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書評エッセイ『かわらの小石の図鑑 日本列島の生い立ちを考える』
ぎょうせい「悠」 2002年 掲載
『かわらの小石の図鑑 日本列島の生い立ちを考える』
(千葉とき子・斎藤靖二 著/東海大学出版会)
地質学の基本は地質調査である。
かわらに転がっている普通の小石を、豊富な図版で解説する『かわらの小石の図鑑』を手に取ったとき、大学での卒業論文時のフィールドワークのときの出来事を思い出した。
私の卒論のフィールドは岡山県の山の中で、カキや二枚貝の貝殻のかけらが集まってできた石灰岩の分布状況を調べること、そして地質図を作ることが、取りあえずの課題だった。
まず、自分のフィールドにどんな種類の岩石が分布するのかを把握しなければならない。
指導教官と一緒に山を歩きはじめて一日目が終わろうとしたころ。教官はスッとかがんで、1センチほどのごく小さな小石を何個か拾って私に突きだした。
「これがこのフィールドに分布する岩石だから、まずこれを肉眼で区別できるようにしなさい」
私はその瞬間まで、自分の周囲にフィールドにある石がほとんど全て転がっていることに気がつかなかった。実際にはその場所は、ちょうど石が溜まる場所であったのだ。そういったことが、まる一日、同じようにフィールドを歩き、ノートをつけていたものの、私にはまるで見えていなかったのである。
地質図は見るべき目を持っていなければ二次元に広がった岩石分布図にしか見えない。だが実際には地下を含めた三次元構造はもちろん、時間的変動の過程をも織り込んだ4次元的な図なのだ。
現在の地形には地質学的な変動の歴史と、そこからの連続性がある。地質学を学ぶと、現在の地形から数千万年の歴史を推測できるようになる。
なぜその山はそこにあり、谷がそこにあるのかといったことを、あたかもタイムマシンに乗ったかのように、現在の地形を変形させて見ることができるのだ。
そこに、ある石が「ある」というただその事実でさえも大きな意味を持つ。かわらの石は、上流から転がり流れてやってくる。では上流の石はどうしてそこにあるのだろうか。その石の由来はどこにあるのだろう。そうやって思考を繋げていくことで、ただの「かわらの石ころ」から、日本の地史、ひいては地球の歴史を読みとることさえ可能なのだ。
あいにく、私が地質学の持つ本当のパワーを理解したのは、卒業論文も終わりに近づいた頃であった。もうすこし早く「かわらの小石」から色んな情報を読みとるだけの感性と知識、そして何より、奥深い想像力と眼があれば、選ぶ道は違ったかもしれないなあと思うのである。
東海大学出版会
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書評『脳科学の真実』『新しい霊長類学』『雑食動物のジレンマ』『認知哲学』
日経サイエンス2010年1月号 書評欄 「森山和道の読書日記」掲載
脳画像を使って心の働きを探る研究者が「脳科学ブーム」を検証した本が『脳科学の真実』だ。脳科学風の言葉を使って従来のハウツーに有り難みを持たせるマスコミ的脳科学を批判する、ただそれだけの本ではない。著者の批判的視線は、受け手側の一般人や「脳ブーム」に乗っかる脳研究業界だけでなく、研究という営みの本質的な部分にも向けられている。ここが面白い。
研究費を取り巻く問題や研究発表のあり方など、本書で取り上げられている問題点のなかには、当事者である研究者たち自身は実際にはあまり自覚的でない部分も少なくない。著者は「脳科学風造語」と脳研究で使われる造語の区別は実はそれほど簡単ではないし、両者の距離はそう遠くないと指摘する。色々と考えさせられるし、著者の筆致も好感が持てる。多くの人に読んでもらいたい一冊である。
河出書房新社
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人間と人間以外の動物の知性の一番の違いは「想像する」能力だ、と『新しい霊長類学』で松沢哲郎氏は述べている。900個体以上のサルやチンパンジーを飼育、研究している京都大学霊長類研究所の研究者たちが100の質問に答えた本である。進化・形態、生活と社会、人sとのかかわり、認知・思考能力、生理と病気、遺伝とゲノムと広い話題が扱われている。どこからでも読めるので一晩にいくつかずつ読んでいくといいかもしれない。問いも色々だが答えの深さも多様だ。それは分かっていることのレベルが違うからだが、答えの書き方から執筆者(回答者)それぞれの個性も垣間見えて、それもまた面白い。
講談社
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キノコの選び方は分からないそうだが、サルは基本的に自分の味覚に従って食物を選んで食べているという。では人間はどうか。雑食性で何でも食べる、そう自らを位置づけているものの、驚くなかれ、今の人間はトウモロコシばかり食べているのだと『雑食動物のジレンマ』は指摘する。食や農業をテーマにしているジャーナリストが現代社会における食物連鎖を辿り直して、食、そして人と自然環境の関わりを考えた本だ。著者は自ら銃を持ち、狩猟やキノコ狩りをする。農場で働き仕組みを目の当たりにする。そして家畜飼料だけでなく、驚くほど多くの加工食品原料となっているトウモロコシ畑の姿を探り、それが原材料の多くを占めるハンバーガーを車の中で食べる。人間は今や究極の「工業食動物」なのだ。ちなみに米国では食事の19%が車中で食べられているという。
もったいぶった書き方は少々気になるし、考え方の違いに乗り切れないところもある。だが食の問題はやはり目を背けてはいけないと思う。ただ問題に目を向けたからといって、すぐに現実の生活を変えられるわけもない。多くの人がそのジレンマに直面し食卓でしばし何かしら考えること、それがおそらく著者の意図なのだろう。
東洋経済新報社
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東洋経済新報社
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考える。でもそれはどんな現象なのだろうか。『認知哲学』は、心と脳の問題について「科学の哲学」の視点から考察した本だ。こういうと、ああまたいつもの本かとこの本も思われるかもしれないが、この本もまた、ありがちな本とはちょっと違う。「意識とはどんな働きなのか」という問題について、基本概念がどのように構成されているのかということから考察を深めている。脳がしていることは情報処理だと考えている人は少なくないと思うが、その見方自体が思い込みだという。後は本書をお読み頂きたい。読後、必ず発見があると思う。
新曜社
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(もりやま・かずみち:サイエンス・ライター)
書評『小林・益川理論の証明 陰の主役Bファクトリーの腕力』
「SFマガジン」2009年3月号 掲載
『小林・益川理論の証明』
(立花隆(たちばな・たかし) 著 朝日新聞出版 1900円(税別) ISBN : 978-4-02-250523-1)
『小林・益川理論の証明』は、立花隆が2000年頃に「サイアス」という科学雑誌で連載していた記事をまとめ、前に解説、後ろに座談会記録を付した本である。
まずは小林誠、益川敏英両氏のノーベル賞受賞報道に対する「程度が低い」という怒りから始まる前書きでは、本の成立経緯と、CP対称性の破れを記述した小林・益川理論の意義が大ざっぱに、だがかなり長めに解説されている。
第2部は連載記事を再録した部分だが、この連載は「サイアス」休刊に伴って中途半端な形で終わった。しかも最後2回の内容のうちかなりの部分は休刊に対する怒りで占められている。第3部の座談会では高エネ研の理論系・実験系の先生たちが、両氏のノーベル賞受賞が決まったときの喜びやその後の展開、さらなる期待を語っている。
本としての作りは急ごしらえで、索引すらない。だが、確かにこれだけの紙幅を割いて標準理論や小林・益川理論の意義や歴史的経緯、そしてそれの検証に使われている「現代の極限技術が生んだ最大最高の機械」である加速器・検出器がどれだけ凄いものなのかを一般向けに解説した本は他にない。「サイアス」休刊騒動も既に8年以上前の話であり何とも懐かしい。立花節も楽しめる。
連載当時、最先端技術と科学が共に手を携えて猛進する様を楽しませてもらっていた読者の一人として残念だった事は、彼が連載はどこかで続けると何度も述べていたにも関わらず、結局、どこでも続かなかったことである。彼くらいのネームバリューがある書き手ならばネットで自前連載する手もあったと思うのだが、実に残念である。
朝日新聞出版
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書評『宇宙環境と生命 宇宙生物学への招待』
「SFマガジン」2009年4月号 掲載
『宇宙環境と生命 宇宙生物学への招待』
(佐藤温重(さとう・あつしげ) 著 裳華房 1600円(税別) ISBN : 978-4-7853-8786-0)
宇宙飛行中には筋肉中のタンパク質合成が抑制され、アクチンフィラメントが減少する。宇宙飛行の筋肉の萎縮はユビキチン依存性タンパク質分解系による収縮性タンパク質の分解が原因の一つだという。『宇宙環境と生命』は、広い意味での宇宙環境が生物に与える影響を調べたこれまでの研究結果や、日本の研究者たちの活動などをまとめた本だ。一言で宇宙環境といっても無重量や高エネルギーの宇宙線はもちろん、宇宙船内はエチレンガスの濃度が高めである、といった話も含まれる。本書はハンドブックサイズながら、それらもろもろが圧縮されて収録されている。
記述は良くも悪くもマニアックで網羅的だ。たとえば宇宙に滞在した飛行士の免疫系が低下する話は多くの読者が知っているだろうが、それが具体的にどのような細胞内情報伝達系を傷害していると考えられているかとか、細胞骨格にどんな影響が出るかといったことまでは、ほとんどの読者は知らないだろう。本書ではそういった事柄も紙幅の限界はあるものの、細かい情報まで記載されていて面白い。もっと大きな内容構成でもそれは同じで、地上でできる宇宙模擬実験や、この領域の研究を行うときに研究者が考えなければならないことまで触れられている。
宇宙環境は産業利用も検討されているが、まだ本当に有用性があるかどうかは認められておらず、良くメディアで目にするタンパク質の結晶実験も具体的な構造解析や医薬品開発に寄与する結果は得られてないのが現状だという。本書中にはところどころ日本の宇宙開発に関する意見めいたものが行間に読めて、それもまた気になった。
裳華房
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書評『たまたま 日常に潜む「偶然」を科学する』
「週刊現代」2009年掲載
『たまたま 日常に潜む「偶然」を科学する』
(レナード・ムロディナウ著 田中三彦 訳 ダイヤモンド社 定価2000円+税 ISBN 978-4-478-00452-4)
人生や世の中なんて行き当たりばったり、「たまたま」だ。でも、才能や努力の影響も結構あるし、偶然と才能が半々かな、と考えている人が大半だろう。
だが『たまたま』の著者、理論物理学者ムロディナウは、そうではないと断言する。監督がどんなに優れていても映画の不発が続くこともあるし、専門家が市場で勝てないこともある。彼らが自分の能力をちゃんと発揮しても、失敗に終わることがあるのだ。
つまり、世の中は本質的に不確かなものだというのが本書の趣旨である。常に「たまたま」が本質的なのだという。
人間は物事に因果関係や必然性を見いだす。その結果、出来事の解釈や期待にバイアスがかかる。成功者を見れば才能があると思い、売れている人間は能力が高いと思う。そして偶然の役割を見落とす。だがたいていの場合、出来事の因果関係は起こったあとでなければ理解できないものだ。成功者たちももう一度同じ条件で同じ事をやったからといって、また成功するとは限らない。
この本では直感と反することが少なくない確率の考え方の基本から始まり、サンプル調査を支える考え方、潜在的な確率を推測する技術、測定というものが持つ本質的な不確かさなどなどを、ギャンブルの理論化や宝くじで利益をあげた男たちといったユニークなエピソードを織り交ぜて説いていく。通読すれば、測定誤差というものが本質的に切り捨てられないものであることが良く分かるだろう。ここは理系と文系の考え方の大きな違いでもある。歯ごたえのある本だが挑戦する価値は十分ある。
なぜか。自分の直感や認識にバイアスがあることだけではなく、偶然が持つ本質的な影響力を知ることができるからだ。そして世の中への見方を変えることができるからだ。必然だと思っていたことも偶然という目で捉え直すことで新たな顔を見せ始めるだろう。
努力しても報われるとは限らないと知ると暗澹たる気分になるかもしれない。だが、チャンスに向き合う回数だけは自分自身で選ぶことができる。コイン投げして何度も裏が出たとしても、投げ続ければいつかは表が出る。打席に立たなければヒットは絶対に打てない。失敗にめげなければ、いつかは成功出来るのだ。もちろん、それなりの準備は必要だが……。
ダイヤモンド社
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書評『100年予測 世界最強のインテリジェンス企業が示す未来覇権地図』
週刊SPA! 2009年掲載
『100年予測 世界最強のインテリジェンス企業が示す未来覇権地図』
(ジョージ・フリードマン著 櫻井祐子 訳 早川書房)
21世紀半ば、日本はトルコと同盟を組み、アメリカと戦争することになる。主戦場は宇宙空間である。全海洋の覇権を握るアメリカは21世紀も世界最強の大国であり続ける。中国やロシアは2020年代に崩壊、分裂する−−。
『100年予測』は地政学の観点から21世紀の100年間の動向を予測した本である。
対テロ戦争、景気低迷など昨今の状況から考えるとにわかには信じがたいが、今世紀こそがアメリカの時代となるのだという。そして、日本は太平洋に面した諸国に経済的に乗り出さざるを得なくなり、その結果、アメリカと利害の不一致が発生し始め、やがて煙たがられる存在となるのだと予測している。
さらに宇宙はロボット技術を使った衛星兵器や発電衛星が活躍する非常に重要な場所となるという。まるでSFの世界だが、未来を予測するためには常識を疑わなければならないと著者はいう。
著者の予測の根源には、地理的条件の持つ力は、長期的には圧倒的だという考え方がある。アメリカが強い国となったのも、アメリカが素晴らしい国だからではない。大西洋と太平洋に面する北米大陸にあったからだ。そして今後も他の勢力を混乱させることでアメリカに挑戦するだけの力をつけさせないように動くという。
著者の予測が正しいかどうかは分からない。だが非常にエキサイティングな世界の見方を提供してくれることは確かだ。
早川書房
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書評『パソコンは日本語をどう変えたか 日本語処理の技術史』
CQ出版「Interface」2008年12月号
書評コラム「こんな本を読んで、こんなことを考えました」第12回 掲載
『パソコンは日本語をどう変えたか 日本語処理の技術史』
(YOMIURI PC編集部 講談社(ブルーバックス) ISBN 978-4-06-257610-9 900円(+税))
ライターという仕事がら、メモ帳が手放せません。座れる場所ではノートPCを使っていますが、荷物を肩から提げて立っている状態ではどうしようもないので、鉛筆とメモ帳を使っています。先日、amadanaのカード型電卓をさわってみたら非常に打ちやすいキータッチに感動しました。このキータッチで電子辞書程度の大きさの小型ワープロが欲しいです。通信機能なんていらない、ディスプレイもモノクロだけ、3行程度表示できればいい。ビジネスメモに特化したデバイスです。ICレコーダくらいのニーズはあるのではないかと思うのですが、どうでしょう。
YOMIURI PC編集部がまとめた『パソコンは日本語をどう変えたか 日本語処理の技術史』をめくっていると、ますますそんな気持ちが強くなりました。昔を知っている人は懐かしく、知らない人は「へー、そんなこともあったのかあ」と驚きを持って読める本です。
新聞をコンピュータで作ろう、そのためには日本語をコンピュータで本格的に扱う必要がある。そんな発想が出てきたのは1967年、日経と、経理処理用コンピュータを入れていた日本IBMの間で出てきたそうです。
1972年にできあがったシステム「ANNECS」は最初は1ページを組むのに数時間もかかっていたとか。その後、ハードウェアの処理速度が上がるに従って徐々に置き換えられていき、さらに事務処理などにも導入されていく過程で日本語処理のニーズが高まっていきます。
まだ日本語入力方式すら決まっていなかった時代の話も面白いですが、当時の技術者の一人には「すでにコンピュータの仕事を一通りやりつくした」という気持ちがあったという話も、別の意味で興味深く感じます。だから当時は難関であった漢字処理に挑んだ、とのこと。いまから見ると笑ってしまうような話ですが、「もうやり尽くした」と思うのは、いつの時代も同じなのかもしれません。
もちろんこの本で紹介されているのはメインフレームの話だけではありません。漢字ROMの時代の話や、「一太郎」をはじめとするワープロソフトの話、そしてワープロ専用機全盛からパソコンの時代への変化も出てきます。東芝が机のようなワープロ1号機「JW-10」を発表したのが1978年。今年で30年です。
本の後半はケータイ文字入力やフォントの話になります。そのあたりもまた興味深いですが、ただ、前半に比べると時代が「いま」に近すぎて、ちょっと興味が削がれるところもあります。肝心のコンピュータが日本語を変えたかはどうかについては、ややぼかして書かれていて、面白くありません。まあ、一言でいえない問題ではあると思うのですが……。
さて、冒頭で述べたメモ帳用途の小型ワープロ希望の話ですが、人に話したら「だったらケータイを使えば」と言われました。確かにケータイの反応も速くなっていますし、若い人たちならば脊髄反射で入力できるのかもしれません。ですが私が欲しいのは一言メモを書くようなものではなく、そのまま記事原稿に使えるようにコメントをメモすることができる、ビジネス用途、プロの道具としてのメモ帳なのです。
いまでも毎年シーズンになるとメモ帳売り場が賑わいます。デスクでPC、スケジュール確認にはケータイを使う人たちも、いまだに紙のメモ帳と鉛筆は手放せない。あれをそっくり代替することができれば、まだまだ大きな市場があると思うのですが、どなたか作ってくれませんかね。
書評『もしかしたら、遺伝子のせい!? 魚臭くなる病ほか遺伝子にまつわる話』
SFマガジン 2009年6月号 掲載
『もしかしたら、遺伝子のせい!? 魚臭くなる病ほか遺伝子にまつわる話』
(リサ・シークリスト・チウ(Lisa Seachrist Chiu) 著 越智典子 訳 白揚社 2800円(税別) ISBN : 978-4-8269-0153-6 原題:When A Gene Makes You Smell Like A Fish… and Other Tales about the Genes in Your Body, 2006)
タンパク質が多く含まれる食品を消化する際の副産物トリメチルアミンを分解するための肝酵素が作れなくなる、トリメチルアミン尿症、またの名を「魚臭症候群」という遺伝子異常があるそうだ。
『もしかしたら、遺伝子のせい!?』は、遺伝子が環境との相互作用の中で、私たちの身体に与える影響を様々なトピックスで紹介する本である。
人間の遺伝子は99.9%同じだ。だが残りの0.1%のわずかな違いが人それぞれの個性を生み出すもととなる。そしてその差異が、個人の人生においては大きな意味を持つ。「魚臭症候群」の場合は、一対のFMO3遺伝子のうち、両方に欠陥がある場合のみ発症する。原因は一つだ。しかしながら対応法は様々で、酵素を入れればいいといったような簡単な方法ではすまないようだ。人体、遺伝子の仕組みは単純ではない。
本書は、後天的なエピジェネティックな遺伝子の修飾や日本人の起源の問題まで、様々な話題を収録している。なかでも特に面白かったのは、獲得免疫系の起源が4億5000万年前のウイルス感染にあるという話と、哺乳類の胎盤を作る仕組みに、やはりゲノムに組み込まれたレトロウイルスが深く関わっているという話だ。本書を読む限りでは、この説はかなり確からしいものに思える。獲得免疫系に胎盤となると、どちらも進化の過程において大きな役割を果たしたことは確実だ。一つの個体の発達過程でもじゅうぶんすぎるほど複雑なのだが、遺伝子レベルで見ると、生物は想像以上にダイナミックに、考えだすと頭がくらくらするほど大きなレベルで相互作用しているらしい。
白揚社
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書評『会社のデスノート』
週刊SPA! 2009年掲載
『会社のデスノート トヨタ、JAL、ヨーカ堂が、なぜ?』
(鈴木貴博 著 朝日新聞出版)

大会社ならば、それほど間違った判断は下さないだろう。そんな思い込みが我々にはある。だがコンサルタントの著者は、大きな判断を間違ってしまう会社が増えて来たという。
では会社、日本社会全体を殺さないためにはどんな判断を下すべきなのか。この本では「所得弾力性」というキーワードを使って、商品やサービスの需要の行く末を考察する。
所得弾力性とは、所得が増えたり減ったりしたときに、その商品を買うカネがどのくらい増減するかという数字だ。この概念を使えば、トヨタが大幅減益になることも、そして驚くべきことに今後の判断を間違えなければ驚異のV字回復を果たすことも予想できるという。さらに今後は安売りではなく、小売りの世界でコンビニ業界が成功したように値付けを上げてものを販売することが重要だと述べる。
著者は日本が今後経済成長するのは資本投下が必要な「重サービス産業」の伸び次第だと語る。「重サービス産業」とは労働集約的なサービス業に対して、インフラ投資が必要な宅配便や遠隔警備、電子マネーサービス等を指す。労働集約的な仕事をシステムやネットワークに置き換えることで安価なサービス提供を可能にする。優良サービスを活用出来る社会を目指すことで、日本は新たな発展サイクルに進んでいけるという。
具体的な話も多く、取っ付きやすい本である。しかも著者の指し示す方向が明快だし、元気になれる。読んで損はない。
朝日新聞出版
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書評『Twitterの衝撃 140文字がビジネスからメディアまで変える』
扶桑社週刊「SPA! 」2009年掲載
『Twitterの衝撃 140文字がビジネスからメディアまで変える』
(日経BP社出版局 編 日経BP社)
140文字のマイクロブログ・サービス「Twitter」がブレイクしつつある。今や新聞テレビ各社はいうまでもなく、居酒屋やちょっとしたイベントに至るまで、みんながTwitterのアカウントを取って140文字のつぶやきをネット上に発している。
本書は10人のジャーナリストや評論家、研究員たちからなるネット識者たちがTwitterの魅力を各方面から紹介した本だ。気軽にパッと書けること、同時多発的にネット中から多くの声が上がる様子が目に見えて分かることがTwitterの特徴だ。新しいジャーナリズムの手段やマーケティングツール、サポートツール、仕事ツールなど、様々な可能性が期待されている。取りあえずTwitterについてどんな論点があるのか知りたい人ならば、本書をまず読んでみることをおすすめする。
ネットサービスは自分で体験してみなければ分からないことも多いが、自分の視野からは見えない視点も本書で得ることができる。
Twitterは面白さが分かりにくい。一回に書ける分量が140文字ということ以外は制限がなく、最初は何をすればいいのかも分からない。だが大勢の人のつぶやきを追うようになるに従って、漠然とネット上の流れが見えてくる。そのためには普段は自分と接点がない人たちもフォローしてみる必要がある。雑踏のなかでふと耳をすませてみるような感覚で大勢の声がディスプレイに上がってくるようになると、多様な考え方が見えてくるかもしれない。
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