それまで味覚や嗅覚が担って来た役割の一部を代替したのではないか、というのだ。「苦味」の役割は毒物の検知にあると考えられている。だがヒトは大脳を大きくし、互いの経験をコミュニケーションで共有化することで、実際に口になにかを入れる前に、毒物を避けることができるようになった。その結果、急速に苦味や嗅覚が失われていったのかもしれない、という。

 このように感覚の進化・退化は、感覚関連遺伝子だけを見ているのでは解けない不思議をいろいろと秘めている。後半は温度を感じるための遺伝子の話が紹介されている。

 最近、大人には聞こえないモスキート音で若者よけをするというニュースが話題になった。大人が高音が聞こえない理由は知覚するための有毛細胞が老化で死ぬからだが、この有毛細胞を再生する方法も昨年発見されたそうだ。用途は難聴治療だが、将来は若者避けも無効になるのかも。

環境を“感じる”―生物センサーの進化 (岩波 科学ライブラリー)
郷 康広 颯田 葉子
岩波書店
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Written by 森山和道

5月 24th, 2011 at 5:52 pm

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書評 『太陽は23歳!? 皆既日食と太陽の科学』

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「SFマガジン」2009年8月号 掲載

太陽は23歳!? 皆既日食と太陽の科学
(日江井榮二郎(ひえい・えいじろう) 著 岩波書店(岩波科学ライブラリー) 1500円(税別) ISBN : 978-4-00-007500-8)

太陽は23歳!? 皆既日食と太陽の科学 (岩波科学ライブラリー〈カラー版〉)

 七月二二日の日食はどうだったろうか。皆既日食を体験できた方もいると思う。太陽は23歳!?は、日食を何度も観測した太陽物理学者が、地上からの観測や、日本の「ようこう」や「ひので」などの太陽観測衛星を使うことで母なる太陽について分かって来たことを、分かりやすく解説した本だ。

 タイトルは、太陽が誕生しておおよそ四六億年、その間に銀河中心を二三回巡ったと考えられることと、ダイナミックに活動する「青年」としての太陽の姿を表現している。

 日食が起きる理由から始まり、太陽が放射する莫大なエネルギー、太陽の構造、黒点や表面の粒状班に見られる太陽が持つ様々なリズムとそのメカニズムの考察、磁場、磁場によるコロナ加熱の原理や爆発現象であるフレア、輝くプロミネンス、大量のガスが放出されるCMEなどが一通り、コンパクトに整理されて解説されている。ともかくちっぽけな人間にとっては圧倒的にダイナミックで大規模に感じられる桁外れな太陽活動の話にぐいぐいと惹き付けられて一気に読めてしまう本である。

 ただ、読み終わったあとで一番印象に残ったのは、著者自身あるいは学生たちによる初めての皆既日食体験の話題だった。私自身、皆既日食は体験したことがない。だが話に聞くところによれば部分日蝕と皆既日食は全くの別物だという。本書でもその体験は、とにかく自分で経験してみなければ分からないと記されている。知識ではない、感覚の問題だからだ。やはり一度自分の眼、自分の体で皆既日食を体験してみたいと改めて思わされる一冊だった。

太陽は23歳!? 皆既日食と太陽の科学 (岩波科学ライブラリー〈カラー版〉)
日江井 榮二郎
岩波書店
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Written by 森山和道

3月 9th, 2011 at 5:16 pm

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