森山和道

サイエンスライター。科学書の書評屋もやってます。

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JAMSTEC東日本大震災緊急調査報告会レポート(3)

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第1部、そして第2部のレポートメモから続く。

・第3部 結果を踏まえた今後の取り組みと社会への貢献

・「JAMSTECの地震津波研究の取り組み 研究推進と情報発信のあり方」

地震津波・防災研究プロジェクトプロジェクトリーダーの金田氏は今回の震災は地盤沈下や液状化、津波、倒壊、火災などが組み合わさった複合災害であり、南海トラフでの地震でも繰り返される可能性があると指摘。また震源域もこれまでの想定より大きくなる可能性がある。南海トラフでは100年から150周年周期で繰り返しM8クラスの地震が発生してきた。また最近は日向灘を含む4連動地震の可能性も指摘されており、地震・津波モデルの修正が求められている。

「ちきゅう」による津波断層の痕跡発見も、海溝軸までの高速すべりを示唆している。いっぽう掘削だけではなくほかの調査でも同様の結果が出ており、たとえば串本町の橋杭岩も巨大津波によって転がった可能性が高い。研究グループでは南海トラフの発生シナリオを再検討しているが、これまでおきた南海地震・東南海地震でもひとつとしして同じものがない。

なおこれまでJAMSTECは南海トラフの調査研究を繰り返しており、海嶺や海山が沈み込んでいること、分岐断層や固くて重い岩体が存在していることなどなどを発見している。さらに評価をして、各断層がどう連動するのかを見直ししているところだ。今後さらにトラフ軸、また駿河湾、相模湾、房総沖が重要だと考えているという。

東北地方太平洋沖地震は断層モデルの見直し、地震域が拡大するときにどんな災害が発生するかといった問を投げかけた。今後、地震津波複合災害の予測を進めていくが、そのための道具の一つがスパコン「京」である。JAMSTECは「京」を使う次世代スパコン戦略プログラムにおいて地震・津波と、気候変動予測をおこなう戦略機関となっている。今後データ同化手法を用いて現実とモデルをすりあわせながらシミュレーションをより高速・高精度化し、被害予測・軽減シミュレーションを実現していくことで被害の予測軽減に役立てていく。

首都圏は非常に揺れやすい。地震についても津波についてもシミュレーションの精度を高めていく必要がある。なぜなら都市部の被害を見積もるにはモデルの分解能を高めなければならないからだ。

また産総研の宍倉らによれば1703年の元禄関東地震は、断層が以前考えられていたよりも大きく破壊したと考えられている。関東地震においても何度かに一度大型化することがあるようだ。津波のシミュレーションをすると元禄関東地震のときのような津波が発生した場合、東京湾にも津波が侵入する。

また高知のシミュレーション結果を例にして、現在の津波シミュレーションによって都市部を津波が何波もやってきて襲っていく様子や、テトラポッドや堤防による消波の効果が示された。釜石でも最大津波高が湾口防波堤によって抑えられたことが分かっている。

実際の現場では、船舶や浮遊物なども問題になる。津波で浸水するときにコンテナをはじめとする浮遊物の問題をどう考えていくか。都市全域の災害シミュレーションが京を使って今後やってやっていくべきことだという。

3・11の被害はどうしても津波被害が頭にあるが、非常に強いゆれ、長周期の地震動による被害も考慮に入れる必要がある。E-Defenceを使った実際の振動台実験、都市全体の地震応答シミュレーションなども例示された。

都市全体の応答という面では避難のシミュレーションなども行われている。避難所が一箇所の場合、人がどう動くのかといったことをエージェントを使ってシミュレーションする。将来的にはこういうものが、複合災害時に避難所はどこがいいのかを検討するときに資するものだと考えているという。

今回の地震ではDONETのような海底観測の重要性が示された。予測情報をどう現場に伝えて行くかも重要だ。リアルタイムの情報を発信していくことが重要だと考えているという。特に実際に海でリアルタイムで観測したデータの解析結果をどう伝えるかが問題だ。

沖合いでの地殻の活動はDONETだけではなく、「ちきゅう」で掘削した孔内を使った 孔内地震・地殻変動観測システムをDONETに接続するなど、陸で観測されてなかったような微小な地震をリアルタイムの観測網を使って捉えていく。そしてリアルタイム津波災害予測に繋げていく。平均すると沖合で変化をおよそ陸に到達する15分程度前に捉えることができるのではないかという。また地震が起こる前にプレートが引きずり込まれて沈降する様子も水圧計で捉えることができる。それらのデータをシミュレーションに随時天気予報のように取り込んでいくことで予測精度をあげていく。

DONETは南海トラフ全域のカバーを目指して、DONET2、さらにDONET3の計画が進んでいる。だがそれには時間がかかるので、それまでにはブイを使っていちはやく津波を検知するようなシステムを構築していく。

データは気象庁と防災科学技術研究所にリアルタイムに送られる。それと同時に自治体への情報提供を考えている。どのくらいの津波がいつごろ来るかといったデータをリアルタイムの観測情報をもとに配信する。同時にJAMSTECは地震・津波データ、地下構造、地形などを入力した統合データベースを構築していき、リアルタイムデータと臨時の観測データを組み合わせたシステムをつくっていく。

統合データベースをつくるだけではなく、情報をどう発信するのかが課題となる。そのためにはふだんからどういう地殻変動があるのか随時発信していく必要がある。情報発信という観点で、リアルタイムの精緻な観測をどう伝えていくかを統合データベースを使ってすすめていきたい、と語った。

・「地震後の海洋生態系を観つづける 漁業復興への貢献と深海生態系モニタリング」

海洋・極限環境生物圏領域 海洋生物多様性研究プログラム チームリーダーの藤倉克則氏はまずはじめに防災科学技術研究所のHi-netのデータをもとにして作られた3月11日の地震の状況を示す動画を見せて、これを見て実感できたと述べて講演を始めた。

巨大地震は三陸沖の生態系にも大きな影響をもたらした。沿岸生態系を激変させ、漁業施設の破壊も深刻だ。これからは地震後の深海生態系の回復と再生課程を理解する、そして巨大津波による漁場海洋生態系の回復と再生過程を追っていく必要がある。特に後者は漁業復興に寄与することを目標に掲げている。

高井氏の話にもあったように深海において今回は、断層湧水によるものと死骸に由来するバクテリアマットが認められたわけだが、大型の底生動物はいなかった。バクテリアマットにコアを打ち込んで引き上げて調べたところ、それぞれのマットは一種類の生物がわーっと死んで集まっているものであることがわかった。局所的に単一種の遺骸が集まるメカニズムがいまのところまったくわからない。また今回、深海に一次生産者に由来するものだろうと考えられる大きな懸濁物が増えた。 

今後は、バクテリアマットやシロウリガイを対象に海底下からの化学フラックス変動にともなう化学合成生態系の遷移、遺骸腐敗バクテリアマットの形成メカニズムや堆積物を食べる動物などを対象として浅いところから深いところへの物質の流れにともなった深海生態系の変動を調べていく。また化学合成生態系はクジラの遺骸をステッピングストーンとしているという話があるが、今回のような大地震がそれらの生態系にどんな影響があるのかも調べる。長期モニタリングサイトを既に設置している。

巨大津波による漁場の生態系回復過程を探ることも重要だ。JAMSTECは漁業や水産業とはあまり関係がなかったが、三陸沖の海洋環境がどう変化したか、東大や東北大などとも共同で調べていく。資源生物の分布や量、食物連鎖構造はどう変化したか、資源生物をどう変動し、持続的に利用するにはどうするばいいのか。有毒物質が蓄積されているかどうかなどを調べなければならない。

また瓦礫のマッピングと分解プロセスの解明も重要だ。ガレキを掃海したほうがいいのか、しなくても数年でなくなってしまうのかも調べなければならない。魚や貝などの資源生物の量の評価や、瓦礫に対して生物がどんな行動をとるのか、さらに遺伝的特性から生物のソースを調べることも必要だ。生き物自体に音響マーカーをつけて、どう動くかをバイオトラッキングと呼ばれる手法で調べる。遺伝情報を調べることで、それぞれの漁場のあいだで交流があるのかないのか、どのくらいあるのかが定量的にわかる。これらの調査によって持続的利用の評価が可能になる。

食物連鎖と環境汚染物質の蓄積評価、それらのデータのマッピングなども必要だ。何より海洋生態系に対する巨大地震の影響を記録として残すことが重要であり、巨大地震・津波からの海洋生態系再生をこれからも調べていくという。

・「福島第一原子力発電所からの放射性物質の海洋拡散シミュレーション」

地球環境変動領域 短期気候変動応用予測研究プログラム プログラムディレクターの升本順夫氏は、放射性物質の拡散シミュレーションモデル、沿岸域と陸棚域の広がり方のプロセスなどについて、シミュレーションの基本をおさえながら述べた。

拡散シミュレーションは、大きく分けて海洋の流れと放射性物質の広がり、二つのコンポーネントからなっている。流れの場を再現するには海洋の流れをうまく取り込まなければならない。三陸沖は親潮と黒潮がぶつかっている混合水域で、非常によい漁場となっている。そのなかには中規模の渦や海洋前線などの影響、沿岸付近の津軽暖流、沿岸波動などの影響、要素がある。これらを考慮しないと流れの場は再現できない。もちろんそれぞれの流れは相互作用している。

日本沿海の海峡予測は全海洋をあらっぽく計算したモデルのなかに、8km程度の格子間隔で北西太平洋をシミュレーションするモデルを入れ子としておき(JCORE2)、さらにそのなかに福島付近でおよそ3km程度となる格子間隔のモデル(JCOPE-T)でシミュレーションされている。このようなテクニックをネスティングという。JCOPE-Tでは潮汐や主要河川からの流入も考慮されている。

モデルは長く計算していると現実から離れてしまう。現実に近づけるために観測データを取り込むことを、データ同化という。海洋循環においては海面高度、海面水温、内部の水温、塩分などを観測データをもとに入れてやる。できるだけ観測データを取り込んで、可能なかぎり現実激な状況を作成する。

実際いまどのくらい広がっていて、どうなっているのか。どれだけの放射性物質がどういうルートで海に流れたかは不確かな要素が多い。シミュレーションにも様々な過程をおいている。またシミュレーションは一つの格子は一つの値であらわしており、一つの格子のなかの細かい分布は分からない。だが沖合では放射性物質はまず岸沿いに広がり、沖合に向かって徐々に拡散、その後は混合水域の流れにのる。また南へ流れた放射性物質は黒潮に取り込まれて急速に東に広がる。なお升本氏らが計算しているのは、海面から1mの深さの濃度結果だという。

だが海へ直接流れたものだけではなく、放射性物質を吸着したエアロゾルなどが海に落ちるものもかなりある。大気からどれだけ入っているか。現在、大気からの沈着量も込みでのシミュレーションを実行して、検討している。海への直接流入と大気沈着をどちらも考慮に入れると、やや観測に近づくが、それでもまだ一桁の差がある。

問題はこれからだが、結果を見る際の注意として、シミュレーションの結果を見ると一般人はそういうものかと思ってしまう。だがモデルによって結果は異なる。流れの場をいかに精度よく現実に近づけるかが重要だ。ひとつのモデルの結果だけを信じないように。

また海に入った放射性物質は海水中でさらに複雑な挙動を示すはず。海のなかで単純に沈むものばかりではない。海水中の微小な懸濁物や沈降する粒子などに吸着することもあるし、再浮遊したりすることもある。

終わり。もう一度念のため書いておきますがメモですので、間違ってメモっているところもあるかもしれません。

先端巨大科学で探る地球
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Written by 森山和道

11月 20th, 2011 at 9:22 pm

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JAMSTEC東日本大震災緊急調査報告会レポート(2)

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第1部のレポートから続く。そっちから読んで下さい。

JAMSTEC東日本大震災緊急調査報告会
第2部「緊急調査内容とその結果」

・「緊急調査から見えてきた巨大変動とその発生メカニズム」

地球内部ダイナミクス領域 海洋プレート活動研究プログラム プログラムディレクターの小平秀一氏はまず始めにJAMSTECの研究には地震発生の実体像を解明すること、そして防災という二つの柱がある、と考えていると述べた。

地震は地下の断層のずれだが、内陸地震、プレート境界地震、プレート内地震の3つに大別される。今回の地震は太平洋プレートと北米型プレートの境界でおきたプレート境界型である。余震は本地震の断層のひろがりにおうじておきる。そこで余震をとらえると、本震の断層範囲がわかる。

今回の地震は宮城県北部で震度7を記録。横浜や東京でも震度5を記録した。また3分以上にわたって強い揺れを記録したことも特徴だ。宮城沿岸、沖合い、茨城沖にエネルギー源があることが地震計のデータからわかる。宮城県北部志津川は東南東に4m42cm、鉛直方向に75cm沈降した。変動は海底にも及んでいた。震源付近では24m水平に動き、3m上昇しているポイントがあることが宮城県沖地震を警戒して敷かれていた観測網からわかった。

海溝付近の大きなすべり量は地震データから推定されている。独立したデータすべてから、海溝付近では50mに及ぶ断層のずれが推定されている。これは衝撃的な結果で、海溝型地震発生器の概念は、地震発生帯と中間的なすべり領域、そして定常的なすべり領域があるというモデルからなっていたが、それを吹っ飛ばしてしまったからだ。

小平氏らは震源域の海底調査をおこなった。地震発生前の測線のなかから地形比較に適したものを選んで調査した結果、海溝軸ぎりぎりまで陸側のプレートが大きく変動していること、海溝軸までの領域が水平に50m移動し、10m隆起していることがわかった。最初このデータを見たとき小平氏は「信じられなくて何かの間違いだと思った」という。

この地形変動データから津波のシミュレーションを行って、津波がどれだけ説明できる検討した。そうするとパルス状の波形が再現できた。このことから、海溝陸側斜面の50mに及ぶ変動が巨大津波を生成した原因であることが確認された。今回の結果は、海溝周辺は定常的に滑っていて地震のときに大きく動かないという定説を改める必要があるかもしれないことを強く示唆する。

では地下では何が起こっていたのか。反射法地震探査を使って地下構造を調べた。変動域を詳しく見ると、海側プレートと陸側プレート境界、海溝軸を見ると、海洋プレートの上にいくつもの反射面が見える。プレートの沈み込みに伴って、上盤のプレートが削られているのが見えている。その削られているところの違いをよくみてみる。陸側プレートのそこに注目すると、地震発生後に反射面が見えている。地震で滑ったところが見えているのではないか。また海溝軸では地層が地震発生後に断層で切られているところが見えている。深部から発生した地震は、断層は海溝軸で地下構造の変形を伴いながら抜けて止まったことが現場から見えた。

また陸側プレートには引っ張りの力が働いているのが見えた。圧縮の力を示す地下構造と、引っ張りの力を示す地下構造が同じところに共存していることを示す。これは地震にどういう関係があるのか。地震の起こり方から地下構造にはたらく応力がわかる。地震発生前は押す力が卓越し、発生後は逆に引っ張る力が卓越していることが地震からわかる。つまり地震前は圧縮の力の場だったのが、M9クラスの巨大変動のあと、伸張力が卓越する場になっている。東北日本のプレートにはその痕跡が残っている。「しんかい6500」の観測からもそれはサポートされている。引っ張りの力による割れ目が見えている。

まとめると、緊急観測の結果から、地震前は海洋プレートの沈降により圧縮されていて陸側プレートの底が削られていた。地震時には削られた面を使って地震時の滑りが海溝軸まで抜けた。これにより陸側プレートに50mにおよぶ大変動がおき、働く力は伸長場になり180度変わった。

今後、なぜこういうことが起きたのか調べていかなければならない。作業仮説は二つ。海溝周辺はもともと強く固着していて、何らかの原因でプレート間摩擦が低下して、巨大変動が起きた、あるいは海溝周辺の固着は弱かったが、以前から深部の固着に引きずられていて、今回も深部の固着によって起きたのか。強い固着だったのかそうではなかったのか。それを「ちきゅう」を使って明らかにしていきたい、とまとめた。

・「緊急調査から見えてきた深海底および底層水における化学・生物環境擾乱とそのインパクト」

海洋・極限環境生物圏領域 深海・地殻内生物圏研究プログラム プログラムディレクターの高井研氏は、「暗黒の流体」という意味で「暗黒汁」と呼んでいるという「ダークフルード」なる海底下の流体がキーワードだと講演を始めた。

流体といっても力学によって移動する冷湧水、熱によって移動する熱水など、それぞれ特性が違う。それらをつかまえることで化学的擾乱を捉えられる。噴火、地震のときに出てくる液体は、未知の暗黒の生態系を覗く窓だ。海底下から出てくる液体を調べることは科学的にも社会的にも価値が高い。

地震に由来する微生物の動きを捕らえた例は極めて少ないという。だがいま北海道大学の准教授である角皆氏が六甲の水を調べてみたことがある。また地震の前後で断層から出てくる水素の量が異なることがあることが知られている。また台湾で1999年に断層を掘ったところ、水素を食べるメタン菌が多くとられたことがある。

深海で地震の影響を捉えた例はもっと少ない。駿河湾でメタンの調査をしていたときに、M4.7の地震の二日後、メタンのプルームが出現したことがある。

これらが地震の影響を捉えた数少ない例なので、今回の地震によって海底にどんな影響があったのか、またそれが生物群集の変化として捉えられるのではないかと考えて素早く調べることにした。見られるかもしれないものとしては、海底温泉の出現、断層からの水素、メタン、あるいはいるはずのない超好熱菌、海底地すべりや巨大乱泥流による擾乱などが考えられた。海底地震波探査の結果からあたりをつけて調査をおこなった。まずは濁りと、余震に伴う濁りの継続的な変化をおうことによって、海底が常に乱されていることがわかった。

微生物調査をおこなったところ、海底に近づくにつれて濁り、マンガンもメタンも増えていることがわかった。巻き上げられた堆積物に由来しているものもあったが、一部はソースが違い、より下のほうから出てきたのではないかと考えられた。また地震が海底の微生物に影響を与えることが始めて実際にとらえられた。メタンのソースが深部由来と表層由来の2種類があるらしいこともわかった。

さて一番動いた場所には「しんかい6500」の潜航能力ではいけない。そこでまず1万m以上でも撮影が可能なフリーフォールカメラを使って海溝軸調査をおこなったところ、海溝軸に急激に堆積物が積もったことがわかった。いまはその堆積物の由来などを調べている。

今回、しんかい6500は3箇所にもぐり、多くの亀裂を発見した。亀裂は何枚も入っていて、エネルギーが分散されたことがわかるという。またそれまであまりなかったバクテリアマットが多く形成されていた。生物の死骸などをコアにしてそのまわりにバクテリアが繁殖するのだ。乱泥流によって生物が死んで、バクテリアが繁殖したと思われる。だが高井氏は、それだけではなく、地震によって海底堆積物の液状化がおこったことも関係があるのではないかと考えているという。いっぽう、堆積物を食べるクマナマコが大量に発生していた。破壊と創造が海底では起きているらしい。

バクテリアマットは、死骸を中心にしていることがわかったが、シロウリガイコロニー近辺を調べたところ、深部流体が出てきているらしきところが見つかった。またそれらは液状化によって海底表面に出てきたのではないかと高井氏らは考えているという。陸側の地殻では内部由来のメタン、海溝軸地殻では断層に由来する水素の流れをとらえたのではないかと考えており、今後はちきゅうによる掘削によって仮説を確認したいと考えているという。

・「福島第一原子力発電所からの放射性物質の海洋での挙動 「みらい」物質循環研究航海でわかったこと」

物質循環研究プログラムチームリーダーの本多牧生氏は生態系/物質循環研究の話を踏まえて、「みらい」による放射性物質観測の結果、そしてマリンスノーからセシウムが観測されたという速報について報告した。ちなみに「みらい」はもともと原子力船「むつ」である。

もともと本多氏らは西部北太平洋での「生物ポンプ」と呼ばれる循環を研究しているグループ。地震の直前にも、植物プランクトンの季節変動を調べるための調査航海をしていたという。福島第一原発からのセシウムの放出量は15ペタベクレルに及ぶと試算されている。氏らのグループはこれまで植物、動物プランクトンの採取、マルチコアラーを使った海底の泥の採取などの豊富な経験を持っている。そこで調査をおこなうことになった。

セシウム134(半減期2年)とセシウム137(半減期30年)の比を調べることで、福島由来なのかどうかはわかる。調べるところおおよそ50倍程度になっていた。その後、シミュレーションによる検証なども行われている。北太平洋で思ったよりも高かったことは、海流にのったというよりは大気にのって移動した可能性が高いと考えられているという。動物プランクトンでの数値は、チェルノブイリ後の黒海や北海での動物プランクトンと同じくらいだが、国が定める基準値よりは数桁以上低い値だった。

昨年10月から沈めていたマリンスノー調査用のバケツを水深5000mから7月に引きあげて分析を先日終えたところ、4月18日以降、セシウム134が検出された。それぞれの成分を調べて、何にセシウムがくっついていたのかなどをこれから調べていく予定。さらに様々な成分を今後調べていく。

第3部のレポートに続く

Written by 森山和道

11月 20th, 2011 at 7:55 pm

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JAMSTEC東日本大震災緊急調査報告会レポート(1)

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11月20日に秋葉原で行われたJAMSTECによる「東日本大震災緊急調査報告会」というシンポジウムのざっくりとしたメモを公開する。シンポジウムが3部構成だったので、この記事も3部にわける。なおメモなので間違いがあるかもしれないし文章がかなり適当なのはご容赦をいただきたい。

黙祷から始まったシンポジウムは3部構成。第一部「海洋研究開発機構による東日本大震災緊急調査概要」、第2部「緊急調査内容とその結果」は具体的な調査の内容、特に自然界への影響について。第3部は調査結果を踏まえて今後の取り組みについて。文部科学省・海洋地球課の課長からも「日本は海洋国家。海は時に災禍をもたらすが、学ぶべきは学ばなければならない」と挨拶があった。

第一部「海洋研究開発機構による東日本大震災緊急調査概要」

・「東日本大震災緊急調査について」

理事の平朝彦氏からはまず今回の地震について何がわかっているのか概略が説明された。3月11日、海底熱水鉱床に関する会議をしているときに被災した平氏は「一番最初に心配したのは家族のことだった」と話を始めた。浦安の自宅は液状化で傾いてしまったという。

調査についてはまずともかく海底の状況を知るために船の運航について緊急手配をした。結果わかったことは驚くべきことであり、「我々の学問的バックグラウンドは粉々になってしまうほど」と平氏は表現した。

JAMSTECは文部科学省所管の研究所で、海洋・地球のフロンティアを目指した研究開発を行っている。今回の地震においては海底地震系などによる海底変動調査のほか、しんかい6500による調査などを行った。M9の地震発生直後に海底を人類が見たのは初めてのことだという。また福島からの放射性物質のの拡散状況を確認するための海水採取なども行っている。「現場の力がまさに試された活動だった」という。

日本列島は4つのプレートが交わっている場所にあり、世界でもユニークなテクトニックセッティングを持った場所である。長年、日本海溝では大きな地震は起こらないと考えられていた。古いプレートはするすると沈み込んでいると考えられていたからだ。せいぜい30年くらいの周期で起こる地震でひずみは解放されると考えられていた。だが「それは完璧に間違っていた」。地震学が発展途上にあることを研究者たちも思い知った。

今回の津波がすごいものであったことは海底水圧計の記録にも残っている。だがこの異常なピークは速報にいかされなかった。ほとんど信じがたい、50mもの海底の動きがモデルと海底の記録によって検証された。スマトラのときでも最大25mの海底の動きだった。今回の海底変動が非常に大きなものであったことがわかる。

平氏は、「すべての現場で事例を十分に学ぶ謙虚さが足りなかった。我々には慢心があった」と述べた。その端的な事例が早期津波警報システムへの取り組みが遅れていたことであり、そして今後はなぜこのような巨大津波が起こったのかを調べていく予定だと述べた。

これまで巨大地震の研究は南海トラフに集中してきた。ここでは100-200年ごとに巨大地震と津波が発生してきたことがわかっているからである。これまでの研究で、地震なしで津波だけ襲ってきたことがあることもわかっている。南海トラフでも今回と同じようなことがおこるのか。ちきゅうの調査によっても、全域が破壊される、一挙に海溝軸まで滑るような巨大地震が南海トラフでもあったらしいことが分かっている。構築中の地震津波観測監視システム(DONET)のさらなる充実が必要。

地震学はまだ発達段階にある。現時点で地震発生予知は極めて困難。だが本当にできないかは学問が発達してから言えること。ちきゅうとDONETはその鍵であり、リアルタイム津波警報システムは非常に重要。今後は、地震前と地震後を比較するための定点観測、放射性物質の循環などが重要だと述べた。

・「東日本大震災緊急調査における機構船舶等の運用について」

海洋工学センター運行管理部の田代省三氏からはJAMSTECの船舶調査の概要が示された。地震の震源の探査と放射性物質の試料採取である。地震発生直後の地殻構造探査は「かいれい」でおこなった。地震発生後、MCS(Multi Channel Seismic system)による反射法地殻構造探査調査と、OBS(海底地震計)の設置をおこなった。また支援母船「よこすか」、「しんかい6500」を使った海底調査、「みらい」や「白鳳丸」「淡青丸」などを使った震源域、沿岸の総合調査をおこなっている。

海域モニタリング調査は文部科学省からの要請でおこなわれたもので、JAMSTECではサンプリングのみをおこなっている。海水だけではなく、エアサンプラーを使った大気の採取、海底の泥の採取などもおこなっている。

特に有人探査船である「しんかい6500」のダイブにはマルチビーム測深による地形調査、深海曳航体や無人探査機による目視やソーナー確認、漂流物状態確認などの事前調査を行い、慎重におこなったという。乗組員たちは最初は放射線が怖いと思っていたが、そちらは計測器ももっていたため現地に行ったあとはそうでもなくなっていったが、毎日のように流れてくる様々な漂流物は、乗組員たちの「心の負担」となっていたという。

第2部のレポートに続く

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Written by 森山和道

11月 20th, 2011 at 2:38 pm

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[サイエンス・メール] 宍倉正展 氏 インタビュー 配信開始

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メールマガジンサイエンス・メールにて、産総研の宍倉正展氏へのインタビュー配信を開始しました。

【宍倉正展(ししくら・まさのぶ)@独立行政法人 産業技術総合研究所
活断層・地震研究センター 海溝型地震履歴研究チーム長 】

研究:変動地形学、古地震学

ホームページ:
http://staff.aist.go.jp/m.shishikura/index.htm

参考になるウェブサイト・書籍など:
AFERCニュース(活断層・地震研究センターの広報誌)2010年8月号
宍倉ほか(2010)平安の人々が見た巨大津波を再現する 西暦869年貞観津波
http://unit.aist.go.jp/actfault-eq/katsudo/aferc_news/no.16.pdf

サイエンスポータル オピニオン 緊急寄稿『地層が訴えていた巨大津波の切迫性』
http://scienceportal.jp/HotTopics/opinion/180.html

○『きちんとわかる巨大地震』(産総研/白日社)の表紙は、アンダマン諸島のサンゴ礁です。スマトラ沖地震で発生した地殻変動によって島全体が上昇し、サンゴ礁が海の上に出てしまったのです。宍倉先生はその様子について「とにかくすごい光景なんですよ。見たときは、この瞬間のために生きていたんだと思いました。研究者として、これを見るためにここまで来たんだと」と未だ興奮した様子で仰っていました。
 宍倉先生はもともと地形学の出身で、地殻変動の専門家です。特に離水海岸地形の年代や高度から、過去の海溝型地震の発生時期や地殻変動を明らかにし、モデル化することを目指していらっしゃいます。そのときは地震後の地殻変動「余効(よこう)変動(postseismic movement)」について研究を進めてらっしゃいました。
 またそのころ同時に進めていたのが宮城県や福島県で過去に起きた巨大な津波の調査でした。その話をまとめたものが

 AFERCニュース(活断層・地震研究センターの広報誌)2010年8月号 宍倉ほか(2010)
 平安の人々が見た巨大津波を再現する 西暦869年貞観津波

です。研究の結果明らかになった当時の津波浸水履歴図が掲載されています。細部は異なりますが今回の東日本大震災の被害地域と重なっていることが見て取れます。過去の歴史を知っていた研究者のお一人が、あのときどうお感じになったのか、一つの証言としてお話を記録しておきたいと思い、伺いました。(編集人)

まぐまぐ」にてご覧下されば幸いです。
バックナンバーや、月単位でのご購読もできます。

きちんとわかる巨大地震 (産総研ブックス)
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Written by 森山和道

8月 18th, 2011 at 6:30 pm