Archive for the ‘科学書’ tag
科学書総括2009(2008.11〜2009.10)
早川書房「SFマガジン」別冊「SFが読みたい」掲載
売り上げランキング: 127900
- 『予想どおりに不合理 行動経済学が明かす「あなたがそれを選ぶわけ」』(ダン・アリエリー/早川書房)
- 『人は意外に合理的 新しい経済学で日常生活を読み解く』(ティム・ハーフォード/ランダムハウス講談社)
- 『地球温暖化の予測は「正しい」か? 不確かな未来に科学が挑む』(江守正多/化学同人)
- 『生き物たちは3/4が好き 多様な生物界を支配する単純な法則』(ジョン・ホイットフィールド/化学同人)
- 『ハチはなぜ大量死したのか』(ローワン・ジェイコブセン/文藝春秋)
- 『ミラーニューロン』(ジャコモ・リゾラッティ、コラド・シニガリア/紀伊國屋書店)
- 『46年目の光 視力を取り戻した男の奇跡の人生』(ロバート・カーソン/NTT出版)
- 『時計の時間、心の時間 退屈な時間はナゼ長くなるのか?』(一川誠/教育評論社)
- 『認知哲学 心と脳のエピステモロジー』(山口裕之/新曜社)
- 『脳科学の真実 脳研究者は何を考えているか』(坂井克之/河出書房新社)
二〇〇九年は、ブームである環境やエコ関連本、脳科学本、ノーベル賞本のほか、そして人間の行動原理を探る行動経済学やそれと関連したニューロマーケティング関連本が目立った一年だった。いっぽう脳科学関連に関しては、行き過ぎた一般化や過剰な宣伝的表現を批判する研究者達からの出版が続いた。これまでは笑ってみたいたが、我慢ならなくなったということだろう。
売り上げ的には出版不況と言われる中、ある程度売れた本もあったが、ここでは特に取り上げない。いっぽう身近になったかどうかは別だが民間宇宙船を使った宇宙観光旅行関連の出版物も複数刊行されたことは、本誌には記載しておきたい。「過去」に抱いた「未来」の夢は、「現在」において、どこまで現実化するのだろうか。
さて、それぞれの本についてざっと紹介する。人間の行動原理を、行動経済学や実験心理学、脳科学から探る本については対称的なタイトルの『予想どおりに不合理』と『人は意外に合理的』をあげておく。
早川書房
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武田ランダムハウスジャパン
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同時期に刊行されたこの二冊は書店でも並べて販売されていることが多かった。内容的にはどっちもどっちで、合理的な面に目をやるかそれとも別の面に目をやるか次第で、結論が大きく変わってくることが良く分かる。両方読むのがベターだ。
地球温暖化あるいは気候変動問題については『地球温暖化の予測は「正しい」か?』をあげておく。気象シミュレーションの立場から、予測とはどういうものなのかが分かりやすく丁寧に語られている。取りあえずこの本を読んでおかないと議論にも立てない。
化学同人
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『生き物たちは3/4が好き』は、複雑で例外も多い生物の世界に、規則性を見つけようとする人々の物語だ。たとえば動物の毛細血管の数は体の大きさに比例するのではなく、より大きな動物の血管数はより小さな動物よりも相対的に少なく、体重の3/4乗に比例しているという。そして動物の代謝量は毛細血管の数に比例する。よって、動物の代謝率は体重の3/4に比例する。体表面積や筋肉の量ではなく、毛細血管の数とその表面積が動物の体の大きさと代謝率の関係を決めるのだ。この説の真偽はまだはっきりしていないそうだが、示唆に富んだ内容は面白かった。
化学同人
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突然いなくなってしまったハチの原因を探る『ハチはなぜ大量死したのか』も同様に、まだはっきりしない原因について考察した本だ。この本によれば、人間の経済活動に組み込まれたミツバチがいなくなってしまった理由は、大規模農業によってあまりにも単調化してしまった畑のせいだということになる。
何が起きたのかはまだはっきりしない、だが何かが起きている。いま何かしなければ手遅れになる—-。そんな感情が行間に噴き出している。
『ミラーニューロン』は、自分の行動と他人の行動、双方に反応するミラーニューロンを発見した研究者本人による本だ。残念ながら発見当時の物語は、この本には全然登場しない(他者が書いた本にはよく出てくる)。だが、慎重な筆致ながら、興奮する成果を今も出しつつあることが分かる良書である。ただし読了するにはそれなりの読書力が必要だ。
紀伊國屋書店
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『46年目の光』は三歳に失明したが幹細胞移植によって四六歳で視力を取り戻した男性、実業家マイク・メイ氏の話だ。彼は視力を取り戻したが人の顔などの判別は困難で、あたかも外国語を話すときのように頭のなかで考えて、意識的に、視覚で得た情報を処理する必要があったという。だがもともとアクティブな人物だったメイ氏はそんなことにはめげない。、自分自身がこれまで身につけていた感覚を再び呼び覚まして、それらをサポートする新しい感覚として視覚を使うように訓練していく。このへんがヒューマンドキュメントとして面白い。また、将来の技術によって我々に五感以上の感覚が得られるようになる可能性もあると思うが、そのときには皆がメイ氏のようなトレーニングを重ねる必要があるのかもしれない。
エヌティティ出版
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『時計の時間、心の時間』は、心が知覚している時間の感覚とは実は錯視の集合体のようなものに過ぎないことを教えてくれる一冊である。私たちは、たとえば時計が刻むような機械的な時間というものに馴れてしまっているが、それは人間が作り出したものである。確かに物理的な時間次元は存在するものの、それをどのように知覚するかはまた別の話である。この本や他の本を読むと、おそらく動物は、自分自身の入力と出力、つまり自分自身の身体感覚のみを基準とした独自の時空間の座標系を作っており、それをベースに時空間の知覚を行っているらしいことが分かる。
教育評論社
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おそらくこの問題は今後ますます重要になると思う。脳の働きは情報処理ではないかもしれないと説く『認知哲学』と合わせてお読み頂きたい。様々な思い込みから自らを一度解き放って考え直そうという試みが、若い世代の研究者たちから生まれ始めている。実に面白い。
新曜社
売り上げランキング: 353788
行き過ぎた通俗脳科学や脳ブーム批判の中からは、『脳科学の真実』をピックアップする。脳科学風の言葉を使って従来のハウツーに有り難みを持たせる流れを批判するだけではなく、「脳ブーム」に意識的か無自覚かを問わずに乗っかている脳研究業界だけでなく、「研究」という営みの本質的な部分にも批判的視線を向けている。研究者たち自身があまり自覚的でない部分にも向けられた批判的考察は鋭い。著者は「脳科学風造語」と脳研究で使われる造語の区別は実はそれほど簡単ではないし、両者の距離はそう遠くないと指摘している。多くの人に読んでもらいたい好著である。
河出書房新社
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